我が国の視覚障害者の リハビリテーションの歴史

2015年6月3日 新潟済生会第二病院眼科勉強会
我が国の視覚障害者の
リハビリテーションの歴史
視覚障害リハビリテーション協会
吉野由美子
自己紹介
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私の年齢は67歳
身長126cm
体重66kg
ロービジョン(弱視)
左0.2 右0.02
(矯正視力)
• 大腿骨の発育不全による
肢体障害者
歩行時に杖が必要
私の履歴
• 1956〈昭和31〉年
教育大学付属盲学校(現筑波大学付属)
小学部入学
• 1968〈昭和43〉年
同高等部普通科卒業
~2年浪人後~
• 1970〈昭和45〉年
日本福祉大学社会福祉学部社会福祉学科に
初めての点字受験生として入学
私の履歴続き
• 1977年~88年
東京都児童相談センターにて障害児の問題など
に関わる。その後日本女子大大学院で社会福祉
を専攻、東京都立大学の助手
• 1999年
高知女子大(現高知県立大)に赴任障害者福祉
論などを教えると共に、視覚リハ関係者と共に視
覚障害リハビリテーションの普及活動に携わる
• 2009年~現在
視覚障害リハビリテーション協会長
視覚リハの普及はライフワーク
• 1974年名古屋ライトハウス明けの星声の
図書館に就職。中途視覚障害者の相談に
乗る。
• 「一人でトイレに行けない」「歯磨きもできな
い」など,私の知っている視覚障害者とは
別の人たちに会ってショックを受ける。
• この出会いが視覚リハの普及を私のライフ
ワークに決定する。
リハビリテーションとは
言語の意味
「再びふさわしい状態にする」
語源 中世ヨーロッパにおいて、リハビリテ
ーションとはキリスト教教会から破門され
た人が、破門をとかれて名誉を回復するこ
とをいう。
そこから、リハビリテーションは、「全人間
的復権」を意味する
リハビリテーションの分野
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全人的復権を達成するために
医学的リハビリテーション
教育的リハビリテーション
職業的リハビリテーション
社会的リハビリテーション
機会均等化
社会福祉と同じぐらい広い意味を持つ
ここで扱う我が国の視覚障害者
リハビリテーションの歴史とは
視覚障害者が自らの生活を
良くするために行ってきた
様々な営みを含む
特殊コミュニティー(当道座)
• 9世紀 琵琶法師などの語り部として、また
歌舞音曲を行うものとして細々と生きてい
た。この頃より独自の組織(当道座)成立
• 江戸時代 杉山検校和一検校とその弟子
たちが、梁・灸などの技術を確立し、独自の
階級制を持たせた
• 1871年 明治維新により封建制度解体と
共に当道座解体
あ・は・き教育のための
盲学校設立と経済的自立優先
• 特権的な当道座が廃止され、あ・は・きの
技術を若手に習得させるために学校が必
要となる。
• 1878年に京都府立盲学校の前身となる
盲唖院開設
• 1890年 日本式6点点字が東京盲唖院で
採用(石川倉治)
• 盲唖院は全国に次々と作られ、そこを拠点
として視覚障害者社会が形成される
戦争と中途視覚障害者リハの
芽生え
• 傷痍軍人のための特権的対策がリハの発
祥
• 日新・日露戦争後の傷痍軍人対策として、
傷痍軍人を終生保護し、可能なものには
職業訓練を行う施設として
1906年に廃兵院法が設立
• 1938(昭和13)年、岩橋らの提唱により、
「失明軍人寮」が設立された。
戦後の動き
• 1948年ヘレン・ケラ
ー2度目の来日
• 日盲連結成
• 国リハ・塩原にリハ
施設設立
• 1949年身体障害者
福祉法設立
ヘレンケラーと和製盲導犬
写真日盲犬富士ハーネスに展示
日本盲導犬協会富士ハーネスに
展示されている写真から
・右上の写真 陸軍病院を退院した失
明軍人には鷲のついた白杖が渡された
・左下の写真 和製盲導犬を使って行
動する人
・左下 和製盲導犬と共に戦後汽車で
移動する姿
初期の身障福祉法の目標は
厚生・経済的自立
• 視覚障害リハの目標も経済的自立
• あ・は・き教育を中核とした盲学校教育
• 職業自立を前提とした中途視覚障害者リ
ハビリテーション(収容型で実施)
• 経済的自立が難しい重度・重複障害者は
身体障害者福祉法の対象外、救護施設な
どでの収容
視覚リハ専門職員の養成
• 1965年 日本ライトハウスに「職業・生活
訓練センター」開設
• 1970年 日本ライトハウスにおいて我が
国最初の歩行訓練士養成講習会開催
• 1990年 国リハ学院に「視覚障害生活訓
