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国
語
○ 単元を貫く言語活動を位置付けた授業と「見通す・振り返る」学習活動
国語科において「見通す・振り返る」学習活動では,単に教材文を無目的に読ませたり,教師
の指定した本時の教材文の学習場面を確認したりするだけでは十分とは言えない。まず,教師が
明確な意図を持って,単元を貫く言語活動を位置付けた授業をデザインすることが必要である。
単元を貫く言語活動を位置付けた授業
当該単元で付けたい国語の能力を確実に子供たちに身に付けるために,子供たちの主体的
な思考・判断が生かされる課題解決の過程となるよう,言語活動を,単元全体を一貫した
ものとして位置付けるものである。
つまり,教師自身が単元に確かな「見通し」を持つことが重要である。
効果的な「見通す・振り返る」学習活動
Ⅰ
1
単元を貫く言語活動における「見通す」学習活動
単元導入時における「見通す」学習活動
(1)単元の始めに言語活動の成果物を具体的に示す。
・単元の始めに言語活動の成果物(音読劇など実技の場合もある)を児童に提示し,学習全体
の見通しを持たせるとともにゴールを認識させる。教師にとっても児童の学ぶプロセスが見
え,指導や評価の重点が分かる。
・教師自身が成果物を作ることで,単元の学習やねらいを実感し,表現する姿を見て,子供た
ちはこれから取り組むべき価値ある学習課題を見通していく。このとき,「単元を貫く言語
活動」と,その言語活動を通して身に付けるべき力(子供たちにとっての目標)の双方を見
通すことが重要である。
(2)単元の始めに学習の見通しを持たせる過程を設定し,個々に課題意識をもたせる。
・授業の目標を提示し,個々にどのように学ぶか(どのような言語活動に取り組むか)につい
て考えさせ,何のための言語活動なのか意識させる。課題が一人一人に自覚されていなけれ
ば,活動に流され,曖昧な理解にとどまってしまうことが懸念される。
・子供たちが既習の学習経験を想起しながら,どうすれば先生が示した成果物ができるかにつ
いて,学習計画を立てる。→
学習計画表の工夫
-小国 1-
2
各単位時間における「見通す」学習活動
単元の各単位時間の学習(特に展開部=いわゆる第2次)が単元を貫く言語活動と密接に結び
付くものとする。
・前述のように,単元の始めに,しっかり見通しを持ち,学習計画表を工夫することで,子供
たちが,各単位時間の学習が単元を貫く言語活動とどう結び付くか,見通すことができるよ
うにする。
・特に第2次の学習と単元を貫く言語活動とのつながりを意識し,一つ一つの学習活動を言語
活動と結び付けることで,子供たちが何のためにその学習活動を行うのか理解できるように
する。
Ⅱ
単元を貫く言語活動における「振り返る」学習活動
1
各単位時間における「振り返る」学習活動
前述のように,単元の始めに,しっかり見通しを持ち,学習計画表を工夫することで,「今日
何をするのか」子供たちにとって必然性を持って認識できるようにする。それに照らして「今日,
どのような学びがあったか」振り返ることができる。
2
単元全体の学習を「振り返る」学習活動
(1)「交流」による「振り返る」学習活動
・各領域の指導事項に「交流」が位置付けられたように,共同思考によって自分の考えを磨い
たり深めたりさせる過程が求められている。
・児童が明瞭に意識できるよう「ここをみんなに聞きたい,不安だから意見をもらいたい,大
好きなところを分かってほしい」といった具体的な文言で交流の目標を示す。
・また,「交流」によって効果的に「振り返る」学習活動を工夫することができる。リーフレ
ットやカード,朗読やスピーチなど言語活動の成果物について,あるいは,ゴールとしての
成果物に至るまでのノート,ワークシートなどについて,目標と照らし合わせた観点で交流
する。つまり,単元の指導事項に関連させた観点を子供たちと共有して交流する。
・単元の終末だけではなく,それぞれの学習過程について,例えば[第3学年及び第4学年 B
書くこと カ「書いたものを発表し合う」ことでは,推敲して書き終えた文章だけではなく,
学習計画や,取材,構成メモなど書くことの学習過程においても「発表し合う」ように工夫
することが大切である。
(2)発信することで「振り返る」学習活動
・国語科では学んだことを,例えば「物語のおもしろさを紹介するためには,場面の移り変わ
りや登場人物の気持ちの変化に注意して読めばよいということがわかった」などと,一定の
知識として押さえるだけではなく,改めて読み返したり,別の物語を読んで確かにそうだと
実感したりできる振り返りが重要になる。学んだことを,実際の読書行為として,活用可能
な形で定着させることが大切である。
・単元の終末で,例えば,紹介や推薦のリーフレットや本の帯,広告カード(ポップ),ポス
ターなどを相手に向けて発信することで,成就感を味わったり,「次はこんなことを調べた
い」「こんなふうに説明したい」などと,さらなる課題を意識したりすることができる。
・「楽しかった」「上手な説明の仕方がよくわかった」など学習活動や学習内容への感想をま
とめさせるだけではなく,
学習計画表に沿いながら指導事項=付けたい国語の能力について,
学習の方法や状況についての言葉を用いて説明させることが大切である。
-小国 2-
Ⅲ
実践事例
事例1 物語を読んで感想を伝え合う事例 (第3学年C読むこと)
単元名
「心を打たれたところについて感想を交流しよう」
~場面の移り変わりに注意しながら読んで,感想をまとめる力~
第3,4学年C領域「読むこと」(1)ウ・エ・オ 言語活動例C(2)ア
伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項(1)イ(ア)
1 単元の目標
(1)場面の移り変わりに注意しながら読み,人物の行動,会話などの表現に着目し,叙述を基に想像
して読むことができる。
【読むこと(1)ウ】
(2)物語を読んだ感想を説明するために,ふさわしいところを引用したり要約したりすることができ
る。
【読むこと(1)エ】
(3)物語を読んだ感想を,どの叙述に基づいているかを明らかにしながら発表し合い,一人一人の感
じ方について違いのあることに気付くことができる。(オ)
【読むこと(1)オ】
(4)言葉には,考えたことや思ったことを表す働きがあることに気付くことができる。
【伝統的な言語
文化と国語の特質に関する事項(1)イ(ア)】
2 評価規準等
(1)評価規準
国語への関心・意欲・態度
読む能力
言語についての知識・理解・技能
①心を打たれた場面を探しなが
①感想文を書くために「ちいちゃんのかげ
①考えたことや思ったことを表す文
ら読み,感想を書き,友達と
おくり」や自分で選んだ物語を場面の移
交流しようとしている。
り変わりに注意しながら読み,人物の行
章表現に気を付けている。
動,会話などの表現に着目して読んでい
る。
(読むこと(1)ウ)
②物語を読んだ感想を説明するために,ふ
さわしいところを引用したり要約したり
している。
(読むこと(1)エ)
③叙述や自分の経験を基に書いた感想を交
流し,感じ方の違いに気付いている。
(読
むこと(1)オ)
(2)単元構想表
言語活動
指導事項
こ 物
Cウ【文学的な文
ろ 語
章の解釈】
を を
ク 読
ラ ん
ス で
で 心
交 を
流
し 打
Cエ【自分の考え
よ た
れ
の形成】
う
た
と
重点
◎
○
主たる学習活動
1.物語を読んで心を打たれたところや胸が
熱くなったところについて感想を書き,クラ
スの友達と交流するという学習のゴールを知
り,学習計画を立てる。
【見通す】
2.
