1 本実践のねらい 「ぴしっと,くるっと,なかマット運動」(器械運動)

器械運動(6年)
教師や児童同士の「かかわり」からマット運動への意欲化を図る授業研究
~授業者と共に振り返りを通じて創る器械運動の授業実践より~
高松南ブロック
1
本実践のねらい
「ぴしっと,くるっと,なかマット運動」(器械運動)
(1)子どもの実態と目指す姿
本実践を行った6年生28名は男女ともに分け隔てなく接することができ,授業中に積極的に意
見を発表したり,困っている友だちに声をかけたりすることができる。事前に行ったアンケート調
査によると,体を動かすことや体育の授業が好きな児童は 9 割を超えており,運動に対する関心も
高い。しかし,マット運動に対しては,およそ4割の児童に苦手意識があるという結果が見られ,
その理由は,「楽しくない,技をするのが怖い,一度失敗して体を痛めたことがある」というもの
だった。また,前転や後転がどの程度できるか調べたところ,前転では3名,後転では約半分の児
童がうまく回れない等の課題を持っていた。つまり,本学級の児童は,運動が好きで活発ではある
ものの,半数近くが,マット運動に苦手意識を持っており,成功体験や達成感を味わう経験が乏し
いと考えられる。
このような児童の実態から,高松南ブロックでは,児童の課題を適切に見取り,課題解決に必要
な動きを身につけるための場を設定したり,教師が児童の課題解決の助けとなる適切な助言や指導
をできるようにしたりすることで「マット運動に意欲的に取り組める子ども」,
「仲間や教師とのか
かわりの中で学ぶ子ども」の育成を目指した。また,そのために教師は,毎時間のリフレクション
(複数の教師による振り返り)を通じて,客観的に授業を振り返り,Plan(計画)を見直して
Do(実行)に生かすことに重点を置いて実践を行った。
事前アンケート調査より
好きではない,2人
Q1 体を動かすことは好きですか?
まあまあ好き,7人
好き,17人
好きではない,8人
Q2 体育は好きですか?
まあまあ好き,7人
好き,17人
Q3 マット運動は好きですか?
好き,8人
まあまあ好き,7人
あまり好きではない,6人
好きではない,5人
Q4 補助倒立はできますか?
組み立て体操の練習で,できるよう
以前からできる,10人
できない,6人
になった,10人
なった
高松南ブロックⅠ
1
(2)教材設定の理由と学習内容
仏生山小学校では,学年毎に器械運動のクラスマッチが行われている。本学級の児童も,5年生
の時に開脚前転や大きな前転を学習し,マット運動でクラスマッチを行った。また,今年度は本実
践の前に運動会があったため,表現運動の組み立て体操に向けて,補助倒立の練習に熱心に取り組
んできた。そのため,児童は成功体験を通じて,マット運動に対する関心を高めつつあった。この
ような経緯から,本実践では,練習してきた補助倒立と,既習の大きな前転の発展技である「倒立
前転」を単元の中心にして学習を構成し,これまでの学習や運動会までの児童の意識とつないだ教
材設定を行った。さらに,単元の終末では,児童一人ひとりが倒立前転と既習の技を組み合わせた
連続技をつくり,マット運動発表会を行うことや,今年度のクラスマッチで倒立前転を種目の中に
新たに入れることで,日々の学習に目的意識をもって取り組めるようにした。
高松南ブロックでは,主教材である倒立前転を学習する上で,倒立前転の特徴を分析した。図1
は,前転,大きな前転,倒立前転の運動局面を示した図である。(体育科教育別冊 2008.11)腕支持
から前転に移行する局面に注目すると腰角の大きさに違いはあるものの,どの技も同じ動きをして
いることが分かる。つまり,前転や大きな前転で学習した,腕支持から順次接地の動きは倒立前転
の「つなぎの部分」
(行田 1993)でも同様に生かせると考える。
図1.前転,大きな前転,倒立前転における運動局面
前転
大きな前転
倒立前転
また,倒立前転は「倒立」と「前方回転」
の二つの技が融合して成り立っている技であ
ることから,そのつなぎ部分の技術を習得し
やすいように段階を踏んで指導することが大
切である(行田 1993)と考え,本実践では,
倒立前転を前半の「倒立」の場面と,後半の
「前方回転」の場面に分け,それぞれの動き
の融合を試みた。前時(5/8)では,「足の
高松南ブロックⅠ
図2(マット運動の技における融合局面に関する一考察
行田,太
田 1993 より抜粋)
2
振り上げから,腕で体を支えてバランスをとり,倒立すること」を目標とし,本時(6/8)では「腰
