Hong Kong Tax alert

4 May 2015
2015 Issue No. 8
Hong Kong
Tax alert
提案された金融口座情報の自動交換制度に対
する関係者の見解
国際社会の責務を果たすため、香港特別行区政府は、香港の金融機関(以下
「FIs」)から口座に対する詳細な財務情報を取得することを表明しており、口座
保有者が居住する海外の国・地域においても、年次ベースで相互の情報が自
動的に伝達されるようになります。
この自動的な情報交換制度(以下「AEOI」)の実施のため、香港特別行政区政
府は、2015年4月24日付で公開諮問書を発行し、6月30日まで諮問が可能とな
っています。特に、 AEOIのもとで、報告すべき口座の識別及び詳細情報の提
供のために課された報告及びデューディリジェンスの要件について、 FIsの見
解が求められています。
FIsの用語は、銀行、ブローカー、カストディアン、保険会社、証券及び先物法の
もとでライセンスを受けた特定の者、また集団投資ビークル及び年金制度のよ
うな投資主体を含むように広く定義されています。この件について、具体的なコ
メントやご見解がありましたら税務チーム担当者へお知らせいただきますと、適
切な方法で該当する関係当局へ連絡させていただきます。
このタックス・アラートでは、AEOIに基づいて、FIsに課されるべきAEOIのメカニ
ズムや報告・デューディリジェンス要件について説明します。
1.
諮問書は、以下よりダウンロード可能
です。
http://www.fstb.gov.hk/tb/en/docs/AEO
I-ConsultationPaper-e.pdf
背景
税務上の透明性を高め、納税回避行為に対抗するた
め、各国の税務当局は相互に納税者に関する情報交
換を行います。現在、香港は、包括的二重課税防止協
定(以下「CDTA」)または単独型の税務情報交換協定
(以下「TIEA」)のいずれかの枠組みに基づいて、租税
条約相手国から請求があった場合にのみ、限定的に
情報交換(以下「EoI」)を行っています。
しかしながら、税務協力の世界の状況は、急速に変化
しています。2014年7月に、経済協力開発機構(以下
「OECD」は、税務問題における金融口座情報の自動
交換基準を発表しました。この新しい国際基準に基づ
いて、OECDは金融機関から口座に関する詳細な財務
情報を取得し、年次ベースで、口座保有者の居住国に
おいて情報交換を行うために、各国(情報提供元とな
る国)政府に呼びかけました。
責任ある国際社会の一員として、将来制裁を受ける可
能性と共に非協力的国としてのレッテルをはられるこ
とを避けるため、香港特別行政区政府は、2014年9月
のグローバル・フォーラム2において、香港はAEOIに関
する新しい国際基準の実行を支持する旨を述べまし
た。この点で、香港特別行政区政府は、必要な国内法
を2017年までに制定できることを条件として、2018年
の年末(グローバル・フォーラムで容認されている最長
期間)までに最初のAEOI交換を開始することを約束し
ました。
AEOIの概要
OECDによって公表された国際基準は、以下の2つの
要素により構成されています。
(1)所轄官庁モデル協定(以下「CAA」)
2つの管轄当局のEoIの様式(AEOI相手国へ情報提供
される時期及び方法とともに交換情報の範囲)を提供
CRSのもとで、FIsは銀行、ブローカー、カストディアン、
保険会社、集団投資ビークル及び年金制度のような
投資主体を含むように広く定義されており、また報告
義務のある口座とは、非居住の個人及び法人(信託及
び基金を含みます)が含まれています。
法人口座に関しては、FIsは受動的エンティティ(CRS
の中で受動的な非金融機関であるエンティティ(以下
「受動的NFEs」)とされている)を調査し、報告対象国の
税務的居住者である受動的NFEsの管理者について
の報告が必要です。これは、当該受動的NFE自体が、
報告義務のある当事者であるかを問わず必要とされ
ます。
しかしながら、CRSは情報提供元となる国・地域に対し
て、CRSの中でそれぞれ「報告義務のないFIs」3及び
「除外される口座」4として定義されている、租税税回避
行為に使用されるリスクが低いと考えられるFIs及び金
融口座を特定し、報告義務を免除することを承認して
います。
2.