「ちいちゃんのかげおくり」を場面の移り
変わりや気持ちの変化に着目しながら読み取
る。
3.
「ちいちゃんのかげおくり」を読んで,心
を打たれたところや胸が熱くなったところは
どこか,また,その理由となる叙述はどの部
分かを考え,感想文を書く。【振り返る①】
-小国 3-
評価規準
関①
読①
読①②
3
Cエ【自分の考え
の形成】
○
Cオ【自分の考え
の形成】
◎
4.自分が選んだ物語を読んで,心を打たれ
たところあるいは胸が熱くなったところにつ
いて,その理由を叙述を基にして感想文を書
く。
5.書いた感想文をクラスの友達に話し,感
想を聞くなどして交流する。【振り返る②】
言①
読①②
読③
単元について
(1)教材名及び特徴
『ちいちゃんのかげおくり』
(光村図書 三下)
本単元のねらいは,
「場面の移り変わりに注意しながら,人物の行動,会話などから気持ちを想像
して読む」力を付けることである。そのために,心打たれたところや胸が熱くなったところを見付け
感想を交流する活動を取り入れる。児童は,そうして読み取ったことを基に,自分の経験と物語を結
び付けて,自分の思いや考えを持つであろう。しかし,本教材「ちいちゃんのかげおくり」は「かげ
おくり」という遊びを題材にして,戦争の悲惨さや平和を願う作者の思いが綴られた作品である。だ
から,児童にとっては自分たちの生活とは遠くかけ離れ経験のない「戦争」,あるいは,当たり前と
思っている「家族との生活」
,
「命」などの「平和」ということについて作品を通して感じたことや考
えたことを文章にまとめることは難しいと考えられる。よって,物語に入る前に「かげおくり」をや
って遊んだり,青い空や明るい光を体いっぱいに感じてみたりするなどの体験活動を取り入れたり,
疑問に思ったことや詳しく知りたいことを調べたり,戦争や平和に関する他の本を並行読書したり,
読み聞かせを受けたりして,本文の内容理解や感想をまとめることに役立てたい。
本文は,五つのまとまりから構成されており,特に最後の「それから何十年」かたった町の様子は,
現代に生きるわたしたちに平和の大切さと,それを守ることの尊さを示している。子供たちにとって
は教科書で出会う初めての戦時下状況の文学作品である。場面の様子を想像しながら読み進めるとき,
当時の時代背景を正確に把握することは難しいと思われる。しかし,この作品は,情景や人物の言動
が生き生きと描かれているので,子供たちはちいちゃんに容易に感情移入し,家族一緒のかげおくり
を楽しんだり,ひとりぼっちになった悲しさや恐怖を感じたりしながら読み進むことができると考え
られる。さらに,家族そろってした「かげおくり」,ちいちゃんがお兄ちゃんとした「かげおくり」,
そして,ちいちゃんがたった一人でする「かげおくり」の三つのかげおくりの状況を思い浮かべたり,
5の場面の存在意義を考えたりすることで,戦争の悲惨さや平和を願う作者の思いを感じ取ることが
できると考えられる。児童それぞれが,自分の読みを通して戦争の悲惨さや平和の大切さを考えるき
っかけとなる作品である。そのきっかけを大切にし,児童が自分なりに感じたことを文章にまとめる
ことができるように指導していきたい。
(2)言語活動設定の意図
この単元では,まずは,教科書教材である「ちいちゃんのかげおくり」を読んで学習を進める。次
にその学習を生かし,並行読書として自分が選んで読んだ物語の感想を交流する。心打たれたところ
や胸が熱くなったところを見付け,なぜそこに心打たれたのかを考え感想を交流することを通して,
「場面の移り変わりに注意しながら,人物の行動,会話などから気持ちを想像して読む」力を付ける
のである。単なる感想の交流ではなく,心を打たれたところや胸が熱くなったところという視点を与
えることで,児童は学習への見通しを持ちやすくなり,単元全体の学習への意欲が向上するものと思
われる。
さらに,自分の感想を友達と交流するという活動は,児童に相手意識を高めさせることができると
同時に,友達の感想を聞くことで自分と友達の感想の違いに気付いたり,様々な感想にふれることで
-小国 4-
見方を広げたりすることもできる。
(3)本単元において意識させたい「5つの意識」
○目的意識:物語を読んで自分が心を打たれたところや胸が熱くなったところを知ってもらうた
めに
○相手意識:クラスの友達に対して
○場面状況意識:自分が書いた感想を話したり,友達の感想を聞いたりするときに
○方法意識:心打たれたところについて,その理由を叙述を基に自分の言葉で書き表すことで
○評価意識:場面の移り変わりに注意しながら,人物の行動,会話などから気持ちを想像して読
んだり,友達との感想の違いに気付いたりすることができたか。
(4)「見通す・振り返る」学習活動を生かした指導の工夫
本単元は読むこと領域の学習であり,読み取ったことをワークシートに記入できたかどうかでおよ
そ評価できる。しかし,それでは児童の思考力・判断力・表現力を伸ばすには不十分である。そこで,
物語を読んで,単元の後半で心を打たれたところや胸が熱くなったところについて感想文を書き,ク
ラスの友達に話して交流するという活動を取り入れる。これによって,児童は本文を読み取る際に,
心を打たれたところはどこか,胸が熱くなったところはどこかを探し,なぜ心打たれたのかを友達に
伝えるために教材文を読むことになる。目的意識を持って読むところに,児童の思考・判断が生まれ
