ブロッコリーのビタミンC, S-メチルメチオニン,ポリフェノール含有量の 部位

福岡県工業技術センター
研究報告 No.25 (2015)
ブロッコリーのビタミンC, S-メチルメチオニン,ポリフェノール含有量の
部位別解析と細胞機能への影響
上田 京子 *1
塚谷 忠之 *1
村山 加奈子 *2
宮崎 義之 *2
倉田 有希江 *2
立花 宏文 *2
竹田 絵理 *2
大塚 崇文 *2
高井 美佳 *2
山田 耕路 *2
Determination of Vitamin C, S-methylmethionine and Polyphenol Contents, and
Functional Activities of Different Parts of Broccoli (Brassica oleracea var. Italica)
Kyoko Ueda, Tadayuki Tsukatani, Kanako Murayama, Yukie Kurata, Eri Takeda, Takafumi Otsuka, Mika Takai,
Yoshiyuki Miyazaki, Hirofumi Tachibana and Koji Yamada
ブロッコリーは緑黄色野菜の植物であり,食用として利用されている部分は,草体の一部である花蕾のみである。
本研究では,花蕾以外の部位の利用拡大を目的として,全草を花蕾,茎,主軸下部,葉軸,葉,根の6つの部位に
分割して,ビタミンC, S-メチルメチオニン及びポリフェノールの定量,並びに乳がん細胞増殖抑制及び免疫調節
機能の応答について検討した。その結果,ブロッコリーの部位別に異なる特徴を持つことを明らかにした。これら
の部位別の特徴を活かし,利用可能な加工方法を検討することによって,植物体の20%程度を可食部としているブ
ロッコリーの利用性を拡大することが期待できる。
1 はじめに
2-2 S-メチルメチオニンの定量
S-メチルメチオニンは,消化器官での抗潰瘍作用を
アミノ酸分析装置を用い分析した。
有していることが知られている。種々の野菜の中で,
2-3 総ポリフェノール量の定量
ブロッコリーやアスパラガス,ケール,ホウレンソウ
フォーリン・チオカルト法に従い行った。
などに豊富に含まれており,S-メチルメチオニンは可
2-4 乳がん細胞株MCF-7増殖抑制試験
食部の部位別で含有量が異なることが報告されている。
MCF-7細胞をブロッコリー各部位の水抽出液(PBS溶
このため,ブロッコリー草体の部位により S-メチル
液に溶解)を加えたRPM1640(5%FBS含有)培地に置換
メチオニンなどの栄養成分の分布が異なっていること
し,72時間培養した。その後,細胞数を測定した。
が推察できる。しかし,ブロッコリーは可食部として
2-5 ヒスタミン放出抑制試験
草体の一部である花蕾を利用しているのみであり,草
ラット好塩基球細胞株RBL-2H3を生理食塩水に1 ×
体全体に含まれる生理活性物質が有効に利用されてい
5
10 cells/mLになるように懸濁し,ブロッコリー水抽
ない野菜である。
出液(水に溶解)を加えて20分間放置した後,カルシ
そこで,本研究ではブロッコリー全草を 6 つの部位
ウムイオノフォアA23187を終濃度5 µMとなるように添
に分け,ビタミン C,S-メチルメチオニン,総ポリフ
加し,37℃に30分間放置してヒスタミンを放出させた。
ェノール,乳がん細胞増殖抑制及び免疫調節機能につ
培養液上清中に含まれるヒスタミン量を測定した。
いて,ブロッコリーの各部位の比較検討を行った。
2-6 ロイコトリエン(LT)放出抑制試験
RBL-2H3細胞をブロッコリー抽出物溶液(PBS)を加
2 実験方法
え た PBS( 1 mM CaCl2 含 有 ) に 1 ×106 cells/mLに な
2-1 還元型ビタミンC,酸化型ビタミンCの定量
るように懸濁して,37℃に30分間放置した。つぎに,
食品衛生検査指針理化学編に準じて分析を行った。
カルシウムイオノフォアA23187(終濃度5 µM)を添加
後,37℃で5分間放置し,LTの産生放出を誘導した。
