からも作られるため欠乏症は少ないが ,欠乏症とし 乏症として脱毛などが知られている. ては,舌炎 ,口内炎 ,末梢神経障害 ,ペラグラ様皮 i. ビタミン C(アスコルビン酸) 膚炎などが知られている.また,ビタミン B 6 は,鉄 ビタミン C は ,体内で自身が還元剤となり ,抗酸 の運搬に関与するヘムの合成に必要なため ,不足す 化作用を発揮する .また ,コラーゲン合成にも関与 ると小球性貧血が起こる .過剰摂取として ,感覚性 している .欠乏症は壊血病が知られている .過剰摂 ニュロパシーが起こるため , 耐容上限量が設定さ 取した場合 ,尿中排泄量が増加するため ,耐容上限 れた. 量は定められていない. e. ビタミン B12(コバラミン) ビタミン B12 は,アデノシルコバラミン,メチルコ 6 ミネラルの食事摂取基準 [meneral] ラミン ,シアノコバラミンがあり ,食事摂取基準で は ,シアノコバラミン相当で策定された .食品から ① 多量ミネラル(表 8) a. ナトリウム 摂取したビタミン B12 は,胃細胞から分泌される内因 ナトリウムは細胞外液の主要な陽イオンであり,細 子と結合し ,回腸から吸収される .正常な胃の機能 胞外液量を維持している .浸透圧 ,酸・塩基平衡の 4 を有する人で,ビタミン B12 の吸収率は 50% 程度であ 調節にも重要な役割をもつ .ナトリウムの不可避損 り ,胃酸の分泌低下など胃の機能が低下した場合に 失量を補う観点から推定平均必要量として600mg/ 日 1 は,吸収率は下がる.ビタミン B 12 は,たんぱく質, が算定された.ナトリウムは,高血圧 ,胃がん,脳 核酸の合成に必要である.また,ビタミン B12 は,ホ 卒中罹患率と正の相関をもつため ,目標量が設定さ モシステインのメチオニンへの変換に必要である.欠 れた. 乏すると DNA 合成が阻害され,巨赤芽球性貧血が起 b. カリウム こる .過剰摂取しても ,内因子を介した吸収機構が カリウムは細胞内液の主要な陽イオンであり ,体 飽和すれば吸収されないため ,耐容上限量は定めら 液の浸透圧を決定する重要な因子である .酸・塩基 れていない. 平衡の維持 ,神経や筋肉の興奮伝達にも関与してい f. 葉酸 る.カリウム摂取を増加させると,血圧低下 ,脳卒 葉酸は ,プテロイルモノグルタミン酸とその補酵 中予防,骨粗鬆症予防が示唆される.カリウムは,平 素型を含む .食事摂取基準では ,プテロイルモノグ 衡を維持するのに必要な量をもとに目安量が設定さ ルタミン酸相当量で策定された.葉酸は DNA 合成に れ ,高血圧を中心とした生活習慣病の一次予防の観 重要である.不足すると,巨赤芽球性貧血 ,高ホモ 点から目標量が設定された. システイン血症 ,妊娠初期の不足では胎児の神経管 c. カルシウム 閉塞障害などが知られている .過剰に摂取すると葉 カルシウムの 99% は骨および歯に存在し,残り 1% 酸の拮抗作用を有する物質が生成されるため ,耐容 は血液 ,組織液 ,細胞に存在する.カルシウムの役 上限量が設定された. 割として ,骨の材料のほか ,情報伝達物質として機 g. パントテン酸 能している .カルシウムの推定平均必要量および推 パントテン酸は ,コエンザイム A(CoA)の構成 奨量は,体内蓄積量 ,尿中排泄量 ,吸収率などをも 成分である.アセチル CoA は,ピルビン酸と CoA か とに設定された.過剰摂取により,泌尿器系結石,ミ ら構成されている .パントテン酸は腸内細菌からも ルクアルカリ症候群などが知られているため ,耐容 生成される .欠乏するとエネルギー代謝に障害を生 上限量が設定された. じる. d. マグネシウム h. ビオチン マグネシウムは骨の維持 ,多数の酵素反応に関与 ビオチンは ,カルボキシラーゼの補酵素として作 している ,マグネシウムの欠乏は ,低カルシウム血 用している .ヒスチジンを尿から排泄促進する作用 症 ,筋肉の痙攣 ,冠動脈の攣縮を招く.推定平均必 もある .ビオチンは腸内細菌からも生成される .