る。そして,それを基に友達と感想を交流するという単元のゴールを意識し,「見通し」を持って単
元全体を進めることができる。また,より明確な見通しを持つことができるように,単元の最初に学
習の計画表を児童と一緒に作り,学習のゴールとなる感想文(成果物)のモデルを児童に示す。これ
によって児童は,単元全体の流れをつかみ,まずは教材である「ちいちゃんのかげおくり」について,
次に自分が選んで読んだ物語について,それぞれがどんなお話か,自分が心を打たれるのはどこか,
それを友達にどう話そうかと考えながら,児童が主体的に物語を読んでいくことが予想される。単元
の終わりに児童は,読み取ったことを基に心を打たれたところについて感想文を書く。感想文は,心
を打たれた理由について場面の移り変わりや人物の気持ちの変化に着目しながら叙述を基に書いて
いく。このように感想文を書くことで,児童は,教材である「ちいちゃんのかげおくり」と自分が選
んで読んだ物語を「振り返る」ことができる。さらに,その感想文を友達に読んで交流をする。友達
から感想を聞いたり,その感想に対して自分の感想を話したりすることを通して,児童は,場面の移
り変わりや人物の気持ちの変化に着目して心を打たれたところの感想が書けたかどうか「振り返る」
ことができる。
4
次
指導と評価の計画(全14時間)
時
主な学習活動
評価規準・評価方法
見通し・振り返り
活動の留意点
一
1
2
○物語を読んで,心を打たれた ・クラスの友達に感想を話すことに
・単元の最後にど
ところや胸が熱くなったところ
興味を持っている。
んな感想文を書い
について感想文を書き,クラス
(観察)
たらよいか分かる
の友達に話すことを知る。
ものを示す。
○単元の学習計画を立て,学習 ・場面ごとの様子をおさえ,学習の
・感想文を書くた
の見通しを持つ。
【見通す】 見通しが持てる。(観察)
めにどんな活動を
○「ちいちゃんのかげおくり」 ・本文に興味を持ち,感想を書いて
したらよいか考え
読み聞かせを通して,心を打た
ながら学習計画表
いる。
(ワークシート)
れたところを考えながら初発の
を作る。
感想を書く。
-小国 5-
二
3
○「ちいちゃんのかげおくり」
・ちいちゃんの言葉や行動に着目
・ちいちゃんの楽
4
を読んで,心を打たれたり,胸
し,ちいちゃんの気持ちを想像して
しさや心細さなど
が熱くなったりした理由を叙述
読んでいる。(ワークシート)
分かる言葉に注目
5
からさがす
させる。
○「ちいちゃんのかげおくり」 ・心を打たれたり胸が熱くなったり
・叙述を引用しな
を読んで,心を打たれたり,胸
した理由を叙述を基に書いている。 がら理由を書かせ
が熱くなったりした理由を叙述
(ワークシート)
る。
を基に書く。
6
○「ちいちゃんのかげおくり」 ・自分が書いたことを友達に話した
7
を読んで,心を打たれたり,胸
り,友達の話を聞いたりしている。 由がよく分かるも
が熱くなったりした理由を友達
(観察)
と交流する。
8
・心を打たれた理
のになっているか
考えさせる。
【振り返る①】
・前時に交流したときに友達からも
・誰にでも納得し
○交流したことを基に,自分の
らったアドバイスを基に書き直し
てもらえるよう書
思いがよりよく伝わるように理
ている。(ワークシート)
き足している。
由を書き直す。
三
9
○「ちいちゃんのかげおくり」 ・ちいちゃんのかげおくりを読んだ
・単元の最初に示
を読んで,心を打たれたところ
感想を叙述を基に自分の言葉で書
した感想文を参考
や胸が熱くなったところについ
いている。
(ワークシート)
にしながら,物語
て叙述を基に感想文を書く。
の叙述を基にし
て,自分の考えを
書かせる。
10
○クラスの友達に話すために, ・自分で選んで読んだ物語の感想を
・前時に書いた感
~
自分が選んで読んだ物語の心を
叙述を基に自分の言葉で書いてい
想文を思い出し,
12
打たれたところや胸が熱くなっ
る。
(ワークシート)
自分が選んで読ん
たところについて叙述を基に感
だ物語について感
想文を書く。
想文を書かせる。
13
○クラスの友達に感想を話し, ・自分の感想を話し,クラスの友達
・同じ本を読んだ
14
交流をする。
友達の話を聞いて
と交流している。
(観察)
【振り返る②】
自分と比べて聞
き,互いに感想を
交流するようにさ
せる。
5
学習指導と評価の様子
○単元に入る前の活動
授業以外の時間を利用して,児童に物語の読み聞かせをした。その物語は,本単元の教材「ちいち
ゃんのかげおくり」と似ているものである。時代背景,場面の移り変わり,登場人物の気持ちの変化
などである。普段あまり読んだことのない分野の本なので,児童は関心を持つて読み聞かせを聞いて
いた。この読み聞かせは,全員が同じ本を読んだことと同じである。よって,単元の見通す活動につ
なげていくことができる。
○物語の様子をつかむ活動(第1時前半)
-小国 6-
前記の読み聞かせや物語の時代の様子が分かる写真を基に,戦争について思い浮かべるもの・こと
をあげさせた。戦車,銃,船,飛行機,爆弾,殺し合いなどのものや,こわい,悲しい,したくない,
(家族などが死んでしまうので)いやだ,勇気がいるなどのことが出された。
○心を打たれたところや胸が熱くなったところ(第2時後半)
「ちいちゃんのかげおくり」を一度読んだ後,心を打たれたところや胸が熱くなったところがあっ
たか聞くと,ほぼ全員があったと答えた。この最初の感想を書き留めさせ,感想文を書く活動へとつ
