特 集 特集◆ウクライナ危機後のNIS経済 ウクライナ危機後のNIS経済 ■ Research Report ■ 為替に翻弄されるNISの乗用車市場 ―2014年の総括― ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員 坂口 泉 はじめに が急激に進行しグリブナ建ての自動車の販売 本稿では、NIS諸国のうちウクライナ、ベラ 価格が急上昇したことや、内戦の影響でウクラ ルーシ、カザフスタン、ウズベキスタンの4ヵ イナ東部の一部地域で自動車販売が事実上停 国を取り上げ、それぞれの乗用車市場の現状と 止されたことなどが影響し、3月以降は輸入車 今後の見通しを紹介する。特に、ウクライナ市 を中心に極端な販売不振が続き、通年の販売台 場に関しては、政情不安とグリブナ安が及ぼし 数は前年比54.5%減の9万7,020台にとどまっ た影響に着目しながら、その状況を紹介したい。 た1)(図表1)。 また、ベラルーシ市場とカザフスタン市場に関 してはロシア・ルーブル安が及ぼした影響に留 図表1 ウクライナの新車乗用車販売台数 意しながら、その現状と今後の展望を紹介する。 (単位 万台) そして、ウズベキスタンに関しては、同国唯一 70 の乗用車メーカーであるGMウズベキスタン 60 と市場の特殊性に焦点をあてながら、その現状 を紹介する。 62.3 54.2 50 37.1 40 1.ウクライナ 30 26.5 20.7 20 23.8 21.3 16.2 16.3 (1)市場の状況 概況 ウクライナの新車市場の規模は、ピ 10 ーク時の2008年には62万台以上に達していた 0 が、その後は経済状況の悪化の影響を受け低迷 (出所)ASMホールディング 9.7 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 が続き、2013年の販売台数は前年比10.2%減の 21万3,322台にとどまった。いくつかのメーカ 2015年に入ってからも、政情不安を背景とす ーが在庫一掃セールに踏み切った関係で2014 るグリブナ安に歯止めがかからず(グリブナ建 年に入ってから新車市場の状況は一時的に好 ての)自動車の価格の高騰が続いている関係で 転し、1月、2月と2ヵ月連続で前年同月の数 販売の不振はさらに深刻化しており、1~3月 字を上回ったが、政情不安の影響でグリブナ安 期の販売台数は前年同期を76%も下回る8,800 14 ロシアNIS調査月報2015年6月号 為替に翻弄されるNISの乗用車市場 ■ Research Report 台にすぎなかった(Autoconsulting発表の数字)。 2位には3年ほど前から急激にウクライナ ウクライナの自動車販売関係者の多くは、この 市場でのプレゼンスを強化している中国の ような極端な不振が1年を通し続くとみてお Geelyが入ったが(前年は3位)、それを可能に り、たとえば、プジョー・シトロエン・ウクラ した要因としては、①複数の新モデルを市場に イナ社のシブラカ社長は、「2015年のウクライ 投入したこと、②自動車ローンの金利の一部を ナの新車販売台数は5万5,000台程度にとどま Geely側が負担するという措置を講じたこと、 る」と予測している。また、BDオートシティ ③販売店の数を増やしたこと、といったことが ーのトカチェンコ社長は、「IMFからの金融支 考えられる。 援の獲得、ならびに、ウクライナ東部の戦闘の 国産メーカー「AvtoZAZ(ザポロジエ自動車 沈静化が現実のものとなったとしても、2015年 工場)」は低価格車の人気低迷の影響を受け苦 の新車販売台数は5万~7万台にとどまるだ 戦をし、順位を前年の2位から3位に落とした。 ろう。それらが現実のものとならなかった場合 前年1位だった現代は、主力モデルであるロ は、数字はそれよりもさらに悪化するだろう」 シア製のアクセント(ロシアではソラリスとい と予測している(autoconsulting.ua、2015.3.3)。 うモデル名で生産・販売されている)の輸入が その他、一部では、販売の不振は2016年も続く 困難になったことが響き販売台数を大幅に落 との見方も出始めており、ある外国メーカーの とし、4位にまで順位を落とした。ちなみに、 ディストリビューターは、「今後、グリブナの 同じ企業グループに属する起亜も前年の5位 レートが安定したとしても、市場が回復するま から10位に大きく順位を落としたが、その主因 でには1年半~2年の時間が必要になるであ もまた、ロシア製の主力モデル(リオ、スポー ろう」との見解を示している(autoconsulting.ua、 テージ等)の輸入が困難になったことにあると 2015.1.29)。 推測される。 VWの場合も、現代や起亜と同じように、主 ブランド別販売動向 ウクライナの乗用車 力のロシア製低価格車(ポロ・セダン)の輸入 市場では伝統的に低価格車を主力とするブラ が困難になった関係で販売台数を大きく落と ンドが圧倒的な強みを発揮していたが、グリブ したが、ライバル他社がそれよりもさらに大幅 ナ安が急激に進み(グリブナ建ての)販売価格 に販売台数を減少させた関係で、順位そのもの が急上昇した関係で価格に敏感な低価格車の は前年の8位から5位に上昇した。 購買層の多くが新車市場から退出したことも 6位以下で目立ったのは中・高価格帯のモデ あって、2014年は比較的高価なモデルを主力と ルを主力とする日本ブランドの堅調ぶりであ するブランドの健闘ぶりが目立った。その結果、 った。多くのブランドが販売の減少幅をウクラ 市場規模が大幅に縮小したにもかかわらず、新 イナ市場の平均値(▲54.5%)よりも小さく抑 車1台当たりの外貨建ての販売価格の平均値 え、順位を上げることに成功した。たとえば、 の方は前年の約1万8,000ユーロから2万ユー マツダは前年の21位から12位に、スズキは27位 ロ強にまで上昇した。 から23位に、スバルは28位から25位にそれぞれ 比較的高価なモデルを主力とするブランド 順位を上げることに成功した。その他、プレミ の中でも特に好調だったのはトヨタで、ブラン アムブランドの堅調ぶりも目立ち、メルセデス ド別販売台数ランキングのトップの座を獲得 ベンツは前年の19位から16位に、アウディは22 することに成功した(前年の2013年は4位)。 位から17位にそれぞれ順位を上げた。 ロシアNIS調査月報2015年6月号 15 特集◆ウクライナ危機後のNIS経済 図表2 ウクライナの新車乗用車市場のブランド別販売台数 (単位 台) ブランド名 2013 台数 2014 シェア 台数 シェア 増減率 (%) トヨタ 15,436 7.2% 10,296 10.6% ▲ 33.3 Geely 16,436 7.7% 9,365 9.7% ▲ 43.0 ZAZ 17,709 8.3% 7,908 8.2% ▲ 55.3 現代 18,001 8.4% 5,511 5.7% ▲ 69.4 VW 12,851 6.0% 5,419 5.6% ▲ 57.8 ルノー 11,307 5.3% 5,256 5.4% ▲ 53.5 シュコダ 12,285 5.8% 5,219 5.4% ▲ 57.5 日産 11,327 5.3% 4,753 4.9% ▲ 58.0 フォード 10,721 5.0% 4,506 4.6% ▲ 58.0 起亜 13,224 6.2% 3,770 3.9% ▲ 71.5 LADA 9,162 4.3% 2,531 2.6% ▲ 72.4 マツダ 2,632 1.2% 2,440 2.5% ▲ 7.3 三菱自動車 5,298 2.5% 2,193 2.3% ▲ 58.6 プジョー 4,752 2.2% 2,154 2.2% ▲ 54.7 大宇 2,636 1.2% 2,053 2.1% ▲ 22.1 メルセデスベンツ 3,260 1.5% 1,703 1.8% ▲ 47.8 アウディ 2,542 1.2% 1,657 1.7% ▲ 34.8 ボグダン 3,936 1.8% 1,615 1.7% ▲ 59.0 双竜 3,371 1.6% 1,583 1.6% ▲ 53.0 シトロエン 4,047 1.9% 1,543 1.6% ▲ 61.9 ホンダ 3,502 1.6% 1,360 1.4% ▲ 61.2 スズキ 1,763 0.8% 1,344 1.4% ▲ 23.8 スバル 1,543 0.7% 1,206 1.2% ▲ 21.8 レクサス 1,527 0.7% 862 0.9% ▲ 43.5 24,054 11.3% 10,773 11.1% ▲ 55.2 213,322 100% 97,020 100% ▲ 54.5 その他 合計 (出所)ASMホールディング 16 ロシアNIS調査月報2015年6月号 為替に翻弄されるNISの乗用車市場 ■ Research Report 以上ご紹介したのは販売台数によるランキ 上位10位までを独占していたものが、2014年の ングであるが、ウクライナの調査会社 ランキングでは7~10位を比較的価格の高い 「Autoconsulting」が発表している2014年の金 4モデルが占めている。