練専門職員養成課程」設置
ここまでのまとめ
• 視覚障害という特殊なコミュニティーの影響
が強い
• 単独で幼い頃からの視覚障害者中心
• あ・は・き中心の職業訓練
• 日常生活訓練は職業自立が前提
• 施設入所型の訓練中心
• 視覚リハ専門家の養成は、医療分野から
の提起ではなく福祉分野からの提起
制度的な激変
• 2005年(平成17年)障害者自立支援法成立、
翌年施行
• 障害別のサービス体系から3障害を統合したサ
ービス体系に移行
• 2013年障害者自立支援法が改正され 障害者
総合支援法となる
• 法の目的の変更(権利条約批准を目指し)
障害者及び障害児が自立した日常生活又は社会
生活を営むことができるよう、→基本的人権を享有
する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は
社会生活を営むことができるよう、
制度的激変の功罪
• 良い点
障害別に縦割りだったサービスが統合されて、い
わゆる制度の谷間に落ちる障害者が減った。重
複障害の方にサービスが適応されるようになっ
た。
• 悪い点
障害事に違うニーズへの対応ができなくなり、ま
た、単独の障害に対する研究サービスの質の保
証が難しくなった。
視覚障害となる原因の激変と
中途視覚障害者の増加
ロービジョンケアへの注目
高齢視覚障害者の増加
国リハ仲泊先生が作成した資料を許可を得て使用
視覚障害の原因の変化
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1960年代ぐらいまで
栄養失調
トラホーム
細菌性の感染症による
もの(はしかや先天梅毒
など)
↓
比較的幼い頃から障害
になった
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現在のワースト5
緑内障
糖尿病網膜症
網膜色素変性症
加齢性黄斑変性症
脳血管障害によるもの
↓
人生の半ばから高齢に
なってからの障害
社団法人日本眼科医会の研究班が行った研究
報告2009(平成21年9月)
URL
http://www.gankaikai.or.jp/info/20091115_socialcos
t.pdf
「視覚障害がもたらす社会損失額、
8.8兆円!!
~視覚障害から生じる生産性や
QOLの低下を、初めて試算~」
上記研究による
視覚障害者の数
アメリカの視覚障害の定義を使って分析
• ロービジョンとは、良い方の眼の視力が0.5以下 0.1以上
• 失明 良い方の眼の視力が0.1以下
• 視覚障害 ロービジョン+失明
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失明
188,000人
ロービジョン(弱視) 1,449,000人
合計
1,637,000人
年齢別に見ると70歳以上半数
60歳以上が72%
視覚障害者の推移・将来予想
(上記研究からの引用)
2030年には視覚障害者数は200万に達すると推計
一般社会の視覚障害者観が
政策を作る
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視覚障害者=全然見えない人(全盲)
数が少ない(手帳所持者約31万5000人)
使用文字は点字
見えにくい人(ロービジョンのある人)につ
いては、ほとんど一般に理解されていない
↓
• 手帳所持者に対する福祉サービス
• 全盲向けのサービス等
支援をする専門家
• サービス提供をおこなう専門家も,それぞ
れに守備範囲があり、「私たちの扱う範囲
はここ」と考えてしまう。
• 生活に困っている人を全人的に見ないで,
自分の役割の部分だけを取り出して見てし
まう傾向があった。
今理想とされるべき
視覚障害リハビリテーション
サービスとは
リハビリテーションの定義
-1982年国連「障害者に関する世界行動
計画における定義-
• リハビリテーションとは、身体的、精神
的、かつまた社会的にもっとも適した
機能水準の達成を可能にすることに
よって、各個人が自らの人生を変革し
て行くための手段を提供していくこと
を目指し、かつ、時間を限定したプロセ
スである。
障害者の権利に関する条約
第一条 目的
• この条約は、すべての障害者によるあらゆ
る人権及び基本的自由の完全かつ平等な
享有を促進し、保護し、及び確保すること
並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進
することを目的とする。
障害者には、長期的な身体的、精神的、
