知の知の知の知 - 社会福祉法人大阪手をつなぐ育成会

い~な
診療所
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研究所
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つなぐの
さくら
大阪+知的障害+地域+おもろい=創造
知の知の知の知
社会福祉法人大阪手をつなぐ育成会 社会政策研究所情報誌通算 2360 号 2015.3.10 発行
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30 代からの友人づくり、コツは自分に正直になること
日本経済新聞 2015 年 3 月 9 日
30 代からの親友づくりのコツは、
“期待しすぎない”“依存し合わない”こと。実はこれ
って、人生を生きやすくするコツでもあるんです。
「親友」をつくることで、After30 が楽
しくなるコツを教えます。
■“選ばれる”ための競争が女同士を難しくする
ライフスタイルが変わって、それまでの友達とうまくいかなくなったり、疎遠になった
り…。年齢を重ねるごとに仲のいい女友達が減り、寂しくなってしまった人も多いのでは?
「一般的に、女性同士の友情とは、みんながあ
る意味横並びだから成立するもの。その均衡が崩
れると、疎遠になったり壊れたりするのはよくあ
ることです」と話すのは、精神科医の水島広子さ
ん。原因は、多くの女性の中にあるいわゆる“女”
の特徴にあるという。「伝統的に女性は男性から
“選ばれる性”。プライベートでも仕事でも、うま
くいっている人は“選ばれている”ことが多い。
友人が自分より“選ばれる女性”になると関係が
難しくなります」
女同士の友情を育むためには、同性に警戒心を与えないこと、つまり、抜け駆けして選
ばれようとする“女”の部分をなくすことが必要だという。「女友達をつくるために“女っ
ぽくない私”になることは、30 代以降を生きやすくする鍵にもなる」と水島さんは考える。
具体的には、ファッションやメイクから、相手に何を伝えるかまで、判断基準を「人に
好かれること」より「自分がどうしたいか」に重点を置いてみる。「人に好かれることだけ
を基準にすると、状況が変わるたびに意見も変わって、裏表がある人のように見え、警戒
心を抱かせます。一方、自分の意見をはっきり言うと、ときに『この人とは気が合わない』
と思われることもあるかもしれませんが、長い目で見れば、正直で信頼できる人という評
価を得られます」
いい親友をつくるためには、人目を気にしすぎる“女”の特徴を手放し、自分に正直に
なってみる。すると、仕事も含め、あらゆる場面でストレスがなくなることに気づくはず
だ。
「30 代からの親友づくりは、実は、自分の対人関係ストレスをなくし、生きやすくなる
ことにもつながるのかもしれません。だからこそ、女友達をつくる努力はしたほうがいい
と思います」
「親友」に出会うための3カ条
【1】
「すべてを共有できる」という幻想を捨てる
女性は仲がいい人に対して「私はこの人のことをよく分かっている」と考えがち。「その
ため、自分の意見を受け入れられないと裏切られた気持ちになり、友情が壊れます。相手
は自分と違うという考えを持つことが大切」
【2】
「親友」がいつかいなくなる可能性を受け入れる
大人の友情は、共感できる相手と育まれることが多い。困難に直面しているときに出会
った場合、それを乗り越えると離れてしまうことも。「必要なときに必要な人が現れるのも
大人の友情。別れを恐れないようにしましょう」
【3】
「女らしさ」の呪縛(じゅばく)から解放される
「ファッションや言動における、過剰な女らしさは同性を警戒させます。男性にモテた