その他、2013年と2014 額ベースのブランド別販売ランキングによれ 年の主要な相違点としては、2013年にベスト10 ば、2億9,620万ユーロの販売を記録したトヨ に入っていたロシア製の低価格3モデル(現代 タがトップの座を獲得したことになっている。 アクセント、起亜リオ、VWポロ)が、ロシア 以下、メルセデスベンツ(1億1,810万ユーロ)、 とウクライナの関係悪化の影響を受け、2014年 VW(1億1,300万ユーロ) 、現代(8,600万ユー には圏外となったという点を指摘することが ロ) 、ランドローバー(8,490万ユーロ) 、シュコ できる。 一方、2013年と2014年の共通点としては、国 ダ(8,410万ユーロ) 、アウディ(8,210万ユーロ) 、 日産(8,170万ユーロ)、Geely(7,750万ユーロ) 、 産車(2013年は6モデル、2014年は7モデルが フォード(6,820万ユーロ)と続いており、プレ ベスト10に入っている)のプレゼンスが強いと ミアムブランドのプレゼンスが強いことがわ いう点をあげることができる。 かる。 2014年のウクライナ市場で最も人気が高か った小型商用車(LCV)はフィアットのDoblo モデル別販売動向 2013年と2014年の乗用 で、944台の販売を記録することに成功した。 車のモデル別販売ランキングを比較してみて 以下、ルノーDokker(689台)、VW Caddy(432 も、比較的高価な車のプレゼンス強化の傾向が 台)、GAZ3302(394台)、VW Transporter(378 見て取れる。たとえば、2013年には低価格車が 台)と続いている。 図表3 ウクライナ新車乗用車市場のモデル別販売台数 (単位 台) 2013年 順位 モデル名 2014年 販売台数 順位 モデル名 販売台数 1 ZAZセンス 6,611 1 ZAZセンス 3,291 2 現代アクセント 5,611 2 Geely Emgrand 3,152 3 Geely CK 4,961 3 ルノー・ロガン 2,680 4 Geely Emgrand EC7 4,673 4 ZAZ VIDA 2,186 5 Geely MK 4,600 5 ZAZラノス 2,096 6 起亜リオ 4,563 6 Geely CK 2,082 7 ルノー・ロガン 4,495 7 トヨタ・カローラ 2,079 8 VWポロ 4,486 8 トヨタRAV4 1,896 9 ZAZ VIDA 4,027 9 シュコダ・ラピッド 1,820 10 ZAZラノス 3,947 10 シュコダ・オクタヴィア 1,809 (出所)ウクルアフトプロム ロシアNIS調査月報2015年6月号 17 特集◆ウクライナ危機後のNIS経済 (2)特別関税とリサイクル税の導入・見直し 特別関税の導入 WTO加盟に伴い、ウクラ 打ち出したロシアに対抗すること、②中古車の イナでは2008年5月中旬より移行期間が設け でのCKD方式での車の生産(組立てラインの られることなく、新車の輸入関税率が25%から 他に、塗装、溶接ラインを装備した生産施設で 10%に一挙に引き下げられた。しかし、乗用車 の生産)を促進することなどを目的として、輸 市場の状況が悪化し始めた2008年秋ごろから、 入車にリサイクル税を課すことを規定した法 ウクライナの国内メーカーが新車の輸入関税 案「税法典とリサイクル税に関する複数の法規 率を引き上げることを求めるロビー活動を開 の変更について」を採択した。その後、8月初 始した。このロビー活動は奏功し、2009年3月 旬に当時のヤヌコーヴィチ大統領が法案に署 6日から6ヵ月間、新車に対し23%の暫定輸入 名し、9月1日より輸入車にリサイクル税が課 関税率が適用されることとなった。ただ、国内 せられることが決定した。 輸入量をさらに減らすこと、③ウクライナ国内 メーカー側の狙い通り新車の輸入はこの間ほ 乗用車の基本税額は5,500グリブナに設定さ ぼ全面的にストップしたものの、景気の悪さも れ、それに排気量により異なる係数(新車の場 あいまって、そのことが乗用車の国内生産の活 合は0.86~5.5、中古車の場合は5.3~19.25)を 性化につながることはなかった。国内メーカー 乗じることにより最終的な税額が導き出され 側は、2009年9月以降も23%の関税率の適用を ることになった。また、トラックとバスの場合 継続することを要望していたが、WTOによる は基本税額が1万1,000グリブナで、それに総 是正勧告もあり再び10%の関税率が適用され 重量により異なる係数(新車の場合は0.5~2.9、 ることとなった。 中古車の場合は0.88~11.8)を乗じることによ 暫定輸入関税率失効後もウクライナの国内 り最終的な税額が導き出されることとなった。 メーカーは執拗にロビー活動を続けていたが、 その結果、2011年夏になり、省庁間貿易委員会 特別関税とリサイクル税の見直し 特別関税 (担当省庁は経済発展・商業省)が、1,000~ もリサイクル税も輸入車の価格の高騰につな 1,500ccの車については33.4%、1,500~2,200cc がり、一般市民や輸入業者には不評であったた の車については47%の特別関税を最長で4年 め、ウクライナ政府は2013年秋ごろよりそれら 間導入することを視野に入れた特別調査を開 を廃止する方向での検討を開始した。そして、 始するという事態が生じた。その後、この特別 特別関税に関しては、2014年2月になり省庁間 調査に関する情報はほとんど出ていなかった 貿易委員会が、「2014年4月14日よりそれまで が、2013年3月中旬になり省庁間貿易委員会は、 の税率の3分の2に軽減し、さらに2015年4月 2013年4月15日より3年間、1,000~1,500ccの からは(2014年4月14日以前の水準の)3分の ガソリン車には6.46%、1,500~2,200ccのガソ 1に軽減すること」を発表した。 リン車には12.95%の特別関税(追加関税)をそ また、リサイクル税に関しては、2014年4月 れぞれ課すことを公式発表した(『ヴェードモ 初旬にウクライナ最高会議がその廃止を決定 2) スチ』紙、2013.3.15) 。 した。しかし、ほぼ同時期にウクライナ最高会 議が新車の物品税を2014年4月1日より倍に リサイクル税の導入 2013年7月初旬にウク することを規定した法律を採択したことや、グ ライナの最高会議は、①リサイクル税をウクラ リブナ安が急激に進んだことなどが影響し、特 イナから輸入される車にも課すという方針を 別関税の軽減措置とリサイクル税の廃止措置 18 ロシアNIS調査月報2015年6月号 為替に翻弄されるNISの乗用車市場 ■ Research Report が実施された後も、輸入車のグリブナ建ての販 2009年に入り経済危機の影響が色濃く出始め、 売価格は高騰し続けた。たとえば、大宇のマチ 同年の生産台数は2002~2003年の水準にまで スの場合、2014年2月時点では5万5,000グリ 落ち込んだ。その後、生産の低迷は現在に至る ブナで購入できたものが、2015年1月時点では まで続いているが、特に2014年夏以降は不振の 10万グリブナ以上を出さないと購入ができな 度合いが危機的な様相を示し始めており、7~ くなっていた。また、同じ大宇のジェントラの 12月期の生産台数はわずか3,380台にとどまっ 場合も、2014年2月時点で9万9,000グリブナ た(1~6月期の生産台数は前年同期比34.7% ~であった販売価格が、2015年1月時点では21 増の2万2,561台と比較的好調であった)。その 万6,000グリブナに達していた。 