救急認定薬剤師

救急認定薬剤師
救命 救 急医療における薬物療法の要 役
救急医療の現場で、薬物療法に関する高度な知識、技術を備えた薬剤師が求められ
るようになったことから、日本臨床救急医学会では 2010 年に、日本病院薬剤師会の協
力を得て、救急認 定薬剤師認 定制度を創設した。制度の立ち上げに尽力してきた昭和
大学横浜市北部病院薬局長の峯村純子氏に経緯やその意義などを聞いた。
救命救急センターには予期しない病気や事故で患者が
急専門医たちに教えてもらいながら、救命救急の現場に
救急搬送されてくる。重症患者の多くは会話することが難
おける薬剤師としての仕事を自分なりに確立していきまし
しく、ましてや病歴や薬歴などもわからない。患者の容態
た」と振り返る。
は刻一刻と変化するため、状態を見ながら迅速に的確な
峯 村氏が日本 臨 床 救 急医学会に参加した 2006 年当
処置が必要とされる。
時、同学会会員のうち薬剤師は 20人もいなかったという。
そのため、救命救急センターでは、医師、看護師、診療
その頃、同学会の多職種連携委員会が立ち上がり、峯村
放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士など多職種が
氏も参加した。同委員会の下に薬剤師のワーキンググルー
連携してチームで対応している。しかし、本来そこにいる
プを作り、実態調査を行った。その結果、薬剤部長らの回
べき薬剤師はこれまで参画することは稀だった。峯村氏
答からは、救急施設に配置するには「薬剤業務に診療報
は早くから昭和大学病院において、三次救急の現場に入
酬がない」
「設置基準がない」などの課題が見えてきた。ま
り、手探りで救急医療に関わってきた。
た、救命救急センター長へのアンケートではその 80 %が救
診療報酬の改定が追い風に
急医療に「薬剤師は必要だ」という回答があった。
この調査がきっかけで、2008 年の診療報酬改定におい
峯村氏は「昭和大学病院では、外来棟を建て直したと
て、救急医療を受ける患者に対し「薬剤管理指導料」が
きに三次救急を始めました。急性薬毒物中毒の患者さん
算定されることになった。これが追い風となって、救急医
も来るだろうからと、薬剤部から救命救急センターに配属
療現場に薬剤師を配置する施設が増え、同学会に入会す
されることになったのです。突然、救急医療の最前線に出
る薬剤師も急増、現在では 450人を超える。
て、最初は何をやるべきか分からず、医師たちの会話も理
解できず、苦労しました。他の病院の救命救急センターを
見学させてもらったり、いろいろな専門書を読んだり、救
2010 年から認定審査・試験開始
救急医療の現場における薬剤師の役割に注目が高まる
中、2009 年に同学会で救急認定薬剤師制度検討委員会
が発足。峯村氏も委員として参加し、制度規約を策定した
り、テキストの作成なども行った。
「当時は薬剤師向けの
救急医療や集中治療のテキストなどはなかったので、医
師の先生方にも協力していただき、学生さんも使えるよう
な内容にしました」と峯村氏。
昭和大学横浜市北部病院薬局長の
峯村純子氏
10 ファーマシストぷらす 2015 No.2
こうして、2010 年、日本病院薬剤師会の協力を得て、日
本臨床救急医学会が認定する「救急認定薬剤師認定制
度」が発足した。2011 年に1回目の認定審査・試験が実
施され、2014 年の4回目までに 99 名が認定されている。
まだまだ数は少ないが、
「認定要件として、病院・診療所勤
表 救急認定薬剤師の認定申請基準
(日本臨床救急医学会 救急認定薬剤師制度規則)
1
本邦における薬剤師免許を有し、薬剤師として優れた人格及
び救急医療における薬物療法に関する見識を備えているこ
と。
2
申請時において、薬剤師としての病院・診療所勤務歴を5
年以上有し、そのうち2年以上救急医療に従事しているこ
と。
3
申請時において、本学会の正会員であり会員歴が2年以
上あり、かつ会費を完納していること。
4
日本病院薬剤師会生涯研修履修認定薬剤師、日本医療薬
