HDAC/PI3K 2重阻害作用を有する新規デプシペプチド類縁体の開発

東北大学病院臨床研究推進センター
Clinical Research, Innovation and Education Center, Tohoku University Hospital
文部科学省橋渡し研究加速ネットワークプログラム
HDAC/PI3K 2重阻害作用を有する
新規デプシペプチド類縁体の開発
東北大学加齢医学研究所臨床腫瘍学分野 石岡千加史/西條憲
東北薬科大学医薬合成化学教室 加藤正/成田紘一
研究概要
遺伝子発現制御に作用するHDAC、および細胞生存のシグナル伝達に関与するPI3Kは有力ながん
治療の標的分子である。HDAC阻害剤とPI3K阻害剤の併用は殺細胞効果の増強をもたらすことが
報告されている。そこで、本研究は高い抗腫瘍活性が期待されるHDAC/PI3K 2重阻害剤を開発する
ことを目的とする。われわれは、HDAC阻害剤であるロミデプシン(FK228)を含むデプシペプチド新規
類縁体にPI3K阻害活性があることを新たに見出した(HDAC/PI3K 2重阻害剤のシード化合物の同
定)。デプシペプチド類縁体は、いずれもが強力なHDAC阻害活性を有するが、PI3K阻害活性は類
縁体毎に異なる。In vitroでPI3K阻害活性が強い類縁体ほど殺細胞効果が強く、HDAC/PI3K 2重阻
害活性が殺細胞効果の増強に寄与することを確認した。構造活性相関解析から、PI3K阻害活性の
強い類縁体を合成し、in vivoでFK228よりも優れた抗腫瘍効果を確認した。H26年度は文科省橋渡
し研究加速ネットワークプログラムの支援を受け、試験物を製造体制を構築し、非GLPの毒性試験
および安全性薬理試験の一部を実施した。対象がん種を絞り込んだ薬効試験、GLPでの毒性試験
など治験導入を目指し、非臨床試験を進める予定である。
【これまでの研究の成果】
出芽酵母を用いた独自のPI3K阻害剤のスクリーニングシステムにより、
文部科学省化学療法支援班の寄託化合物ライブラリーの中から、
HDAC阻害剤であるロミデプシン(FK228)を含むデプシペプチド類縁体に
PI3K阻害活性があることを新たに見出した。(HDAC/PI3K 2重阻害剤の
シード化合物の同定)。生化学的解析からHDAC/PI3K 2重阻害活性を
介して強いアポトーシスを誘導することを確認した。さらに構造活性相
関解析から活性の強い類縁体FK-A11を同定した。
東北大学 加齢医学研究所
臨床腫瘍学分野
石岡 千加史
④薬効試験および作用機序解析
ヒト前立腺がん細胞(PC-3)移植マウスモデルにおいて、FK-A11が
FK228よりも優れた抗腫瘍効果をもつことを示し、免疫組織染色法で
HDAC/PI3K2重阻害活性が作用していることを確認した。
PC3細胞移植マウス
control
FK228
FK-A11
Control
FK-A11
⑤毒性試験(非GLP)
・単回静注毒性試験により最大耐用量を決定した。
薬効量と毒性量には10倍の濃度差があることを確認した。
FK-A11の耐用量はFK228より高く、低毒性であることが示唆された。
・Ames試験では変異原性は認められなかった。
⑤安全性薬理試験(非GLP) hERG試験
hERGチャネルをFK-A11 10μMで約30%阻害し、FK228の報告と同等であ
った。
⑥PK解析
ラット単回静注による薬物動態試験を行い、薬物動態パラメーターを取
得した。2mg/kg投与時の半減期は1時間以内でFK228と同等であった。
【H26年度文科省橋渡し研究加速ネットワークプログラム支援の成果】
①FK-A11の製造体制の構築
製造法に関する技術移転を行い、GMP基準に準拠した医薬品製造企業
においてFK-A11の製造体制を構築した。
②がん細胞パネルでの感受性試験
In vitroにおける44種のヒトがん細胞パネル(カルナバイオサイエン
ス、NTRC)を用いた感受性評価の結果、FK-A11は、軟部肉腫および一
部の大腸がんに対して高感受性であることが示された。
③HDAC/PI3K 2重阻害活性についての生化学的、物理化学的な解析
・HDAC阻害とPI3K阻害の活性部位
が異なること
・PI3K阻害に関して
ATP競合的阻害剤、
pan-PI3K阻害剤、
PI3K選択性的kinase阻害剤
左図:PI3K (白:p110α、赤:p85α)のATP結合ポケット
であることを示した。
に結合するFK-A11(矢印)。右図:拡大図。
【H27年度以降の研究計画】
H27年度FK-A11の規格決定、H29年度までにGLP試験を実施し、企業
へのライセンスアウトを経て研究治験実施可能なGMPグレードの医薬
品として治験へ移行することを目標とする。