り、上司にかわいがられたりと、一時的にトクすることはあっても最終的には敵を増やし
ますから、手放していくほうが得策です」
■こんな“女っぽさ”は封印すべし
・自分の「いいこと」をSNSでアピールする
フェイスブックなど、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で自分のこ
とを書き込むときは要注意。
「いいことばかりを書き込んで、現実の自分を“盛る”行為は
嫉妬を生む原因になります」
・巻き髪、胸元パックリ…男性にアピールする外見
露出度が高い服や巻き髪にうるうるグロスなど、モテを意識しすぎた外見は封印。流行
のシンプルなファッションやナチュラルメイクがおすすめ。
・自分の意見でねじ伏せる
「
“アドバイス”のつもりで意見を押しつけるのが、女性の特徴。1つの考えとして意見
を言ってもいいけれど、最終的には相手の決断を尊重して」
・
「分かる、分かる」と何にでも同意
友人関係だけでなく、上司に対しても、自分の意見を言わず「分かる、分かる」と同意
ばかりするのは、
“取り入っている”と、不快に思われることも。
~親友をつくるための4ステップ~
「仕事に真剣に打ち込んだり、仕事と家庭との両立に悩んだりと、ポジティブな壁にぶ
つかりやすい 30 代は、
“いい親友”ができやすい時期」
(水島さん)。ここでは“合う相手”
を見つける方法を伝授。
ステップ1: いい意味で“似た者同士”で群れる
キャリアで目指す方向が一緒、ワークライフバランスの考え方が似ているなど、
“似た境
遇”の人と複数で集まろう。
「彼ができないなど、ネガティブな内容のつながりは、足の引
っ張り合いになるのでNG」
●例えばこんな集まりに参加
仕事やスキル磨きの勉強会
異業種交流会や、得意な英語のボランティアサークルなど、有益な情報を得たり、一緒
にスキルアップしたりする目的の集まりに。
ワーママ同士のランチ会
仕事と子育てとの両立は、大変だけれど“子どもを育てる”というポジティブな目的と
助け合いが発生するので、いい関係ができやすい。
(NG)悪口やグチなど、ネガティブな話題ばかりの女子会は、
“みんなが同じようにネガ
ティブ”である状況を強要する力が働くのでNG。
ステップ2: 信用できる相手か会話から見極める
「話したいこと、悩んでいることが深くなりがちな大人の親友関係では、相手が信用で
きるかどうかも重要。最初から距離を縮めず、会話のなかで相手が信用できる人かどうか
を見極めることも大切です」
●ここをチェック
人の悪口や暴露話ばかり言う
「他人の悪口を言う人は、あなたのこともほかで悪く言います」。人の秘密を“ここだけ
の話”と話してしまう口の軽い人もNG。
相手の話ばかり聞きたがる
自分のことをほとんど話さず、相手のことばかりを聞きたがる相手には注意。踏み込ん
でほしくない領域に踏み込んでくるタイプかも。
アドバイスやおすすめが多過ぎる
自分の意見としての「助言」は時としてありがたいものだが、頭ごなしに否定する、ア
ドバイスやおすすめを押しつける人とは距離を。
ステップ3: 本音トークは“小ネタ”から
「自分から“自己開示”することで、相手も心の内を見せてくれて、距離が縮まります。
さらけ出すことが苦手な人は、ハードルが低い“小ネタ”から始めて」
。仕事や人間関係な
ど、共通点がありそうな話題もいい。
●こう話してみる
「最近、仕事で失敗しちゃって、ちょっとヘコんでいるの…」
「私にも悪いところがあると思うんだけど、親って難しいよね…」
「初対面の人と話すのが苦手で、すぐに黙っちゃうのが悩み」
ステップ4: 「会えない時間」も友情を育てる
「大人の親友関係は、すべてを理解し合うことより互いの考えやペースを尊重できるほ
うが大切。会う頻度や同じ価値観にこだわらないほうが、長く続くいい関係をつくれます」