学会認定薬剤師、薬剤師認定制度認証機構により認証さ
れた認定薬剤師、あるいは日本臨床薬理学会認定薬剤師
の資格を有していること。
5
医療機関において、救急医療に関する業務を通じて患者
の治療に自ら参加した 25 例以上の症例を報告できるこ
と。
6
認定薬剤師認定委員会が指定し、理事会の承認を得た学
術集会、研究発表などにおいて、細則に定める単位数を履
修していること。
7
認定薬剤師認定委員会が開催する講習会を受講している
こと。
8
日本臨床救急医学会評議員または所属施設長の推薦があ
ること。
務が5年以上、そのうち2年以上救急医療に従事し、学会
の正会員歴2年以上と決められていますが、この条件に
あてはまる人が、そろそろ増えてくるはずです。将来的に
は、救急認定薬剤師の数は、全国の救命救急センターが
271 カ所あるので、少なくとも150人以上、二次救急を含
めると300人ぐらいにはなればいいなと思います」と峯村
氏は語る。
怖がらず先手を打った治療が大切
救急認定薬剤師の認定申請基準は表の通り。救急医
療 に 携 わ る た め、
「 ICLS(Immediate Cardiac Life
Support、突然の心停止に対する蘇生)」のトレーニング
コースの受講、あるいは「BLS(Basic Life Support、医
師に引き継ぐまでの一次救命処置/AED(自動体外式
除細動器)」コースの指導経験が必要となる。また、認定
薬剤師認定委員会が開催する講 習を受講することも最
近、申請基準に追加された。医師といっしょに蘇生法が
できるだけでなく、一歩踏み込んで心肺停止の原因を究明
し、それに合わせてどの薬をどのタイミングで投与するか
治療法のプロトコルを作っていけば、より的確で素早い薬
も学ぶ。それに加えて、救急現場での経験を25 症例以上
物療法が可能になるだろう。
報告できることが求められる。
「救急医療に参加するのは
峯村氏は「若い人は大学でエビデンスに則った治療を
不安もあるでしょうが、まずは飛び込んでみることです。
教えられているので、救急医療でもそれを求めようとしま
現場に行って、分からないことは聞き、なぜなのかといつ
すが、三次救 急の治療ガイドラインは多くないため私が
も疑問を持って解決の努力をする、そういう姿勢を持った
『エビデンスは自分で作るものだ』と言います。いまそこに
人が救急認定薬剤師には向いています」という峯村氏。
いる患者さんを診て、その症状の原因は何か、それを除去
救急認定薬剤師に求められる役割については、
「恐れず、
するには何をすればよいのか考えるしかありません。その
積極的に薬物療法に取り組むことです」という。
ためには多職 種とのディスカッションは重要で、それに
「救急搬送されてくる患者さんの多くは、病状が短時間
よって、各職種のレベルも上がり、知識や経 験を他の薬
で変化します。正確な検査データを集めて体内動態の変
剤師とも共有することが大切です」と語る。
動を素早く把握して、先手を打って薬剤を投与する。悪化
日本臨床救急医学会の薬剤師会員は 400人以上に増
し始めると坂道を転げ落ちるように悪くなるので、医師と
え、情報共有のためのメーリングリストを活用したり、各地
相談しながら怖がらず対処しなければなりません。しか
で研究会・勉強会も始まっているという。救急医療の現場
も、変化に対して何が原因かを考え、異常を発見し、医師
で、薬剤師の役割が大きく変わろうとしている。
に対しても薬物療法については意見を述べる。医師も看
護師も目の前の処置に必死なので、薬剤師として患者を救
うために足りない部分を補完する役割を担ってほしいと
思っています」
( 峯村氏)。
エビデンスは自分で作るもの
救急医療の現場に専門知識を持った多くの薬剤師が
参加することで、今後は症例に応じたデータが蓄積され、
関連情報サイト
■ 救急認定薬剤師について
(日本臨床救急医学会>各種研修コース>救急認定薬剤師について)
http://jsem.umin.ac.jp/training/recged_pharma
cist.html
ファーマシストぷらす 2015 No.2 11