の位置を高く保った腕支持の姿勢からタイミングよく,肘を曲げて順に体を接地し,前方へ回転す
ること」を目標とした。
2
実践の主張点
(1)授業者と「プロンプター」によるリフレクション
本実践では「マット運動に意欲的に取り組む子ども」,
「仲間や教師とのかかわりの中で学ぶ子ど
も」の育成を目指している。しかし,教師があらかじめ用意した教材や指導計画だけでは,児童の
実態に即さなかった場合に,教師の意図との間にズレが生じ,マット運動への意欲低下を招いたり,
児童同士のかかわりを妨げたりすることにも繋がりかねない。つまり,教師主導の体育学習ではな
く,子どもの実態を把握し,子どもの願いに寄り添った,子どもと共に創る体育学習が必要である
と言える。また,鹿毛(2011)は,リフレクションを「教師と子どもたちがともに授業を作り出し
ているという事実を確認すること」とし,その重要性を述べている。そして,リフレクションを行
うには,「授業観察者」と「授業リフレクションのサポーター」という2つの役割をもつ「プロン
プター」が授業者をサポートしていく必要があるとしている。(子どもの姿に学ぶ教師 2011)
高松南ブロックでは,部員がプロンプターとして,毎時間のリフレクションを授業者と行い,複
数の目で,児童の実態を客観的に見取ったり,教師の言葉かけの意図や指導方法を確認したりして,
次時のDo(実行)に役立てようとした。また,昨年度と同様に子どもの実態に応じて,Plan
(計画)についても見直し,変更を行った。授業者は多様な価値観に触れることで,子どもや授業
の見取り方が変わり,より子どもの実態に合った授業計画を立てようと努めた。
(2)振り返りを可視化するリフレクションシートの活用
教師は,授業中の短い時間でも児童の反応を見ながら,瞬時に振り返りをして,より適切な発問
や助言をしようと思考を行っている。また,日々の打ち合わせや同僚との相談の中で,アドバイス
をもらい,授業に生かすこともあるだろう。しかし,それらの瞬時の思考や授業の振り返りは,日々
の生活の中では目に見える形として残ることが少ない。もし,それらの振り返りを可視化し,単元
学習が終わった後に,振り返ることができれば,それは,教師の力量形成の一助になると考えられ
る。高松南ブロックでは,それらを可視化する助けとなるのがリフレクションシートだと考える。
本実践でも,リフレクションを行う際にリフレクションシートを使って振り返りを行った。授業者
が撮影していた,授業の録画を見ながら,児童の実態を見取り,指導の意図や場の設定などを確認
したり,振り返ったりすることができた。
図3 リフレクションシートの記入例
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3
3
単元計画
(1)単元の目標
できる
わかる
かかわる
・安定した倒立前転ができる
・自分の力にあった技を組み合わせて倒立前転を入れた連続技ができる。
・それぞれの技のコツがわかる。
・自分の課題に合った練習内容の場や方法がわかる。
・技のコツを友だちと教え合って,お互いに伸びを実感しながら練習しようとする。
(2)単元計画(学習指導計画,全8時間)
次
時
1
目標
主な学習内容
評価規準
前転・後転のコツを意
前転・後転の着手の位置や
識して練習し,なめら
タイミング,腰の位置を高
めらかに回ることができる。
かに回ることができ
く保ちながら順に接地して
マット運動に対する関心を高め
る。
回ることを復習し,技に挑
ることができる。
マット運動に対する
戦する。
で
わ
関心を高める。
第
2
前転,後転のコツを使って,な
前転,後転をなめらかに回るた
めのコツがわかる。
開脚前転のコツを意
開脚前転の着手の位置やタ
識して練習し,なめら
イミング,肩の位置を前方
し,なめらかに回ることができ
かに回ることができ
に押し出すことで立ち上が
る。
る。
れることを使って技に挑戦
一
で
わ
する。
開脚前転のコツを意識して練習
開脚前転をなめらかに回るため
のコツがわかる。
次
大きな前転と跳び前
大きな前転と跳び前転の練
転のコツを考え,腰角
習を通して,腕支持から腰
使って大きく回転することがで
を開いて,大きく回転
の位置を高く保ったまま体
きる。
することができる。
を順に接地することで大き
3
で
わ
大きな前転や跳び前転のコツを
腕支持から腰の位置を高く保っ
く回転できることがわか
たまま体を順に接地することで
る。
大きく回れることがわかる。