なげさせたい。
○感想文の構成メモづくり(第3~6時)
第3時では,「ちいちゃんのかげおくり」を読んで,心を打たれたところや胸が熱くなったところ
を本文から書き抜いた。そして,第4,5時には,心を打たれたり,胸が熱くなったりした理由を本
文から探した。本文を基に心を打たれた理由を考えさせることで,児童は,ちいちゃんの気持ちや場
面の様子を主体的に読み解いていった。さらに,第6時には,本文を書き抜いたメモを基にしながら,
自分の言葉で感想を付け加え,感想文を構成し直した。
○感想の交流(第7時)
書いたメモを基に感想を友達と交流した。心を打たれたところとその理由がきちんと伝わったか,
納得できたかの評価に付箋を利用した。
(赤=納得,青=納得できない)
○感想の再構成(第8時)
第7時の交流で青い付箋(納得できない)をもらった児童を中心に,納得してもらえるようにする
ために,もう一度本文を読み返し,理由を付け加えた。この活動を通して,さらに深く本文を読み込
むことができた。そして,人物の気持ちだけでなく,場面や状況の移り変わりにも着目することがで
きた。
○感想文の仕上げ・交流(第9時)
第8時に付け加えたことをふまえて,感想文を仕上げた。そして,書いた感想文を友達と交流し,
心を打たれたところとその理由がよく伝わったかどうかを確認した。第7時の交流よりも納得しても
らえた児童が多かった。
○選んだ本を読んでの感想文づくり(第10~12時)
「ちいちゃんのかげおくり」を読んで感想文を書いたときと同じように,構成メモをはじめに書き,
その後感想文として仕上げた。
○感想の交流(第13,14時)
第12時までに書いた感想文を友達と交流した。心を打たれたところとその理由が伝わったかどう
か,納得できたかどうかと,その感想文を聞いてどう思ったを直接言葉で話して伝える交流の活動に
した。
書いた感想文については,図書室に掲示してもらい,他の学年の児童にも広めるようにした。
6
「見通す・振り返る」学習活動の成果
○単元導入時の見通す活動1
本単元に入る前に,「ちいちゃんのかげお
くり」と同じような時代背景で書かれた物語
を読み聞かせた。これには,見通す活動につ
なげるための二つの意図があった。
一つ目は,物語が書かれた時代背景(戦争
という分かりにくいもの)について,少しで
-小国 7-
も事前にふれることができるようにすることである。今まで戦争の物語を読んだことがない児童が多
いが,少し関心を持つことができたようである。
二つめは,読み聞かせた物語で活動のゴールとなる感想文のモデル文を示し,単元の最初に示すこ
とである。全員が共通理解できる本を基に書いた感想文を示すことでどんな感想文を書けばよいかを
イメージし単元全体を見通すことができた。
○単元導入時の見通す活動2
学習計画表については,児童と一緒に考えな
がら作成した。ゴールとなる感想文を見ながら,
どんなことを学習していったらいいか意見を
出し合い,児童から出された言葉を使いながら
計画表をうめていった。これによってゴールま
での見通しが持てる活動となった。
○単元途中での振り返る活動
第7時には,作成した感想文のメモを基に,
「ちいちゃんのかげおくり」を読んで心を打たれたと
ころとその理由について友達と交流した。交流につい
付箋によって見える形での友達からの評価
ては,4,5人のグループで発表し合う形式をとった。
聞いた方は,心を打たれたところとその理由が分かり
やすく結びついていて“納得できる”ときには赤い付
箋を,よく分からなくて結びついていなくて“納得で
きない”ときには青い付箋をメモにつけることにした。
交流を図ることによって,これまでの活動を客観的に
評価してもらい,振り返ることができた。そして,そ
れが“もっとみんなに納得してもらうには?”“自分
の思いを分かってもらうには?”という思いを喚起し,
その後の活動への意欲へとつながった。
○単元最後での振り返る活動
第13,14時には,自分で選んだ
物語を読んで心を打たれたところとそ
の理由について書いた感想文を読んで
交流した。今回の交流では,選んだ本
が同じ者同士でグループを作り,感想
文を読んで話した後,聞いた方が感想
を話すようにした。話した方は,感想
を聞くことで自分の思いが伝わったか
どうかが分かり,単元を通して自分が
やってきたことを振り返ることができ
た。聞く方も,自分の思いと比べなが
ら聞き,同じ物語を読んでも感じ方が
違うことに気付くことができていた。
心を打たれた理由を本文の叙述を
物語を読んで
基にしながら,自分の感想を入れ
“心を打たれたところ”
て書き表した部分
の部分
-小国 8-
事例2 説明文の読みを活用して絵の解説文を書く事例
単元名
(第6学年 B書くこと,C読むこと)
葛飾北斎が見た風景「富嶽三十六景のよさを伝える解説文を書こう」
~事実と意見の関係を押さえて読み,事実と意見を区別して書く力~
第5,6学年 C領域「読むこと」(1)ウ
B領域「書くこと」(1)ウ,カ
言語活動例 C(2)イ B(2)ウ
伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項(1)イ(カ)
1 単元の目標等
(1)事実と感想・意見などとの関係を押さえ,自分の考えを明確にしながら読むことができる。
【C(1)ウ 説明的な文章の解釈】
(2)事実と感想・意見などを区別するとともに,見た絵の様子を簡単に書いたり,詳しく書いたりす
