対象とのかかわりを深める思考のモデル化

PF061
教心第 56 回総会(2014)
対象とのかかわりを深める思考のモデル化
-生活科ハムスター発見カードの質的分析による
認知の分類を通して-
○
前園兼作(横浜市立大岡小学校)
米澤好史(和歌山大学)
研究の目的
結果
前園(2012)では,かかわりを深める認知機能として,
対象とのかかわりを深める循環とそれを支えるように働
く真実追究思考,手応え価値付け思考,問題意識に基づ
く解決的思考の存在を明らかにした。さらに詳細に認知
の分類をして,個人のカード全体を通した思考のつなが
りを分析することで,それぞれの思考の働きを明らかに
することを目的とする。
対象のふるまいや特徴から好き嫌いや特性能力など
概念化したり,逆にふるまいや特性の違いや意味を説明
したりするなどの
『□真実追究思考』
。
対象や自分の喜び,
ふるまいの変化の理由や抱っこできる自分,関係が良く
なっている実感などの『○手応え価値付け思考』
。対象や
自分の困り感,ケガしたといった問題状況の認知,友達
とのかかわり方の不一致などの『△問題意識に基づく思
考』を整理した。思考の組み合わせによってかかわりの
深まりに違いが見られた。
(例:新聞紙とハムスター)
方法
小学校一年生の生活科「ハムスターとなかよし」
(平
成22年9月から平成23年3月までグループで飼育し
た実践)から得られた発見カードを分析対象とした。文
章内の言葉から文章をつくるときに使われている視点を
整理し,それを基に,さらに文章を一つの単位とした認
知の分類や,認知と認知をつなぐ思考を整理する。
文章内の整理
→
認知の分類
合計
a
行
動
働きかけ
行動
(223)
実験調査的
行動
(56)
他者の
A 働きかけ
(35)
ふるまい
b
認知
(702)
感覚的認知
s
(442)
i
状況認知
(237)
対象認知
(749)
対象周辺物
認知
t
(561)
e
認
知 m
感
情
認
知
c
性質認知
(168)
w
欲求認知
(32)
対象の幸せ
認知
(92)
対象の困り
認知
n
(50)
p
L
心的距離感
(111)
P
自分の喜び
感情
(20)
自分の問題
感情
自 N
(29)
己
認
自分の願い
知 h
(11)
他
者
認
知
情
報
源
o
自分のかか
わり
(95)
g
他者認知
(45)
B
関
>
係
情報源認知
(3)
関係づけ
直接的働きかけa
間接的a2
環境への働
行動を促す・ 直接的働き
きかけ食べ
動かす・一 かけ・働き
物おもちゃを
緒に遊ぶ
かけない
与える
実験調査的働きかけi
試す確かめ 触ってみる
る
見る
友達の働きかけA
次の働きかけa3
またやりた
い・~してい 働きかける
きたい気を 意欲
つける行動
何気ないふ 比べてみる
るまい
調べる
自分への働きかけA2
友達の働き
友達と一緒
問題の解決
話し合い決
かけ友達の
に対象と遊
への感謝
める
判断
ぶ
対象のふるまいb
視覚聴覚触覚的認知s
比べる感覚認知s2
当てはめs3
大きさ・痛さ はやさ・高 量・変化・他
数・音・色
例える・働き
さわり心地 さ・自分から との比較
環境状況e
時間
場所
対象指定m
ランが・クー ハムスター
体の部位
に
は
対象周辺物認知t
おもちゃ
エサ
新聞紙・お
菓子箱など
性格c
特徴c2
性格イメー 体質(さむが できるでき
オス・メス
ジ
り)
ないイメージ
ふるまい欲求w
生理的欲求w2
欲求イメー
のどがかわ 「お腹すいた
「でたい」
かゆかった
ジ
いてた
エサ探そう」
状況の好感認知p
自好感p2
好き嫌い
「今日はい
い日だな」
「楽しいな」
好き感情
「ありがとう」
「いらない」
状況の不快感認知n
非不快n2
~しにくそ
寒そう・疲れ
表情の読み 嫌いではな
う・じゃま・こ
てる・さむい
取り
い
わい
対象への好感L
おもしろい・
(対象)が好 ほっとする・
楽しいえら
き・かわいい やれやれ
い
自分の喜びp3
幸せな気持
うれしい・よ
価値付け
ちが伝わっ
かった
てくる
自分の心配困り感n3
○さん痛そ
うれしくなく
困り感
う・心配・か
なりました
わいそう
なかよしへの願いh
期待する関 なかよしに 私たちを大
係ずっとい なりたい・で 好きでいて
てほしい
いたい
ほしい
自分意識 変化
自分の体
自分で・私 できるように
手で、ほっ
が・僕たちに なった働き
ぺに
は
かけ
友達の存在
友達の働き 一緒に対象
友達にも
かけ
と遊ぶ
自分の
喜びP
働きかけ方
の発見
自分行動b2
意外なふる 意図のある 自分へのふ
まい
ふるまい
るまい
ふるまい
自分の
願いh
表情の読み 私を好きに
取り
なった
おちつく・い びっくり・な
い気持ち
んと・すごい
自分の
困り感N
自分の
かかわりo
対象の
喜びp
対象の
困り感n
心的距
離感L
性質c
欲求w
働きかけa
あわてまし
た・大変
成長への願いh2
成長してほ
しい・応援
対象の
ふるまいb
認識の実感
私は(おも
○のことが、
ちゃ)がお気
わかった
に入り
○と○が・み みんながい
んなが
ると
本
感覚的
認知s
本には~
だから
なぜかとい
うと
たぶん~だ どうして~す ~するのは
から
る?
