成人男性の肥満に関連する食事・食生活の特徴を知るための取り組み ~食事記録を活用した分析のプロセスと結果について~ ○二川香織 後藤由佳 相馬宏敏(日南保健所) 野口博美(都城保健所) 永山紀子(小林保健所) 本武明子(高鍋保健所) 飯干麻子(延岡保健所) 河野裕子(高千穂保健所) 甲斐栄里佳(日向保健所) 押川裕衣(健康増進課) 長友多恵子(元都城保健所) 1 はじめに 本 県 で は 、平 成 25 年 3 月 に「 健 康 み や ざ き 行 動 計 画 21( 第 2 次 )」を 策 定 し 、生 活 習 慣 病の一次予防と重症化予防に向けた取組を実施している。その中で、効果的な栄養施策を 実施するためには、優先的に取り組む健康・栄養課題を明確化 し、その背景にある食事内 容・食習慣及び食環境を特定する必要がある 1) 各種調査結果等を用いた地域診断の結果では、優先すべき宮崎県の健康課題として「高 血 圧 疾 患 と 糖 尿 病・透 析 治 療 に か か る 医 療 費 」が 挙 げ ら れ る と と も に 、 「 肥 満 」が 一 つ の 要 であることが考えられ、成人男性をターゲットに、肥満対策につながる効果的な食生活・ 運 動 ・ 生 活 習 慣 支 援 を 行 う 必 要 性 が 示 唆 さ れ た 。 2) これまでにも、成人男性の肥満の背景にある食事の内容を特定するための分析を行って きたところであるが 3) 、今回、既存の食事記録を活用し、さらに具体的な食べ方の要因を 検証するための分析を行ったので、その内容について報告する。 2 方法 表1 肥満の食事・食生活の特徴(仮説) ( 1 ) 肥 満 の 背 景 に あ る 食 事・食 生 活 の 仮 説立て 食品 肥満の背景にあると考えられる食事・食 生 活 に つ い て 、仮 説 を 立 て た( 表 1)。仮 説 料理 は、病院や市町村で栄養指導に従事してい る栄養士への聞き取りによって定性的に 食べ方 把握した特徴をもとに作成した。 (2)仮説の検証 食環境 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 仮説 たんぱく源(肉、魚、卵、大豆製品等)の摂取重量が多い 野菜(いも、海藻、きのこ含む)の摂取重量が少ない 嗜好品(酒・菓子・甘味飲料)を摂取している 主菜の皿数が多い 副菜の皿数が少ない 油の多い調味料を使用した料理が多い 油を使った料理(揚げ物、炒め物)が多い 主食の重ね食べをしている 主菜の重ね食べをしている 朝食を食べない 夕食の摂取量が多い 間食の摂取が多い 外食や調理済み食品を利用している ( 1 ) で 立 て た 仮 説 に つ い て 、 平 成 23 年 県 民 健 康 ・ 栄 養 調 査 デ ー タ を 用 い 、 検 証 を 行 った。まず、仮説を検証するために、食事・食生活の特徴として定量的に把握する必要の ある項目を決定し、項目の情報を拾い出すためのエクセルシートを作成した 。個人の食事 記録から各項目の情報について拾い出しを行い、得られたデータを用い、一元配置分散分 析 に よ り 各 項 目 と 体 格 の 指 標 で あ る BMI の 関 連 に つ い て 検 証 し た 。 な お 、デ ー タ 分 析 の 対 象 は 、30~ 50 歳 代 の 男 性 96 人( う ち 13 人 が 複 数 日 調 査 実 施 )と し 、 BMI30 以 上 の 者 に つ い て は 、 過 小 申 告 や 既 に 食 生 活 を 変 え て い る 可 能 性 を 考 慮 し 、 対 象から除外した。 3 結果 結 果 は 表 2 の と お り で あ る 。 た ん ぱ く 源 の 摂 取 量 で は 、 摂 取 量 の 多 い 群 で BMI が 有 意 に 高 か っ た 。 同 時 に 、 主 菜 の 皿 数 や 主 菜 の 重 ね 食 べ の 回 数 が 多 い 群 で 、 BMI が 高 く な る 傾 向 もみられた。また、調理 表2 食事・食生活とBMIの関係 済み食品利用の有無で たんぱく源(肉、魚、卵、大豆製 200g/日未満 200-299g/日 品等)の摂取量 300-399g/日 400g/日以上 は 、 利 用 あ り 群 で BMI が 有意に高かった。朝食摂 取の有無では、朝食を欠 ※群間 200g/日未満 vs. 400g/日以上(p=0.036) 200-299g/日 vs. 400g/日以上(p=0.018) 食品 野菜類(いも、海藻、きのこ含 む)の摂取量 食 し て い る 群 で BMI が 有 嗜好品(アルコール・菓子・甘味 飲料)の有無 主菜の皿数(SV) 意に低かった。野菜類の 摂取量や副菜の皿数で 副菜の皿数(SV) は、有意差は見られなか ったものの、摂取が多い 群 で BMI が 低 い 傾 向 が み られた。 