敗血症性ショック:診断と治療の進歩 Septic Shock Advances in

 敗血症性ショック:診断と治療の進歩 Septic Shock Advances in Diagnosis and Treatment JAMA. 2015 ;314:708‐17. 【はじめに】 敗血症性ショックは、米国で毎年以上 23 万以上の患者に見られ
る、臨床的緊急事態である。 【観察と知見の進歩】 感染症が疑われるか、感染症と診断された条件において、収縮
期血圧の低下(≤90mmHg)または平均動脈圧の低下(≤65 mmHg)
に、組織低灌流の徴候(乏尿、高乳酸血症、末梢循環不全、或い
は精神状態の変化)を伴うものが、臨床上、典型的な敗血症性シ
ョックと定義される。 合併する病態(例えば循環血液量減少性ショックや心原性ショ
ック)を迅速に鑑別するために、範囲を絞った心臓超音波検査が
推奨される。それに対して、侵襲的血行動態モニタリングは特定
の患者にのみ勧められる。敗血症性ショックのプロトコール化初
期治療は#1、プロトコールによらない治療に比べて利点が少ないこ
とが、3 つの無作為化臨床試験によって示された。ヒドロキシエチ
ルデンプン(ヘスパンダー®;血漿増量剤として以前に使用され
た)の使用は推奨されず、電解質輸液がよいのかアルブミンがよ
いのか、議論は決着していない。 【結論】 敗血症性ショックを迅速に診断するためには、まず病歴を聴取
して、感染の徴候や症状を示唆する身体所見を得ることから始ま
る。そしてショックの複雑な病態生理学的な理解には、範囲を絞
った心臓超音波検査が必要な場合がある。 迅速に、静脈輸液、血管作動薬を投与して循環状態を十分に回
復させることが重要である。プロトコ-ル化初期治療には限界が
あることを理解しておく必要がある。 #1 EGDT Early Goal‐directed therapy(p4 参照) 1
敗血症性ショックの治療
疑われた感染症に対処 ・直ちに血液培養 ・広域スペクトラム抗生剤を開始 ・画像診断を検討 ・感染病巣の治療を迅速に開始 推奨アルゴリズム 敗血症性ショックの臨床診断基準 ・感染症の診断ないし疑い ・BPs≤90mmHg または MAP≤65 mmHg ・組織低灌流の徴候 #a 初期治療
急速輸液を開始 ・20‐30mL/kg を 15‐30 分以上 ・充足か過量になれば減速 MAP; mean arterial pressure 臨床的重症度を評価 ・乳酸値を直ちに測定 ・他の指標;血液ガス、BE、トロポ
ニン BE; base excess
15‐30 分以内に臨床的な再評価
まだショック状態か
範囲を絞った心臓エコー 左心 or 右心不全の合併? ・動脈カテーテル留置;動脈
圧モニターと採血 ・CV カテーテル留置 診断を進める ・通常の心エコーを検討 ・ECG、トロポニン測定を
反復 ・PCA と ScvO2 測定を検討 PCA; pulse contour analysis SCVO2; continuous central venous oxygen saturation まだ低血圧か? 輸液は充足 or 過量か? 昇圧剤を開始 ・第一選択;ノルアド #b 体液喪失を補う輸液を検討 #c 数時間以内に臨床状態を再評価 ・乳酸値を繰り返し測定 ・ベッドサイドで評価(精神状態、末梢循環、
尿量、中心静脈圧) ・輸液が充足 or 過量かを再評価 ショックの遷延? 遷延するショックの治療を進める ・ショックの原因を再評価 ・感染巣をコントロールする ・ノルアドが高容量ならバソプレシン併用を検討 ・昇圧剤が複数必要ならハイドロコルチゾンを検討 #b (昇圧剤が終了した時点でステロイドも終了を検討) ショックの遷延? 敗血症性ショックの治療を緩和 安全なら補液の減量を検討 #a 組織の低灌流は普通、次の徴候に現れる;精神状態の変化、尿量減少、末梢循環不全、高乳酸血症(≥2.0 mmol/L)
。
#b ノルアドが常に第一選択とは限らない(例えば頻脈性不整脈や心房細動)
。 ノルアド投与量が>15μg/kg/分の場合、バソプレシンの追加(0.04 U/分)を検討する。 #c 輸液量と製剤の選択は、肺水腫/容量過剰、輸液による電解質・代謝異常、体液喪失量を常にチェックして、
最適化する。 2
【敗血症性ショックの診療における最近の進歩】 1.初期評価;この患者は敗血症性ショックだろうか? ・血圧の低下していないショックもある。 ・明らかに重症の感染症であっても、それに気付くのが難しい
場合も少なくない。 ・敗血症性ショックの患者の 30%までに、心機能の低下が認め
られる。 2.侵襲的血行動態モニタリング 十数年前までは、ショック患者に対して、肺動脈カテーテル
(PAC)や中心静脈酸素飽和度連続モニター(SCVO2)などの侵襲的
なデバイスを用いるのが標準であった。2013 年の Cochrane レビュ
ーで、一般 ICU 患者 2923 名に関する PAC の使用と未使用の間で死
亡率に有意差は認められなかった。敗血症性ショックの他の試験
でも、PAC を使用しても死亡率は改善せずコストは増加する、或い
は、PAC に代わって SCVO2 カテーテルを使用しても乳酸クリアラン
スの改善は見られなかった、と報告された。 3.非侵襲的血行動態モニタリング 動脈パルス輪郭解析(PCA)(※PAC との混同しないこと!)や、範囲を絞
った心臓超音波検査などの非侵襲的検査によって、ショックの背
景にある病態生理を明らかにできる。 4.組織傷害のマーカー 血中乳酸値、塩基欠乏、組織酸素飽和度が使用される。 しかしショックのモニタリングにおける具体的な閾値は判ってい
ない。乳酸値を 2 時間ごとに 20%低下させることが、初期蘇生の
ガイドラインで推奨されている。 5.敗血症性ショックの初期蘇生における最近の知見 ・適切な上限値を守った、迅速な急速輸液(500〜1000mL)が勧め
られる。 ・輸液製剤としてアルブミンがよいか、電解質輸液製剤がよいか
は、更にランダム化臨床試験を行わないと結論できない。ヘスパ
ンダー®などの血漿増量剤は勧められない。 ・第一選択の昇圧剤としてノルエピネフリンが推奨される。ルエ
3
ピネフリンが高用量になる場合、バソプレシンの併用を検討す
る。 ・敗血症性ショックの初期治療において、プロトコール化早期目
標指向療法は#2、通常の治療に比べて優れていなかった。 ・低用量のコルチコステロイドの使用は、昇圧剤が切れないショ
ックで検討する。投与量と中止のタイミングは、議論の余地があ
る。 【敗血症性ショックおける未解決問題】 ・潜在的なショックの定義が一貫していない 収縮期血圧が正常だが乳酸値が高い場合、組織の低灌流が存在す
ることがある。しかし潜在的なショックの疫学と転帰については
ほとんど知られていない。この病態は隠れた(オカルト)ショッ
クとか、正常血圧性ショックと呼ばれることもある。 #2 EGDT Early Goal‐directed therapy
4