堤体被覆・保護工の基礎的検討(PDF:249KB)

研究成果報告書
研
究
題
目
所属
巨大な津波外力に対する粘り強い海岸堤防設計に
向けた,堤体被覆・保護工の基礎的検討
実 施 年 度
H26 年度
岡山大学大学院環境生命科学研究科
代表研究者
氏名
吉田
圭介
印
1.研究の目的・背景
(1) 研究背景
我が国では,今後数十年内に南海トラフ地震の発生が示唆され,地震に伴い発生する津波
被害は広範囲に及ぶことが予測されている.国土交通省では,平成 23 年度に発生した東北地
方太平洋沖地震・津波による甚大な津波被害を踏まえ,今後津波対策を実施する際には,
「粘
り強い」構造とすることを提言している.そこで,近年,粘り強い海岸堤防構造について,
多様な研究が行われてきている.その一例として,施工の簡便さやコスト面,安定した材料
供給性能といった観点から,本研究で対象とするような堤体法面および裏法尻をコンクリー
トブロックで被覆する構造が提案されている.しかし,津波越流時にコンクリートブロック
に作用する流体力特性や,この構造を適用した際の効果を系統だって示したものは殆どない.
(2) 研究目的
海岸堤防を大規模に津波が越流する場合には,一般
に裏法肩付近に発生する負圧や越流初期に作用する衝
撃力,及びその後に続く定常的に作用する流体力,さ
らには堤体背後に生じる基盤土砂の洗掘が堤体の安定
性に大きく影響を及ぼすことが知られる.そこで本研
究では上述の堤体構造を対象に,津波越流時に裏法面
大型滑面ブロック
粗度要素がない形状
階段型ブロック
法面が階段型になる
や法尻部に作用する流体力特性について,分力計や圧
力計を用いて実験的に明らかにする.この際,特に越
流水深やブロックの種類(形状・粗度,右図参照)を
系統的に変化させ,その効果について検討した.また,
越流により生じる法尻部の洗掘性状や保護工による洗
掘抑制効果についても模型実験により明らかにする.
小型滑面ブロック
揚力低減用の孔部あり
突型ブロック
突型粗度を持つ形状
併せて,今後実務へ応用を図る上では,個々の海岸特性に応じた検討が必要となるが,そ
の際には模型実験に加えて数値シミュレーションの併用が有効になると考えられる.そこで,
本研究では GPU 並列演算による広域の平面 2 次元の津波遡上解析と,Flow-3D ソフトウェ
ア用いた海岸堤防周辺の 3 次元流動の数値解析を実施した.前者では岡山市を例として,南
海トラフ地震発生時に沿岸域に津波が来襲した際の,広範囲の海岸堤防に対する津波外力を
数値的に予測し,一方,後者では堤防スケールでの津波越流時の水理現象の再現を検討した.
2.研究成果及び考察(申請時の計画に対する達成度合を織込む)
【実験 1】津波越流時の海岸堤防裏法面及び裏法尻保護工に作用する流体力特性
裏法肩近傍に作用する圧力は,越流水深が増加すると
0.018
流れの剥離の影響を受け,低下する傾向を示した.法面
抑制し,被覆工の安定性向上が期待できる.
0.014
0.012
L/AL(N/cm2)
形状を階段型とすることで剥離の影響と水圧の低下を
法尻:大型滑面
法尻:小型滑面
法尻:突型
0.016
一方,保護工最上流端に作用する抗力は表面突起粗度
0.010
0.008
0.006
0.004
0.002
が無い場合,津波高に応じて増加傾向を示したが,揚力
0.000
-0.002
はある津波高を境に低下した(図-1).傾向が逆転する
条件は法面が階段型のほうがより小さな津波高さとな
1.3
1.5
1.7
2.0
h/H
図-1 法尻保護工形状と作用する揚力の関係
ることがわかった.また,粗度を持つ保護工では,その上部を通過する速い流れは低減され
るが,抗力・揚力は滑面型よりも大きくなった.よって,粗度を有するブロックを使用する
場合,予め流水による滑動,めくれ,抜け出しに対する安定性を十分に照査する必要がある.
【実験 2】津波越流により生じる陸側法尻部の洗掘性状と保護工による洗掘抑制効果
法尻保護工が無い場合,津波越流により陸側基礎工近くで大規模な洗掘孔が発生した.一
方,保護工を設置することで,基礎工か
40
ら離れた位置で洗掘孔が発生した(図
-2)
.そのため,保護工によって堤体被災
の主な要因である堤体材料吸出しの危険
高さ(cm)
30
20
Case1(法面:大型滑面、法尻:なし) h/H=1.5(1回目)
Case1(法面:大型滑面、法尻:なし) h/H=1.5(2回目)
Case3(法面:大型滑面、法尻:小型滑面) h/H=1.5(1回目)
Case3(法面:大型滑面、法尻:小型滑面) h/H=1.5(2回目)
Case4(法面:大型滑面、法尻:突型) h/H=1.5(1回目)
Case4(法面:大型滑面、法尻:突型) h/H=1.5(2回目)
10
0
-10
-20
-80
性が小さくなる.また,粗度要素を設け
-60
-40
-20
0
20
横断距離(cm)
40
60
80
100
120
図-2 通水終了後の地盤形状計測結果(法面:滑面)
ると法尻付近の高流速を低減し,より高
い洗掘抑制効果が期待できる.