か
友だちからアドバイスをもら
い,励まし合って練習する。
第
二
4
補助倒立と大きな前
倒立前転に挑戦し,倒立時
で
転の発展技である倒
の視線や腕支持の姿勢から
姿勢から肘や体を曲げるタイミ
立前転に意欲的に練
肘や体を曲げるタイミング
ングを考えながら意欲的に練習
習することができる。 を考える。
次
倒立時の視線の位置や腕支持の
できる。
か
模範や運動局面図を見て,友だ
ちとアドバイスしあいながら練
習する。
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4
5
連続写真を見て,自
視線の位置や,腕支持の時
分の課題に気づき,倒
に体に力を入れることを意
立前転に必要な練習
識して,倒立することがで
で
両手の間を見て体に力を入れる
ことで安定した倒立ができる。
わ
倒立をするために,自分の課題
の場や方法を選んで, きる。
に合った練習の場や方法がわか
倒立のコツを考える
る。
ことができる。
か
課題を解決するために,友だち
とコツを教えあったり,補助し
あったりする。
6
本
時
連続写真を見て,課題
腰を高く保った腕支持の姿
で
を知り,倒立前転に必
勢から足が少し前方に進ん
ら肘を曲げて順に接地し,前方
要な練習の場や方法
だ時に肘をゆっくり曲げて
に回転することができる。
を選択して,腕支持の
順に接地し,回転すること
姿勢から,なめらかに
がわかる。
わ
腰を高く保った腕支持の姿勢か
倒立時の足の位置が少し前方に
進んだ時に肘をゆっくり曲げて
回転することができ
回転していくことがわかる。
る。
か
それぞれの課題を解決するため
に,友だちとコツを教えあった
り,補助しあったりする。
7
自分の力に合った技
前時までに学習した技を振
を組み合わせて倒立
り返り,どの順に技を組み
せて練習し,技のつながりや連
前転を入れた連続技
合わせると連続技がしやす
続技ができた時の達成感を味わ
を考え,練習すること
いか考える。
うことができる。
ができる。
第
で
わ
自分の力に合った技を組み合わ
どの順に技を組み合わせると連
続技がしやすいかわかる。
三
次
8
自分に合った連続技
友だちの技の良さや,技の
を発表することがで
組み合わせの良さを見つけ
きる。
ることができる。
で
自分に合った連続技を発表する
ことができる。
か
友だちの技の良さや,技の組み
合わせの良さを見つけることが
できる。
当初の単元計画は,7時間単元を予定していた。しかし,第1時に,下位運動(感覚づくりの運
動)を指導したところ,定着するのに時間がかかり,第1時の学習内容が前転と後転までしか到達
しなかった。そこで,予定していた開脚前転の学習を,第2時に行い,全8時間の単元計画に変更
した。児童は1・2時間目に既習の技に取り組むことで,技のコツを復習し,できた時の喜びを感
じていた。また,マット運動発表会で連続技をすることを意識して,技の練習に取り組むことがで
きた。児童のマット運動に対する苦手意識の克服と,マット運動への意欲を高めるには必要な時間
だったと思われる。また,授業者にとっても,児童の実態や反応を見て,Plan(計画)を変更
することは,初めての経験であり,児童に寄り添った学習スタイルを確立する経験を積むことがで
きた。Plan(計画)の見直しは,日々の実践でも,よく行わることであるが,授業者の経験値
によって個人差がある。授業後のリフレクションによって,これらに気づくことができたことも,
授業者にとっては有意義なことであったと思われる。では,リフレクションによって,授業者がど
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のようにPlan(計画)を修正し,Do(実行)していったのか検証する。
4
授業の実際
~リフレクションより~
第1時 主な学習のねらい【既習の技を復習し,マット運動に対する意欲を高める】
・前転,後転,開脚前転のコツを理解し,なめらかに回転することができる。
・マット運動に対する関心を高めることができる。
第1時 授業の実際
主な学習活動の予定
① 下位運動
②前転,後転,開脚前転のコツ見つけ
児童の反応
・下位運動が定着していない。
・コツを共有化しきれていないためコツを意識して練習できていない。
・技の完成形が充分に理解できていない児童が多く,技が雑になっている。
・後転ができるようになった児童が多かったため,後転に対しての関心がとても高まっている。