結果、2014年の通年の数字も前年比43.3%減の 2万5,941台にとどまることになった。危機的 (3)ウクライナの主要乗用車メーカー 状況は2015年に入ってからも続いており、第1 ウクライナの乗用車生産部門は1990年代後 半から2001年ごろまで輸入中古車の攻勢に苦 四半期の生産台数は前年同期比96.1%減のわ ずか535台にすぎなかった。 しみ瀕死の状態にあったが、中古車の輸入関税 存亡の危機に直面しているといっても過言 率が大幅に引き上げられたことなどもあって ではないウクライナの主要な乗用車メーカー 2002年ごろから急激に活性化し、2008年には生 の概要は以下の通りとなっている(各メーカー 産台数が40万台を突破した(図表4)。しかし、 の生産台数は図表5に示してある)。 図表4 ウクライナの乗用車生産台数の推移 (単位 万台) 45 38.0 40 40.6 35 30 26.7 25 20 17.4 19.2 15 9.8 10 5 1.7 2.6 4.4 6.4 7.5 9.8 7.0 4.6 2.6 0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 (出所)2000~2008年はウクライナ統計国家委員会、2008~2014年はASMホールディング ロシアNIS調査月報2015年6月号 19 特集◆ウクライナ危機後のNIS経済 図表5 ウクライナ主要メーカー別乗用車生産台数 (単位 台) メーカー名 2010 2011 2012 2013 2014 AvtoZAZ 42,336 59,355 39,917 19,257 12,779 ボグダン 19,190 20,240 12,034 5,958 1,999 KrASZ 6,341 6,329 3,180 9,049 7,514 ユーロカー 7,464 11,656 14,556 11,494 3,649 75,331 97,580 69,687 45,758 25,941 合計 (出所)ASMホールディング ウクルアフト 1969年に設立された会社で、 プロムインヴェストの総帥となっている模様) AvtoZAZ、イリチョフスクの自動車組立工場 と同氏のビジネスパートナーであったスヴィ (年間生産能力4万台。現在はAvtoZAZの支部 ナルチュクが2005年に設立した会社だが、ポロ という位置づけになっている)、多数の自動車 シェンコはボグダンの業績が悪化した2009年 部品工場、200近くのサービスセンター等を傘 に保有する同社の株式をすべてスヴィナルチ 下におさめている。 ュクに売却しており、現時点ではスヴィナルチ AvtoZAZでは、かつて複数のオリジナルモデ ュクがボグダンの株式の100%を保有している ルが生産されていたが、乗用車に関しては、 (ただし、今もスヴィナルチュクとポロシェン 2007年にタヴリアというモデルの生産が中止 コ一族は良好な関係にあるといわれている)。 されたのを皮切りに、2010年末までにすべての ボグダンは、第1自動車工場(旧ルツク自動 オリジナルモデルの生産が中止された。2014年 車工場)、第2自動車工場、第3自動車工場を 時点では、シボレーのラノス、ラノスをベース 傘下におさめているが、それらの工場の現状は 3) とするZAZセンス、ZAZチャンス 、旧型のシ 以下の通りである。 ボレー・アベオをベースとするZAZ VIDA、中 第1自動車工場はソ連時代から存在する工 国のCheryのA13をベースとするZAZ Forzaが 場で、元々はオリジナルの小型SUVを生産して 生産されていたが、国内販売の不振とロシアへ いた。ボグダンの傘下に入った2000年ごろから の輸出台数の大幅減少の影響を受け7月と8 ロシアのUAZ(ウリヤノフスク自動車工場)と 月に生産を休止することを余儀なくされたこ LADAのモデルのSKD方式での生産(組立てラ とが響き、通年の生産台数は前年比33.6%減の インだけを装備した生産施設での生産)を開始 1万2,779台にとどまった。その結果、業績も悪 し、その後現代車と起亜車のSKD生産も開始し 化し、2014年の最終損益は29億グリブナの赤字 た。さらに、2005年からはバスとトロリーバス となった(2013年は261万ルーブルの黒字を出 の生産も開始した。2007年時点の同工場での乗 すことに成功していた)。 用車の生産台数は5万3,919台で、ブランド別 の内訳は起亜車が1万7,990台、現代車が1万 ボグダン 企業グループ「ウクルプロムイン 4) 6,348台、LADA車が1万9,581台となっていた。 ヴェスト」 の総帥であったポロシェンコ現ウ 2008年6月に下記の第2工場が稼動を開始し クライナ大統領(現在は、同氏の父親がウクル た後、第1工場では乗用車の生産が中止され、 20 ロシアNIS調査月報2015年6月号 為替に翻弄されるNISの乗用車市場 ■ Research Report 現在はバスとトロリーバスだけが生産されて 2001年末にシュコダ車の試験生産が開始され、 いる(年間生産能力は8,000台だが、2014年のバ 2002年春から量産に移行した。その後、一時、 ス生産台数はわずか64台にとどまった) 。 VW車やセアト車の生産も行われていたが、 第2自動車工場は2008年6月より稼動を開 2010年からはシュコダのモデルしか生産され 始した年間生産能力10万台以上の新しい工場 ておらず、2014年には、オクタヴィア、ファビ で、チェルカッスィに所在する。同工場では、 アFL、イエティ、スペルブ、ラピッドが合計で LADA2110をベースとしたボグダン・ブランド 3,649台生産された のモデルの生産が行われていたが(その他、一 時は、LADA車や起亜車の生産も行われてい AIS(アフトインヴェストストロイ) 国会議員 た)、ロシアとの関係悪化の影響を受け、2014 のドミトリー・スヴャタシとワシーリー・ポリ 年秋に生産が中止された。その関係で、通年の ャコフが事実上のオーナーだとされている企 生産台数は1,999台にとどまった。ボグダンの 業グループで、KrASZ(クレメンチュグ自動車 幹部によれば、同工場の採算ラインは年産6万 組立工場)の他、UAZをはじめとするロシアの 台ということなので、現時点では同工場の操業 複数のブランド、双竜、Geely等の輸入・販売 は完全に赤字ということになる。ちなみに、 会社や、シトロエン、アウディ、現代、シボレ 2013年時点では中国のLifanとJACのモデルの ー、ルノーの販売会社などを傘下におさめてい SKD方式での生産を第2工場で開始するとい る。 う計画も浮上していたが、市場の状況が悪化し たため、実現には至らなかったようである。 第3自動車工場も2008年9月から稼動を開 KrASZでは、かつては、LADA、GAZ、UAZ、 中国のGreat Wall、FAW等の車が生産されてい たが、2014年上半期の時点ではGeelyのモデル 始した新しい工場で、やはりチェルカッスィに (CK2、MK2等)と双竜のモデル(Actyon、Kyron、 所在する。年間生産能力1万5,000台の同工場 Rexton等)だけが生産されていた(いずれも では、いすゞの小型および中型トラック、現代 SKD方式での生産)。生産台数は2004年から のトラック等のSKD方式での生産が行われて 2008年までは2万台前後で推移していたが、 いる。ロシアのASMホールディング発表の数 2009年に3,738台にまで激減し、それ以降、2010 字によれば、2014年の同工場でのトラックの生 年:6,341台、2011年:6,329台、2012年:3,180 産台数は122台となっている。この数字から判 台、2013年:9,049台と低迷が続いていた。2014 断して、同工場の操業も赤字なのではないかと 年は年前半の販売が非常に好調だったことも 推察される。 あって、1~7月期の生産台数は前年同期の約 3倍に達した。しかし、7月ごろから販売が急 非公開株式会社「ユーロカー」 オレグ・ボヤ 激に落ち込んだことを受け8月から年末まで リンという人物が率いる持ち株会社「アトル・ 生産が中止されたため、通年の生産台数は結局、 ホールディング」の傘下に入っている会社。同 前年の数字を約1,500台下回る7,500台強にとど 社が保有する工場は、2001年にドイツのVWの まった。