ることができる。【B(1)ウ 記述】
(3)解説文を発表し合い,表現の仕方に着目して助言し合うことができる。【B(1)カ 交流】
(4)語感・言葉の使い方に対する感覚などについて関心を持つことができる。【伝(1)イ(カ)】
2 評価規準等
(1)評価規準
読む能力
国語への関心・意欲・態度
①
②
③
筆者のものの見方にふ
れることで,興味を持
って作品を見ようとし
ている。
自分のものの見方に気
付いたり,深めたりし
ている。
絵から読み取ったこと
を進んで伝え合おうと
している。
①
書く能力
「富嶽三十六景」の解 ①
説文を書くために,筆
者のものの見方や表現
の工夫を読み取ってい
る。
(C読むこと(1)ウ)
言語についての知識・理解・技能
②
「富嶽三十六景」の解
①
説文を書くために,事
実と感想・意見などを
区別するとともに,見
た絵の様子を簡単に書
いたり,詳しく書いた
りしている。
(B書くこと(1)ウ)
「富嶽三十六景」の解
説文を書き,発表し合
い,
表現の仕方に着目して
助言しあっている。
(B書くこと(1)カ)
書き出しや文末表現の
工夫,絵と文章の巧み
な構成について考え,
その効果について理解
している。
(伝統的な言語文化と
国語の特質に関する事
項(1)イ(カ)語感)
(2)単元構想表(単元前半 C読むこと,単元後半 B書くこと)
言語活動
指導事項
重点
主たる学習活動
Cウ【説明的な ○ 1.「富嶽三十六景」と出会い,絵について,友達との
富
文章の解
見方や感じ方の違いに気付く。
嶽
三
釈】
2.解説文を書くという学習のゴールを知り,学習計画
十
六
を立てる。【見通す】
景
3.「鳥獣戯画」の絵を見て,気付いたことを出し合う。
の
よ
4.筆者の見方や感じ方,表現の工夫を捉える。
さ
を
Bカ【交流】
◎ 5.「鳥獣戯画」の別の場面絵に対して,自分なりの見
伝
方で絵を評価する。【振り返る①】
え
る
解
説
文
を
書
こ
う
Bア【課題設定
と取材】
Bウ【記述】
○
Bカ【交流】
◎
評価規準
関①
読①
書②
6.「富嶽三十六景」と出会い,感じたことをもとに,
自分なりの絵の見方を整理する。
7.教材文から学んだ表現の工夫を使い,選んだ絵のよ 書①
さを伝える解説文を書く。
8.解説文を読み合い,感想を交流する。【振り返る②】 書②
‐小国 9‐
3 単元について
(1)教材名
『「鳥獣戯画」を読む』
高畑勲 (光村図書6年)
『この絵,わたしはこう見る』
(光村図書6年)
「富嶽三十六景」
(2)言語活動設定の理由
本単元では,単元を貫く言語活動として「富嶽三十六景のよさを伝える解説文を書こう」と設
定した。子供たちにとって身近な富士山を扱うことで,子供たちの「書きたい」という意欲を高
めることができると考えている。「富嶽三十六景」や葛飾北斎について,子供たちはそれぞれに
思いを巡らせ,絵から様々なイメージを持つことができるであろう。
解説文を書く活動を設定した理由として,常に読み手を意識した文章表現の力を身に付けてほ
しいという願いからである。解説文には,それを読む他者が存在する。どのようにすれば,自分
の思いが伝わるのか,どのように表現すれば,読み手を惹き付けることができるのか,そのよう
な視点を常に持ちながら,自分の文章と向き合わせていきたい。そのことで,子供たちに身に付
けさせたい力である「書くことを決め,全体を見通して事柄を整理する力」「事実と感想・意
見などを区別するとともに,見た絵の様子を簡単に書いたり,詳しく書いたりする力」を身に
付けさせることができるであろう。加えて,解説文を書く過程で,構成や推敲を行ったり,交流
を通して友達の文章のよさに触れたりしながら,豊かな表現力を身に付けさせたいと考えている。
またC読むこと,B書くことの領域を複合的に扱うことによって,教材文の優れた表現や効果
的な表現を自分の作品に生かすことができる。自分のものの見方や考え方を伝えるためには,ど
のような表現が効果的なのかを考えさせていきたい。「書くために読む」という読みの必然性も
ここに生まれてくるのである。単元を貫く言語活動の一層の充実を図る上でも,ここで領域を複
合的に扱うことの意義は大きい。
(3)本指導計画において意識させたい「5つの言語意識」
○目的意識:自分の考えたことやものの見方を伝えるために,
○相手意識:クラスの友達や地域の方々に対して,
○場面状況意識:国語科『「鳥獣戯画」を読む』の学習の際に,
○方法意識:「富嶽三十六景」の解説文を書くために,
○評価意識:表現や構成を工夫することができたか。
(4)「見通す・振り返る」学習活動を生かした指導の工夫
本単元における,見通しとは,学習の最初に学習計画を示すこと,学習のゴールを明確にする
ことの2点である。今回は単元を貫く言語活動を「富嶽三十六景の解説文を書こう」と設定し,
毎時間の学習内容が言語活動に結び付くように単元を構成している。子供たちにとっては,学習
の目的が明確になる。また,学習計画を把握していることで,計画的に解説文を書くことができ
るであろう。振り返りについては,2次と3次の最後に友達同士での交流の場を設定している。
友達との交流を通して,自分の作品を見直すことができ,また,友達のよさを自分の作品にも生
かすことができるであろう。加えて,毎時間,めあてに対する自己評価を行う中で,常に学習の