税の透明性及び情報交換に関するグローバル・フォーラム(以下「グ
ローバル・フォーラム」)
税務の透明性遂行のため、OECDの支援のもとで設立され、香港を含
む120の国と地域で構成されています。
3.
香港特別行政区政府は、以下を「報告義務のないFIs」に含める意向
です。
(a)政府機関(政府に100%保有されている法的機関や団体を含む)、国際機
関及び香港金融管理局
(b)政府団体、国際機関、香港金融管理局の年金基金
(c)学校積立基金及び学校助成基金
(d)CRSのもとで、広義の退職金基金、狭義の退職金基金、資格を満たし
たクレジット・カード発行者、対象の集団投資ビークルまたは信託文書化さ
れた信託として定義された要件を満たすFIs
4. 香港特別行政区政府は、以下をCRSが定めた「除外された口座」に含
める意向です。
(a)一定の要件を満たす退職金または年金口座
(b)退職金以外の税務上の優遇口座
(c)定期生命保険
(d)不動産口座
(e)エスクロー口座
(f)CRSで定義された還付不能の過誤納金の預託口座
(2)一般的な報告基準(以下「CRS」)
報告義務のある口座の識別のため、FIsによって行わ
れる必要があるデューディリジェンスの設定。CAAは、
CRSと、CDTA、TIEAやその他の多国間協定、つまり
CAAが無く、AEOIが行えない場合などに、EoIを行うた
めの法的根拠となる多国間協定を結ぶ包括的な協定
です。
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2
また、CRSは、FIsが各報告すべき口座に対して、以下
の事項の報告が要求されていることを明確にしていま
す。
►
金融口座保有者の個人情報(氏名、住所、税務上
の居住地、納税者番号(以下「TIN」、生年月日及び
出生地5 及び
►
財務データ(報告義務のある口座の種類により以下
のように異なります)
法的枠組みの提案
内国歳入法に組み込まれる主要条項
香港のAEOIの実行を可能にするため、以下の主要条
項を内国歳入法(以下「IRO」)に追加することが提案さ
れています。
(a) FIs及び報告すべき口座の定義
(b) FIsからIRDに提供される情報、及びその後IRDか
らAEOI相手国と交換する情報の範囲
►
解約払戻金付の保険契約または年金保険契約
‐ 当該契約での解約払戻金
(c) 報告すべき口座の特定のためにFIsによって行わ
れるデューディリジェンス手続
►
信託管理口座 - 利息収入総額、配当金総額、
口座で保有されている資産に対するその他の
総収入額、支払が行われた、または口座へ入
金された資産の売却額または買い戻し額の総
額
(d) IRDによる効果的な実行を確実にするための強制
条項
►
預託口座 ‐ 支払が行われた、または口座に
入金された利息の総額
►
その他の口座 ‐ 口座保有者へ支払が行われ
た償還額の総額を含んだ、口座保有者へ支払
が行われたまたは入金された総金額
香港特別行政区政府は、香港とCAAを締結しているよ
うな、AEOI相手国(香港外の全ての国というよりも)の
居住者が保有している報告対象の口座のみを特定す
ることをFIsに求める旨の法律の導入を計画していると
述べました。それにも係わらず、FIsは、香港の情報保
護体制を遵守するため、提示された法的要請を越えて、
「より広いアプローチ」を採用し、全ての非香港居住の
口座保有者の情報を識別して保持する可能性があり
ます。
香港のAEOIへのアプローチ
香港特別行政区政府は、AEOI基準の主要な要求事
項を国内法に取り込むという、実際的なアプローチを
採用すると述べました。このアプローチのもとで、AEOI
基準の有効性を損なうことなく、影響を受けるFIsのコ
ンプライアンスのコストをできる限り低く維持されること
が望まれています。従って、内国歳入庁(以下「IRD」)
の法的権限は、AEOIの効果的な実施を確実にするた
めに正当化される範囲で拡大されます。
5.