ちなみに、KrAZの親会社のAISはGeely 技術支援を受けて完成した近代的な工場で、ス と双竜に関しては当面輸入モデルだけを販売 ロバキアおよびハンガリーとの国境近くのザ する意向を表明しており、2015年に入ってから カルパチエ州ソロモノヴォ村の自由経済ゾー もそれらのブランドのモデルの現地生産は中 ン「ザカルパチエ」に所在する。同工場では、 止されたままとなっている。 ロシアNIS調査月報2015年6月号 21 特集◆ウクライナ危機後のNIS経済 2.ベラルーシ シアで車を購入しベラルーシで転売すると大 幅な利益を得ることができるようになったと (1)新車市場の状況 概況 まず過去の経緯から振り返ると、 いう事情が存在した。一説によれば、10月から 2013年の正規ディーラー経由の新車販売は非 新車が運び屋によりベラルーシに持ち込まれ 常に好調で、通年の数字は前年比39.5%増の2 たといわれている(中古車を含めると12月だけ 12月末までに、ロシアから合計で2万台以上の 万8,810台に達した(小型商用車を含めた数字)。 で5万台近くの車がロシアから持ち込まれた 2013年のベラルーシの経済状況が突出してよ との説も存在する) 。 かったわけでもなく、同年の新車市場の好調さ ロシアから運び屋により持ち込まれた新車 を牽引した要因は正直よくわからないが、考え の販売価格は正規ディーラーが設定した価格 られうる要因としては、①付加価値税が事実上 よりも安かったため非常によく売れたが(一説 5) 2012年は車の買い控え によれば、12月にベラルーシで登録された新車 現象が生じたが、そのことと関連する繰越需要 の8割が並行輸入車だったといわれている)、 が2013年に顕在化した可能性、②秋ごろから 市場全体からみれば、それは需要の先取りとほ 2014年にリサイクル税が導入されるとの情報 ぼ同義であった。実際、その反動で、2015年に が出始め駆け込み需要が生じた(リサイクル税 入ってから(正規ディーラー経由の)新車販売 は2014年3月に導入された)、③VWポロ・セダ 台数はさらに大幅に落ち込んでおり、1月の数 ン、ルノー・サンデロ、ルノー・ダスターとい 字は前年同月の数字を22.4%下回った。各ディ ったロシア製の低価格外国ブランド車の販売 ーラーは、運び屋が扇動した2014年10月から12 台数が急激に伸び、そのことが市場全体の活性 月までの新車購買意欲の異常な高まりの反動 化につながった、等を挙げることができる。 は2015年末まで続くと見ており、通年の販売台 値上がりした関係で その根拠は不明だが、2013年末時点では、 「(正規ディーラー経由の)新車販売の好調さ 数は前年を20~30%程度下回ると予測してい る。 は続き、2014年の数字は乗用車だけで3万 3,000~3万5,000台に達する」との見方が業界 6) ブランド別販売状況 2014年の新車乗用車 内では優勢となっていた 。実際、2014年秋ま ブランド別販売ランキングでトップに立った では好調な状態が続いていたが、10月半ばごろ のはサンデロとダスターの売れ行きが好調で から正規ディーラー経由の新車の販売台数が あったルノーで、前年比22.5%増の4,048台の販 急激に落ち込み、小型商用車分を含めた通年の 売を記録した。VWはベラルーシで根強い人気 数字は前年比2.6%増の2万9,552台(乗用車が を誇っており、常にトップの座を争っているが、 2万5,044台、小型商用車が4,508台)にとどま 2014年の販売台数は前年比6.4%減の2,738台に った。秋口から正規ディーラー経由の新車販売 とどまり、2位の座に甘んじることとなった。 台数が落ち込んだ理由は、ロシアでルーブル安 3位には、主力モデルのリオの販売が好調で前 が急激に進行したことを受け、ベラルーシの運 年比12.9%増の2,438台の販売を記録した起亜 び屋によりロシアから並行輸入される車の数 が入った。2012年の時点でトップであったロシ が急増したことにある。その背景には、ベラル アのLADAは、ルノーやVWの低価格車の攻勢 ーシ・ルーブルのレートが比較的安定していた を受け年々プレゼンスを低下させており、2014 ため、ロシア・ルーブルに対して強くなり、ロ 年の販売台数は前年比31%減の1,869台にとど 22 ロシアNIS調査月報2015年6月号 為替に翻弄されるNISの乗用車市場 ■ Research Report まった。その結果、順位も前年の3位から4位 達した。最も人気の高いBセグメントカーは に下降した。 VWポロ・セダンであるが、その他、起亜リオ、 以下10位までの顔ぶれは、日産:1,866台、 ルノー・サンデロ、日産アルメーラ(Cセグメ Geely:1,841台、シュコダ:1,504台、トヨタ: ントに分類されることもある)、ルノー・ロガ 1,452台、現代:920台、アウディ:566台となっ ン、シュコダ・ラピッド、LADAラルグス、現 ている。トヨタと日産以外の日本メーカーでは、 代アクセント等の人気も高くなっている。 三菱自動車が13位に(454台)、スズキが16位に Bセグメントカーに次いで人気が高かった (432台)、マツダが19位に(304台)それぞれ のはSUVで、そのシェアは32.6%であった。最 入っている。 も人気の高いSUVはルノー・ダスターであるが、 新車小型商用車ブランド別販売ランキング その他、LADA2121、起亜スポーテージ、日産 でトップに立ったのは価格の安さを武器に安 キャシュカイ、Geely Emgrand X7、シボレー 定した人気を誇るロシアのGAZ(ゴーリキー NIVA、トヨタRAV4、UAZパトリオット、日産 自動車工場)で、2014年には1,947台の販売を記 ジューク、スズキSX4、三菱ASX、VWティグ 録した(小型商用車市場におけるシェアは アン、三菱アウトランダー、トヨタ・ランドク 43.19%)。以下、VW:894台(19.83%) 、UAZ: ルーザープラド、トヨタ・ハイランダー等の人 526台(11.67%)、ルノー:452台(10.03%)、 気も高くなっている。 プジョー:241台(5.35%)、フォード:238台 Cセグメントカーの人気も安定しており、そ (5.28%)、シトロエン:70(1.55%)、トヨタ: のシェアは17.0%となっている。ベラルーシで 52台(1.15%) 、メルセデスベンツ:51台(1.13%) 人気の高いCセグメントカーとしては、Geely と続いている。 SC7、シュコダ・オクタヴィア、トヨタ・カロ ーラ、プジョー408、シトロエンC4、起亜シー モデル別販売動向 ベラルーシでも他の ド、フォード・フォーカス、ルノー・メガーヌ、 CIS諸国同様に低価格乗用車の人気が高く、 ルノー・フルエンス、オペル・アストラ等の名 2014年に最もよく売れたモデルはVWのロシ を挙げることができる。 ア製低価格車「ポロ・セダン」であった(販売 ちなみに、他のCIS諸国同様にベラルーシで 台数は2,247台)。以下、2位から15位までの顔 もAセグメントカーの人気は低く、大宇マチス ぶれを見てみても、起亜リオ:1,438台、ルノー・ 以外のモデルはほとんど売れておらず(マチス サンデロ:1,317台、Geely SC7:1,238台、ルノ の2014年の販売台数は255台であった) 、そのシ ー・ダスター:1,153台、日産アルメーラ:852 ェアは1.7%と非常に小さくなっている。 台、ルノー・ロガン:830台、LADA2121:619 台、LADAラルグス:607台、現代アクセント: (2)生産の状況 592台、シュコダ・オクタヴィア:534台、起亜 ベラルーシではトラックおよびバスの生産 スポーテージ:501台、日産キャシュカイ:456 部門は比較的発達しており、MAZ(ミンスク自 台、Geely Emgrand X7:453台となっており、や 動車工場)の他、MAKT(ミンスク・トレーラ はりロシア製の低価格車のプレゼンスが圧倒 ーヘッド工場)、BelAZ(ベラルーシ自動車工 的に強いことがわかる。 場) 、MOAZ(モギリョフ自動車工場:BelAZの 車体タイプ別の状況を見ると、Bセグメント 支社という位置づけになっている)等の複数の カーの人気が最も高くそのシェアは41.5%に メーカーがトラックもしくはバスの生産を行 ロシアNIS調査月報2015年6月号 23 特集◆ウクライナ危機後のNIS経済 っている。