ブリッジ・センサーの 設計をスムーズに行う方法 • 必要な場合には、外付け抵抗を使ってブリッジをシャントし ます。しかし、生産工程が自動化されていれば、この方法は 現実的ではありません。工場出荷後に調整を行うこともでき ません。 • 第 1 段のゲインを減らし、REF の電圧をトリミングするこ とによってオフセットを除去し、さらに第 2 のアンプ回路を 著者:Gustavo Castro、Scott Hunt 追加して必要なトータルのゲインを得ます。 計装アンプは、センサーが生成する電気信号をデジタル化し、保 存し、プロセス制御に使用できるようにするための前段階の調整 をします。通常はセンサー信号が小さいため、アンプを高ゲイン で動作させる必要があります。さらに、信号が大きな同相電圧に 重なっていたり、大きな DC オフセットの中に埋もれていたりす ることもあります。高精度計装アンプは高ゲインを提供し、2 つ の入力電圧間の差を取り出して増幅しながら、両方の入力に共通 する信号(同相信号)を除去することができます。 ホイートストン・ブリッジはその古典的な例ですが、バイオセン サーなどのガルバニック・セルも同様の特性を備えています。ブ リッジ出力信号は差動であるため、高精度の計測には計装アンプ の方が適しています。理論的には無負荷のブリッジ出力はゼロで すが、これは 4 個の抵抗すべてが全く同一の場合に限られます。 図 1 のようにディスクリート抵抗で構成されたブリッジを考えて みましょう。ワーストケースの差動オフセット VOS は次のように なります。 TOL VOS = ±VEX 100 • 第 1 段のゲインを減らし、高分解能 ADC で出力をデジタル 化し、ソフトウェアでオフセットを除去します。 最後の 2 つの方法でも、当初のオフセット値からの変動が最悪の 場合を考慮して、第 1 段で得られる最大ゲインをさらに減少しな ければなりません。これらのソリューションでは、高 CMRR と 低ノイズを実現するために第 1 段のゲインを大きくする必要があ り、そのために消費電力、使用基板面積、コストが増えるため、 理想的とは言えません。それに加えて、DC 信号や非常に動きが 遅い信号を測定する場合には AC カップリングを使うことができ ません。 TYPICAL SINGLE CHIP –IN RG (1) RF OUT RF ここで、V EX はブリッジ励起電圧で、TOL は抵抗の許容誤差 (%)です。 +IN REF VEX 図2. オペアンプ3個で構成した計装アンプ R ± 𝚫R R ± 𝚫R R ± 𝚫R BRIDGE R ± 𝚫R OFFSET (V ) OS AD8237 や AD8420 などの間接電流帰還(ICF)計装アンプを 使用すれば、オフセットを除去してから増幅することができます。 ICF の原理回路を図 3 に示します。 𝚫R = R TOL(%)/100 図1. ホイートストン・ブリッジのオフセット OUT たとえば、個々の素子の許容誤差が 0.1% で、励起電圧が 5V の 場合、差動オフセットは最大で約 5mV にもなります。必要なブ リッジ感度を実現するためのゲインを 400 とすると、アンプ出力 でのオフセットは ±2V になります。アンプに同じ電源を使用して いて、その出力がレール to レールでスイングしても、出力スイ ングの 80% 以上がブリッジのオフセットに使われてしまいます。 電源電圧の低減化が進む業界で、これでは課題が大きくなるばか りです。 図 2 に示すように、3 個のオペアンプで計装アンプを構成する従 来型のアーキテクチャでは、入力に差動ゲイン段があり、その後 段に同相電圧を除去する減算器が配置されます。ゲインは最初の 段で得るため、オフセットも必要な信号と同じ率で増幅されます。 これを除去する唯一の方法は、リファレンス(REF)端子にオフ セットと逆の電圧を印加することです。しかし、この方法の主な 制約は、REF の電圧を調整しても、アンプの第 1 段ですでに飽 和していればオフセットを補正できないことです。この制約を回 避するには、以下のような方法があります。 +IN + – FB –IN – + REF R2 R1 図3. 間接電流帰還型の計装アンプ この計装アンプの伝達関数は、オペアンプを 3 個使用する従来型 の設計と同じで、次式のようになります。 