知的又は感覚的な障害を有する者であっ
て、様々な障壁との相互作用により他の者
と平等に社会に完全かつ効果的に参加す
ることを妨げられることのあるものを含む。
障害者の権利に関する条約
第二十六条 リハビリテーション
• 締約国は、障害者が、最大限の自立並びに十分な身体的、精神的、
社会的及び職業的な能力を達成し、及び維持し、並びに生活のあら
ゆる側面に完全に受け入れられ、及び参加することを達成し、及び
維持することを可能とするための効果的かつ適当な措置(障害者相
互による支援を通じたもの を含む。)をとる。このため、締約国は、特
に、保健、雇用、教育及び社会に係るサービスの分野において、包
括的なリハビリテーションのサービス及びプログ ラムを企画し、強化
し、及び拡張する。この場合において、これらのサービス及びプログ
ラムは、次のようなものとする。
– 可能な限り初期の段階において開始し、並びに個人のニーズ及
び長所に関する総合的な評価を基礎とすること。
– 地域社会及び社会のあらゆる側面への参加及び受入れを支援
し、自発的なものとし、並びに障害者自身が属する地域社会(農
村を含む。)の可能な限り近くにおいて利用可能なものとすること
。
視覚障害リハビリテーションの
目的と年齢別の達成目標
• 視覚を使わなくとも、あるいは見えにくくなってい
ても、生きていけると言う事を、簡単な事で、本
人に自覚を持ってもらって、失った自信を取り戻
してもらう事
• 若年層では、学校への復学・復帰
• 中高年では、職業復帰・社会的な役割を果たせ
るようになること
• 高齢視覚障害者では、特にそのQOLの向上を
図ること
介護とリハは同じ目的を目指す
-人間はいくつになっても発達する権利がある-
• リハビリテーションサービスも介護サービス
もその人がその人なりに自立して生きること
を保障するサービス
• どんなに障害が重度でも高齢者でも介護を
受けながらリハビリテーションを受ける権利
がある
• 65歳になったら、障害者福祉サービスから
切られて、介護サービスになるのはおかしい
まとめに変えて
-今後の視覚障害リハの方向性と
私たち支援者の役割-
1激変した制度と対象像を
理解する
• 高齢視覚障害者が70%以上
• 重複障害者の増加
• 全盲と同様に見えにくいことで困っている
人も沢山いる
•
↓
• 多様な視覚障害者像を踏まえた、視覚リハ
サービスの必要性
• 私たち視覚障害当時者の意識改革の
必要性
2 啓発や情報提供範囲を
特殊コミュニティーから一般へ
• 当道座の業績を踏まえ、視覚障害当時者同士の助け合
いと教育システムがあった。
• 視覚障害となる原因の急速な変化により、単独の幼い頃
からの視覚障害者が現象、中途障害者が増加、
高齢の中途視覚障害者の急増
• ロービジョン(視覚が使える方たち)ケアの必要性
↓
• 特殊コミュニティー内部での支援システムの崩壊
• 高齢・重複障害者などのリハビリには多職種の専門家の
関わりが必要
↓
一般社会への広い啓発活動が必要
↓
一例
• 高齢で中途視覚障害になった方のリハの目標は、住み
慣れた地域で安心して、充実した毎日を送ること
•
↓
• 生活訓練指導員が訓練をすることだけでは、上記目標は
達成できない
• 家族・ケアマネ・ホームヘルパー等日常の介護者が視覚
障害の特性に合ったケアをすることが重要
•
↓
• 多様な専門家に視覚障害の特性とケアの方法を指導す
るのも、視覚リハ専門家の仕事
今後の視覚リハ専門家の役割
• 見えない・見えにくい方に対するケアは、世間にほとんど理解さ
れていない。一方高齢社会になってロービジョンのある方の増加
に伴い視覚リハの方法・技術に関するニーズが高まる。
視覚障害
リハビリテーション
視覚リハ専門家
・専門家として社会へ啓発
・業種を超えた他職種間連携
・地域の支援者をコーディネート
他職種による
サービス
効果的な
視覚障害
リハビリテーション
ご静聴ありがとうございました
視覚障害リハビリテーション
協会について
• 視覚障害者を支援する専門家や当事者が
互いの実践を交換し学び合う場所
• 協会ホームページ
http://www.jarvi.org/
• 一般会員年会費5000円
• 学生会員は年会費2000円
• 第24回大会は福島で、6月27と28日開催
詳しくはこちら、 http://nponiji.com/
視覚リハや私の活動に興味のある方は
私のブログ「吉野由美子の考えている
事している事」を見て
http://yoshino-yumiko.net/
右の写真はブログのトップ
ページの写真
私がダイビングをしている
所700本記念ダイブ