・練習しても後転が回れないため,集中して練習に取り組めない児童がいる。
Plan(計画)の修正
・主運動につながる下位運動の精選と時間短縮。
・本時に学習できなかった開脚前転を次時に行う。
(単元計画の変更)
・苦手な児童がスモールステップで練習できる場の工夫。
・教師が児童の全体の動きを把握できるようなマットの配置。
Do(実行)のポイント
・コツを共有化する場面と,コツを使って練習する場面を分けて,学習を進める。
・技の完成形を意識して練習に取り組めるようにする。
・それぞれの練習の場を巡視して,児童の課題解決のために声をかける。
既習の技を復習することで,できる喜びを味わわせ,マット運動に対する意欲を高めたかったが,
教師の指示があいまいになったり,コツの共有化が充分にできなかったりしたため,意欲が低下し
てしまう児童も見られた。指示の出し方,できない児童への場の設定や声かけの工夫が必要だと感
じた。既習事項の復習であるため,すぐにできるようになるのではないかという教師の考えと児童
の実態にズレが生じていた。
第2時 主な学習のねらい【既習の技を復習し,マット運動に対する意欲を高める】
・開脚前転のコツを理解し,なめらかに回転することができる。
・マット運動に対する関心を高めることができる。
第2時 授業の実際
主な学習活動の予定
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① 下位運動
②開脚前転のコツ見つけ
児童の反応
・開脚前転のコツの共有化ができたので,第1時よりもコツを意識して練習していた。
・技に何度も挑戦している児童が見られ意欲が高まっている。
・たくさんの場の設定ができたので意欲的に練習していた。しかし,どんな課題を解決するための場な
のか意識できていないためグループ活動が機能していない。
・友だちと「見合う」という活動ができていない。自分の課題も友だちの課題も見つけられない。
Plan(計画)の修正
・課題に応じた場の設定と掲示による支援。
・児童同士が課題を見取るため情報機器の活用。
・グループ活動の確立。
Do(実行)のポイント
・児童に「見合う」ための視点を与えて,アドバイスしあえるようにする。
・できない児童への声かけと支援を工夫する。
・できる児童へは,さらに上手になるための声かけをする。また,手本としてコツの共有化を図るため
に取り上げる。
課題解決を図るための場の設定が行われたことで,意欲的に活動できていた。しかし,自身の課
題を把握できていないことや,どんな課題を解決する場なのかは,十分に理解できていないため,
課題に応じた適切な場を選択できていなかった。掲示物で,どんな課題解決を目指した場であるか,
示す必要がある。教師の指示の出し方は前時に比べて明確になり,児童も戸惑いが少なくなって,
開脚前転の練習にも意欲的だった。児童同士のアドバイスの活動が少ないので,お互いの動きを見
る視点を与えたり,タブレットで動きを振り返ったりできるようにしたいという意見も出た。また,
授業者は,技ができない児童や,既にできている児童への言葉かけも大切にしていこうとしていた。
第3時 主な学習のねらい【大きな前転,跳び前転から倒立前転につながる回転動作を身につける】
・大きな前転,跳び前転のコツを理解し,なめらかに回転することができる。
・倒立前転につながる回転動作を身につける。
第3時 授業の実際
主な学習活動の予定
① 下位運動 ②大きな前転のコツ見つけ ②跳び前転のコツ見つけ
児童の反応
・課題に応じた場が増え,掲示を示したことで,活意欲が高まり,目標を目指す児童が増えた。
・グループ活動がパターン化してきたことで,児童が見通しをもって活動していた。
・視点が与えられたことで,友だちからの賞賛や価値づけされる場面が増え,満足感が得られていた。
・自分の動きがどうなっているか分からない児童がいる。
Plan(計画)の修正
・下位運動の時間を短縮と活動時間の保障。
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・ビデオを使って,模範の動きやコツを確認できるような場の設定と資料の掲示。
・倒立前転に必要な課題を解決する場の設定。
Do(実行)のポイント
・グループ活動の仕方を,もう一度確認して活動させる。
・腰角が大きくなるように倒立前転では足を高く上げられるような下位運動したり,大きな前転のコツ
見つけの場をつくったりする。
課題に応じた場の設定が掲示により,明確になった。そのため,児童が目的意識を持って,それ
