平成26年度豆類調査研究助成事業成果概要 1 調査研究課題名 「インゲンマメかさ枯病菌のレース同定および室内抵抗性検定手法の開発」 2 調査研究組織名・研究者名 地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 中央農業試験場 作物開発部 生物工学グループ 研究主任 小倉 玲奈 病虫部 クリーン病害虫グループ 研究主任 東岱 孝司 地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 十勝農業試験場 研究部 豆類グループ 研究職員 中川 浩輔 3 調査研究の目的 (1)道内の雑豆生産において金時・手亡類は多くの栽培面積を占め、実需者からも その品質は高く評価されていることから、さらなる生産の安定化が強く望まれて いる。インゲンマメかさ枯病は種子伝染性病害であり、インゲンマメ栽培上の最 重要病害である。 (2)これまでに道総研では、場内圃場において病原細菌を複数回接種する選抜手法 を開発しており、その選抜で得られた抵抗性素材に対し「大正金時」等の育成品 種を戻し交配することで、かさ枯病抵抗性を持つ中間母本系統を作出している。 しかし、交配材料にかさ枯病菌が残留している可能性が高いこと、また防除作業、 除草等の農作業により他の育成材料や一般圃場への感染・蔓延のリスクが非常に 高いことから、育成場で積極的に利用できず抵抗性育種は進展していない。これ らの材料を積極的に利用するためには DNA マーカー等の圃場での接種にたよらな い新たな選抜手法が必要であり、DNA マーカーを開発するためには精度の高い検 定手法および抵抗性遺伝資源の選定が必要不可欠である。 (3)そこで、本課題では DNA マーカーを開発するために必要な抵抗性遺伝資源の利 用に向けた道内発生レースの同定、圃場を使用しない通年で利用できる室内検定 手法の開発を行う。 4 調査研究の方法 (1)道内で発生しているかさ枯病菌のレース同定 判別品種(8 品種)の種子増殖を行う。判別品種(8 品種)に過去に道内で分 離したかさ枯病菌およびジーンバンクに登録されている菌を接種し、レースを同 定する。 (2)かさ枯病の室内抵抗性検定手法の開発 人工気象室(15℃、20℃、25℃の 3 水準)を用いて、かさ枯病菌の接種濃度(105 ~107 の 3 水準)等の接種条件を検討する。また、海外で報告されている抵抗性遺 伝資源および道内育成品種について開発した手法を用いて抵抗性を評価する。 5 調査研究の結果及び考察 (1)道内で発生しているかさ枯病菌のレース同定 インゲンマメかさ枯病菌道内分離株の病原性を確認し、病原性が認められた 6 菌 株を用いてレース検定を実施したところ、2 菌株はレース 6、その他 4 菌株はレー ス 8 の 2 パターンに分類された(表 1)。 表1.インゲンマメかさ枯病菌道内分離株のレース検定結果 1) 菌株 MAFF301023 MAFF301616 MAFF301617 Fm-1 SB-1 PP8172 2) + +++ + ++ + +++ + ++ + ++ + ~ ++ Canadian Wonder + + ~ ~ ~ ~ ~ ZAA54 (A52) + + + ~ ++ +- ~ ++ +- ~ +++ +- ~ + + ~ +++ -~+ Tendergreen + + ++ + ~ ++ + ~ +++ + ~ ++ + ~ +++ + ~ +++ Red Mexican UI3 + + + +- ~ ++ + ~ +++ +- ~ + +- ~ +++ +- ~ + 1072 + + +- ~ + +- ~ + - ~ +- ~ +-~+ - ~ +ZAA55 (A53) + + -~+ +- ~ + - ~ ++ + ~ ++ - ~ ++ - ~ +ZAA12 (A43) + - ~ -+ - ~ -+ - ~ ++Guatemala 196-B + + ++ + + ~ ++ +- ~ + + ~ ++ +- ~ ++ レース 6 8 8 8 8 6 6 8 1)10 8cfu/mlに調整した細菌液を噴霧接種した。試験は1菌株あたり2回以上実施した。 2)判別品種の感受性病斑数が「大正金時」の感受性病斑数と比較して、多い(+++)、同等(++)、少 ない(+)、かなり少ない(+-)ことを示す。-+は、病斑形成されるが、感受性病斑であるか判然としな い場合、-は病斑が形成されなかったことを示す。 判別品種 判別基準 (2)かさ枯病の室内抵抗性検定手法の開発 接種温度条件を検討した結果、15℃では病斑形成が悪く、25℃では葉が全体的に 黄化したことから、接種温度は 20℃が最適であった。接種濃度については、すべて の接種濃度で「大正金時」に対して病原性が認められたが、107cfu/ml が「大正金 時」に対する病斑形成がより明確であった。また、1 回の試験に供試する葉の枚数、 判定基準を検討し、切離葉を用いた多針せん刺接種による室内検定法の条件設定を 行った(表 2)。 室内検定法(表 2)にレース判別品種等の切離葉を供試したところ、かさ枯病に 対する抵抗性評価は、一部に評価できない品種があるものの、概ね噴霧接種による 評価と一致した(表 3)。 以上のことから、開発した室内抵抗性検定法は、噴霧接種と併用して菜豆のかさ 枯病抵抗性を評価する必要がある。 表2.切離葉を用いた多針せん刺接種による室内検定手法 項目 内容 ○プランターに供試材料および感受性対照品種「大正金時」を播種 供試材料 接種温度 接種濃度 反復など 判定方法 ○20℃に設定された人工気象室 ○バット内に蒸留水で湿らせたキムタオルを敷いてラップ等で覆い、湿度を保つ。 ○10 7 cfu/ml、接種菌株:PP8172、PDAで25℃・2日間培養 ○1回の試験に葉は供試材料当たり、5枚供試し、試験は2回以上実施する。 ○切離葉は展開した若い葉を用い、葉裏を表にして接種する. ○多針は縫い針を10本束にしたものを用いる。 ○感受性対照として必ず「大正金時」の葉を供試する。 ○「大正金時」の病斑形成の経過を確認し、以下の調査基準で判定する。 指数0:多針の痕跡で若干褐変 指数1:1㎜未満のハローを伴う病斑を形成 指数2:1㎜以上の明らかなハローを伴う病斑を形成 指数平均<0.5:抵抗性(R)、指数平均≧0.5:感受性(S) 表3.多針せん刺による接種による評価 品種・遺伝資源 P.I.150414 姫手亡 大正金時 十育B80号 福勝 福寿金時 canadian wonder A52 (ZAA 54) Tendergreen Red Mexican UI 3 1072 A53 (ZAA 55) A43 (ZAA 12) Guatemala 196-B 噴霧接種による評価 注 2) - - ++ ++ ++ ++ +~++ -~+ +~+++ +-~+ -~+- -~+- - +-~++ 多針せん刺による接種 指数平均 注 4) 評価 0 0 2.0 2.0 2.0 2.0 2.0 1.6 2.0 1.4 R R S S S S S S S S 保留 注 3) 1.0 0 1.6 S R S 注1)接種菌株:PP8172、注2)表1と同じ評価、判別品種は表1の結果を使用 注3)試験の反復により評価が異なる、注4)指数平均<0.5:抵抗性(R)、指数平均≧0.5:感受性(S)
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