糖尿病と認知症

糖尿病と認知症
脳は
神経系の中枢である
2015年3月10日 糖尿病教室
総合内科・認知症サポート医
佐藤克明
著作者:allvectors
• 重さは体重の約2%で、1.2~1.6kg
• 細胞数は大脳で数百億個、小脳で1000億個
• 脳は認知機能や情動などの精神活動において
重要な役割をはたす
認知機能とは、記憶、言語、
理解、計算、思考、判断な
どの知的な能力
(東京都神経研資料より)
• 神経細胞はシナプスを介してつながり合い、複雑な
ネットワークを形成している。
• 脳のエネルギー源はブドウ糖である。血液脳関門が
あるので脂肪酸は取り込めない。
情動とは、愛、喜び、悲し
み、怒り、恐怖、不安と
いった本能的で激しい心
の動きのことで、目や耳な
どの感覚器官から得た情
報に対する脳の反応
大脳の4領域の役割
脳の構造
認知症とは
生後いったん正常に発達した認知機能が
持続的に低下し、
複数の認知障害(記憶障害以外に、失語、
失行、失認、遂行機能障害のうち1つ以上)
があるために、
社会生活に支障をきたすようになった状態。
認知症の代表的疾患
老人斑(アミロイドβ沈着)、神経原線維変化
脳梗塞や脳出血
嗅内皮質・海馬
から新皮質へ病
変が進展する
レビー小体(成分はαシヌクレイン)
TDP-43陽性の神経細胞質内封入体
認知症の鑑別診断
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症における
型認知症における脳
における脳の変性
(提供:東京都健康長寿医療センター老化機構研究チーム)
アルツハイマー型認知症の発症:アミロイド仮説
老人斑・神経原線維変化と
認知症発症の関係
脳科学辞典:アミロイドβ蛋白質より引用
理研BSIニュースより引用
久山町研究から
アルツハイマー型認知症
2型糖尿病における相対危険度は
血管性認知症で2.8倍、アルツハイマー型認知症で2.2倍であった。(1995年データ)
危険因子
久山町研究とは1961年から行なわれて
いる、福岡市に隣接した糟屋郡久山町
の住民を対象にした脳卒中、心血管疾
患などの疫学調査である。
久山町住民は全国平均とほぼ同じ年
齢・職業分布を持っており、偏りのほと
んどない平均的な日本人集団である。
高血圧(40~65歳の中年期) グレードC1
糖尿病(中年期) グレードC1
高コレステロール血症 グレードなし
喫煙
防御因子
運動、適切な食事、余暇活動、
社会的参加など
九州大学大学院医学研究院環境医学分野 ホームページより
重症低血糖の既往と認知症発症リスク
久山町研究における血糖値と認知症発症の関係
糖負荷後2時間値が高い群で認知症の比率が高くなる傾向がみられ、この関連は空腹
時血糖値よりも顕著だった。
4
認知症全般
3
2.47
( p<0.001)
)
基準
1
0
1.50
( p=0.02)
)
2
1.16
( p=0.47)
)
基準
1
1.94
2
ハザード 比比比比
1.21
0.96 ( p=0.44)
)
(p=0.82)
)
ハザード 比比比比
ハザード 比比比比
1.18
( p=0.31)
)
Cox proportional hazard models
補正;
・罹病期間・
などの糖尿病因子
補正;年齢、
年齢、性別、
性別、教育、
教育、BMI・
罹病期間・HbA1cなどの
などの糖尿病因子
4
3
2
3
1.80
1.26
1
1.00
0
101未満
未満
101~
~
108
109~
~
125
空腹時血糖
126以上
以上
( mg/dL)
)
121未満
未満
121~
~
139
140~
~
199
200以上
以上
( mg/dL)
)
OGTT2時間値
時間値
※多変量調整(
、W / H比
比、総コレステロール、
多変量調整(調整因子:
調整因子:年齢、
年齢、性、脳卒中既往歴、
脳卒中既往歴、心電図異常、
心電図異常、BMI、
コレステロール、
血清総蛋白、
血清総蛋白、学歴、
学歴、喫煙、
喫煙、飲酒)
飲酒)
久山町男女1,017名
名(60歳以上
歳以上)
~2000年
年における認知症
久山町男女
歳以上)に対して血糖値
して血糖値を
血糖値を測定後、
測定後、1985~
における認知症の
認知症の発症率を
発症率を検討した
検討した。
した。
Ohara T. et al.; Neurology, 77,1126-1134,2011.より
より作図
作図
0
なし
1回
回
2回
回
3回以上
回以上
重症低血糖の
重症低血糖の回数
平均年齢65歳
型糖尿病患者(
例)に対して、
平均年齢 歳2型糖尿病患者
型糖尿病患者(16,667例
して、重症低血糖の
重症低血糖の既往の
既往の有無と
有無と頻度により
頻度により
平均3.8年間
平均 年間の
年間の認知症発症リスク
認知症発症リスクを
リスクを検討した
検討した。
した。
Whitmer RA.et al.:JAMA,301,15,1565,2009.