2014年のベラルーシのトラックの生 車の販売台数は低迷していたが、個人に適用さ 産台数は前年比33.3%減の1万2,187台(うち、 れる中古車の輸入関税率が2011年7月1日以 1万528台がMAZで生産された)、バスは30.8% 降大幅に引き上げられたことを契機に、市場で 減の1,453台となっている。 の中古車のプレゼンスが低下する一方で、新車 乗用車部門では、ベラルーシ・英国合弁企業 7) の販売台数が急激に増加し、2011年時点で4万 「ユニゾン」 (旧フォード・ユニオン) 、およ 5,302台だったものが、2013年には16万5,730台 び、ベラルーシのBelAZと中国のGeelyの合弁 に達した(カザフスタン自動車ビジネス協会発 企業であるBelGeがSKD方式での生産を行っ 表の商用車を含む数字:図表6) 。 ている。ユニゾンでは2006年よりイランのホド ロ社のサマンドというプジョー405をベースと 図表6 カザフスタン新車販売台数の推移 したモデルのSKDが開始されているが、2014年 (単位 万台) 時点ではその他に、プジョー301、プジョー3008、 18 中国のZotye のZ300のSKDも行われていた。た 16 だ、どのモデルも少量生産にとどまっており、 14 2014年の生産台数は4モデル合計で217台にす ぎなかった。 BelGeはボリソフの「アフトギドロウシリチ ェリ」という工場の敷地内に建設した年間生産 9.8 10 8 6 4.5 3.3 4 2 のSKD方式での生産を2013年より開始してお 0 ルを合計で9,133台生産した(そのうちの約 16.4 12 能力3万台の組立工場において中国のGeely車 り、2014年にはSC7、EX7、LC CROSSの3モデ 16.6 0.8 1.3 1.9 2.3 1.6 2.2 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 *小型商用車含む (出所)カザフスタン自動車ビジネス協会 7,000台がロシアとカザフスタンに輸出され た) 。その他、BelGeはボリソフとジョジノの境 2014年に入ってからもしばらくは販売の好 界付近に確保した約120haの敷地に、溶接ライ 調さが続き、第1四半期の販売台数は前年同期 ンと塗装ラインを装備した年間生産能力12万 を23%上回る3万1,213台に達したが、2月11 台の新工場を建設することも計画しており、 日に実施されたカザフスタンの通貨「テンゲ」 2015年中にも工事が開始される見込みになっ の切り下げ8)の影響を受け、輸入車を中心に価 ている。新工場の建設は2段階に分け実施され 格が上昇し、切り下げ前に輸入された車の在庫 る予定で、1期工事分(年間生産能力6万台/ が切れた4月以降は販売が低迷するようにな 年)は2017年までに、2期工事分は2019年以降 った。それでも、8月ごろまではほぼ前年同月 にそれぞれ完成することになっている。 並みの水準を維持していたが、①秋口から石油 の国際価格が急落したこと(周知の通り、カザ 3.カザフスタンの乗用車市場 フスタンはロシアに次ぐ旧ソ連諸国第2位の 産油国である)、②不良債権問題に起因する流 (1)新車市場の状況 概況 カザフスタンの自動車市場ではつい 動性不足の影響で多くの銀行が自動車ローン 最近まで中古車のプレゼンスが非常に強く新 ルーブル安の急激な進行に伴いテンゲがルー 24 の貸し出し条件を厳格化したこと、③ロシア・ ロシアNIS調査月報2015年6月号 為替に翻弄されるNISの乗用車市場 ■ Research Report ブルに対し強くなったことを受け、カザフスタ 達した。人気モデル「サマラ」の生産が中止さ ンの人々がロシアに出向き同地の自動車販売 れたことなどが響き2014年の数字は前年比 店で新車を購入するケースが急増したこと(秋 21.4%減の4万5,162台にとどまったが、ブラン 以降、中古車を含めると5万台以上の車が個人 ド別販売ランキング1位の座を死守すること によりロシアから持ち込まれたといわれてい には成功した。 9) る)などが逆風となり 、10月から12月までの 2位には、リオとスポーテージの販売が好調 3ヵ月連続で月間販売台数が前年同月の数字 で、前年比で48.7%も販売台数を伸ばした韓国 を10%以上も下回るという状況が続いた。その の起亜が食い込んだ。 結果、2014年通年の販売台数は前年比1.31%減 3位には、前年比14%増の1万3,961台の販 の16万3,561台にとどまった(うち、15万1,424 売を記録した韓国の現代が入った。同社の主力 台が乗用車であった)。 はロシア製のアクセント(ロシアでの名称はソ 2015年に入ってからも販売の不振は続いて ラリス)で、全体の約7割を占めた。 おり、1~2月期の販売台数は前年同期比23% 4位には、以前よりカザフスタンで安定した 減の1万7,016台にとどまった。販売価格差(も 人気を維持しているトヨタが食い込んだ。なお、 ともと、同一のモデルを比較した場合、カザフ トヨタは販売台数の点では1位のLADAに大 スタンの販売店のドル建ての販売価格の方が きく水をあけられているが、高価格帯のモデル ロシアの販売店のそれよりも高かったが、ルー を主力としている関係で販売額は同社の方が ブル安の影響でその傾向がさらに強まった)が 大きく、2014年の数字は2位のLADAよりも約 原因でロシアの自動車販売店に客を奪われる 8,000万ドル多い6億618万ドルであった(カザ という状況や自動車ローンの利用が難しいと フスタン自動車ビジネス協会発表の数字)10)。 いった状況は当面続くとみられており、カザフ 5位には、NIVAやクルーズを主力とするシ スタン自動車ビジネス協会は2015年の新車販 ボレーが前年比17.2%増の1万1,764台の販売 売台数は前年を30~40%下回るとの予測を行 を記録して食い込んだ。 っている(365info.kz、2015.2.23)。 2013年時点で2位であったGMウズベキス タン(ブランド名は大宇)は、カザフスタンの ブランド別販売動向 カザフスタンの新車 車の安全基準が厳格化された関係で、2014年1 市場(乗用車市場)では、数年にわたりLADA 月1日より主力の低価格車「ネクシア」と「マ が販売台数トップの座に君臨している。2009年 チス」の販売が困難となったことの影響を受け、 こそ経済危機の直撃を受け販売台数が前年の 順位を6位まで落とした。 約3分の1まで落ち込んだが、2010年は年初か 7位以下 に目を転じると、ルノー(7位)、 ら遠い外国から輸入される車の関税率が引き シュコダ(9位)、VW(10位)といった、カザ 上げられたため、無関税で輸入されるLADA車 フスタンもしくはその他の旧ソ連諸国で生産 の価格競争力が強まり、販売台数が前年比 されている低価格車を主力とするメーカーが 41.1%増の5,058台にまで回復した。2011年夏以 目立つが、日本メーカーも健闘しており、8位 降はライバルである輸入中古車のプレゼンス に日産が、13位に三菱自動車がそれぞれ入って の急激な低下という要因が加わった関係で いる。その他、日本ブランドでは、16位にスバ LADA車の販売の伸びはさらに加速し、2013年 ル、18位にレクサス、19位にホンダ、22位にス の販売台数は前年比63.6%増の5万7,478台に ズキ、25位にマツダがそれぞれ入っている。 