料理 油の多い調味料(ドレッシング・ マヨネーズ等)の使用の有無 油の多い調味料(ルー等)の使用 の有無 油を使った料理(揚げ物・炒め 物)の品数 主食の重ね食べの有無 4 考察とまとめ 主菜の重ね食べの有無 結果より、本県成人男 性の肥満の要因として、 食べ方 たんぱく源となる食品 主菜を重ね食べしている食事の回 数 朝食の欠食の有無 や主菜の皿数が多いこ 夕食の量(1日の摂取エネルギー のうち夕食が占める割合) 間食の有無 とが寄与している可能 外食の有無 性が示唆された。これに p値 人数 BMI ± SD (* p<0.05) (人) (kg/m2) 30 23.3 ± 2.0 39 23.2 ± 2.3 0.039 * 34 24.3 ± 2.3 34 24.6 ± 2.6 食環境 調理済み食品利用の有無 ついては、野菜の摂取量 170g/日未満 170-310g/日 310g/日より多い あり なし 0-6 SV 6.5-9.5 SV 10 SV以上 0-2 SV 2.5-4.5 SV 5 SV以上 あり なし あり なし 0-1品/日 2-3品/日 4品/日以上 あり なし あり なし 0回/日 1回/日 2回/日以上 あり なし 40%未満 40%以上 あり なし あり なし あり なし 44 44 49 106 31 51 46 40 36 60 41 60 77 22 115 41 51 45 25 112 85 52 52 60 25 16 121 51 87 30 107 17 81 24 74 24.0 23.9 23.7 23.6 24.6 23.3 23.9 24.5 24.2 23.9 23.5 23.8 23.9 23.8 23.9 24.0 24.2 23.4 23.3 24.0 24.0 23.6 23.6 23.7 24.6 22.3 24.1 23.9 23.8 24.2 23.8 23.7 23.6 24.7 23.3 ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± ± 2.4 2.4 2.4 2.3 2.5 2.2 2.3 2.7 2.5 2.3 2.4 2.5 2.4 1.9 2.5 2.6 2.4 2.2 2.2 2.4 2.6 2.1 2.1 2.4 2.9 2.3 2.3 2.4 2.4 2.0 2.5 2.3 2.5 3.0 2.2 0.846 0.057 0.057 0.542 0.943 0.955 0.262 0.226 0.386 0.202 0.004 * 0.921 0.427 0.897 0.021 * や 副 菜 の 皿 数 が 少 な い 群 で BMI が 高 い 傾 向 が あ っ た こ と と 併 せ て 、 全 体 の ボ リ ュ ー ム を 落 とさずに、主菜の代わりに副菜を摂取していくような働きかけが必要であると考えた。 朝 食 摂 取 の 有 無 で は 、 仮 説 に 反 し 、 朝 食 を 欠 食 し て い る 群 で BMI が 有 意 に 低 か っ た が 、 朝食の欠食が栄養素摂取の偏りのリスクを高めるという報告もあり 4) 、今後もバランスの とれた朝食摂取の働きかけは必要であると考えた。 ま た 、 調 理 済 み 食 品 の 利 用 群 で BMI が 有 意 に 高 い こ と か ら 、 食 環 境 整 備 の 必 要 性 が 示 唆 されたため、調理済み食品を利用しても、主菜や副菜を適量摂取することができ、手軽に バランス良く食べることが出来るような環境づくりを目指す必要があると考えた。 今回、食事記録から情報を拾い出すことで、基本集計からは把握出来ない“食べ方”に 着目した検証を行うことが出来た。これにより、普段漠然と感じていた肥満と関連のあり そうな食べ方の特徴が具体的に数値化され、優先して取り組むべき課題の判断材料とする ことが出来た。今後は、今回明らかになってきた食事の特徴について、なぜそのような食 生活になるのか、その背景についても具体的に把握し、より効果的な対策を講じる 必要が ある。次回の県民健康・栄養調査では、肥満につながる食生活やその背景をより詳細に特 定し、効果的な栄養施策に繋げていけるよう、把握すべき情報を整理した上で、調査の設 計や分析を行っていきたい。 〈参考文献〉 1 ) 厚 生 労 働 省 : 地 域 に お け る 行 政 栄 養 士 に よ る 健 康 づ く り 及 び 栄 養 ・ 食 生 活 の 改 善 の 基 本 指 針 、 2 013 2 ) 押 川 裕 衣 :地 域 診 断 か ら み る 栄 養 ・ 食 生 活 改 善 の た め に 取 り 組 む べ き 課 題 の 検 討 、 2014 第 73 回 日 本 公 衆 衛 生 学 会 3 ) 永 山 紀 子 : 成 人 男 性 の 肥 満 の 予 防 ・ 改 善 に 取 り 組 む べ き 課 題 の 検 討 ~ 平 成 2 3 年 度 県 民 健 康 ・ 栄 養 調 査 結 果 か ら ~ 、 20 14 第 61 回 日 本 栄 養 改 善 学 会 4 ) 厚 生 労 働 省 : 2 1 世 紀 に お け る 国 民 健 康 づ く り 運 動 ( 健 康 日 本 2 1) に つ い て 報 告 書 、 200 0
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