世界最大の霧箱(登録番号 SH-2009-2)

月刊うちゅう Vol.26 No.9 (2009)
世 界 最 大 の 霧 箱 ( 登 録 番 号 SH-2009-2)
図 1 . 世 界 最 大 級 の 霧 箱 。 宇 宙 線 が 霧 箱 を 貫 い た 瞬 間 に 4 つ の ピ ス ト ン (左 )で
霧 箱 内 を 減 圧 す る と 、宇 宙 線 が 飛 ん だ 跡 に 、飛 行 機 雲 が で き る よ う に ア ル コ
ー ル の 雲 が 発 生 す る 。 高 さ :125、 横 幅 :132、 奥 行 き :73(cm)。
寄贈:大阪市立大学宇宙線研究所
霧箱とは放射線や宇宙線を観察する装置です。科学館にはデモンストレーシ
ョン用のものがあり、絶え間なく自然放射線が姿を現しています。図1は岡山
県三石の大阪市立大学宇宙線研究所(宇宙線研)で保存されていたもので、世
界最大級です。宇宙線研の観測現場、鉄道の電化で廃止されたトンネルの泥中
か ら 発 掘 さ れ た そ う で す 。2002 年 に 発 掘 現 場 へ 調 査 に 出 か け ま し た 。図 2 は そ
の ト ン ネ ル の 入 り 口 で 、1 m ほ ど 土 砂 が 堆 積 し て い ま し た 。中 は 蒸 気 機 関 車 の
ススで真っ黒になったレンガ壁で、細長い、狭い、真っ暗闇な空間。息が詰ま
りそうでした。宇宙線研はかつて日本を代表するところで、世界に誇る実績を
残しています。この霧箱はその当時に使用され、そのまま放置されていたそう
です。かつては科学者たちの熱い研究
活動が毎日繰り広げられていたのでし
ょうが、調査に入った時は観測装置が
細々と稼動しているという状態でした。
今日の巨大科学を背景に、その後宇宙
線研は廃止の運命となり、現在は存在
しません。この霧箱は、他に例を見な
い 巨 大 な も の で す が 、そ れ だ け で な く 、
時代の流れを語る逸品なのです。
図2.三石のトンネルの入り口
斎藤吉彦(科学館学芸員)