このアプローチのもとでは、香港は、税務問題におけ
る相互行政支援の多国間協定のような多国間の他の
手段よりも、二国間CDTAまたは二国間TIEAのプラット
フォームのもとでのみ、AEOIを追求することとなるでし
ょう。多国間の他の手段よりもCDTAやTIEAが好まれ
るのは、AEOI相手国を選択する際に、香港により柔軟
性が与えられるという理由からと考えられます。例え
ば、もし香港が、納税者のプライバシーや交換される
情報の機密性の保護について、管轄当局の法的枠組
みや実務に満足していない場合、香港がその当局と
CDTAまたはTIEA及びCAAの締結を行わないことが可
能となり、その結果、その相手国とはAEOIが行われな
いことになります。
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もし情報がFIsによって記録されておらず、国内法のもとでFIsがこのよ
うな情報を取得する必要がない場合、既存口座に対して、FIsはTINや
生年月日の情報を報告することは要求されません。FIsは、該当の口
座が報告すべき口座と特定された年度の翌年の末日までに、既存口
座に対して、TIN及び生年月日を取得する相応の努力を行う必要があ
るとされています。AEOI相手国やAEOI相手国の国内法でTINの取得
を要求していない場合、FIsにTINの報告義務はありません。国内法で
別途出生地に関する情報取得が求められており、FIsが保管している
電子データで利用可能でない限り、FIsは既存と新規口座の両方につ
いてこのような情報を報告する義務はありません。
3
コンプライアンス不履行に対して提案された制裁措置
コンプライアンスの不履行を防ぐため、香港特別行政区政府は、特定の罰則をIROに含むことを想定しています。以下の表は、コンプライアンス
不履行に対して提案された制裁をまとめたものです。
違反の内容
制裁措置
FIsによる違反
1. 適切な理由なしにAEOIの効果的実施のためのデューディリ
ジェンス、IRDへの申告やその他の義務を遵守できない場
合
2.
デューディリジェンス要件を遵守しなかったことによる不正
確な申告を提出した場合
3.
故意に作成された虚偽の申告書を作成した場合
►
レベル3の罰金(現在HK$10,000)
►
遵守違反の有罪判決後、継続的に違反が行われている場
合、その後の継続違反期間、またはその一部の期間にお
いて、1日あたりHK$500を超えない追加の罰金が課される
I. 略式判決:レベル3の罰金及び6ヶ月の禁固刑
II. 起訴:レベル5の罰金(現在HK$50,000)及び3年の禁固刑
FIsの従業員、FIsのために働く従業員、またはFIsの経営者による違反
レベル3の罰金(現在HK$10,000)
遵守違反の有罪判決後、継続的に違反が行われている場合、そ
の継続違反期間において、またはその一部の期間において、1日
あたりHK$500を超えない追加の罰金が課される
1. 適切な理由なしに、FIsに課された要件遵守の不履行や不
正確な申告書の作成の原因を 引き起こした場合
►
2.
I. 略式判決:レベル3の罰金及び6ヶ月の禁固刑
II. 起訴:レベル5の罰金(現在HK$50,000)及び3年の禁固刑
故意の詐欺行為や、FIsに課された要件遵守の不履行や
不正確な申告書の作成を行った場合
►
金融口座の開設の際、口座保有者は、税務上の居住地を特定する責任を負っています (自己証明など) 。この点に
おいて、口座保有者は、口座開設時にFIs宛に詳細な個人情報や及び自己証明を提出する必要があります。FIsは、
口座保有者の居住地決定に対する関連税法の独自の法的分析を行う必要はなく、自己証明に対する合理性テスト
を行うことのみが期待されています。
現時点で香港特別行政区政府は、虚偽の自己証明に対して、税務上の香港非居住者の口座保有者に対する新たな
制裁措置を課す意図は無い旨を示しました。それにも係わらず、もしこのような口座保有者が正当な理由もなく、IRD
の情報交換に関連して、香港外の地域における自己の納税義務に影響する情報に関して、不正確な情報を与えた
場合、口座保有者は、IROの現条項のもとでも違反となる可能性があります。また、香港特別行政区政府は、他の
国・地域での経験及び自己証明の過程での信頼性を高めるという観点をふまえて、口座保有者による虚偽の自己証
明に対して、IROの現存の制裁措置を拡大することや新しい制裁措置を導入することを検討する可能性があると述べ
ています。