ゴールを意識した取り組みができると考えている。毎時間の振り返り,単元の途中,終末での振
り返りを行いながら,本単元で身に付けたい力を高めていきたい。
‐小国 10‐
4
指導と評価の計画
次 時
学習活動
評価規準・評価方法
一 1
・
「富嶽三十六景」
「甲州三坂水面」の絵
の一部を隠したものを提示する。北斎
はその部分に何を描いたのかを想像
する。
・葛飾北斎のものの見方や考え方の面白
さを知る。
・単元のゴールは「冨嶽三十六景の解説
文を書く」ことを知る。
・学習計画を立てる。
・「鳥獣戯画」と出会う。
・「鳥獣戯画」の絵を見て,気付きを出
し合う。
・教材文を読み,筆者の考え方をおおま
かに捉える。
・教師の解説文を読み,学習の見通しを
持つ。
・「富嶽三十六景」に興味を持ち,解
説文を書くことに意欲を示してい
る。(観察)
2
・作者のものの見方や考え方の面白さ
を自分なりに捉えている。(ワーク
シート)
見通し・振り返り活動の留意点
・「解説文を書く」という学習の
ゴールを明確にし,そのために
どのように学習を進めていけ
ばいいのかを学習計画表をも
とに確認する。
・「鳥獣戯画」の絵を見て,気付いた
ことを出し合っている。(発言)
・教師が作成した解説文を読み,
学習のゴールのイメージを持
たせる。
・筆者の考え方を大まかに捉えようと ・解説文を書く際に,
『「鳥獣戯画」
している。(ワークシート)
を読む』の文体,表現方法を参
・解説文を書くために,教材文を読む,
考にしたことを伝える。
という目的意識を持っている。(観 ・書くために読む,という目的意
察・ワークシート)
識を持たせる。
【見通す】
二 3
4
5
6
~
8
・絵と文を照らし合わせながら,筆者の ・絵と文を照らし合わせて,筆者のも ・学習の振り返りを行い,めあて
ものの見方を読み取る。
のの見方を捉えようとしている。
(ワ
が達成できたか自己評価をさ
・観点①筆者が絵全体のどの部分を取り
ークシート)
せる。
上げているのかを考える。
・観点②取り上げた部分の何に着目して ・筆者が何に着目しているかを考えて
いるのかを考える。
いる。
(観察)
→「文中に示されている【事実】を取り
上げる」
・筆者が「鳥獣戯画」をどのように評価 ・絵をほめる言葉を探そうとしている。 ・学習の振り返りを行い,めあて
しているのか,表現に着目しながら考
(観察)
が達成できたかを自己評価さ
える。
せる。
① 絵をほめる言葉
・意見や感想を表す言葉を探そうとし
② 絵に対する筆者の意見や
ている。
(観察)
感想を表す言葉。
・評価を表す言葉(絵をほめる言葉,絵 ・評価を表す言葉にはどのようなもの
に対する意見や感想を表す言葉)の中
があるのかを捉えようとしている。
で,自分が使ってみたいと思った言葉
(ワークシート)
を付箋紙に書き出す。全体で共有す
る。
・筆者の表現や構成の工夫とその効果に ・筆者の表現や構成の工夫とその効果 ・学習の振り返りを行い,めあて
ついて考える。
について進んで考えている。
(観察・
が達成できたか自己評価をさ
自分の解説文で使ってみたいと感じ
ワークシート)
せる。
た表現の工夫を考える。
① 書き出し
・自分の解説文に生かそうとしている。
② 文末表現
(観察)
・体言止め ・呼びかけ ・常体
③ 構成
・「鳥獣戯画」の一場面に対して,自分 ・
「鳥獣戯画」の一場面に対して,想像 ・単元の途中での振り返り活動を
なりの見方で絵の解説文を書く。
を膨らませている。
(観察)
行う。学んできたことを生かし
・自分が着目した部分は,黄色の付箋紙
て,「鳥獣戯画」を例に解説文
に書く。
を書かせる。
・絵の評価を表す言葉(ほめる言葉,意 ・絵に対して,事実と想像したことを
見や感想)は,赤の付箋紙に書く。
明確にしながら,付箋に書こうとし
・付箋紙をもとにして,解説文を書く。
ている。
(観察・ワークシート)
・書いた解説文をグループで交流する。 ・交流を通して,様々な考え方に触れ, ・交流を通して,表現や構成の工
・友達の書いた解説文に対して,コメン
自分に生かそうとしている。
(観察) 夫について知ることができるよ
トをし合う。
うにする。
・「富嶽三十六景」の解説文を書
【振り返る①】
く際に生かせるように,表現や
構成の工夫,ものの見方の面白
さに気付かせる。
‐小国 11‐
三
9 ・「冨嶽三十六景」の好きな絵を選ぶ。
・なぜ,その絵を選んだのか,どのよう
な点が印象的だったのかを考える。
10
11
~
12
13
・絵から想像したこと,考えたこと,を
もとに自分なりに評価する。
想像したこと→黄色の付箋紙
評価を表す言葉→赤色の付箋紙
・表現や構成を工夫しながら,「富嶽三
十六景」のよさを伝える解説文を書
く。
・600字以上1200字以内という条
件の中で,解説文を書く。
書きたい内容をまとめる。
・書いた文章を読み合い,感想の交流を
する。
・交流学習メモを用いて,
① その人らしさが感じられたか。
② ものの見方や表現はどうか。
という2つの観点からコメントを
書く。
・解説文に対する自己評価を行う。
・「富嶽三十六景」に興味を持ち,自
分の気に入った絵を選んでいる。
(観
察)
・選んだ理由を分かりやすく示してい
る。(ワークシート)
・選んだ絵に対して,事実と意見・感
想を区別しながら評価している。
(観
察・ワークシート)
・解説文を書くにあたり,自分が
一番想像を膨らませやすい絵
をじっくりと選ばせる。そし
