特集Ⅱ 全国労働衛生週間特別企画 産業医との正しい付き合い方 ― 失敗しない関係づくりとは ― 〈執筆〉 ㈱プラネット 代表取締役 根岸 勢津子 最終回 どのように見つけるか? 悪質機関は厳しい契約書で撃退 である。それぞれのメリット・デメリット について見てみよう。 これまで、産業医の業務や、依頼内容な まず 1 つ目の、定期健康診断を行って どを見てきたが、そもそも企業のことをよ いるところからアプローチを受けるパター く理解し、ともに従業員の健康管理にまい ン。これは割とよくあるケースで、これか 進してくれる医者を、どうやって見つけた ら産業医を探そうか…という程度の規模の らよいのだろうか。今回は、産業医との出 会社は経験があるかもしれない。健診も事 会いや、契約形態の種類などについて考え 後措置もワンストップで行えるので、一見 てみたいと思う。 便利そうだが注意が必要である。まず、そ まず、産業医との出会いは大きく分けて のような病院、クリニックは、企業や団体 4 種類ほどある。1つは、定期健康診断を の健康診断を主力としているところもあ 行っている病院やクリニックから、産業医 り、産業保健というジャンルでは同じだが、 業務もどうですか、とセールスされる場合。 普段の従業員の健康管理やメンタル不調に 2 つ目は、企業の担当者が自ら近隣の病院 よる休職・復職時の判断など、企業が依頼 やクリニックに出向き、産業医をお願いす したいことに長けているかどうか疑問であ る場合。3 つ目は、知り合い企業や自社の る。 役員からの紹介。4 つ目は産業医を紹介し また驚くべきことに、このような機関に てくれる専門業者に依頼する、という方法 勤務する医師は本業の健康診断で忙しく、 14 《安全スタッフ》2013・10・1 特集Ⅱ 産業医との正しい付き合い方 名ばかり産業医はお断り! 名ばかり産業医(名義貸し)を前提とした 難の業であろう。ただ、1 回目の原稿で書 セールスを公然と行うところもある。これ いたとおり、基本的に開業医は自分のクリ を防ぐ方法は、最初に企業が希望する産業 ニックの経営と診療で日々忙しく、産業医 医業務を羅列した契約書のひな形を見せる に本腰を入れてくれることは望めない。 ことである。一部の悪質な機関などは、契 3 つ目の、知り合い企業や、自社の役員 約書も一方的なものを用意しているはずで からの紹介であるが、メリットとしては、 あるから、こちらから厳しい内容のものを あらかじめ人柄や料金などをある程度知る 見せれば、一発で撃退できること間違いな ことができるので、安心感がある。デメ しである。 リットとしては、断りにくいというのがあ 助言できない人は選ばない るだろう。別によいドクターなら断る必要 はないが、知り合いからの紹介だと、その 2 つ目の、近隣の病院やクリニックにお ドクターの範疇外のことは頼みづらいし、 願いする方法であるが、そもそも産業医の ちょっとした考え方や方針の違いも、こち 資格を持っている医師が在籍しているかど らから歩み寄ることが多くなるのではない うか不明でもあり、いささか心もとない。 か。能力が劣ると分かっていても、しがら ただし、50 人未満の従業員しかいない、小 みで断りきれないなどというのは、労務リ さな拠点で何らかの面談が必要となった場 スクマネジメントを担う人事部の風上にも 合のために、その拠点の近くに内科の医師 置けない判断であろう。誰の知り合いであ を見つけておく必要はある。 ろうと、産業医の本来業務である、従業員 過重労働者の面談や、健康診断の事後措 置としての面談は、法律では「産業医」と は書いておらず、「医師」とだけあるので、 これでも法に触れることはない。しかしな 個別の就労判定や企業への助言ができそう にないドクターは、選んではならない。 健康管理を請け負う専門業者活用も がら、本社を中心とした、産業医業務を任 4 つ目の専門業者に紹介してもらう、と せるとなると、自力で一から探すのは至 いう方法はどうであろうか。ただ、間違わ 《安全スタッフ》2013・10・1 15 専門業者が産業医を送り込むことも ないで頂きたいのは、ここでいう「紹介」 とは、人材紹介の紹介、ではない。専属(常 勤)の産業医を探す場合は人材紹介会社に 頼る方法もあるが、毎月訪問型の嘱託産業 医の場合、直接雇用するわけではない。 2 万円ほど高くなる点である。 企業の習熟度に合わせて ここまで、いろいろな産業医の見つけ方 を挙げてきたが、その企業の習熟度に合わ 専門業者とは、企業の健康管理業務を丸 せて方法も選ぶべきである。産業保健に関 ごと請け負ってくれる業者のことで、請負 する知識が浅く、過重労働が多い、小さな 業務内容の一部として、産業医を送り込む、 拠点がたくさんある、という企業は、やは ということもしてくれるわけである。この り仲介会社に入ってもらい、業務を丸ごと 場合のメリットは、産業医に依頼しづらい アウトソーシングしたほうが漏れがないで ことも仲介会社に依頼できる、産業医一人 あろう。逆に、健康管理体制が整っており、 の専門性に頼らず、仲介会社に集積された、 産業医も複数名いて、あと1人追加したい 多くの企業の健康管理のノウハウや知識を などの場合には、知り合い企業からの紹介 活用できる、といったところであろう。 など、自力で見つけてもよいと思われる。 特に、産業医選任が初めての会社などは、 さて、3回にわたり産業医の選任、運用、 衛生委員会の開き方から、衛生管理者の受 そして付き合い方について書いてきたが、 験方法まで、併せて行う業務がある。その なによりも肝心なのは、企業の受け入れ態 すべてに精通したプロが一人ついてくれれ 勢である。産業医も、その辺を見極めて力 ば、医師とのコミュニケーションも取りや 量を発揮する。日ごろから企業側も安全衛 すく、初めの段階から法に則った正しい産 生に関して勉強し、産業医の就労判定を正 業保健業務がスタートできるというわけ しく導き出せるようなルールを整えておく だ。デメリットとしては、通常の産業医委 べきである。 託料に、仲介会社に支払う手数料が上乗せ されるので、通常の契約よりも、月額1~ 16 《安全スタッフ》2013・10・1 この連載が、少しでも読者のみなさんの お役にたてば幸いである。
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