【解析 1】GPU を用いた岡山市の津波遡上解析
地震による堤体沈下率に応じて,異なる堤防越流状況を確認
できた.また,堤体周辺の水深や流速の時間変化も堤体沈下率
に応じた結果が得られた(図-3)
.さらに,従来 CPU と比べて,
GPU では解析時間は 1/20 程度と大幅に短縮された.よって,
図-3 堤体付近の流速ベクトル
この解析結果から,今後は都市スケールを対象に実用的な解析
時間で海岸堤防の津波外力を推算できるものと考えられる.
【解析 2】Flow-3D による海岸堤防周辺の 3 次元流の数値解析
【実験 1】で実施した鉛直断面のうち,法面,法尻ともに大型滑
面で被覆した構造を対象に行った 3 次元流動解析と実験との比
較により,法尻部の表面流速や裏法肩部の圧力変動について,
図-4 実験と解析結果比較(圧力)
実験値と若干の誤差はあるものの,定性的には同じ結果を示した.気泡混入など細部の再現
性は今後の課題である.
[達成度合] 以上より,申請時の計画に対して【実験 1,2】
【解析
1】ついては 90%程度,
【解析 2】については 70%程度の達成度合と考えられる.
3.経費の使用状況(申請時の計画に対する実績を記述)
計画額
実績額
(単位:円)
設備備品費
400,000
306,103
消耗品費
300,000
253,379
借料損料
550,000
521,568
資料費
0
0
印刷費
50,000
40,000
旅費
100,000
172,660
謝礼金
600,000
256,290
その他
0
50,000
合計
2,000,000
1,600,000
受入額に合わせて,「謝礼金」は大幅に削減した.ただし,研究計画に支障がないよう,
申請者の大学委任経理金などの予算を割り当てた.研究成果の発表のため,「旅費」は
増額した.「その他」は,施設管理経費である.
4.将来展望(今後の発展性、実用化の見込み等について記述)
巨大津波に対して粘り強い海岸堤防構造の実現を目指し,様々な形状のコンクリートブロ
ックで裏法面・裏法尻を被覆した際に,コンクリートブロックに作用する流体力特性,設置
による効果(特に,裏法尻の洗掘抑制効果)の基礎的知見を得るために水理模型実験を実施
した.また,今後広範囲かつ様々な海岸特性を持つ地域で津波対策が検討される中で,効率
的な被害予測や,構造の安定性に関係する堤体周辺の水理現象を推定するために数値解析の
有効性を検討した.その結果,巨大津波が海岸堤防を越流する際にコンクリートブロックに
作用する流体力と作用津波高さやブロック形状との関係,コンクリートブロック裏法面・裏
法尻を被覆による洗掘抑制効果とその有効性,さらには,設計する上で必要な津波外力を推
定するための数値シミュレーション法の適用可能性を示すことができた.
現在,静岡県などでは津波対策アクションプランとして防護面と利用,環境,景観といっ
た側面から,粘り強い海岸堤防構造の検討が進められている.この際,東北地方で実施され
た滑面状のものだけではなく,海岸特性に応じた工法・形状が求められる.本研究での成果
は,防護と利用,景観を踏まえた津波対策の整備を進める上で貴重な知見として用いること
ができ,コンクリートブロックによる海岸堤防の設計の高度化に資するものと考えられる.
今後は,法尻保護工に作用する流体力の縦断的特性や,作用津波高さと法尻保護工の必要
敷設長の関係,そして数値シミュレーションの精度向上と様々な形状への適用などの検討を
進めていき,巨大津波の越流を想定した粘り強い海岸堤防構造の設計へと反映させるための
手法を具体的に提示し,我が国における「巨大津波に対して粘り強い海岸堤防構造」の実現
へと貢献していく考えである.
5.成果の発表(学会での発表、学術誌への投稿等を記載。予定を含む)
1) 工代健太,吉田圭介,前野詩朗(2014)
:南海トラフ巨大地震を想定した岡山市の津波
遡上解析,土木学会論文集 B3(海洋開発)
,Vol.70,No.2,p.Ⅰ_289-Ⅰ294.
2) 飯干富広,前野詩朗,吉田圭介,高田大資(2014)
:津波越流による海岸堤防裏法尻の
洗掘に及ぼす裏法被覆工と法尻保護工形状の影響,土木学会論文集 B2(海岸工学),
Vol.70,No.2,p.Ⅰ_966-Ⅰ970.
3) K. Kudai, K. Yoshida, S. Maeno (2014):Numerical simulation of tsunami inundation
in Okayama city, Japan, Proc. 19th IAHR-APD Congress, Hanoi, Vietnam
4) T. Iiboshi, S. Maeno, K. Yoshida, D. Takata (2014) : Hydrodynamic force on slope and
landward toe protection works of coastal dikes caused by tsunami overflow, 19th
IAHR-APD Congress, Hanoi, Vietnam.
5) T. Iiboshi, S. Maeno, K. Yoshida, D. Takata, A. Yamamura (2015) : Effect of landward
slope protection and toe protection works shape of coastal dikes on landward bed
scouring caused by tsunami overflow, 36th IAHR world Congress, Hague, the
Netherland.
6) 田井祐介,飯干富広,前野詩朗,吉田圭介(2015)
:津波越流時に海岸堤防保護工に作
用する流体力特性と圧力特性に関する研究,土木学会中国支部研究発表会概要集,
II-33.