培養液上清をLTC4 EIA kitで測定した。
*1 生物食品研究所
*2 九州大学
2-7 抗体産生調節機能の検定
雌12週齢のBalb/cマウスから脾臓を摘出して脾臓細胞
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福岡県工業技術センター
研究報告 No.25 (2015)
懸濁液を調製し,Lympholyte-Mを用いてリンパ球を分
放出抑制,IgA産生の増強,IgE産生低下傾向を示した。
離 し た 。 RPMI1640 ( 10%FBS 含 有 ) に 1.5 × 106
葉:ビタミンCは花蕾の18%,S-メチルメチオニンは
cells/mLの細胞濃度で懸濁した。この懸濁液に各部位
花蕾の29%であったが,ポリフェノール量は花 蕾の
のブロッコリー水抽出液(PBS)を加え, 37℃で72時
3.1倍含んでおり,ヒスタミン放出抑制,ロイコトリ
間 培 養 し た 。 培 養 液 上 清 中 の 抗 体 は ELISA
エン放出抑制,IgE産生抑制の傾向が見られ,花蕾と
Quantitation Kitを用いて定量した。
比較すると抗アレルギー素材として有望であった。
根:ビタミンCは花蕾の12%,S-メチルメチオニンは
3 結果と考察
花蕾の25%,ポリフェノールは花蕾の83%含まれてお
本研究の結果,各部位別の特徴を次のように明らか
り,特にMCF-7のがん細胞増殖抑制能を有していた。
にした。
花蕾:ビタミンC並びにS-メチルメチオニンを多く含
4 まとめ
有し,ヒスタミン放出抑制能が高かった。
これらの部位別の特徴を活かし,利用可能な加工方
茎,主軸下部:可食部以外である茎,主軸下部は,ビ
法を検討し,植物体の20%程度しか可食部としていな
タミンC,S-メチルメチオニン,ポリフェノールはほ
いブロッコリーの利用性を拡大することが期待できる。
ぼ同等量含まれていた。また,花蕾と比較すると抗体
産生増強能を有していた。
5 掲載文献
葉軸:茎,主軸下部と同等のビタミンC,S-メチルメ
日 本 食 品 科 学 工 学 会 誌 , Vol.62 , NO.5 , pp.242-
チオニン,ポリフェノールを含んでいた。ヒスタミン
249(2015)
表1
ビタミンC,S-メチルメチオニン,総ポリフェノール,乳がん細胞増殖抑制,免疫調節機能の部位別比較
花蕾
茎
主軸下部
葉軸
葉
根
成分
ビタミン C 総量
188.2
21.1
20.9
20.2
34.2
22.7
(mg/100g)
ビタミン C(還元型)
52.6
17.9
20.9
11.8
34.2
19.3
ビタミン C(酸化型)
135.6
3.2
n.d.
8.4
n.d.
3.5
ビタミン U
16.7
1.3
1.2
1.1
4.8
4.2
総ポリフェノール
64.9
22.6
30.7
35.6
202.3
53.6
濃度 25(μg/mL)
105
98
94
84*
104
59***
100(μg/mL)
80
84*
78**
73**
77*
26***
100(μg/mL)
69***
81**
84
89
77**
97
1000(μg/mL)
**
**
*
67
*
83
*
82*
16*
98
51
93
MCF-7 細 胞 増
殖抑制
ヒスタミン放
出抑制
LT 放出抑制
100(μg/mL)
1000(μg/mL)
抗体産生
IgA
100(mg/mL)
59
127
68
178
*
73
*
196
84
369
67
118
18
138*
117
104
104
100
104
*
***
**
IgA 1000(mg/mL)
75
229
163
138
117
100
IgE
100(mg/mL)
228
72
84
112
44
64
IgE 1000(mg/mL)
56
160
100
32
36
64
IgG
124
107
92
72
73
100
100(mg/mL)
(有意差)***:0.1%以下,**:1%以下,*:5%以下
成分以外の項目はブランク比(%)で表示した。
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