ロシアNIS調査月報2015年6月号 25 特集◆ウクライナ危機後のNIS経済 図表7 カザフスタンブランド別新車販売台数 (単位 台) ブランド名 2013 2014 台数 シェア 台数 シェア 増減率 (%) LADA 57,478 34.7% 45,162 27.6% ▲ 21.4 起亜 11,913 7.2% 17,709 10.8% 48.7 現代 12,250 7.4% 13,961 8.5% 14.0 トヨタ 12,132 7.3% 12,455 7.6% 2.7 シボレー 10,041 6.1% 11,764 7.2% 17.2 大宇 13,371 8.1% 11,118 6.8% ▲ 16.8 ルノー 4,921 3.0% 8,173 5.0% 66.1 日産 6,392 3.9% 5,759 3.5% ▲ 9.9 シュコダ 4,703 2.8% 5,573 3.4% 18.5 VW 2,491 1.5% 4,054 2.5% 62.7 双竜 3,800 2.3% 2,248 1.4% ▲ 40.8 0 0.0% 2,182 1.3% - 三菱自動車 3,477 2.1% 2,050 1.3% ▲ 41.0 UAZ 1,668 1.0% 1,906 1.2% 14.3 プジョー 238 0.1% 1,111 0.7% 366.8 スバル 1,192 0.7% 1,033 0.6% ▲ 13.3 ZAZ 3,180 1.9% 1,007 0.6% ▲ 68.3 レクサス 1,237 0.7% 882 0.5% ▲ 28.7 ホンダ 534 0.3% 425 0.3% ▲ 20.4 メルセデスベンツ 374 0.2% 420 0.3% 12.3 14,338 8.7% 14,569 8.9% 1.6 165,730 100% 163,561 100% ▲ 1.3 Geely その他 合計 (出所)カザフスタン自動車ビジネス協会 なお、日本ブランドの場合、モデルの価格が 産(6位、2014年の販売額は1億7,305万ドル)、 全般的に高いので、販売額によるランキングの レクサス(11位、9,929万ドル)、三菱自動車(14 順位が台数ベースの順位を上回るケースが多 位、7,306万ドル)の3ブランドが入っている。 くなっており、上位15位以内にトヨタの他、日 カザフスタンの商用車市場(2014年の市場規 26 ロシアNIS調査月報2015年6月号 為替に翻弄されるNISの乗用車市場 ■ Research Report 模は前年比1%増の1万2,137台:但し、この数 国ブランド車を含む)を輸入した。以下、日本: 字にはKAMAZの販売台数は含まれていない) 1万4,314台、ウズベキスタン:1万3,707台、 では、低価格を武器とするロシアのGAZと 英国:6,015台、韓国:4,528台、トルコ:1,922 UAZが圧倒的な強さを発揮しており、2014年 台、タイ:1,099台と続いている。 には順に6,987台と2,497台の販売を記録した。 図表8 カザフスタンモデル別新車販売台数 カザフスタンの商用車市場におけるその他の (単位 台) 主要なプレーヤーとしては、中国のFAW(2014 ブランド名 年の販売台数は836台) 、現代(520台) 、DAF(346 2014 台数 増減率 (%) 台)、IVECO(294台) 、スカニア(140台)等の LADAプリオラ 15,382 ±0 名前を挙げることができる。 LADAグランタ 12,006 2 現代アクセント 10,113 3 モデル別販売動向 2014年のモデル別の販 起亜リオ 8,290 3 売台数は図表8の通りだが、この表からもわか LADAラルグス 6,881 3 る通り、ロシア、ウズベキスタン、ウクライナ 大宇ジェントラ 5,009 - およびカザフスタンで生産されている低価格 LADAカリーナ 4,731 37 車が市場の核を形成している。その一方で、日 大宇ネクシア 4,635 ▲5 ルノー・ダスター 4,558 2 LADA4×4 3,895 ▲5 VWポロ 3,375 6 シュコダ・ラピッド 3,333 12 シボレーNIVA 3,260 1 起亜スポーテージ 3,223 8 トヨタ・カムリ 3,071 ▲5 シボレー・クルーズ 2,733 ▲7 トヨタ・ランドクルーザープラド 2,339 ▲1 LADAサマラ 2,256 ▲ 16 起亜セラト 2,205 ±0 いのは1万~1万5,000ドルの価格帯のモデル 現代エラントラ 1,808 5 で、全体の33%を占めている。以下、1万5,000 *大宇ジェントラは2014年より販売開始 (出所)カザフスタン自動車ビジネス協会 本ブランドのセダンやSUVの人気も根強く、ト ヨタのカムリ、ランドクルーザープラド、カロ ーラ(24位)、日産アルメーラ(25位)などが 上位に食い込んでいる。 車体タイプ別の状況をみると、最も人気が高 いのはBセグメントカーで、全体の48.34%を占 める。以下、SUV:26.56%、Cセグメントカー: 17.78%、Eセグメントカー:2.61%等となって いる。他のCIS諸国同様カザフスタンでもAセ グメントカーの人気は低く、そのシェアは 1.48%にとどまっている。 価格帯別の販売状況を見ると、最も人気が高 ~2万ドル:25%、2万5,000~4万ドル:14%、 2万~2万5,000ドル:11%、1万ドル未満: 主要都市別販売状況 2014年に新車乗用車 8%、4万~8万ドル:6%、8万ドル以上: の販売台数が最も多かった都市はアルマトィ 3%となっている。 で、全体の約25%に相当する約38,000台が売れ た。同市で最もよく売れたモデルは、現代のア 輸入の状況 新車の最大の輸入相手国はロ クセントで、販売台数は約3,000台に達した。以 シアで、2014年にカザフスタンの正規ディーラ 下、LADAプリオラ:約1,800台、起亜リオ:約 ーはロシアから合計で9万1,277台の新車(外 1,700台、LADAグランタ:約1,500台、VWポロ: ロシアNIS調査月報2015年6月号 27 特集◆ウクライナ危機後のNIS経済 約1,300台と続いている。日本車では、トヨタ・ る設計生産能力4万5,000台/年の工場で現地生 カムリ、トヨタ・ランドクルーザープラド、日 産を開始した。当初はLADAの1モデル(4× 産アルメーラ、トヨタ・カローラ、日産キャシ 4)だけを生産していたが、その後生産モデル ュカイ、日産ジューク、トヨタ・ランドクルー を大幅に増やし、2014年の段階では4×4の他 ザー200、トヨタRAV4の人気が高く、同市のラ に、起亜の13モデル(ソレント、セラト、スポ ンキングの20位以内に入っている。 ーテージ等)、シボレーの6モデル(キャプテ 2番目に販売台数が多かったのはアスタナ ィバ、アベオ、クルーズ等)、シュコダの4モ で、市場規模はほぼ前年並みの2万6,238台で デル(ラピッド、オクタヴィア、イエティ等) あった。人気の高いモデルはアルマトィとほぼ をSKD方式で生産していた。アジア・アフトの 同じで、1位:現代アクセント(1,866台)、2 年間生産台数に占める各ブランドのシェアは、 位:起亜リオ(1,827台)、3位:LADAプリオ 起亜:41.0%、シュコダ:22.3%、シボレー: ラ(1,720)、4位:LADAグランタ(1,328台) 、 22.2%、LADA:14.5%となっている(2014年時 5位:ルノー・ダスター(1,186台)など。 点)。 3番目に販売台数が多かったのはアティラ 生産台数の方は、2007年:6,000台強、2009年: ウで、前年比9%減の1万893台の販売を記録 1,000台弱、2010年:3,099台、2011年:7,326台 した。同市でもやはりLADAのプリオラとグラ と伸び悩んでいたが、2012年は市場の急激な拡 ンタの人気が高くなっており、1位と2位を占 大という追い風を受け前年比125.4%増の1万 めた(販売台数は順に1,373台と1,273台)。以下、 6,513台を記録することに成功した。2013年も 起亜リオ(895台)、現代アクセント(741台)、 急激な拡大フェーズが続き、生産台数は前年比 LADAラルグス(586台)と続いている。 87.8%増の3万1,005台に達したが、2014年はシ 4番目に販売台数が多かった都市はシムケ ボレー車とLADA車の生産が不振であったこ ントであったが(2014年の新車乗用車の販売台 とが響き、前年比7.1%減の2万8,803台にとど 数は9,561台) 、同市で最も人気が高かったモデ まった。 ルは大宇のネクシアで1,405台の販売を記録し アジア・アフトは現時点ではSKD方式での生 た。以下、LADAプリオラ(1,389台) 、大宇ジ 産しか行っていないが、CKD方式での生産へ ェントラ(1,285台) 、現代アクセント(822台)、 の移行を視野に入れ、戦略的パートナーである LADAグランタ(464台)と続いている。 AvtoVAZ お よ び カ ザ フ ス タ ン の 政 府 系 企 業 「Eptic」と共同で、プレス、塗装、溶接の各ラ (2)生産の状況 インを装備した新工場の建設プロジェクトに 現在カザフスタンではアジア・アフト、アグ 取り組んでいる。1期工事は2017年に完成し、 ロマシホールディング、サリアルカ・アフトプ 年産6万台規模でLADAのベスタとXRAYなど ロムの3社が乗用車の現地生産を行っている の生産が開始される予定となっている。