第10回 健育会グループ チーム医療症例検討会 in 熱川 演 題 名 『学ぶ力の集大成』~スタッフの使命感が奇跡を起こした症例~ 施 設 名 西伊豆健育会病院 発 表 者 野々上 智 概 要 【はじめに】 クラッシュ症候群が疑われる患者の搬送依頼から、 万全の状態で受け入れたのち、クラッシュ症候群を 否定し三次救急病院へ搬送するに耐えうるよう状態 を安定化させ、ドクターヘリにて無事に三次救急病 院へ搬送することができた症例について報告する。 【症例紹介】 62 歳 男性 診断名:出血性ショック 右下肢開放性骨折 左大 腿骨骨折 第1報 10:00 伐採作業中に落ちてきた大木に右大 腿部を挟まれ受傷。受傷場所はドクターヘリのラン デブーポイントから 40 分以上の山中。フライトド クター現場到着後、医療活動を開始、右大腿部の変 形著明、右下肢末梢動脈触知不能。まだ救出に時間 がかかりそう。 第2報 12:00 ただいま救出された。意識清明、血 圧 109/80mmHg、 心拍数 110/分、 呼吸 30/分、 SpO2 89%(リザーバーマスク 10L/分)、1ルート確保。一 時的に意識消失あったが直ぐに改善。到着まで 40 分程度の予定。 第2報を受けた時点で研修医2名を含めた8名の医 師が受け入れ体制を整えていた。 【経過】 12:40 到着。呼びかけにうなずく。意識レベルJC S1桁レベル。橈骨動脈触知微弱で冷感あり。収縮 期血圧64mmHg、 心拍数127/分、 呼吸39/分、 SpO2 97%(リザーバーマスク 10L/分)。 来院と同時にスタッフが同時並行でモニター装着、 3ルート確保、採血、エコー(FAST)、ポータブルレ ントゲンなどの処置が進む。気道は開通しているが 頻呼吸あり、出血性ショックが考えられ、直ちに輸 血開始。緊急血液検査より高カリウム血症は幸いな かったが、ヘモグロビン 7.7g/dL と貧血は進行して いた。 その後、重症ショックとして気管挿管、右下肢開放 骨折・左大腿骨骨折についてはシーネ固定、輸血、 補液、保温でバイタルサインは安定。 大動脈遮断バルーン(IABO)挿入に備えて左大腿動 脈から4Frシースを挿入した。 フライトドクターは転院先の確保に専念できた。 【結果】 当院へ患者到着までには、常勤医師6名、後期研修 医1名、初期研修医1名、看護師、放射線技師、検 査技師が救命処置にあたった。 13:15 転院先が決定 13:20 フライトドクターと共に当院を出発 当院滞在時間は約 40 分であった。 【考察】 この症例は、当院の「学ぶ力の賜物」と「僻地医療 の経験からの備え」 「医師の確保」が最大限に活かさ れた。 常勤医師・研修医の質として「救急を断らない」と いう理念のもと「僻地での総合診療」が学べるとい うことで、熱心で優秀な先生方が集まっている。 スピードが求められる重症外傷の初期対応では、同 時並行に進行していく流れを医師はもちろん看護師 も理解していた。 更にコメディカルの力が加わった。 様々な症例から(高次医療機関への搬送に約 90 分) O型血液の緊急輸血の導入と備蓄が活きたこと。 人的資源の豊富な都市部の救命救急センターでは、 何でもない日常的な風景かもしれない。しかし、僻 地の民間病院で救命救急センター並みの初期対応が 繰り広げられたことがミラクルであり、西伊豆健育 会病院のチーム医療ではないでしょうか。
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