2人のつながりはメールを使って
「メールはリアルな人間関係を補充するツール。会えないときでも話したいことを送っ
たり、ただ『元気?』と送ったりするだけで、いい関係を維持できます」
この人に聞きました
水島広子さん
精神科医(医学博士)。68 年生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学大
学院修了。摂食障害、気分障害や家族病理などが専門。00 年から 05 年まで、
2 期 5 年間衆議院議員を務める。著書に『女子の人間関係』
(サンクチュアリ
出版)など。
(日経WOMAN 岸本洋美)
■ 医療は命を育み守るもの、選別し捨て去るものではない 朝日新聞 2015 年 3 月 9 日
(松永正訓、小児外科医・作家、53歳、千葉県)
「耕論・受精卵を調べる」には二人の医師が登場しました。一人は不妊治療に携わる産
科医で、もう一人は、障害のある娘を産んだ経験のある医師でした。産科医は受精卵スク
リーニングを積極的に支持し、娘さんを失った母親医師も「治療法の一つ」として賛成し
ていました。ところが、医療側からの反対意見は掲載されておらず強い違和感を抱きまし
た。
着床前スクリーニング(PGS)が、
「臨床試験」という名目で始まる理由は、果たして
これが妊娠率の向上につながるかどうかわからないからです。たしかに流産率は下がると
思われますが、PGSはあくまでも検査であり、治療ではありません。わからないから「試
験」をおこなうのであって、妊娠率は変わらない可能性もあります。そしてどういった異
常が不妊につながるものとして受精卵を破棄するのか、明確な基準がないことは大きな問
題です。
欧米でおこなわれているPGSが、日本で認められていない最大の理由は、生命を選別
する優生思想につながるという危惧があるからです。欧米は、国家の政策としての優生思
想は放棄しましたが、個人に責任を委ねる形で、社会に広く優生思想が定着しています。
英国では医療コストを計算して、障害児が生まれない方が安くつくという判断があり、生
まれた場合には手厚く福祉を施すというダブルスタンダードをとっています。
日本では、1960年代後半から1970年代にかけて兵庫県であった「不幸な子ども
の生まれない運動」に始まり、たびたび障害胎児の命を軽んじる行政の姿勢や医療技術が
浮上してきました。そのたびに障害者の会がそれらに反対する発言をしてきたという歴史
があります。自分たちの生存が脅かされ、差別や偏見の目で見られると恐れるからです。
カップルが自分たちの子を授かりたいと思うのは自然な欲求ですが、その思いの裏に優生
思想が貼り付いており、健全で優秀な子どもだけを欲しがるならば大変怖い考え方と言わ
ざるを得ません。欧米に見られる生命倫理観は、日本の文化になじまず、真似をする必要
はまったくありません。
また新型出生前診断がおこなわれているのに、PGSが認められないのは整合性がとれ
ないという考え方は根本的に間違っています。新型出生前診断は、野放しに認めれば商業
主義が日本に流入し大きな混乱を招くと考え、学会が規制をかける意味で、遺伝カウンセ
ラーの参加を条件に施設限定でおこなわれているのです。PGSは中絶という心理的・肉
体的負担がないため、より一層、障害児を排除する考えを助長しかねません。
なお、新型出生前診断は3種類の染色体異常の診断であり、PGSは全染色体異常の有
無のチェックとふるい分けです。両者の質は全く異なるものであり、PGSは優生思想の
見地から、より大きな問題を孕んでいます。また、出生前に染色体異常を見つけることを
「治療の一つ」と考えるのはかなり無理があります。21トリソミー(ダウン症)の受精
卵は戻さないという考えは、果たして正しいのでしょうか?
