尿路結石の再発予防に クエン酸塩内服は有用か

JHOSPITALIST network
尿路結石の再発予防に クエン酸塩内服は有用か Effect of potassium citrate therapy on stone recurrence and residual fragments a6er shockwave lithotripsy in lower caliceal calcium oxalate urolithiasis
J Endourol 2002 Apr;16(3):149-­‐52. PMID: 12028622 2015年11月 練馬光が丘病院 総合診療科 作成 本田優希 監修 鍋島正慶, 北村浩一
<ある日の午後外来> 【症例】57歳男性 【主訴】左側腹部痛 【現病歴】 来院当日の11時頃から徐々に左側腹部の痛み
が出現した.13時頃痛みがピークになり(NRS 8/10), 嘔気も出現したため受診した.
【既往歴】 尿管結石3回,HFrEF,OMI,左室心尖部血栓
CKD G3 など 【内服薬】ワーファリン,プラビックス,ほか
腹部CT:左尿管膀胱移行部に長径4mmの結石 両側腎盂に長径<4mmの小結石散在 【診断】 左尿管結石 【方針】 長径4mmで水腎はなく, 自然排石されつつあるため, 飲水励行し,カロナール®頓用を 処方して経過観察.
症例の疑問
「尿路結石4回目, また起こすだろうな.」 「結石の成分によって食事指導とか予防いろい
ろあった気がするけど覚えてないな.」 「繰り返す尿管結石に対する評価, 薬剤は何か
あっただろうか.」 EBMの実践 5 steps
Step1 疑問の定式化(PICO)
Step2 論文の検索
Step3 論文の批判的吟味
Step4 症例への適用
Step5 Step1-4の見直し
STEP1 疑問の定式化(PICO)
P:再発を繰り返す尿管結石患者 I :結石再発予防薬を内服する C:結石再発予防薬を内服しない O:結石再発率が減るか 治療の論文を検索する
EBMの実践 5 steps
Step1 疑問の定式化(PICO)
Step2 論文の検索
Step3 論文の批判的吟味
Step4 症例への適用
Step5 Step1-4の見直し
一般論:日本のガイドライン
Mindsガイドライン
尿路結石症診療ガイドライン 2013年版 日本泌尿器科学会 日本泌尿器内視鏡学会 日本尿路結石症学会 クエン酸塩内服によるCa結石予防の機序
•  クエン酸塩を摂取すると,肝臓のクエン酸回路で
代謝され,重炭酸イオンを生成する. •  これが尿細管から排泄され,尿のアルカリ化に
作用する.
•  尿がアルカリ化されると近位尿細管でのクエン
酸の再吸収率が下がり尿中クエン酸濃度が上
がる. •  クエン酸は尿中でCaと結合する作用があり,シュ
ウ酸Caとリン酸Caの合成を低下させ,結晶の成
長,凝集,結石化を抑制する.
一般論:米国のガイドライン
AUA:American Urological Associa_on
検索:Up To Date®
AUAのガイドラインで引用している4文献のメタアナリシス
論文
日米のガイドラインおよび2013年のReviewで, クエン酸Kが尿路結石再発予防に有用としている根拠のRCT
J Endourol 2002 Apr;16(3):149-­‐52. PMID: 12028622 EBMの実践 5 steps
Step1 疑問の定式化(PICO)
Step2 論文の検索
Step3 論文の批判的吟味
Step4 症例への適用
Step5 Step1-4の見直し
STEP3 論文の批判的吟味
JAMAユーザーズガイドのP69-79参照
論文の背景
•  クエン酸K製剤にはシュウ酸Ca結石の予防効果
がある. J Urol 1997;158:2069–2073.
•  下部腎杯の結石に対するESWLのみでのstone
free達成率は59%と低い. J Urol 1994;151:663–667.
•  それは残存破片が新たな結石形成の核となる
ためと考えられている. J Urol Nephrol 1989;120:1-80.
論文の背景
•  クエン酸K製剤の結石再発予防効果や, ESWL
後の残存破片に対する効果については知られ
ていない.
論文のPICO
PICO 単独施設,RCT,Per protocol,Open-­‐
label
P 下部腎杯のシュウ酸Ca結石に対して
ESWLを受けた患者
I
クエン酸カリウム製剤60mEq/日内服
C
O
内服なし
12か月後の結石非再発率
ESWL:体外衝撃波結石破砕術 患者
<Inclusion> 下部腎杯の初発のシュウ酸Ca結石(長径5-­‐15
㎜:平均9.2±2.7㎜)に対してESWLを施行された
患者.
4週間後に腹部単純レントゲンおよび腎エコー
を行い, 残存結石のない群と<5㎜の残存破片のある群,
合計110人.
患者
<Exclusion> Exclusion criteriaの明確な記載なし ü 随伴するUTIなし.
ü 尿路の解剖学的異常なし.
ü 泌尿器科手術の既往なし.
