「ユーモア・スキル」とは何か 「人を笑わせる能力」や「人を楽しませる能力」は、相手とのコミュニケーションを図 るにあたり、魅力的なスキルであることはいうまでもない。しかし、このようなコミュニ ケーションのために笑いを有効に用いることのできる技術、いわゆる「ユーモア・スキル」 研究については、先行研究がわずかであったために謎の部分が多かった。 そのような中、筆者はこれまでの「ユーモア・スキル」研究の方法に関する問題点を明 らかにした上で、2014 年 7 月、芸能従事者 129 名を対象とした予備調査(KJ 法) 、大学生 約 250 名を対象とした 1 次調査・2 次調査(主因子法・promax 回転)を経て、 「ユーモア・ スキル」尺度を完成させたのである。 「ユーモア・スキル」尺度は、以下の 4 因子で構成されている。 第 1 因子:表現力(7 項目) ユーモアを表現するための声や表情・動きまたは意欲を司る能力。 第 2 因子:創造的思考力(5 項目) ユーモアを感じ取るまたは生み出すために視点を変えて思考する能力 第 3 因子:コーピング力(5 項目) ユーモアを感じ取るまたは生み出す際に生じる緊張や不安に対処する能力 第 4 因子:論理構成力(4 項目) ユーモアを表現するための論理の構成または立て直しを司る能力 これら計 21 の質問項目に回答することによって、その人が持つおおよその「ユーモア・ スキル」 (またはその傾向性)を測定できる。 1 「ユーモア・スキル」尺度の測定 早速だが、以下の 21 項目の質問について、5 段階評定(5.とてもよくあてはまる、4. あてはまる、3.どちらでもない、2.あまりあてはまらない、1.まったくあてはまらない) で答えてもらいたい。 ①大げさなリアクションをとって人を楽しませることが好きだ。 ②ユニークな顔や体の動きで人を笑わせることがある。 ③人を笑わせる時にキャラクター(キャラ・個性)を演じることがある。 ④人と違ったことをして相手を楽しませようとすることが好きだ。 ⑤テレビでお笑いタレントから話し方を参考にすることがある。 ⑥普段から積極的に人を笑わせようとしている。 ⑦人と話す時のために、自分自身の面白い体験談を準備している。 ⑧どんなことも「楽しい」と思えるまで諦めない。 ⑨人と楽しく会話ができるように、自分自身がまずその会話を楽しむ。 ⑩失敗をしても、楽しいことを考えて気持ちを切り替える。 ⑪過去を振り返らず、今を前向きに楽しく生きることを考える。 ⑫落ち込んでいる人を見たら、その人が笑顔になるまで励まし続ける。 ⑬人を笑わせる時、体に力をいれず自然体でいることができる。 ⑭人を笑わせる時、失敗を恐れない。 ⑮人を笑わせる時、恥ずかしいと思う気持ちを忘れることができる。 ⑯相手と話す時には本音をためらわずに言うことができる。 ⑰大勢の人前に立ってうまく話をすることができる。 ⑱物事の順序を追って考えることができる。 ⑲話をする時、内容を整理して話すことができる。 ⑳語彙力(ボキャブラリー)が豊かである。 ㉑常に人の反応を見ながら臨機応変に会話を行うことができる。 ①から⑦は表現力、⑧から⑫は創造的思考力、⑬から⑰はコーピング力、⑱~㉑は論理 構成力に関する項目となっており、5 段階評定の点数が高いほど、それぞれの能力が高いこ とを意味している。 2 自分の「ユーモア・スキル」から何を読み取るか 「表現力」得点が高い者は、人を笑わせたり、楽しませたりすることをある程度自発的 に仕掛けるスキルが高いと思われる。しかし、「表現力」が高いからといって、人に好かれ るとは限らない。話術が高いにも関わらず、周囲から嫌われている人はたくさんいる。そ して、そういう人ほど、自分が話すばかりで相手の話を聞こうとしない、自己中心的な態 度である傾向が強い。 したがって、笑わせる技術に長けていたとしても、相手を理解しようとしなければ、人 に好かれることは難しい。「ユーモア・スキル」とは、“話す力”のほかに“聞く力”が必 要になるということである。 この“聞く力”にも関係する分野が、「創造的思考力」である。このスキルには、①自分 が一方的に笑いを伝えるのではなく、相手が必要としている笑いが何かを感じ取るスキル と、②自分や相手が苦境に立たされた時に、柔軟な物の見方により笑いを創出し、緊張や 不安を取り除くスキルという 2 つの側面がある。このスキルが高いほど、相手を尊重しな がら、かつ相手の苦しみを取り除くユーモアを使うことができると考えられる。 「コーピング力」が高い者は、人を笑わせる(楽しませる)うえで生じうる緊張や不安 を感じにくく、恐れずに笑いを表現することができる。ただし、 「コーピング力」高得点者 のうち、 「創造的思考力」が低得点である者は注意が必要である。その場合、笑わせること に恐れがないだけで、相手が必要としていない笑いを一方的にぶつけていることが多く、 円滑なコミュニケーションを阻害する可能性がある。 「論理構成力」が高い者は、起承転結のある、「フリ」や「オチ」の利いた話をするのが 得意だといえる。体や顔を使って表現する笑いが「肉体派」の笑いだとすれば、このよう な笑いを得意とする人は「理論派」だといえるだろう。 ≪紹介プロフィール≫ 矢島伸男。 創価大学大学院文学研究科教育学専攻博士後期課程単位取得退学。現在、お笑いコンビ 「モクレン」として活動する傍ら、笑いの技術を利用したコミュニケーション教育につい て研究。2014 年、日本で初めて、芸能従事者を対象とした調査を基に「ユーモア・スキル」 尺度を作成。同年 11 月には個人事業 FUNBEST を設立し、各種講演・ワークショップ・ コラム連載等を行っている。 3
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