R VOUT = 1 + 2 (V+ IN − V− IN ) + VREF R1 2 つの入力間の電圧が帰還(FB)端子とリファレンス(REF)端 子間の電圧に等しい時にアンプへの帰還が成立するため、この式 は次のように変形できます。 R VOUT = 1 + 2 (VFB − VREF ) + VREF R1 Analog Dialogue 48-01 (2) www.analog.com/jp/analogdialogue (3) 1 すなわち、帰還端子とリファレンス端子間にオフセットと等しい 電圧を印加すると、入力オフセットが大きい場合でも、出力を 0V に調整できることを意味します。図 4 に示すように、低コス トの DAC や、組込みマイクロコントローラからの PWM 信号に フィルタをかけた簡単な可変電圧源から、抵抗 R A を介して帰還 ノードに小電流を注入することによってこの調整ができます。 VEX OUT A1 FB REF R2 RA R1 設計手順 式 (3) から、次式のように R1 と R2 の比でゲインを設定します。 R G = 1 + 2 (4) R1 この抵抗値は設計者が決める必要があります。大きい値では消費 電力と出力への負荷が小さくなり、小さい値では FB の入力バイ アス電流と入力インピーダンスによる誤差を制限できます。R1 と R2 の並列合成抵抗値が約 30k Ω を超えると、抵抗がノイズ源 として影響し始めます。表 1 に推奨値を示します。 表 1. さまざまなゲインに対する推奨抵抗値(1% 抵抗) R1 (k𝛀) R2 (k𝛀) ゲイン 短絡 49.9 20 10 5 2 1 1 1 1 49.9 80.6 90.9 95.3 97.6 100 200 499 1000 1 2 5.03 10.09 20.06 49.8 101 201 500 1001 R A の値を簡単に求めるために、デュアル電源動作で REF 端子を 接地し、バイポーラ調整電圧 VA は既知の値であると想定します。 この場合、出力電圧は以下のようになります。 VOUT R R R = 1 + 2 + 2 VIN − 2 VA (5) R1 R A RA VA から出力へのゲインが反転することに留意してください。VA が増加すると、出力電圧は抵抗 R2 と R A の比率に応じて低下しま す。この比率によって、所定の入力オフセットに対して調整範囲 を最大限に広げることができます。この調整範囲は増幅前のアン プ入力を基準としているため、低分解能の信号源を使っても微調 整ができます。通常、R A は R1 よりはるかに大きいため、式 (5) を次のように近似することができます。 VOUT R R = 1 + 2 VIN − 2 VA (6) R1 RA R R Gain = 1 + 2 + 2 (8) R1 R A VA 図4. オフセットを除去した高ゲインのブリッジ回路 なし R R VA ( MAX ) (7) RA = 1 2 R1 + R2 VIN ( MAX ) ここで、V IN(MAX) はセンサーの予想される最大オフセットです。 式 (5) から、調整回路を挿入すると入力および出力間のゲインが 変化することもわかります。多くの場合この影響はわずかです が、ゲインの式を次のように書き直すことができます。 WHEATSTONE BRIDGE BRIDGE OFFSET 所 定 の 調 整 電 圧 範 囲 VA(MAX) で 最 大 の オ フ セ ッ ト 調 整 範 囲 V IN(MAX) を可能にする R A の値を求めるには、次の式のように VOUT = 0 に設定して RA について解きます。 一般に、単電源のブリッジ調整アプリケーションでは、リファレ ンス端子の電圧は信号グラウンドより高い値にします。これは、 ブリッジ出力が正負の間でスイングする場合は特に重要です。リ ファレンス電圧が、図 5 に示すように抵抗分圧器やバッファなど の低インピーダンス・ソースによって V REF にドライブされる場 合、式 (5) は次のようになります。 R R R VOUT = 1 + 2 + 2 VIN − 2 (VA − VREF ) + VREF (9) R1 R A RA 最初の式で VOUT と VA を V REF 基準でみると、これと同じ結果が 得られます。この場合は、式 (7) の VA(MAX) も VA(MAX) − V REF に置き換えてください。 設計の例 図 4 に示すような単電源ブリッジ・アンプの設計を考えてみま しょう。