2型糖尿病と認知症の関係
インスリンの作用
糖尿病
合併症・
合併症・治療
動脈硬化
・脳梗塞
遺伝素因
細小血管障害
糖毒性
・AGEs
s
・酸化ストレス
酸化ストレス
・潜在性脳虚血
高インスリン血症
インスリン血症
インスリン抵抗性
インスリン抵抗性
アミロイドβ
・アミロイド
β代謝
異常
脳の病理学的変化
脳血管病変
加
齢
アルツハイマー病変
アルツハイマー病変
認知症
• 骨格筋におけるブドウ糖、アミノ酸、カリウム
の取り込み促進とタンパク質合成の促進
• 肝臓における糖新生の抑制、グリコーゲンの
合成促進・分解抑制
• 脂肪組織における糖の取り込みと利用促進、
脂肪の合成促進・分解抑制
• 腎尿細管におけるNa再吸収促進
AGEs(
s(Advanced
Glycation End-products):
):終末糖化産物
s(
): 終末糖化産物
Biessels GJ. et al.: Lancet Neurol., 5, 1, 64, 2006. より
より改変
改変.
糖化反応/終末糖化産物AGEs
• 高血糖により生体のタンパク質に対して非酵素的に
糖化反応が発生し、タンパク質本来の機能を損なうこ
とによって障害が生じる。
• 終末糖化産物AGEsは糖の過剰摂取、運動不足、喫
煙などで生成が進む。
• 体内AGEsは糖尿病性合併症の他、動脈硬化、骨粗鬆
症、後縦靭帯骨化症、筋萎縮、関節リウマチ、加齢黄
斑変性、非アルコール性脂肪肝炎、インスリン抵抗性、
歯周病、アルツハイマー病、神経変性疾患、皮膚疾患、
皮膚老化などのさまざまな疾患の発症に関与する。
• 糖化反応により生じたフリーラジカル等により酸化スト
レスも増大する。
酸化ストレス(Oxidative stress)
• 活性酸素が産生され障害作用を発現する生
体作用と、生体システムが直接活性酸素を
解毒したり、生じた障害を修復する生体作用
との間で均衡が崩れた状態のことである。
• 生体組織の通常の酸化還元状態が乱される
と、過酸化物やフリーラジカルが産生され、タ
ンパク質、脂質そしてDNAが障害されることで、
さまざまな細胞内器官が障害を受ける。
高インスリン血症はアミロイドβの代謝を低下させる
Cognition LInk Project
アミロイドβ
インスリン
アミロイドβの分解
インスリン分解
高インスリン血症とアルツハイマー型認知症
アミロイドβ
アミロイドβ も分解する
分解 する
IDE=
= Insulin Degrading Enzyme
河盛隆造
NHK:きょうの健康(2015.2.23.)
「アルツハイマー病は 脳の糖尿病?」から
神経細胞自体にインスリン
を分泌するものがある
インスリンの作用で血管から
グリア細胞を通じて糖が取り
込まれて神経細胞に運ばれる
本日のまとめ
著しい高齢化社会と変化していく中で、認知症の
増加は社会的な大問題となってきている。
認知症の中でも最も多いアルツハイマー型認知
症については明確な原因が分かっていないが、
糖尿病患者さんからの発症率は明らかに高い。
インスリンをつくる遺伝子や使うための遺伝子
の働きがアルツハイマー病になると低下、さら
にインスリンの働きを抑制する遺伝子の働き
が活発になっている
鼻からインスリンを噴霧し、脳へ
インスリンを送り込み、インスリ
ンの働きを改善させる
糖尿病をはじめとした生活習慣病を克服すること
がアルツハイマー型認知症の発症を予防するこ
とにつながるのは、おそらく間違いないであろう。