PGSは不妊に悩むカップルには朗報になる可能性があります。ですが、その不妊の理
由が女性の高齢化にあるのであれば、
「教育」や「社会の仕組み」の改善が何よりも重要で
す。
PGSが広まった時に最も辛い思いをするのは、染色体異常児や家族です。13トリソ
ミーや18トリソミーの受精卵が破棄されるとすれば、現在、生きているそうした子ども
と家族はどれほど傷つくでしょうか? そして将来、検査の内容に歯止めがなくなれば、
先天性代謝疾患などの遺伝病の患者と家族も同様な思いをするでしょう。PGSで幸福に
なる個人がいたとしても、社会全体に差別する心や偏見が広がるのであれば、それは積極
的に進めるべき医療ではないはずです。医療とは命を育み守るものであって、「弱い」とか
「劣る」と烙印を押して選別し、捨て去るものではありません。
■ ダウン症の受精卵も戻さず 学会の臨床研究計画
日本産科婦人科学会は2月28日、受精卵検査をめぐる臨床研究を実施することを決め
ました。染色体は通常46本ありますが、これよりも数が多かったり、少なかったりする
と不妊につながりやすいとされます。このため染色体の数に異常のない受精卵だけを選ん
で子宮に戻すことで、流産が減ったり、出産に至る確率が上がったりするかどうかを調べ
ます。
今回は不妊治療の一種として効果があるかどうか、あくまで医学的な観点から検討する
のを目的としていますが、ダウン症などの受精卵も戻さないことなどから、「検査の対象が
どんどん広がっていくのではないか」と心配する声もあります。
この手法は「着床前スクリーニング」とも呼ばれています。不妊治療がうまくいかない
要因の一つとして、子どもを望む世代が高齢化し、受精卵の染色体の数が正常ではないケ
ースが増えていることが推測されています。正常な染色体の受精卵を選ぶことで成功率が
高まる期待があります。
ただ、たとえ多くの受精卵を得られたとしても、どれも染色体に異常があれば、子宮に
戻すことはできません。専門家の中には「流産の確率は減るかもしれないが、出産につな
がる確率は上がらないのではないか」という見方もあります。
今回の研究では、受精卵検査を受ける300組と受けない300組を「無作為に」決め
ます。このため、研究に参加するカップルは自身の希望で検査を受けるかどうか決めるこ
とはできません。そうすることで、研究の科学的な信頼性を高められるといわれています。
染色体の数に異常があると不妊となる確率が高くなりますが、ダウン症などのように出
産に至るケースもあります。こうしたケースも含めて数の異常を一律に「戻さない」とし
たことについて、学会側は「
(例外を設けていると)データにばらつきが出る可能性がある」
と説明しています。
海外での臨床研究でも、数の異常は一律に戻さないようにしているそうです。ただ、必
ずしも不妊につながるとは限らない受精卵も除外することには疑問の声もあります。学会
側は、こうした受精卵を除外したくないカップルには、研究から外れてもらうことで治療
を続けることは可能だと説明しています。(アピタル編集長 田村建二)
これが「貧困ビジネス」の実態…劣悪環境と抜け出せぬ仕組み
産経新聞 2015 年 3 月 8 日
【新人記者奮闘す】
埼玉県内では昨年10月、生活困
窮者のための「無料・低額宿泊所」の売上金を隠し、所得税
約6300万円を脱税したとして、低額宿泊施設「ユニティ
ー出発(たびだち)
」を運営する和合秀典被告=所得税法違反
罪で起訴=が逮捕された。記者は、いわゆる「貧困ビジネス」
トラブルの被害者を支援する団体が主催した「貧困ビジネス
ツアー」に参加。宿泊所を訪れ、元居住者の話を聞くことで、
改めて貧困ビジネスの仕組みの「巧妙さ」に驚かされた。
(さ
いたま総局 菅野真沙美)
■部屋を仕切るベニヤ板
「ここもそうです」
。貧困ビジネス被害者の支援などを行う、弁護士・司法書士・社会福
祉士などの有志で構成されている市民団体「反貧困ネットワーク埼玉」の案内で、戸田市