ぞれの場で練習できていた。しかし,自分の技の課題把握がうまくいっていない児童が多く見られ
る。タブレットの活用を試みたが,操作に時間がかかり,うまく機能せず,授業者は,どのように
課題を把握させていくか工夫が必要であると感じていた。
第4時 第5時 第6時 主な学習のねらい【安定した倒立前転ができる】
・既習の回転動作を振り返り,
「倒立前転」は,倒立の後に回転動作が入る技であることがわかる。
・
「倒立」の場面に視点を置き,体を支えてバランスをとるためのコツを使って,安定した倒立をする。
・「前転」の場面に視点を置き,倒立から前転に移る時のコツを使って,安定した倒立前転ができるよ
うにする。
第4時 授業の実際 【倒立前転の技の流れを理解し,課題意識を持って練習することができる。
】
主な学習活動の予定
① 下位運動 ②倒立前転の把握(ビデオ視聴)③倒立前転の練習 ④課題解決の場の選択
児童の反応
・足の上がっていない児童が数名で,ほとんどの児童は上がっていた。(倒立の静止はできていない。
)
・補助をしている児童が,友達の技の出来栄えが良かった時に一緒に喜び,共感できている。
・いろいろな場を体験することで意欲的に運動することができていた。
・倒立のときに視線がきちんと定まっていない児童がいる。
・倒立から前転へとつなぐときに,頭が入らない児童が多く,恐怖心があるのではないかと考えられる。
また,背中を丸めたり,膝を曲げたりして回って止まることができない。
・セーフティマットの練習に意欲的であったが,回転しようとしない児童が多く見られた。前転に導い
ていくために通常のマットでも,少しずつチャレンジさせていくようにする必要がある。
Plan(計画)の修正
・児童それぞれの倒立前転の連続写真を与えることで,技の流れにそって自分の動きを客観的に分析で
きるようにする。
Do(実行)のポイント
・課題ごとの場の説明を充分に行い,児童が課題解決の場を理解した上で練習ができるようにする。
ビデオで倒立前転の動きの流れを確認することができ,児童は目標に向かって練習に取り組んで
いた。授業者は,セーフティマットの場を,児童の恐怖心を無くすために有効だと考えて設定した。
倒立への恐怖心が無くなることは予想通りであったが,倒立への意識をより高めることになり,前
方に回転することがおろそかになってしまう姿が多く見られた。倒立前転の技の一部であることを
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意識させることが必要だと授業者は感じていた。
第5時 授業の実際 【倒立前転の前半部分のコツを見つけ,安定した倒立ができる】
主な学習活動の予定
① 下位運動 ②異質グループ毎の練習 ③課題毎の場の選択と練習 ④異質グループでの「見合い」
児童の反応
・下位運動や前時までの運動の成果が表れ,倒立前転に対する恐怖感は少なくなってきている。
・技の向上に対する意欲がかなり高まってきているが,友達へのかかわりが弱くなってきている。
・連続写真を見せたことによって,自分の課題を把握し,意識して練習することができるようになった。
また,意欲が高まっている。
・グループで出た感覚的な言葉を全体で共有できていない。
・倒立から前転へ移る際の視線の位置が不十分なまま練習をするグループがあった。
・技を友達に見せる際に,何を意識して技を行うのか友達に示せるようにしたい。
・両手で支持をすることが難しい児童がおり,練習の場を作ることが必要ではないか。
Plan(計画)の修正
・後半の「前転」の場面を意識できるような課題解決のための場の設定。
・両手で支持できない児童への段階を踏んだ場の設定や支援の計画。
Do(実行)のポイント
・児童の中から出てきた感覚的な言葉やコツを全体に共有化する場面をつくる。
・補助・助言する役割の児童が,アドバイスするための視点を持てるようにし,児童同士が具体的にか
かわれるようにする。
児童が自己の課題を把握できるようにするために,ビデオから連続写真をつくり,児童に配布し
た。これにより,ビデオの模範演技との違いや,自己の課題が明確になり,学習中にアドバイスし
たり,声をかけ合ったりする姿が見られるようになった。コツの共有化が,まだ不十分だが,それ
ぞれの場に関心をもって活動する姿が見られた。
第6時(本時) 授業の実際 【倒立前転の後半部分コツを見つけ,安定した倒立前転ができる。
】
主な学習活動の予定
① 下位運動 ②異質グループ毎の練習 ③課題別グループ毎の練習 ④異質グループ毎の「見合い」