さらに、 が、それら3社の概要は以下の通りとなってい 2020年ごろには2期工事が完成し、生産能力が る。 12万台/年に達する見込みとなっている。2期 工事の完成後に生産モデルを増やすことが検 アジア・アフト カザフスタン最大の自動車 討されており、ルノーおよび日産のモデルが生 販売会社であるBIPEK-Avto傘下のメーカーで、 産される可能性もあるとされている。新工場で 2002年よりウスチカメノゴルスク市に所在す 28 生産される車はカザフスタン国内で販売され ロシアNIS調査月報2015年6月号 為替に翻弄されるNISの乗用車市場 ■ Research Report る他、ロシアのシベリア地方や他の中央アジア 計で前年の倍以上の6,464台生産された。2014 諸国等に輸出される見込みとなっている。現在 年の生産台数については情報を入手できなか の計画では、2020年時点で生産される12万台の ったが、夏にZAZ車の生産が中止されたことが うち半分以上がロシアに輸出される予定とな 影響し、前年の数字を下回った可能性が高い。 っている(国内市場への供給量は4~5万台程 アグロマシホールディングは政情不安が続 度になる見込み)。 くウクライナのZAZのモデルのかわりに、中国 なお、アジア・アフトは2010年6月に工業ア のGeelyの5モデルの生産を開始することを センブリ措置に関する協定をカザフスタン政 2014年秋に発表し、現時点ではSKD方式でそれ 府 と の 間 で 締 結 し て お り ( auto.gazeta.kz 、 らのモデルの生産を行っているが、早ければ 2010.6.29)、上記の新工場建設プロジェクトは 2015年秋にもCKD方式での生産に移行する予 同措置の適用を受けた上で実施される予定と 定となっている。 なっている。当該の協定ではローカルコンテン ツ30%の達成が義務付けられているので、新工 サリアルカ・アフトプロム 日本のトヨタは 場の周辺に複数の部品工場が建設され、2017年 2013年2月に、コスタナイのサリアルカ・アフ ころより生産が開始される見込みs。 トプロム(上記のコスタナイ自動車工場の主要 株主であるAllur Autoと政府系企業であるサリ アグロマシホールディング 2009年12月に、ア アルカの合弁企業)で2014年春からSUV「フォ グロマシホールディング・カザフスタン社、自 ーチュナー」のCKD方式での生産を開始する 動車販売会社「Allur Auto」 、および、韓国の自 という計画を発表した。生産は2014年6月より 動車メーカー「双竜」の3社は、アグロマシホ 開始されているが(工場の生産能力は3,000台/ ールディングが保有するコスタナイのディー 年)、生産されるフォーチュナーは当面すべて ゼル・エンジン工場に1,600万ドル以上を投下 カザフスタン国内で販売される予定となって して年間生産能力2万5,000台の乗用車組立ラ いる。 インを設置し、双竜のSUV4モデル(Kyron、 Acyton、Acyton Sports、Rexton)のSKD方式の 4.ウズベキスタン 生産を開始するという計画を発表した(『エク スペルト・カザフスタン』誌、2011.1.31)。そ して、2010年8月より試験生産が開始され、年 (1)生産の状況 ウズベキスタン唯一の乗用車メーカーであ 末までに合計で77台の双竜車が組立てられた。 るGMウズベキスタンは、1996年にウズベキス 当初の計画では2011年には、約1,500台が生産 タンの「ウズアフトサノアト(ウズベキスタン されることになっていたが、実際の生産台数は 自動車協会)」と韓国の大宇自動車の対等出資 869台にとどまった。2012年からは、双竜車の で設立された(当時の名称はUZ-Daewoo)。大 他にウクライナのZAZチャンスのSKD方式で 宇破綻後はウズアフトサノアトが大宇側のシ の生産も開始され、同年の生産台数は2,581台 ェアを買い取り株式の100%を保有していたが、 に達した。さらに、2013年は春からZAZ VIDA 2007年末にGMがそのうちの25%を買い取る の生産が、夏からプジョーの複数のモデル(301、 という形で新会社「GMウズベキスタン」が設 3008、508等)の生産がそれぞれSKD方式で開 立され現在に至っている。GMウズベキスタン 始され、ZAZ、双竜、プジョーの3ブランド合 の自動車組立工場(年間生産能力25万台)はア ロシアNIS調査月報2015年6月号 29 特集◆ウクライナ危機後のNIS経済 クサイ市に所在するが、その周辺には合弁の部 ただ、破格の安値にもかかわらず、GMウズ 品工場が20以上存在し、組立工場に部品を供給 ベキスタンのモデルの外国市場での人気は低 している。モデルによりローカルコンテンツの 迷し始めており、2014年の輸出台数は前年比 値は異なるが、一部のモデルでは6~8割程度 39.2%減の5万5,207台にとどまった(ASMホ に達している。残りの部品は輸入されているが、 ールディング発表の数字)。主力モデル別の状 その多くにつき特恵的な輸入関税率が適用さ 況を見ると、陳腐化の傾向が顕著であるマチス れている。 の落ち込みが最も大きく、輸出台数は前年比 GMウズベキスタンの生産台数は2003年ま 61.8%減の7,735台にとどまった。また、同様に では3~5万台前後で推移していたが、2004年 陳腐化の傾向が強いネクシアの輸出も不振で、 以降に生産台数が急激に増加し始め、2009年に 前年比55.4%減の1万3,712台となった。さらに、 はついに年産20万台を突破した。その後も高い 2012年に生産が開始されたばかりのコバルト 生産水準が維持されており、2014年にはほぼ前 の輸出も早くも不振に陥っており、2014年の輸 年並みの24万5,660台が生産された。生産され 出台数は前年比61.6%減の9,904台にとどまっ るモデルの数も年々増加しており2014年には た。主力モデルの中で唯一輸出が好調だったの 合計で9モデルが生産されたが(6モデルが は新型ラセッティで(外国ではジェントラとい CKD方式で、3モデルがSKD方式で生産され うモデル名で販売されている)、輸出台数は前 ている)、最も生産台数が多かったのはコバル 年比138.5%増の2万2,903台に達した。 トで、その値は6万1,189台に達した。以下、ネ クシア:5万8,751台、ラセッティ(ジェント (3)国内市場の状況 ラ) :4万6,734台、スパーク:2万9,226台、ダ ウズベキスタンではGMウズベキスタンを マス:2万790台、マチス:1万8,377台となっ 保護するために極端に高い輸入関税率が導入 ている(いずれもCKD方式の生産)。その他、 されている。排気量2,000ccの新車を例にとれ エピカ、キャプティバ、マリブの3モデルが合 ば、関税額は通関価格の20%+1cc当たり2ド 計で1万593台、SKD方式で生産された。 ルに設定されている(ドル建て部分の値は排気 量により異なっており、最大で3ドル/ccに達 (2)輸出の状況 する)。その他、物品税、付加価値税、通関手 ウズベキスタン政府はGMウズベキスタン 数料を支払う必要があり、実質の関税率は の自動車を貴重な外貨獲得源と位置付けてお 100%を超えてしまう。中古車にも同様の関税 り、国内販売よりも輸出を重視している(輸出 が課せられることになっており(中古車の関税 の約8割はロシア向け) 。その関係で、GMウズ 率は30%+1cc当たり3ドル)、いわゆる「遠い ベキスタンで生産されるモデルの輸出価格は 外国」製の乗用車を輸入することは極めて困難 国内価格よりも低く設定されている。たとえば、 となっている。政府間協定に従い、ロシアの 2014年3月時点でのネクシアのロシアでの販 LADAの車だけは無関税で輸入できることに 売価格は約8,000ドル~となっていたが、国内 なっているが(ロシア製の外国ブランド車は高 価格の方は2013年末時点で1万7,000ドル近く い 輸 入 関 税 率 の 対 象 と な っ て い る 模 様 )、 に達していた。また、マチスもロシアでの販売 LADAの輸入業者による決済用の外貨購入額 価格が7,000ドル~であるのに対し、国内での を制限するといった措置をウズベキスタン政 販売価格は1万800ドルに達していた。 府が講じている関係で、LADA車の輸入も少量 30 ロシアNIS調査月報2015年6月号 為替に翻弄されるNISの乗用車市場 ■ Research Report にとどまっている。