情報交換に対するデータ及び機密性保護のためのセーフガード
香港のAEOIは、既存のCDTAまたはTIEAの枠組みのもとで実行されることを考慮すると、AEOIのもとでの情報交換
は、CDTAまたはTIEAで提供される納税者の情報に対する機密性保護と同一のセーフガードが適用されることになり
ます。また、モデルCAAが、CDTAまたはTIEAのもとで類似のセーフガードを提供しています。
現在、香港の国内税法の規定により、リクエストベースで行われるEoIに関する追加のセーフガードについては、納税
者への通知及びレビューの機会を与える形で、納税者に提供されています。このシステムのもとでは、EoIの対象とな
った者に対する通知が行われ、IRDから当該海外税務当局への情報交換が行われる前に、レビュー及び修正する権
利が与えられることになっています。しかしながら、この通知とレビューシステムは、AEOIには適用されない可能性が
あります。AEOIの形態は、「請求ごと」のEoIとはかなり異なっています。多数の口座保有者がAEOIの制度に組み込
まれ、情報交換が行われる都度、IRDが個別に通知することは不可能とは言わないまでも非常に困難となるでしょう。
また、香港特別行政区政府は、AEOI目的のため、別々の通知やレビュー機能を導入する意向を持ついかなる他国・
地域も認識していないことを指摘しました。
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4
申告要件
運用の枠組みの提案
FIsは、CRSで指定された要件をもとに、IRDへ必要な
情報を報告しなければなりません。以下の図は、FIsが
報告すべき口座を識別し、必要な情報の収集及び報
告のために求められるとして提示されているデューデ
ィリジェンスの手続をまとめたものです。
IRDは、AEOIの申告書提出のため、登録された全FIsに
対して、1月に安全なプラットフォームを介して、年次の電
子通知を発行します。FIsは、特定の年度に報告すべき
口座がない場合でも、AEOI申告の提出が要求されてい
ます。諮問書では、FIsが対象の情報が関連する暦年よ
り5ヶ月以内にAEOI申告を行う必要があると提案してい
ます。
図1 - 個人口座のデューディリジェンス手続
提案されている実施スケジュール
報告とデューデリジェンスの要件
低額の口座(US百万ドル以下)
香港特別行政区政府は、香港のAEOIの実施のため、以
下のスケジュールを予定しています。
書面や電子証拠に基づいた永
住権テスト:矛盾の兆候がある
場合、自己証明が必要
既存口座
高額の口座(US百万ドル超)
個人口座
新規口座
デューディリジェンス手続の強
化(管理担当者による書面記録
や実知識に基づく調査を含む)
口座保有者による自己証明(口
座の額を問わず)
アクション
スケジュール案
FIsが、報告すべき口座の識別及び関連
情報の保持のため、新規及び既存口座の
デューディリジェンスを開始
2017年1月
FIsがIRDに登録
2017年9月
FIsが検証のため、IRD開発のソフトウェア
にテスト用データファイルを提出
2017年の第4四半
期
IRDがFIsにAEOI申告書を発行
2018年1月
FIsがAEOI申告書をIRDに提出
2018年5月
FIsが自己証明の妥当性を確認
図2 - 法人口座のデューディリジェンス手続
法人が受動的NFEであるかの識別、受動的NFEの場合、
管理者の居住地の識別を含む
低額の口座(US25万ドル以下
FIsが選択しない限りレビュー不
要
既存口座
法人口座
新規口座
高額の口座(US25万ドル超)
求められる見解
AEOIの実行が、FIsに重大な課題を与えることを考慮
すると、香港特別行政区政府は、「報告義務のない
FI」がどの金融機関であるか、何が「除外される口座」
の要件を満たすか等を含んだ、AEOIのもとで課される
べき報告とデューディリジェンスに関するFIsの見解に
特に関心を持っています。この件について、具体的な
コメントやご見解がありましたら税務チーム担当者へ
お知らせいただきますと、適切な方法で該当する関係
当局へ連絡させていただきます。
アンチマネーロンダリング手続
や顧客の詳細記録によって収
集された情報に基づきレビュ
ー:自己証明が要求される場合
もあり。
口座保有者による自己証明(口
座の額を問わず)
FIsが自己証明の妥当性を確認
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