内のとある宿泊所の側に車を止めた。
ツアーで訪れた他の数カ所の宿泊所も同様だが、施設は一見すると普通のアパートに見
える。周囲もごく普通の一戸建てや工場が並び、劣悪な環境という印象は全く受けない。
しかし「あそこから中が見えるでしょう」。そう示され窓に目を向けると、さほど広くな
いと思われる薄暗い室内を、ベニヤ板のようなもので仕切っている様子がうかがえた。ま
た、ほとんどの部屋にカーテンがかけられておらず、干した衣類が丸見えなのも印象的だ
った。
■「上の者に確認します」
反貧困ネットワーク埼玉のスタッフが入り口で声をかけると、一人の男性が現れた。居
住者だという。スタッフが「無料電話相談のチラシを入居者に配らせてほしい」と申出る
と、応対した男性は「上の者に確認してみないと。一応受け取っておきます」と答えた。
「中
を見せてもらえないでしょうか」
。報道陣が声をかけると再び「上の者に確認してみないと」。
しばらくやりとりは続いたが、結局中に入る許可は得られず、その間に初老の男性が2、
3人、うつむいたまま足早に横を通り過ぎていった。
■「何のために生きているのか」
さいたま市見沼区内の宿泊所に入居していた60代の男性は、
「何のために生きているの
かという気持ちになった」と入居当時を振り返った。男性は支給される生活保護費約12
万円のうち、約11万円を施設に支払っていた。施設ではそのカネのうち、保護費支給日
に1万円、その後は2日に1回1千円が支給されるという。「仕事を探すためのカネだと説
明されるが、実際は部屋でじっとしているぐらいしかできない」
同市岩槻区の施設で生活していた40代後半の男性は、仕事に失敗しホームレス生活を
しているときに宿泊所職員に声をかけられた。施設の環境は「プレハブを改造した3畳程
度のスペースに生活していた。夏が暑く、冬は寒い」。風呂は週に3回、決められた時間の
み許されていたという。
■二言目には「出て行け」
男性らは一度施設に入ってしまうと抜け出すのが困難な状況についても語った。40代
男性は「もう一度定職につこうとしても、ホームレスだった時期があると書類だけで不採
用にされてしまうことが多い。施設は何もサポートをしてくれない」。面接に行くカネを工
面できないこともある。60代男性も「二言目には職員から『出ていけ』と言われる」と
話す。
「『住所がないと公的支援を受けられなくなるが、それでもいいのか』と脅される。
そう言われてしまうと、頭の中は『今晩どこに行けばいいんだろう』という思いでいっぱ
いになってしまう」
■被害解決に向けて
反貧困ネットワーク埼玉は「行政の側も悪質な無料・低額宿泊所を便利に使ってしまっ
ていて、居住者の劣悪な環境に目をつぶっている点があることは否めない」と指摘する。
貧困が拡大する中で、福祉事務所のケースワーカーが不足し、自立支援が十分にできない
などの悪影響が生じている。一般のアパートへの入居となれば、ケースワーカーは家庭訪
問を行って状況の確認を行い、トラブルに対処する必要があるが、宿泊所にいれば施設が
代行してくれることも貧困ビジネスを助長させる要因となっている。
同団体は貧困ビジネス被害者に対する相談や、アパートへの入居斡旋(あっせん)など
を行っている。しかし、宿泊所側が団体の発信している情報を遮断し、入居者に知らせな
いことも多いため、福祉事務所へ協力を求めるが、拒絶されることもあるという。
「一部自
治体は宿泊所と悪い意味でのもたれ合いの関係になってしまっている。負担増を覚悟で対
応に当たらなければ貧困ビジネスによる被害は拡大し続ける」と行政に対しても改善を求
めた。
リアル
~児童養護施設を出てから・・・~
スーパーニュースアンカー 2015 年 3 月 5 日
大阪府内の児童養護施設で暮らす高校 3 年の田中正樹(たなか・まさき)くん(仮名・18)。
一緒に暮らす子どもたちと、グラウンドで遊ぶのが日課です。
「運動したら、すっきりして、気持ちは楽になる」
「ありのままの自分を、出せる場所ですかね」