て,なぜその絵を選んだのか,
理由を明確にさせる。
・学習の振り返りを行い,事実を
もとに想像をふくらませるこ
とができたかを自己評価させ
る。
・絵のよさを伝える解説文を工夫して
書こうとしている。
(ワークシート)
・解説文について振り返りを行
い,次時の交流活動への意欲を
持たせる。
・解説文を交流し,友達の文章のよさ ・完成した解説文の交流をさせる
を出し合っている。
ことで,多様なものの見方に気
(観察・発言)
付かせる。
・友達の解説文のよさを知り自分に生 ・同じ絵を選んだ子供同士でグル
かそうとしている。
ープを作ることで,様々な見方
や評価の仕方があることに気付
かせる。
・事実と感想,意見を明確にしながら ・違いを知る中で,自分に生かせ
書いている。(ワークシート)
るとこ ろはどこかを 考えさせ
る。
【振り返る②】
5 学習指導と評価の様子
○学習材との出会い,単元全体のゴールを知る。(第1時)
「富嶽三十六景」
,
甲州三坂水面の絵か
ら,興味関心を高め
た。この絵には逆さ
富士が描かれている
が,子供たちにはそ
の部分を隠した上で,
「どのような逆さ富
士が描かれているの
か」を考えさせた。
自分の考えと実際の
絵とを比較した際に,
「夏の富士山と冬の
富士山が同時に描か
れている。
」
「線対称
に な っ て い な い 。」
「夏と冬という季節
を一枚の絵の中に表
現している。
」などの
図1 学習計画表
気付きが出された。
北斎の表現の面白さ,視点のユニークさに子供たちが気付くことができた。中には遊び心があると
いう感想も見られた。
「富嶽三十六景」の面白さに気付くことができた。学習のゴールは,
「富嶽三
十六景」の解説文を書くということを知ることができた。
学習計画表をもとに,今後の学習の進め方について,全員で確認を行った。※見通し,振り返り
‐小国 12‐
○「鳥獣戯画」と出会い,解説文の書き方を知る。
(第2時)
教員が作成した「富嶽三十六景」の解説文を全員で読み,学習のゴールについて見通しを持たせ
た。子供たちからは,文体が面白いという感想が多く出された。この文体は教材文『「鳥獣戯画」を
読む』の筆者である高畑勲さんの文体を参考にしたことを伝えた。解説文を書くための参考にする
ために,
『
「鳥獣戯画」を読む』を学習していくことを確認した。子供たちにとって,何のために学
習するのかが明確となり,意欲的に教材文に向き合うことができた。第2時の学習は「鳥獣戯画」
の一場面を見て,自分なりにイメージを膨らませる活動を行った。自分の絵の見方,友達の絵の見
方,そして筆者の絵の見方に違いがあることを知ることができた。子供たちは多様なものの見方の
存在に気付くことができた。
○『
「鳥獣戯画」を読む』の文章全体を捉える。
(第3時)
ワークシートを用いて,絵と文を照らし合わせながら,筆者のものの見方について考えた。書き
出しの文をもとに,絵の部分を見ているのか,全体を見ているのかを確認した。子供たちからは,
部分→全体というように,筆者の視点が移るという意見が出された。4年生で学習したアップとル
ーズみたいだという意見も聞かれた。
○筆者はどのように「鳥獣戯画」を評価しているのかを考える。(第4時)
本文中の絵を評価する言葉について①絵をほめる言葉 ②想像したり感じたりしたことを伝える
言葉の2つの視点に分けて,考える活動を行った。絵をほめる言葉は赤のサイドラインを,想像し
たり感じたりしたことを伝える言葉は青のサイドラインをそれぞれ教科書にひきながら,言葉を探
していった。
例:赤:のびのびと,生き生きと,ほぼ正確,躍動している,気品がある。
青:まるで○○のようだ。
○○だとしか思えない。
○○に違いない。
一段落目と二段落目は全体で行い,他の段落については個人での作業とした。その後グループで
の意見交換,そして全体での言葉の共有という流れで学習を展開した。
第4時での意見交換をもとに,
全ての場面について,
どのような評価の言葉があるのかを検討し,
短冊に書いていった。一枚の短冊につき,一つの言葉を書き,黒板に掲示していった。この活動を
行うことで,自分が解説文を書く際の大きな手がかりになると考えられる。短冊も色分けをし,
① 絵をほめる言葉は赤の短冊 ②想像したり感じたりしたことを伝える言葉は青の短冊にそれぞれ書
いていった。
○筆者の表現や構成の工夫とその効果を考える。(第5時)
自分の解説文を書くために,
筆者の表現や構成の工夫と効果について考えることをねらいとした。
本文に対して3つの視点(①書き出しの工夫 ②文末表現の工夫 ③構成の工夫)から考えていっ
た。書き出しの工夫については,
「実況中継をしているみたいで臨場感がある。迫力が出る。」とい
った意見が出された。文末表現の工夫については,体言止め,常体と敬体,呼びかけの言葉のそれ
ぞれに気付くことができた。体言止めをすることで,力強さが出たり,リズムが出てくるといった
‐小国 13‐
意見が出されたり,常体で書くことによって,文章に説得力が出てくるといった意見が出されたり
と,子供たちは表現の効果について,しっかりと捉えることができていた。構成の工夫についても,
部分→全体→部分というような視点の移り変わりの面白さ,一枚の絵を分けて解説する方法の面白
さについて考えることができた。これらの効果を考えることで,解説文を書くときに参考にするこ
とができる。授業の振り返りの中にも「自分が解説文を書くときに参考にしたい。
