徳島大学におけるESDの試み 三好徳和・荒木秀夫

徳島大学におけるESDの試み
○三好徳和・荒木秀夫
徳島大学総合科学部・全学共通教育センター
1.総合科学部における現代GPのその後
総合科学部は、平成18年に「豊饒な吉野川を持続可能
とする共生環境教育」が現代GPに採択され、「持続可
能な社会づくり」の重要性が再認識されたと考えている。
その後、総合科学部は改組を行い、持続可能な社会づく
りを教育目標に掲げる社会創生学科が新設された。GP
事業において設けられた授業の幾つかも学部長裁量経費
の一部を当てることにより、野外実習等を今も継続して
いる。さらに、GP採択以前からある学習プログラムで
ある「環境科学プログラム」も継続している。内容は下
記の通りである。ただ、持続可能な社会づくりの重要性
の意識が増したものの、その授業内容への反映が行き届
いているかは、今後も検証が必要であろう。
総合理数学科
環境機器分析化学,放射線科学,天然物化学,地球科学
の基礎,地球環境科学,地球表層環境論,確率・統計
Ⅰ・Ⅱ,現象の数理,資源エネルギー論
6単位以上
環境共生コース
環境生理学,生体物質影響学,生化学,細胞生理学,自
然保護論,生態学Ⅰ,環境物質循環論,資源循環工学,
地域環境デザイン,緑のデザイン,エコシステム工学
6単位以上
公共政策コース・地域創生コース
環境政策論Ⅰ・Ⅱ,グローバル社会論,市民活動論,地
域環境論,空間情報論Ⅰ・Ⅱ,メディア情報演習ⅠA・
ⅡA,地域構造論,環境リスク論,生態系の保全,環境
を考える
4単位以上
合計20単位以上を修得することにより認定
2.全学共通教育におけるESDの概念の導入の試み
徳島大学において、学士力の基礎となる教養力を高め
るため、ESDの概念を全学共通教育の目的に加えること
とした。そして次の下線部を加え“全学共通教育では,
人間性に富む人格の形成を促し,「持続可能な社会づく
り」のために,相互理解に基づき,権利と義務を分かち
合う精神を持ち,自立して未来社会の諸問題に立ち向か
う進取の気風を身につけること”を全学共通教育の目的
としている。この運動を広めるべく次のようなシラバス
の改善のお願い(抜粋)をセンター長から担当全教員に
送った。
① 全ての授業のシラバスの【授業の目的】に、社会
(あるいは学問体系)におけるその授業を受ける意義や、
何故学ばなければならないかを、一文書き加える。
② 教養教育において、ESD(Education for Sustainable
Development)の観点を付け加える。ESDは「持続可能な
開発のための教育」と訳されますが、持続可能な社会づ
くりのための政策や環境教育だけではありません。
Win&winの精神に基づき相互理解を深めるための教育で
あり、文化や歴史を学ぶことが非常に重要視されていま
す。そこで、単に知識を知るだけでなく、その授業の社
会における立ち位置を一文書き加える。
このことをシラバスに書き加え、初回授業において、
これらのことを最低30分講義するか、紙に書いて学生に
配布するようにお願いした。
その結果、初年度の平成22年には159の全教養科目の
授業のシラバスにおいて、25の授業(16%)において、
「環境」「持続可能な社会づくり」「共生社会」「生物
多様性」等のESDの概念に直接結びつくキーワードが
【授業目的・目標】の所に記載されており、本年度は31
の授業に微増した。外国語の授業においてもESDのため
の異文化理解等が書かれていた18の授業を含めると、43
授業(27%,本年度28%)であり、ウェルネス総合演習に
おいては12授業(54%,H24)であった。
3.今後のESD
この様に、徐々にではあるが、ESDの概念を、教養の
大きな一つの柱にできつつある。
一方、「持続可能な社会づくり」の重要性は、現代
GPに採択された平成18年度には、未だ世間的認知がな
されておらず、社会への情報発信に苦労したことを考え
ると、そのころとは比べものにならないくらい世間に認
識されつつあると考えている。ただ、持続可能な社会の
ための「環境」づくりの「環境」に関する考え方も、大
きく変性したのではと筆者は感じている。ESDの概念を
取り巻く、この生き物のような現状を教員自身が認識す
ると共に、如何に社会と共有し、それを教育に生かして
いくか、今後の課題と考えている。