児童の反応
・倒立後,両足が頭の真上より少し進行方向に傾いたところで,肘を曲げるというタイミングを視覚的
に全体で共有できた。
・グループ活動では,児童同士で励まし合ったり,肘を曲げるタイミングを伝え合ったりしており,視
点を明確にして「見合う」ことで具体的な言葉かけができていた。
・回転動作に入ってから,体のどの部分が接地したら膝を曲げ,体を丸くすればよいか理解できていな
い児童がいた。
・壁逆倒立の場で,1人で腕支持ができることに満足し,回転動作に結びつかない児童がいた。
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・倒立から前転への視線の移り変わりが十分ではない児童がいた。
Plan(計画)の修正
・倒立に自信をもてない児童を補助し,倒立までの技能を保障する。
Do(実行)のポイント
・回転動作から膝をたたむタイミングを全体で共有する。
・倒立前転を含めた組み合わせを考えるようにし,技と技のつなぎや発表終わりの姿勢を意識するよう
助言をする。
手本となる児童の技を見せて,倒立から前転へ移行するタイミングを考えさせることができた。
技のコツを見つけられたので,友だちの技を視る視点もでき,補助したり,声をかけ合ったりしな
がら,練習に取り組むことができた。教師の声かけや児童の取り上げ方が改善されて充実した活動
ができた。友だちに「がんばれ!」と励ます児童の声が本時では,最後まで続いていた。課題解決
に向けて協力して活動できていた。
第7時・第8時 主な学習のねらい【自分の力に合った連続技を組み合わせ練習し,発表する】
・自分の力に合った,技を組み合わせて連続技をつくり,練習することができる。
・自分の連続技の発表ができると共に,友だちの連続技の良さを見つけることができる。
第7時 授業の実際 【自分の力に合った連続技を考え,練習する。
】
主な学習活動の予定
① 下位運動
②既習の技を組み合わせた連続技を考える。 ③練習
児童の反応
・技の間は両手を広げて止まるなど,技のつなぎ方を意識することで,より自分の技を美しく表現しよ
うという意欲化につながった。
・倒立前転に力を入れて練習してきた分,自信をもって倒立前転に挑戦しようとする児童が多くいた。
・開脚前転・大きな前転・跳び前転のこつが十分に押さえられていなかった分,技のコツを忘れてしま
っている児童が多くいた。
Plan(計画)の修正
・基本的な技を含めた連続技を練習する時間の確保。
・倒立前転が身についていない児童への支援体制。
・友だちの技を評価するワークシートの作成。
Do(実行)のポイント
・既習の技のコツをもう一度を助言しながら練習する時間の確保。
・倒立前転のコツを,声をかけながら確認する。
第8時 授業の実際 【自分の力に合った技を組み合わせた連続技を発表する】
主な学習活動の予定
① 下位運動 ②連続技の発表
③評価活動
児童の反応
・達成感を味わって活動を終えられた児童の様子が多く見られた。
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・マット運動が嫌いだったが,好きになったという感想をもった児童が多くいた。他の技にも挑戦して
みたいと意欲的な発言も聞かれた。
・単元の途中で強く恐怖心をもってしまった児童へのケアが足りなかったため,発表会での,その児童
の様子は,あまり意欲的ではなかった。
Plan(計画)の修正
・単元計画に無理のない実施ができるようにする。
Do(実行)のポイント
・目標が達成できなかった児童へのかかわり方,励ましの仕方を工夫したい。
既習の技のコツをしっかりと押さえられていなかったこと,基本技の学習から時間が空いていた
ことが影響し,基本的な技の完成度が低かったように思われる。倒立前転を学習の中心にした単元
構成だったが,身についていなければならない内容はしっかりと押さえておきたかった。技のつな
ぎ目も演技の一つとして指導したため,意識してポーズをとる児童が多く見られた。
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成果と課題
(1)成果
本実践後の児童の感想を見ると「マット運動のクラスマッチをがんばりたい」
「もっと他の技に
も挑戦したい」
「倒立前転は難しそうだったけれど,やってみると,できたので嬉しかった」等の
肯定的な感想が多く見られた。また授業者は,複数の保護者から「子どもが家でもマット運動の練