その他、輸入車に関しては、 則も特異なものとなっており、GMウズベキス 国産車と比較して車検が通り難いという噂も タン製の新車を購入する際には、原則的に、銀 存在する。 行に決済用の口座を開設し販売価格の85%に 以上のような事情が存在するため、同国の新 相当する資金を振り込むことが必要となって 車市場における輸入車(その大半がLADA車) いる。その約1年後に新車を獲得できるわけだ のシェアは5~6%程度で、残りはすべてGM が、その間に新車価格が上昇した場合は、その ウズベキスタン社の車により占められている。 分を追加で当該の口座に振り込むことが必要 ASMホールディングのデータによれば、2014 となっている。 年のGMウズベキスタンの国内販売台数は16 万5,172台とされているが、その数字を信じれ おわりに ば、同年のウズベキスタンの新車市場の規模は 一時急激な伸びを示し日本企業にも注目さ 17万台強だったということになる。しかし、ウ れていたウクライナ市場だが、リーマンショッ ズベキスタンの新車乗用車に対する実際の需 ク以降、市場規模の縮小傾向に歯止めがかかっ 要はそれよりも大きく、GMウズベキスタン製 ておらず、2014年の新車販売台数はついに10万 の新車を購入するには通常1年もしくはそれ の大台を割ってしまった。政情不安を背景とす 以上待つ必要があるといわれている。また、順 る販売不振からの脱却の兆しは全く見えてお 番待ちをせずに新車を購入したければ、販売店 らず、2015年も市場の縮小傾向が続くのは確実 に対し「追加料金」を支払う必要があるといわ とみられている。政情不安が長期化するような 11) れている 。もっとも、「追加料金」を支払っ ことがあれば、ウクライナの乗用車市場ならび ても多少は待たされるので、それよりも急ぐ客 に自動車産業は文字通り壊滅的な打撃を受け は中古車市場で1~2年落ちの中古車を購入 ることになるかもしれない。そのような状況で することが多くなっている。このため、ウズベ あるから、少なくとも当面はウクライナ市場に キスタンでは1~2年落ちの中古車の価格が 多くを期待することはできないであろう。幸い 新車の正規販売価格(「追加料金」を考慮しな 今のところ中高価格帯のモデルの販売は比較 い価格)を上回ることが珍しくないといわれて 的安定しているので、日本メーカーの場合は、 いる。 そのブランド力を活かし利幅の大きな中高価 もっとも、2014年後半ごろから、以上のよう 格帯のモデルを少量であっても確実に販売す な状況に変化がみられるようになっている。 るという戦略をとることが最適な対応策とな GMウズベキスタンのモデルの外国市場での るかもしれない。 販売が不振なため、国内市場に供給される同社 ベラルーシの乗用車市場は安定しているも の新車の台数が増加傾向にあることや、以前と のの市場規模は3万台未満と小さく、同国の経 比較すると新車に対する需要が減少している 済状況を勘案すると、今後、劇的に拡大する可 ことなどもあって、新車の順番待ちの期間がか 能性も低い。したがって、日本メーカーの同市 なり顕著に短縮されつつあるのだ。その結果、 場への関心は全般的に低いと判断されるが、関 中古車の価格も下落傾向にあり、新車価格を上 税同盟に加盟している国なので、ロシアで現地 回るケースはほとんどなくなっているといわ 生産しているモデルの販売先として一応視野 れている。 にいれておくべきであろう。その他、もし ちなみに、ウズベキスタンでは新車の購入規 ロシアNIS調査月報2015年6月号 BelGeの現地生産プロジェクトが成功すれば、 31 特集◆ウクライナ危機後のNIS経済 ロシアの低価格車市場にも影響が及ぶ可能性 があるので、当該プロジェクトの動向にも注目 する必要があるだろう。 カザフスタンの2014年の新車販売台数は16 万台以上に達したが、これは、旧ソ連諸国の中 ではロシアに次ぐ事実上2番目の数字である (ウズベキスタン市場は特殊すぎて比較の対 象とはなり難い)。同国も産油国であるため経 済状況が悪化しており、2015年は市場規模がか なり大幅に縮小する可能性が高いとみられて いるが、ウクライナの凋落振りが著しいので、 恐らく、今後も旧ソ連諸国第2位の座は維持し 続けるであろう。ただ、カザフスタンの石油生 産量が伸び悩んでいることを勘案すると、油価 が回復し高値で安定するという状況が再現さ れない限り、同国市場がかつてのような勢いを 取り戻す可能性は低いと判断される。その他、 同国市場に関し筆者が注目しているのは、今の ところ24%にとどまっているSUVの市場シェ アが今後どの程度伸びるのかという点である。 カザフスタンの人々の購買力が上昇し、中高価 格帯のSUVの市場でのプレゼンスが強まれば、 同国市場の日本メーカーにとっての魅力はさ らに高まることになるであろう。 ウズベキスタンの自動車市場は非常に特殊 なので、現時点では日本メーカーにとっての魅 力は乏しいといえるが、同国は人口が多く潜在 的なポテンシャルが大きな市場であるし、正常 化の兆しもわずかとはいえ見え始めているの で、その動向を注意深くウォッチする必要があ るのではなかろうか。 【注】 1)ASMホールディング以外の調査機関も乗用車の 販売台数の数字を発表しているが、それらの数 字の間には微妙な差異が存在する。たとえば、 ウクライナの調査機関「Autoconsulting」によれ ば、2014年の新車市場の規模は前年比54%減の 9万2,400台だったとされている。 32 2)この特別関税の導入は、輸入車の価格の高騰と いう現象の他、課税対象から外されたディーゼ ル車のプレゼンスの強化という現象も生んだ。 調査会社「Autoconsulting」によれば、2013年3 月の時点で14%程度であったディーゼル車の 市場シェアが6月には20%を超え、さらに2014 年上半期には30%近くに達した。ちなみに、デ ィーゼル車の他に、排気量1,000cc未満の車と 2,200ccを超える車も特別関税の対象外となっ たが、該当するモデルの販売台数が顕著に伸び ることはなかった。 3)ZAZチャンスは、センスの輸出仕様車である。 4)自動車部品生産部門(ウクルアフトザプチャス チという会社が統括) 、農業部門(アグロプロド インヴェスト社が統括)、造船・機械製造部門 (レーニンスカヤ・クズニャ社が統括)、製菓部 門(ROSHEN社が統括)等で構成されている。 5)すなわち、それまで車の小売価格と卸売価格の 差額分(つまり、小売店の利益分)だけが付加 価値税(税率は20%)の課税対象となっていた ものが、車の小売価格全体が課税対象になった。 その結果、車購入時の消費者の負担額は16~ 20%増加した。 6)多くのディーラーが、この3万3,000~3万5,000 台という強気の市場予測を信じ仕入れを行っ たため、2015年初頭時点での2014年製の車の在 庫はベラルーシ全体で1万台を超えていた。 7)フォード・ユニオンでは1997年春よりフォード・ トランジットとエスコートの生産が開始され たが、販売の伸び悩みなどもあり2001年にフォ ードはこのプロジェクトから撤退した。 8)カザフスタン中央銀行は2014年2月11日に、自 国通貨テンゲの対ドル為替レートを10日時点 より約20%安い1ドル=約185テンゲに切り下 げると発表した。 9)その他、ロシアのマンションやアパートを購入 するカザフスタン人も多かったといわれてい る。これは、本来であればカザフスタンの自動 車市場に投下されたかもしれない資金が、ロシ アの不動産市場に流出したことを意味し、カザ フスタンの自動車市場に否定的影響を及ぼし た可能性が考えられる。 10)3位以下の顔ぶれは、起亜:4億2,285万ドル、 現代:2億9,713万ドル、シボレー:2億4,438万 ドル、日産:1億7,305万ドル、ルノー:1億4,643 万ドル、GAZ:1億2,830万ドル、シュコダ:1 億2,046万ドル、大宇:1億1,742万ドルとなって いる。 11)ウズベキスタンの自動車販売店のマージンは平 均で2%程度にすぎないが、この「追加料金」 のおかげでどの販売店も巨額の利益をあげて いるといわれている。 ロシアNIS調査月報2015年6月号
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