8 年間過ごしてきた、大切な場所を巣立つ日が、近づいています。
「おかわりください」
。
この施設では、虐待や親の病気、経済的な理由などから家庭で暮らせない 2 歳から 18 歳ま
での 37 人が暮らしています。
現在、こうした児童養護施設で暮らす子どもは全国におよそ 3 万人。
このうちの6割近くが、親などから虐待を受けた経験があり、その割合は増えています。
田中くんも小学 4 年のときに児童相談所に保護され、ここで暮らし始めました。
「当初は、お母さんに会いたくてしかたなかったんで、脱走的なものをしかけたりしまし
た。
よく、ここの子ともけんかしました。言い合いで収まらなかったら殴り合いでした」
さびしいときやつらいとき、いつもそばで見守ってくれたのは、施設の職員や、同じよう
な境遇の子どもたち。
「自分にとってどんなところ?」
「家みたいなところです」
しかし、彼らはいつまでもここで暮らせるわけではありません。
児童福祉法の規定では児童養護施設で暮らせるのは原則 18 歳未満。
病気や障害があるなど自立が難しそうな場合には、20 歳になるまで施設に残ることもでき
ますが、実際にそうした対応がとられる子どもは全体の 2 割にも届きません。
施設を出た後の受け皿として、国が定める「自立援助ホーム」もありますが、ここに入れ
るのも 20 歳まで。
しかも、仕事に就き、利用料を支払うことが前提となっているため、誰もが利用できるわ
けではありません。
児童養護施設で育ってきた子どもたちの多くが、高校を卒業すると同時に、たった 1 人で、
自立を強いられるのです。
「ごはんが。作れるかどうか。病気とかなって、まず自分で病院に行けるかどうかわから
ないし、お金も、あるかもわからないんで、そこらへんが心配です」
卒業後も、親元には帰れない田中くん。
最初は進学を希望していましたが、バイトをしても資金を工面できず、寮がある会社に就
職することにしました。
春からは、住み慣れた場所を離れ、自分でお金を稼ぎ、1 人暮らしを始めます。
そうした彼らの自立を支える取り組みがあります。
「まず 1 つ目、覚えてください契約書の内容はきっちり確認してハンコを押すこと」
去年 12 月、大阪市でお金の管理についての講座が開かれました。
参加したのは児童養護施設で暮らす中学生と高校生たち。
講座を開いた大阪児童福祉事業協会は、50 年以上にわたり、児童養護施設など社会的養護
のもとで育った子どもたちの自立を支える「アフターケア」に取り組んでいます。
14 年前からこの講座を始めた藤川澄代さん。
施設を出た子どもたちが、社会になじめず、挫折していく姿を目の当たりにしてきました。
「サラ金に追われて兄弟の電話番号を言った日の晩に自殺した。体調悪いという事が言え
なくて無断欠勤してとうとう解雇されて、挙句の果てには寮にも住めない、お腹がすいて
万引きする。
金銭管理もしないといけない、生活の管理もしないといけない。
今までだったら朝先生が起こしてくれた、起こしてくれない。何もかもやらないといけな
いということなので、自立に向けて、そのギャップを少しでも埋めてやろうと」
施設を出た後、子どもたちが苦しむことのないように・・・。
この講座では、この他にテーブルマナー、薬の使い方、働く上での心構えなど、
生活に根ざした知識やルールを、施設を出る前から教えていきます。
しかし、こうした社会常識のほかにも、彼らが社会で自立するにあたって、問題となるも
のがあります。
「
『あ、1 人なんや』っていう孤独感。急に 1 人ってなったら、そういうのあるかもしれな
い」
「集団生活が当たり前になってしまっていたので、不安が、今ありますね。
ほんとに 1 人で生きていけるのか」
初めて経験する「たった 1 人」での生活。
東京都が 2011 年に行った、児童養護施設などを退所した人たちへのアンケートでも、退所
直後に「まず困ったこと」として最も多くの声が寄せられたのは、「孤独感・孤立感」でし