ü 副甲状腺機能亢進症や尿細管性アシドーシス
などの代謝疾患の既往なし. ≧5mmの残存破片のある患者には2回目の
ESWLを勧めた. Trial profile ESWL後 残存結石なし N=?
N=110 N=56
クエン酸K N=?
何もしない N=?
Stone free 28
再発 0
Stone free 20
再発 8
脱落20
Stone free 8
クエン酸K N=?
サイズの変化なし 10
サイズ増大 0
ESWL後
<5mmの残存破片
N=?
Stone free 2
何もしない N=?
サイズの変化なし 4
サイズ増大 10
N=34 介入
•  クエン酸K製剤内服群 60mEq/日(5mEqの錠剤12錠 1日3回毎食後)
•  両群の全患者に下記のアドバイス
ü 最低2.1L/日の尿量を確保するよう飲水.
ü シュウ酸を多量に含む食事や塩分の多い食事
を避ける.
ü 肉の摂取を8オンス(≒226g)/日以下に制限.
ü 全粒小麦パンを避け精製小麦パンにする.
ü 天然繊維のシリアルを食べる.
倫理的配慮
・記載なし ①結果は妥当か ②結果は何か ③結果を患者のケアに適用できるか
①結果は妥当か
介入群と対照群は同じ予後で開始したか 患者はランダム割り付けされていたか ランダム化割り付けは隠蔽化(concealment)されていたか 既知の予後因子は群間で似ていたか=base lineは同等か 研究の進行とともに、予後のバランスは維持されたか 研究はどの程度盲検化されていたか(一重〜四重) 研究完了時点で両群は予後のバランスがとれていたか 追跡は完了しているか=追跡率・脱落率 患者はInten_on to treat解析されたか 試験は早期中止されたか 介入群と対照群は 同じ予後で開始したか
ランダム割り付け、隠蔽化
•  ランダム化の記載あり •  隠蔽化の記載なし
既知の予後因子は群間で似ていたか
当初のランダム化割り付けから脱落した20人を除いたcharacteris_csの比較 ・残存結石なしグループ クエン酸K群が好発年齢が多く,低クエン酸尿が多く,高尿酸尿が多い点で不利. コントロール群が高Ca尿が多い点で不利. ・残存結石ありグループ クエン酸K群が低クエン酸尿が多く,高尿酸尿が多い点で不利. コントロール群が高Ca尿が多い点で不利.
研究の進行とともに 予後のバランスは維持されたか
どの程度盲検化されたか
•  患者 × •  介入者(治療者) × •  outcome評価者 〇 •  data解析者 ? → randomized prospec_ve open-­‐label trial
研究完了時点で両群は 予後のバランスがとれていたか
追跡率、脱落率
Inten_on to treat analysis
追跡率=90/110=82% 〇 ITT解析ではなく,プロトコールに従った患者
のみを解析している. →Per protocol analysis Per protocol解析
The SPELL HP はじめてトライアルシート チェックシートp8 hpp://spell.umin.jp/EBM_materials_BTS.html
Per protocol解析
問題点 •  最初に背景因子を揃えてランダム化割り付け
しても,脱落者を除いて評価すると,背景が
変わり交絡因子が生まれてしまう. •  実臨床でも脱落は生じるので,脱落者を除い
て評価すると有効性を過大評価してしまい,
実臨床での有効性から乖離する恐れがある.
試験は早期中止されたか
•  されていない
サンプルサイズ
•  記載なし
②結果は何か
ESWL後残存結石なし
結石再発あり
再発なし
介入群
0(0%)
28(100%)
対照群
8(28.6%)
20(71.4%)
ESWL後<5mmの残存破片あり
破片残存 または増大
破片消失
介入群
10(55.6%)
8(44.4%)
対照群
14(87.5%)
2(12.5%)
治療効果の大きさはどれくらいか
•  残存結石がない群の再発 ARR=28.6-­‐0=28.6 NNT=100/28.6=3.5 RR=0/28.6=0 RRR=1-­‐0=1 治療効果の大きさはどれくらいか
•  <5mmの残存破片がある群の破片残存or増大 ARR=87.5-­‐55.6=31.9 NNT=100/31.9=3.1 RR=55.6/87.5=0.64 RRR=1-­‐0.64=0.36
結果を言葉にする
初発のシュウ酸Ca結石に対するESWLの4週間
後に残存結石がない患者が クエン酸K製剤60mEq/日内服を12か月行うと 4人の治療で1人結石再発が減る クエン酸K製剤60mEq/日内服を12か月行うと
結石の再発が100%減少する 結果を言葉にする
初発のシュウ酸Ca結石に対するESWLの4週間
後に<5mmの残存破片がある患者が クエン酸K製剤60mEq/日内服を12か月行うと 4人の治療で1人残存破片が消失する クエン酸K製剤60mEq/日内服を12か月行うと