この回路では、ブリッジとアンプの電源に 3.3V を使用 します。フルスケールのブリッジ出力は ±15mV で、オフセット は最大で ±25mV の範囲とします。必要な感度を得るには、アン プのゲインを 100 倍にする必要があります。ADC の入力範囲は 0V∼ 3.3V です。ブリッジの出力は正または負になるので、出力 は電源中央値の 1.65V を基準にします。単純にゲインを 100 とす ると、アンプ出力はオフセットだけで− 0.85V∼+4.15V の範囲 となり、電源レールを超えてしまいます。 この問題は、図 5 に示す回路を使用することで解決できます。ブ リッジ・アンプ A1 は、AD8237 などの ICF 計装アンプです。アン プ A2 と R4 および R5 で A1 のゼロ・レベル出力を電源中央値に設 定します。AD5601 8 ビット DAC は R A を介して出力を調整し、 ブリッジ・オフセットをゼロに補正します。次いでアンプの出力 は、AD7091 マイクロパワー 12 ビット ADC によってデジタル化 されます。 +3.3V +3.3V WHEATSTONE BRIDGE +VS BRIDGE OFFSET +3.3V AD8237 FB REF –VS +3.3V R5 R3 OUT A1 +3.3V R2 AD7091 C1 R1 +1.65V A2 AD8505 R4 +3.3V AD5601 VDAC RA 図5. 単電源動作用に作り直したオフセット除去回路 2 Analog Dialogue 48-01 表 1 からは、ゲインを 100 にするには R1 と R2 を 1k Ω と 100k Ω に す る 必 要 が あ る こ と が わ か り ま す。 こ の 回 路 に は DAC が あ り、 ス イ ン グ 幅 は 0V か ら 3.3V、 す な わ ち 1.65V の 基 準 電 圧 で ±1.65V で す。R A の 値 を 計 算 す る に は 式 (6) を 使 い ま す。VA (M A X ) = 1.65V、V I N (M A X) = 0.025V の 場 合、R A = 65.347k Ω で す。 抵 抗 の 誤 差 を 1% と す る と、 最 も 近 い 値 は 64.9k Ω です。ソースの精度や温度変動によって生じる誤差に対 するマージンが含まれていませんが、その対策として低コストで 簡単に手に入る 49.9kΩ の抵抗を使用できます。トレードオフは、 調整分解能が粗くなることです。これによって調整後のオフセッ ト誤差がわずかに大きくなります。 式 (7) から 103 倍という公称ゲイン値が得られます。目標値の 100 倍に近いゲイン値を得たい場合は、R2 の値を約 3% 減らし て 97.6k Ω とするのが最も簡単な方法です。R A の値にはほとん ど影響しません。この新しい条件では公称ゲインが 100.6 倍とな ります。 DAC は ±1.65V スイングするため、合計オフセット調整範囲は、 R A と並列接続の R1 と R2 で形成される分圧器によって与えられ、 次式で計算することができます。 R1 || R2 VA( MAX ) = VA _ RANGE = R1 || R2 + R A (10) 2 = 64.2 mV ≈ 250 μV 256 バイポーラ 無信号時電源電流 130μA 80μA 電源電圧範囲 1.8V∼5.5V 2.7V∼36V −VS − 0.3V∼ −VS − 0.15V∼ +VS − 2.2V 入力電圧範囲 (ゼロドリフト) AD8420 最大差動入力電圧 +VS + 0.3V ±(VS − 1.2)V ±1V レールtoレール出力 可 可 114dB 100dB オフセット電圧 75μV 125μV オフセット電圧ドリフト 0.3μV/°C 電圧ノイズ・スペクトル密度 68nV/√Hz 0.005% 0.5ppm/°C 10kHz(HBW 1μV/°C 55nV/√Hz 0.1% 10ppm/°C CMRR (G = 100、 dc∼60Hz) −3dB帯域幅(G = 100) モード) 2.5kHz 8ピンMSOP 8ピンMSOP 参考文献 (11) 調整分解能が 250μ V の場合、出力における最大残留オフセット は 12.5mV です。 R3 と C1 の値は、ADC のデータシートの推奨値または参考文献 2 をもとに決めることができます。