た。
「これも入れていい?」
「そうそう全部入れて」
「おなか減ったな」
彼らの「孤独感」を埋める場所があります。
「サロン・ド・ソワレ」は、大阪市の児童養護施設などで作る連盟が 2012 年から、市の委
託を受け、社会的養護のもとで育った人たちのために設けている居場所です。
施設を巣立った人たちは無料で利用することができ、思い思いに過ごします。
去年、高校を卒業すると同時に児童養護施設を退所し、1 人暮らしを始めた笹谷実咲(ささ
や・みさき)さん(19)。
ことあるごとに「自分は 1 人だ」と、痛感したと話します。
「施設の先生とかにも、自分は話を聞いてほしいんですけど、やっぱ先生忙しいし」
「実家出てても、お母さんとかお父さんとかに『わからへんねんけど、どうするん?』み
たいに言ったら、
たいてい答えっていうか、すぐ聞けるじゃないですか。
嫌な事があったら帰る場所もあるし、嫌で帰ってきてんけどとか。でも、施設出た子って
そういう場所がないから」
そんな気持ちを受け止めてくれたのが、スタッフの竹内宏一(たけうち・こういち)さんでし
た。
「生きるためだけの料理じゃ、おいしくないよなあ」
「うん」
「うれしいことがあったりとか、悲しい、嫌なことがあったりとか、学校のあいつが嫌や
ねんみたいな、そんなんとかあったときに、話聞いてくれて、で、それなりに長いこと生
きてはるから。 ハハハ」
「懐かしいなって思いますね、施設のこと思い出して。普段は一人なんですけど、ここに
来たら一人じゃないんで」
竹内さんは、ここで子どもたちを迎えるだけでなく、必要に応じて会いに行っています。
「入るでー」
2 年前に高校を卒業し、施設を出た 19 歳の男性。
4 つ目となる現在の仕事にも意欲が持てず、生活のリズムも崩れ、欠勤を繰り返していまし
た。
「正直どうおもてんねん」
「どっちでもいい」
「なんやどっちでもいいって、他人事みたいに どっちでもええって。やめたって今仕事
ないやん」
男性は未成年。何をするにも保証人が必要です。
この部屋も雇用主が用意してくれたため、仕事を辞めると住む場所も失ってしまいます。
「とにかく、今やれることを、確実にやる。やめるにしたって最低限 1 ヵ月やそこらは食
える金を残しとく、もしくは次の仕事も決める、次の住むとこも決める。それができるの
が社会人やし大人や」
「
『今日も仕事行くんやろな』って毎日電話することはできる。でもほんまに毎日休まんと
いくのはお前やし」
「彼らが求めてるものというのは、不安であったりさみしさであったりを打ち消せるよう
なものだと思いますし、それがときには背中をおすこともあれば手を引っ張ることも必要
やろうし。みんながまわりの大人に自然にやってもらってたこと。
単純に近くにいる子で、ふさぎこんでそうに見えたら、どないしたん?とかいう関係にな
れるような雰囲気がもう 1 ぺん身のまわりにあったらなと思いますね」
しかし、こうした支援を受けられる場所は多くありません。
厚生労働省は 5 年前から、施設などからの自立を支える「アフターケア」事業に正式に予
算をつけました。
しかし、補助の対象となる 69 の自治体のうち、事業に取り組み、この補助金を申請してい
るのは 3 分の1程度。
子どもたちが自立につまづいたとき、支えてもらえる体制は整っていないのが実情です。
「僕のことしの目標は、社会のテスト 100 点を 5 枚とります」
ことし 1 月、田中くんは児童養護施設のみんなと新年を迎えました。
ここで迎える最後の正月です。
「会えなくなるのは、さびしいです。なるべく、ここのみんなと思い出
を作りたいなと思って」
田中くんが施設を巣立つまで、あと数週間。
社会に出た後、手を差し伸べてくれる大人は、どのくらいいるでしょう
か。
月刊情報誌「太陽の子」、隔月本人新聞「青空新聞」、社内誌「つなぐちゃんベクトル」、ネット情報「たまにブログ」も
大阪市天王寺区生玉前町 5-33 社会福祉法人大阪手をつなぐ育成会 社会政策研究所発行