なぜ?
環境状況
e
仲良しh
成長h
対働P
対幸P
自働P
友一致P
対困N
嫌共N
心配N
不一致N
できたo
自理解o
楽しいp
幸せp
嫌がるn
状困n
好意L
興味L
好嫌c
能力c
特性c
欲求w
間接a
直接a
次構えa
餌や物b
反応b
私にb
他対にb
動違いb
動関連b
問状況b
特徴s
特違いs
特関連s
自感覚s
環境e
環違いe
6
4
12
6
7
16
18
4
7
8
17
4
34
43
17
15
87
26
114
18
13
18
12
11
21
296
88
16
4
91
67
22
144
81
17
7
1
2
❶新聞紙tへの行動bの流れと、他の対象
❷対象の様子bから寒がりcと考える。その裏
付けとなる巣をつくるbを見つけている。繰り返
と比べる流れとが合流し対象の特徴を捉
しそのことを確かめ巣を作る行動から寒がりと
えた。その後なんでも食べるbと広がる
確信していく。
① t新聞紙をe今日b食べた
m他の班とのs違いは、tトンネルにb入 ② mフィーバーはm体をb温める
②
□mフィーバーはcすごく寒がり mフィーバーはt
④
るs違い t新聞紙をb食べるs違い
新聞紙をb使ってtすをbつくってた
mフィーバーはt何でもbかじる t新聞紙をb
□mフィーバーはcさむがり □mフィーバーはt
③
⑤
食べる
巣をb作るのがc大好き
mフィーバーはt巣をb作る。□mフィーバーはc
❸新聞紙tを集めるbの背景に対象の「n寒 ⑥ さむがり。m頭をbふらふらしてt新聞紙をb落と
い」という問題に気付いた。集める行動とし している。
て「エサ」に気付きがつながるが、再び新
❹新聞紙tへの行動bを巣穴と意味づけ、好意
聞紙tに戻り、aの反応をみる
Lを寄せる。対象の気持ち「温かい」を想像して
t大きいはこにmハムスターをa入れたeと
いる
② き、t新聞紙をs一箇所にb集めていました。
s自分でt巣穴をbつくってた。Lかわいかった。
△<たぶんn寒いんだと思う
⑤
○p温かいっていっていた。
mランがt箱にa入れてるeときにt箱のs
③
一箇所にt餌をb集めてた
mランのt箱にt新聞紙をaいっぱい入れたら ❺新聞紙tへの行動bが好きcと考え、裏付ける
⑤
行動へ気付きがつながり、新聞紙tの働き「隠
t巣穴をbつくってた
れられる」やたくさん用意したことへの手応えを
感じている。
❼新聞紙tへの行動bの意味をとらえ直して
いった。対象の気持ちを読み取り、新聞紙 ② □t新聞紙にbくるまるのがc大好き
mフィーバーはe新聞紙の中でbがさがさする。
の山をつくった手応えを感じている。一方
で隠れてしまう問題状況から新聞紙をかけ ④ □t新聞紙がc大好きでb隠れs場所がある。○s
ても大丈夫と確認して新聞紙をつかっての
ありすぎてp全部好きになってしまった
かかわりをもとうとしている。
❻新聞紙tへの行動bから、いっぱい入れたa。
① t新聞紙をb食べる
手応えを温かそうpと手応えを感じている、一
② t新聞紙にb隠れる
方で対象の反応から問題に気付き、友達との
tお風呂にb穴を開けるt新聞紙をb隠してs
不一致Nを感じている。
③ ふかふかにbしてb寝ようとする tソファー ① t新聞紙をb食べようとする
をbかじる
② mフィーバーはt新聞紙の下にbいた
○t新聞紙がp気持ちよさそう t新聞の山を
aつくらなくてすみそう △mフィーバーはsす ③ t新聞紙の下にbいた。○t新聞紙をaいっぱい
入れたらp気持ちよさそうだった。
④ ぐt新聞の山にb隠れてNしまう mフィー
mフィーバーのe上にt新聞紙があった。○m
バーはt新聞山のb形を変えてb寝ようとす
フィーバーのe小屋の中にt新聞紙がsいっぱい
る。
④ あってpあたたかそうだった。△gみんながm
⑤ □mフィーバーはt新聞紙もc大じようふ
フィーバーにt新聞紙をAかけてmフィーバーがn
sかまくらみたいなt巣をbつくっていた。m
びっくりしてた。t新聞紙のトンネルをbくぐった
⑥
フィーバーはe角にt巣をbつくる。
△mフィーバーのm目にt新聞紙があった。t新
考察
⑤
聞紙をAかけてNかわいそうだった
好き嫌いの概念化(真実追究思考)が,より確かな手
応えに近づけたり(❺)
,対象の喜び認知(手応え思考)
が友達との不一致(問題意識)を際立たせたり(❻)
,三
つの思考は相互に影響し合う。三つの思考を働かせる組
み合わせは人それぞれ(❶~❼)だが,手応えや問題意
識,
真実追究がつながると,
かかわりは深いものになる。
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