熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System Title 高温XAFS法と高温回折法による強誘電・常誘電BaTiO_3, PbTiO_3ペロブスカイトの研究 : 下部マントル物質の強 誘電性の発現機構推定 Author(s) 仲谷, 友孝 Citation Issue date 2015-09-25 Type Thesis or Dissertation URL http://hdl.handle.net/2298/33462 Right 別紙様式2 学位論文要旨 所属専攻 氏 名 新領域科学 専攻 仲谷 友孝 論文題名(外国語の場合は、その和訳を併記すること。 ) 高温 XAFS 法と高温回折法による強誘電・常誘電 BaTiO3,PbTiO3 ペロブスカイトの研究: 下 部マントル物質の強誘電性の発現機構推定 要 旨(注:4,000 字以内にまとめること。 ) ペロブスカイト型 BaTiO3 および PbTiO3 は、強誘電体の代表的化合物であり、強誘電性の 発現のメカニズムは教科書等にも古くから記述されている。強誘電性発現機構は一般に成 分イオンである Ti 原子が立方晶相の平均構造からわずかに分極方向に変位しているモデル である、変位型と言われている。X 線回折や XAFS を用いた研究では、変位型と低温晶相で は双極子モーメントが秩序配列しており、高温相では双極子モーメントが無秩序に配列し、 強誘電性を失う秩序・無秩序型の両方の性質を持っていると考えられている。一方、電子線 回折を用いた研究では立方晶相での Ti 原子の様々な[111]方向へのランダムなオフセンタ ーの変位(秩序・無秩序型)が提案されていたが、X 線回折、XAFS 実験の結果と矛盾点が多 いことが指摘されている。 私のこれまでの研究では、立方晶相における Ti 原子の変位およびその方向を決定するた め正方晶相から立方晶相への相転移を含む広い温度範囲(BaTiO3 は室温から 780K まで、 PbTiO3 は室温から 923K まで)にわたって XAFS、X 線回折実験を行った。そして、それらの 解析に非調和性を取り入れることにより、高精度の構造解析を可能にし、温度因子など構 造パラメーターに整合性のある信頼性の高い結果を得た。また、二つの実験データの比較 から、温度因子に寄与する格子振動による動的な因子と、位置変位の効果による静的な因 子を正確に分離することにより、立方晶相に残る正方晶的な歪みの変位や方向を決定し、 新しい常誘電-強誘電相転移メカニズムのモデルを構築した。以下に詳細を示す。 X 線吸収分光法を用いて、BaTiO3 と PbTiO3 の相転移と各相における温度依存性、Ti の局 所構造解析を行った。Ti 原子の XANES スペクトルに現れるプレエッジの強度は他相と異な り、温度上昇と共に強度が減少していることが明らかになった。これは、立方晶における Ti 原子の平均構造の位置からのずれ、すなわちオフセンター位置と関係していると推測さ れた。しかしながら、この手法では Ti 原子のオフセンターの変位やその方向が決定できな いため、回折実験により、より詳細な構造解析を行った。その結果、BaTiO3 結晶中の TiO6 多面体の歪を 0.001Å以下の精度で決定し、歪の大きさ、方向について、正確なデータを得 ることに成功した。そして、広い温度領域にて得られた温度因子を線形近似し、 0K まで外 挿することにより Ti 原子の静的変位を見積もった。さらに、Ti 原子の方位を求めるため差 フーリエ合成電子密度解析を行い、Ti 原子の変位の方向が[100]方向であることを明確にし た。これらの結果から、立方晶中に正方晶相的な歪みが存在し、このことが立方晶相にお ける Ti 原子の不規則分布の原因であることを突き止めた。それにより、常誘電-強誘電相 転移メカニズムに変位型と秩序・無秩序型の二つの因子が寄与していることを定量的に示 すことに成功した。 PbTiO3 については、単結晶精密構造解析を広い温度範囲で行い、精密構造解析を試みた。 精密な構造解析の結果より、空間充填モデルとの一致の度合いを示す信頼度因子 R が3% の精度で決定され、TiO6 多面体の歪や電荷の分布について、正確なデータが得られた。結 論として、BaTiO3 と同じ相転移メカニズムを持つと推定されていた PbTiO3 には Ti 原子の静 的変位は観測されず、変位型のみの特徴を有することを明らかにすることができた。
© Copyright 2024 ExpyDoc