」といった感想が
多く見られた。
○「鳥獣戯画」の一場面について,自分なりに評価をする。(第6時)
「鳥獣戯画」の一場面
について,自分なりのイ
メージを膨らませながら
評価をする活動を行った。
「鳥獣戯画」の絵巻物の一場面
「富嶽三十六景」の解説
文を書くための練習にな
り,同時にこれまで学ん
できたことを振り返る機
会になるようにした。子
供たちが事実と意見・感
想を明確にしながら評価
できるように,付箋紙を
利用した。黄色の付箋紙
には,ナンバリングをし
ながら,絵のどの部分に
ついて見たのか(事実)
,
そしてそこから何を想像
したのか(意見・感想)
図2 付箋紙を利用した「鳥獣戯画」の評価
を書かせた。
黄色の付箋が書けたら,次に赤の付箋で評価を表す言葉を書いていく。黄色の付箋に対応するよ
うに,ナンバリングをしながら評価を書いていく。黄色の付箋と赤の付箋をつなぐことで,事実と
意見・感想が明確になった文章になる。
○「鳥獣戯画」の解説文を書く。
(第7時)
付箋紙をもとにして,
「鳥獣戯画」の解説文を作成した。分量は原稿用紙2枚分とした。取り組み
の様子はほとんどの子供が,意欲的に書くことができた。学習をした表現の工夫なども随所に取り
入れる中で,自分が膨らませたイメージをもとに解説文を書くことができた。
○「鳥獣戯画」の解説文を交流する。
(第8時)
「鳥獣戯画」の解説文を交流する中で,同じ絵であっても見方が違うことに気付いたり,多様な
表現の方法に気付いたりすることができる。また,そのことを第3次の「富嶽三十六景」の解説文
づくりにも生かすことができる。交流を行うことで,子供たちの表現の幅に広がりが出てきたこと
も同時に感じることができた。
○「富嶽三十六景」の解説文づくりを行う。(第9時~第12時)
第3次として,これまでの学習を生かしながら,解説文づくりを行った。三十六枚の絵の中から,
自分が一番よいと感じた絵について,解説文を書いていく。選んだ絵はそれぞれ違うが,少なくと
も同じ絵を選ぶ子が2人以上になるよう配慮しながら選ばせた。最後の交流をする際に,同じ絵に
ついて解説した子供同士でグループを作るためである。学習は,前時までと同様に,絵に対して付
箋紙を利用しながら,事実,意見・感想を区別しながら評価を行い,文章に表すようにした。
第10時ではワークシートの中心に,自分の選んだ絵を貼り,その周りに付箋紙を利用して絵の
評価を行う。黄色い付箋が,絵のどの部分を見たのか(事実)そこから何を想像したか(意見・感
想)を表している。赤の付箋は,それに対する評価の言葉である。絵を個人個人でじっくり分析す
る作業が解説文を書く際の大きな手がかりとなる。ここでたくさん想像をすればするほど,解説文
‐小国 14‐
の質も高くなっていく。
じっくりと分析を行った。
解説文は600字以上
1200字以内という指
定をした。決められた字
数の中でまとめる力も重
要な力と考えるからであ
る。多くの児童が800
字~1000字の解説文
を書き上げることができ
た。
子供が選んだ,
「富嶽三十六景」の絵
○「富嶽三十六景」の解説
文の交流を行う
(第13時)
学習のまとめとして完
成した解説文の交流を行
った。同じ絵を選んだ児
童同士でグループを作り,
自分とは違ったものの見
図3 付箋紙を利用した「富嶽三十六景」の評価
方や感じ方に気付けるよ
うに工夫を行った。交流にあたっては,読み合うのではなく,聞き合うという活動にした。自分の
書いた文章を声に出して読むことで,より相手に伝わりやすくなると考えたからである。また,交
流学習カードを利用し,①その人らしさが出ていたか,②ものの見方や表現はどうか,という2つ
の観点からのコメントカードに記入を行った。どの児童も友達の解説文のよさを見付けるとともに,
必要があれば書き方のアドバイスも加えるようにした。交流を行ったことで,自分のものの見方と
の違いを知ることができるなど,考え方の多様性に気付くことができたと感じた。これらの活動を
通して,これまでの学習を振り返ることができ,単元全体のまとめとすることができた。子供たち
の感想には,
「いろいろなものの見方,考え方を知ることができた。」「想像したことをもとにして,
しっかりと解説文を書くことができた。
」といった振り返りがなされた。
6.実践のまとめ
本実践を通して,
「見通す・振り返る」学習活動の重要性を再認識することができた。学習計画表を
もとにして,単元の最初に学習の全体計画とゴールを確認することで,何のために学ぶのか,どんな
力を身に付けるのかを子供たち自身が意識することができる。学習の主体者としての立場がより明確
になるのである。
また,毎時間の振り返り,および単元の途中での振り返り,単元の最後での振り返りというように,
振り返りの機会を多く設定した。このことで,毎時間の学習のめあてについて,自己評価をすること
ができ,次時の取組へとつなげることができた。また,交流活動を取り入れることで,自分の作品を
他者の作品と比較することで,自分のものの見方や表現方法について,見直すきっかけになった。こ
のことで,より質の高い解説文へと変容していったことは大きな成果である。
完成した作品を見ると,どの児童も事実,感想・意見を明確に区別した解説文を書くことができて
いた。言語活動を充実させ,見通し・振り返り活動を重視した学習を展開することで,学習者が主体
の授業を展開することができると感じている。
‐小国 15‐