習をしていた」と聞いており,児童がマット運動に関心を高め,技ができるようになりたいという
願いをもって,学習に取り組めたことが分かる。また,児童がコツをつかむための練習の場を設定
したり,意図的にグループ学習を取り入れたりすることで,児童自身が「かかわり」の中で学ぶこ
とができるようになっていった。それは,単元の前半に多く見られた,個人練習のような学習形態
が,単元の終盤には児童同士が進んで声をかけ合い,アドバイスや補助をし合う学習形態に変わっ
ていったことからも分かる。児童は,上手くなりたいという願いを持ち,教師は,その願いのため
に努力した結果,仲間や教師との間に「かかわり」が生まれ,技能を向上させることにつながった。
補助やアドバイスをする児童
児童の考えを聞く教師
授業者が児童一人ひとりの倒立前転を撮影した画像を見ると,倒立前転を始めた第4時と,研究
会が行われた第6時では,28人中18人の児童に倒立前転の技能面での向上が見られた。発展技
である「倒立前転」に,マット運動に対して苦手意識をもっていた児童が挑戦し,短期間に,これ
だけの人数の技能に向上が見られたことは,児童にとっても,授業者にとっても自信につながった
ことだろう。
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授業者に授業後の感想を聞いてみたところ,研究授業をすることが決まってからは,「うまくや
らなければいけないのか」という不安と重圧でいっぱいだったという。しかし,リフレクションを
通じて,自身の指導する姿を客観的に見ることができたこと,たくさんの先生方から意見をいただ
いたことで,児童の課題解決のためにしなければならないことが少しずつ明確になり,実行しよう
という気持ちになったという。また,毎時間のリフレクションシートを読み返すことで,次時に必
要な場の設定や発問を考えることができたということだった。
(2)課題
リフレクションは,複数のプロンプター(授業リフレクションサポーターの教師)と授業者によ
って,客観的な事実を把握するために行われる。しかし,リフレクションは,ともすれば授業者の
批評になりかねない一面を持っている。リフレクションをする際には,授業の事実を確認すること
に重点を置きたい。また,授業者の意図や考えを尊重したうえで,客観的な事実からその対応を進
めていくべきである。さらに,授業者は,リフレクションから児童の実態や児童の願いを把握し,
それを解決するために,プロンプターから出た意見を取捨選択していく必要がある。しかし,取捨
選択する際に,考えの基となる経験が少ない場合,授業のPlan(計画)を修正する前に,どの
意見を取り入れるか迷い,消化不良になってしまうことがある。本実践でも,授業者が2年目の教
諭であったため,リフレクションで出た,たくさんの意見をどのように取捨選択し,消化していく
か難しい場面があった。そこで,研究部がリフレクションの後に授業者と話し合い,授業の形をつ
くっていくこともあった。リフレクションを行う上で,授業者の経験が少ない場合に,プロンプタ
ーとなる協力者がどのようにリフレクションを進めていくかが課題だと感じた。また,事実を確認
する上で,リフレクションシートの記述の項目は,どのようなものが適切であるか,今後検討し,
より短い時間で,効果的なリフレクションをしていかなければならないと感じた。
【引用・参考文献】
行田徹,太田昌秀「マット運動の技における融合局面に関する一考察」日本体育学会 1993.10
鹿毛雅治「子どもの姿に学ぶ教師 -学ぶ意欲と教育的瞬間-」教育出版株式会社 2011.1
髙橋健夫,藤井喜一,松本格之祐,大貫耕一 体育科教育【別冊】新学習指導要領準拠 新しいマット
運動の授業づくり 2008.11
高松南ブロックⅠ
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参考資料1 リフレクションシート
第(
)時
実践日 (
)月(
)日(
)曜日(
)時間目
本時の学習内容
(技術・認識)
本時の学習活動
本時の学習内容
の習得に関する
振り返り
(技術・認識)
その他の振り返り
(マネジメント・
人間関係など)
次時の授業プラン
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参考資料2 リフレクションシート記入例
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