結石の残存や増大が36.5%減少する EBMの実践 5 steps
Step1 疑問の定式化(PICO)
Step2 論文の検索
Step3 論文の批判的吟味
Step4 症例への適用
Step5 Step1-4の見直し
③結果を症例に適応できるか
患者にとって重要なアウトカムはすべて考慮さ
れたか 研究患者は自身の診療における患者と似てい
たか 見込まれる治療の利益は考えられる害やコスト
に見合うか 患者にとって重要なアウトカムは すべて考慮されたか ・患者にとって尿路結石発作の再発を減らすこ
とが重要だが,画像上の結石再発や破片の残
存・増大についてのみ評価されており,発作に
ついては言及されていない. 研究患者は自身の診療における 患者と似ているか ・そもそもESWL後の患者ではなく,初発の尿管
結石でもなく,結石の成分も不明なため異なる. ・しかし,発作を起こした結石が排石されても腎
杯に結石が残る本症例は,本研究のESWL後に
破片が残存した群と類似した状況と考えられる. ・すなわち,残存結石の消失に対するNNT4や
RRR36.5はある程度参考にできるものと考える. 見込まれる治療の利益は 考えられる害やコストに見合うか 害=副作用の分析 コスト=医療経済の分析 当院で処方できるクエン酸製剤 ウラリット®配合錠・散(クエン酸K・クエン酸Na配合剤) •  13錠・散6.5gがクエン酸59mEqに相当 (本論文の投与量は60mEq/日) •  尿路結石再発予防は適応外 •  適応病名は 「痛風・高尿酸血症における酸性尿」 「アシドーシス」 •  保険用量はアシドーシスに対して 「原則12錠(散6g)だが適宜増減可能」
副作用の分析
ウラリット®添付文書
•  過度の尿アルカリ化(pH 7.5 以上)は,リン酸カ
ルシウムや尿酸ナトリウムの析出を促進するた
め,尿pHは6.0~7.0の維持を目標とする. 尿路結石症診療ガイドライン 2013年版 •  クエン酸投与は尿pHを上昇させるため,アルカリ
尿で合成が助長されるリン酸Ca結石のリスクと
なるかもしれない.一方クエン酸自体はリン酸Ca
の結晶化を阻害する働きを持つ.どちらが優位
に作用するかは不明.尿pHが6.5以上の場合に
は注意が必要. UpToDate Prevention of recurrent calcium stones in adults ※引用の記載なし →尿pH6.0-­‐6.5を目安としてフォローするべき? •  結石再発あるいは残存の場合の治療 ESWL 合併症 いずれも稀ではあるが, ・腎被膜下血腫 ・stone street(破砕片による尿管の閉塞) ・膵炎
医療経済の分析
•  ウラリット®配合錠 1錠10.9円→13錠141.7円 •  結石再発予防に対するNNT=4 →約21万円(141.7×365×4)で1人の1年後の再
発を予防できる •  残存破片の消失に対するNNT=4 →約21万円(141.7×365×4)で1人の1年後の結
石残存・増大を予防できる
•  結石再発あるいは残存の場合の治療 ESWL 約27万円 +入院費,検査費・・・
EBMの実践 5 steps
Step1 疑問の定式化(PICO)
Step2 論文の検索
Step3 論文の批判的吟味
Step4 症例への適用
Step5 Step1-4の見直し
STEP5 STEP1-­‐4の見直し
・論文にたどりつくまでに多大な時間を使っていない
か? →ガイドラインの引用文献から探したためあまり時間
はかかっていない ・時間を費やし過ぎてはいないか? →費やし過ぎてはいない ・患者の価値観を十分に理解できたか? ・自分の価値観を押し付け過ぎてはいないか? →患者の価値観は未確認だが,定期通院患者であり
自己負担も高くなく,拒否する理由は少ないと考える
論文のまとめ
下部腎杯の初発シュウ酸Ca結石に対するESWL
の4週間後に, ・残存結石を認めなかった患者が クエン酸K製剤60mEq/日を12か月内服すると 結石再発率が減った. ・<5mmの残存破片を認めた患者が クエン酸K製剤60mEq/日を12か月内服すると 残存結石の消失率が上がった.
選択したマネジメント
すでに帰宅させてしまっていたため,その場で
のウラリット®の処方は行っていないが, 当院定期通院患者であるため外来主治医に患
者との相談を依頼する.
Take Home Message
・繰り返す尿路結石患者に,クエン酸K・Na配合
剤(ウラリット®)を処方することで,再発予防や残
存小結石の消失を期待できる(※保険適応外).
・尿路結石発作の発症も予防できると期待される. ・飲水励行や食生活への介入を行った上で,結
石の成分や尿所見に応じて再発予防薬を使い
分けられると良い. ・・・サイアザイド,クエン酸塩,アロプリノール 尿路結石の再発予防に関するreview Ann Intern Med 2013;158(7):535-­‐543.(ACPのHPで閲覧可能)