この回の予稿

応用物理学特別演習
平成 27 年 10 月 13 日
フォトニクス研究室
赤岩 夏海
Optical vortex coronagraphy with an elliptical aperture
Garreth J. Ruane and Grover A. Swartzlander, Jr.
Chester F. Carlson Center for Imaging Science, Rochester Institute of Technology,
54 Lomb Memorial Dr., Rchester, New York 14623, USA
Applied Optics, 52, 171-176 (2013)
太陽系外惑星(太陽以外の恒星を周回する惑星)を直接観測するためには、明るい恒星光を
除去する必要がある。そのための観測装置として、コロナグラフが提案されている。コロ
ナグラフは恒星光を除去するだけでなく、より暗い惑星光を捉えるための大きな集光力、2
天体を見分けるための高い分解能、そして恒星近くの惑星に迫るための能力(小さな Inner
Working Angle、以下 IWA)を持ち合わせている必要がある。
現在注目されているコロナグラフの一つとして、光渦コロナグラフ(Optical Vortex
Coronagraph、以下 OVC)がある。OVC は望遠鏡瞳が円形ならば、理論上完全に恒星光を
除去することができる。しかし実観測においては、望遠鏡瞳に副鏡やスパイダの影が映り
こむため、恒星光を完全に除去できないという問題がある。この問題を解決するため、本
論文ではサブ開口の利用に着目した。遮蔽を避けるようにサブ開口を設置することで円形
の瞳を取り出す方法が提案されており[図 1(a)]、これを用いて実観測も行われている。しか
しこの方法は、理論上完全な恒星光除去を可能にするが、サブ開口が望遠鏡瞳よりも小さ
くなるため、集光力、分解能、IWA が著しく悪化してしまう。
そこで本論文では、サブ開口に円形ではなく楕円開口を用いることを提案した[図 1(b)]。
楕円開口を用いることで、開口の面積が大きくなるため集光力が向上し、さらに長軸方向
の分解能、IWA ともに改善される。また本論文では、楕円開口に最適化した光渦マスクを
設計することにより、円形の場合と同様に恒星光を理論上完全に除去できることも示され
ている。楕円サブ開口を用いた OVC の観測結果を数値シミュレーションによって求めたも
のが図 2 である。中心の恒星光は強力に除去され、1~4 の位置に惑星像が観測される。
図 1 : 望遠鏡瞳と設置するサブ開口
図 2 : 惑星観測の数値シミュレーション結果
応用物理学特別演習
平成 27 年 10 月 13 日
極限量子光学研究室
荒木 孝太郎
Time-resolved imaging of purely valence-electron
dynamics during a chemical reactions
Paul Hockett, Christer Z. Bisgaard, Owen J. Clarkin and Albert Stolow
Steacie Institute for Molecular sciences, National Research Council Canada
Nature Physics 7, 612-615 (2011)
化学反応中の分子内では、価電子状態と原子核の振動状態が変化している。非断熱
過程では振電相互作用が存在し、核の構造変化に伴う電子状態の変化が起きるため
に、核の振動と同じ時間スケールでの電子状態の変化が見られる。電子状態はそれ
ぞれ違った対称性をもっているため、その異方性を時間ごとに観測する(図 1a)ことに
より、反応中の(図 1b のように、分子の形状はポテンシャルエネルギー面を下るように
変化していく)分子の電子状態の対称性について知ることができる。(図 1c)したがって
価電子状態の時間変化についての情報が得られる。このような電子状態の対称性の
変化を観測するには光電子分光において光電子の角度分布を知れば良い。
本論文では、CS𝟐 分子の非断熱的な解離過程における純粋な価電子状態を観測す
るため、時間分解で光電子の角度分布(TRMFPAD)を取得する実験を行った。これに
より相互作用する振動、電子状態の変化が純粋な価電子状態として TRMFPAD の角
度成分にどう現れるかを示すことができた。さらに、
それを角度積分して得た TRPES(時間分解光電子
分光)のデータとの比較を行うことで、TRMFPAD で
純粋な電子状態の変化を観測することの利点を示
すことができたので、これを本講演で説明する。
CS𝟐 に限らず、分子の価電子ダイナミクスを
本実験のように TRMFPAD を使うことで直接に、高
強度で安定性の低いレーザー電場を使うことなくイ
メージングすることができることの利点を、本論文は
主張している。
図 1 : TRMFPAD の概念図
応用物理学特別演習
平成 27 年 10 月 13 日
量子機能工学研究室
宮澤 遥紀
Laser generation of hypersound by a terahertz
photo-Dember electric field in a piezoelectric GaAs
semiconductor
Gwenaelle Vaudel , Thomas Pezeril , Alexei Lomonosov , Marius Lejman , Pascal
Ruello , and Vitalyi Gusev
Institut Molecules et Materiaux du Mans, UMR CNRS 6283, Université du Maine,
72085 Le Mans, France PHYSICAL REVIEW B 90, 014302 (2014)
レーザーの発展に伴い、これまでに多くの光学的計測法が確立されてきたが、その解
析法の一つとして挙げられるのが超短光パルスレーザーを用いたピコ秒超音波法であ
る。ピコ秒超音波法は、試料にフェムト秒光パルスを照射することにより励起した音響波の
伝搬を、光弾性効果による試料の光反射率変化として検出する方法である。光パルスによっ
て励起されたピコ秒音響フォノンパルスの波形から、物質の熱拡散、電子拡散および弾性的
性質などを知ることができる。音響波の励起機構は種々あるが、今回は二つの励起機構
に着目している。一つは圧電試料のフォトデンバー効果による歪み励起機構である。フ
ォトデンバ―効果とは光励起された正孔と電子が拡
散速度の違いによって物質内部に電場を形成する現
象である。圧電試料内に電場が形成されると、その
電場に応じて圧電効果による歪みが生じる。もう一
つは、変形ポテンシャルという半導体内のキャリア
が光励起されたときに生じる歪み励起機構である。
本論文では圧電半導体 GaAs(111)A 面と B 面の
試料を用いてブリルアン振動を観測した。ブリルア
ン振動は基板表面での反射と音響波による光の散乱
の干渉によっておこる光反射率の振動である。図 1
はブリルアン振動をフーリエ変換したものであり、
B 面では強度が増すにつれ振幅が大きくなり位相は
図 1:フーリエ変換したブリル
アン振動の(a)振幅(b)位相
変化しないが、A 面では 0.6 μJ⁄cm2 付近で振幅が 0
になり位相も変化している。これは A 面と B 面で圧
電効果による歪みの影響が異なるためである。