セミナーレポート 「地球温暖化と生物多様性について考える」

○セミナーレポート
「地球温暖化と生物多様性について考える」
基調講演Ⅰ
「地球温暖化~低炭素社会への課題と挑戦~」
金沢大学フロンティアサイエンス機構 鈴木克徳 特任教授
[講演のポイント]
・持続可能な社会づくりに低炭素社会は重要だが産業構造の変化、既存産業のダメージを
伴う
・企業の対応次第で、勝ち組と負け組に分かれる可能性があるが、現在の政策は効率重視、
都市集中型
・ゼロエミッション住宅など農山漁村を活かす北陸から新ビジネスを提案してほしい
基調講演Ⅱ
「生物多様性 共存型社会のための経済・企業戦略」
名古屋大学エコトピア科学研究所 林 希一郎 教授
[講演のポイント]
・生態系サービス(自然生態系が人類にもたらす恵み)は、水、エネルギーと同様、経済
社会の基本要素であり、企業活動に密接に関連
・世界の生物多様性の減少は、世界の生態系サービスの減少であり、世界中に影響
・生物多様性の経済価値が認識され、ビジネスとの関係が強まる結果、国際ルール化が進
むが、温暖化と生物多様性をセットにする可能性がある。適性に評価するスキームや投
機的な動きに連動させないしくみの構築が必要
パネルディスカッション 「低炭素社会実現・生態系変化に企業はどう対応するべきか」
[主な質疑応答]
①工場の海外移転が懸念される。温暖化ガス 25%削減ありきで政策を進めるのは問題では
ないか?
・政府は説明責任を果たす必要がある。ロードマップ作成後、納得できる説明をすべき
・低炭素社会づくりは将来に向けた投資であり、将来大きな果実を生むという見方もあ
る
・早期の対策は、技術の習熟効果があり、他国に対して有利であることを考慮すべき
(鈴木特任教授)
・欧州では、エネルギー集約産業に対して、無償クレジットを割り当てるなど例外規定
を設定。日本の制度設計でも考慮すべき
(日本エネルギー経済研究所 柳主任研究員)
②環境税は、家計や企業に大きな負担。税負担と削減効果をどのように考えればよいか?
・新税を考える基本は税制中立。ある部分で税金を増やしたら、ある部分で税金を減ら
し、全体としてバランスを取る。負担増だけではない
・温暖化に効果が大きい産業に投資する場合、比較的少額の税で大きな効果を得られる
というモデル計算結果もある。実際にどのような税制度が設計されるかにより、負担
額と効果は大きな差がある。税をどこに配分するかが重要(鈴木特任教授)
・イギリスでは税、自主協定、排出権取引の三つを導入。いろいろな施策を組み合わせ
るポリシーミックス
・税は広く浅く、例えば個別の消費者一人一人に排出権取引のキャップをかぶせること
はできない対象に対して使われる経済的手法。一方で、企業等、特定の大口排出者に
対しては排出権取引を適用。さらに自主協定的な自由裁量を持つ政策を上乗せする手
法が欧州を中心に多く、世界の潮流となっている(林教授)
③生物多様性の保全に対して、企業の取り組みを促すには?
・30 年後の事業の姿を考えた場合、その方向が今後の環境政策と合っていれば、その方
向へ進むしかない。その中で自分たちが今早い段階でどのような手を打って存続して
いくか、企業の戦略として考えることが重要
(積水ハウス㈱佐々木環境推進部部長)
・企業は、需要があって製品を売る。今の社会では価格が条件。価格が下がるような要
因に働くバイアスがあり、それがビジネスになればビジネスのチャンスとなる
・一方で、環境価値の認識により価格が上がるバイアスがかかるのであれば、世の中は
そう変わる可能性がある。政策を誘導したい方向に対して、価格や需要をシフトする
政策が今後進むのではないか(林教授)
④生物多様性では、遺伝資源の商品化から得られる利益について、先進国と途上国との配
分が問題。COP10 には、米国が入っていない。条約に合意してしまうと、京都議定書のよ
うに企業活動の公平性など問題が残るのではないか?
・COP10 非加盟は、米国ぐらい。国際ルール化されれば、資源保有国側のルールに従うこ
とになるため、実体としてはあまり差異がない(林教授)