AD7091 を使用して 1MSPS でサンプリングを行う場合、値は 51Ω と 4.7nF になります。サ ンプリング・レートを下げてノイズや折り返しノイズの影響をさ らに小さくするときは、もっと大きい抵抗とコンデンサの組み合 わせを用いることができます。 この回路のその他の利点としては、製造時または取付け時にブ リッジのオフセットを調整できることです。環境条件、センサー のヒステリシス、あるいは長期的ドリフトによってオフセット 値が変化した場合は、回路を再調整できます。 AD8237 の入力は真のレール to レールであるため、電源電圧が 非常に低いブリッジ・アプリケーションで最もその威力を発揮 します。もっと高い電源電圧が必要な従来型の産業用アプリケー ションには AD8420 が適しています。この ICF 計装アンプは 2.7V∼ 36V の電源電圧で動作し、消費電流は 60% 減少します。 Analog Dialogue 48-01 AD8237 CMOS 技術 パッケージ サイズは次のようになります。 n 仕様 ゲイン・ドリフト ±25 mV の最大ブリッジ・オフセットに対して調整範囲が ±32.1 mV になるということは、±28% の調整マージンが得られること になります。8 ビット DAC を使用する場合、調整のステップ・ 2 × VIN ( MAX ) 表 2. AD8237 と AD8420 の比較 ゲイン誤差(G = 100) 0.99 kΩ (±1.65 V ) = ± 32.1 mV 0.99 kΩ + 49.9 kΩ VA _ STEP = この 2 種類の計装アンプの比較を表 2 に示します。スペックの最 小値と最大値が設定されている場合は、その値を表記しています。 詳細や最新情報については、製品のデータシートをご覧ください。 AN212 Application Note. Handling Sensor Bridge Offset. Honeywell International Inc., Rev 05-05. H M C1001/ H M C1002/ H M C1021/ H M C1022 1- a n d 2- A x i s M a g n e t i c S e n s o r s D a t a S h e e t . H o n e y w e l l International Inc., 2008. Kitchin, Charles and Lew Counts. A Designer’s Guide to Instrumentation Amplifiers. 3rd Edition. Analog Devices, Inc., 2006. NPC-410 Series Data Sheet. GE Sensing, 2006. Product Training Module. Indirect Cur rent Feedback Instrumentation Amplifier Applications Guide . Digi-Key Corporation. Walsh, Alan.“Front-End Amplifier and RC Filter Design for a Precision SAR Analog-to-Digital Converter.”Analog Dialogue, Volume 46, 2012. 著者 Gustavo Castro [[email protected]] マサチューセッツ州ウィルミントンの高精度シグナ ル・コンディショニング・グループに所属するアプリ ケーション・エンジニアです。2011 年 1 月のアナロ グ・デバイセズ入社以前は、10 年間デジタル・マル チメータや DC ソースなどの精密計測機器設計に従事していまし た。2000 年にメキシコのモンテレイ工科大学で電子工学の学士 号を取得しました。これまで 2 件の特許を取得しています。 Scott Hunt [[email protected]] マサチュー セッツ州ウィルミントンのリニア製品グループに所 属する製品アプリケーション・エンジニアです。レ ンセラー工科大学で電気工学の学士号を取得した後、 2011 年にアナログ・デバイセズに入社しました。計 装アンプ、差動アンプ、熱電対アンプなどの集積回路高精度アン プが専門です。 3
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