欠 要量および推奨量は ,出納試験結果をもとに設定さ 日日日日日日日日日日日日日日日日日日 131 章 第 4 章 各栄養素の必要量と投与量 第 バラミン ,スルフィトコバラミン ,ヒドロキソコバ 表 8 ●多量ミネラルの食事摂取基準 性 別 年齢(歳) 18 〜 29 ナトリウム〔mg/ 日, ( )は食塩相当量(g/ 日) 〕 男 性 推定平均 必要量 カリウム(mg/ 日) 女 性 目標量 推定平均 必要量 目標量 男 性 女 性 目安量※ 1 目標量※ 2 目安量※ 1 目標量※ 2 2,500 2,800 2,000 2,700 600(1.5) (9.0 未満) 600(1.5) (7.5 未満) 30 〜 49 600(1.5) (9.0 未満) 600(1.5) (7.5 未満) 2,500 2,900 2,000 2,800 50 〜 69 600(1.5) (9.0 未満) 600(1.5) (7.5 未満) 2,500 3,000 2,000 3,000 70 以上 600(1.5) (9.0 未満) 600(1.5) (7.5 未満) 2,500 3,000 2,000 2,900 性 別 男 性 年齢(歳) 推定平均 必要量 18 〜 29 650 カルシウム(mg/ 日) マグネシウム(mg/ 日)※ 3 女 性 推奨量 耐容 上限量 推定平均 必要量 800 2,300 550 男 性 推奨量 耐容 上限量 推定平均 必要量 650 2,300 280 女 性 推奨量 推定平均 必要量 推奨量 340 230 270 30 〜 49 550 650 2,300 550 650 2,300 310 370 240 290 50 〜 69 600 700 2,300 550 650 2,300 290 350 240 290 70 以上 600 700 2,300 500 600 2,300 270 320 220 260 性 別 年齢(歳) リン(mg/ 日) 男 性 目安量 耐容上限量 女 性 目安量 耐容上限量 18 〜 29 1,000 3,000 900 3,000 30 〜 49 1,000 3,000 900 3,000 50 〜 69 1,000 3,000 900 3,000 70 以上 1,000 3,000 900 3,000 ※ 1 体内のカリウム平衡を維持するために適正と考えられる値と現在の日本人の摂取量を考慮して目安量として設定した. ※ 2 高血圧の一次予防を積極的に進める観点から設定した. ※ 3 通常の食品からの摂取の場合,耐容上限量は設定しない.通常の食品以外からの摂取量の耐容上限量は,成人の場合 350mg/ 日, 小児では 5mg/kg 体重 / 日とする. れた .過剰摂取により下痢を起こすことが知られて 法によって求められた .過剰摂取した場合 ,鉄沈着 いるため,耐容上限量が設定された. 症 ,便秘 ,胃部不快感などの報告があり,耐容上限 e. リン 量が設定された. リンは,細胞内のリン酸化に関与し,核酸や ATP b. 亜鉛 の構成成分である .骨には ,リン酸カルシウムの形 亜鉛は ,代謝調節作用を有する酵素の構成成分と で存在している .出納試験結果をもとに目安量が算 して種々の代謝に関与する.欠乏により,皮膚炎,味 定されている .過剰摂取した場合 ,副甲状腺機能の 覚障害,慢性下痢,低アルブミン血症,汎血球減少, 亢進 ,腸管からのカルシウム吸収の抑制などの報告 成長障害 ,性腺発育障害などが起こることが知られ もあり,耐容上限量が設定された. ている .総排泄量を補う真の吸収量を達成するのに ② 微量ミネラル(表 9) a. 鉄 必要な摂取量の算定により ,推定平均必要量および 鉄は,ヘモグロビンや各種酵素の構成成分である. 阻害による銅欠乏,SOD(抗酸化酵素)活性の低下, 欠乏により,貧血 ,運動機能等の低下を招く.鉄の 貧血,汎血球減少,胃の不快感などの報告があり,耐 推定平均必要量および推奨量は出納試験や要因加算 容上限量が設定された. 132 キーワードでわかる臨床栄養 改訂版 推奨量が求められた .過剰摂取した場合 ,銅の吸収 表 9 ●微量ミネラルの食事摂取基準 推定平均 必要量 推奨量 耐容 上限量 男 性 月経あり 推定平均 必要量 耐容 上限量 推定 平均 必要量 女 性 耐容 上限量 推定 平均 必要量 推奨量 女 性 月経なし 推奨量 推定 年齢(歳) 平均 必要量 亜鉛(mg/ 日) 推奨量 男 性 推奨量 性 別 鉄(mg/ 日)※ 1 耐容 上限量 18 〜 29 6.0 7.0 50 5.0 6.0 8.5 10.5 40 10 12 40 7 9 35 30 〜 49 6.5 7.5 55 5.5 6.5 9.0 11.0 40 10 12 45 8 9 35 50 〜 69 6.0 7.5 50 5.5 6.5 9.0 11.0 45 10 12 45 8 9 35 70 以上 6.0 7.0 50 5.0 6.0 ─ ─ 40 9 11 40 7 9 30 銅(mg/ 日) 男 性 マンガン(mg/ 日) 女 性 男 性 女 性 推定平均 必要量 推奨量 耐容 上限量 推定平均 必要量 推奨量 耐容 上限量 目安量 耐容 上限量 目安量 耐容 上限量 18 〜 29 0.7 0.9 10 0.6 0.7 10 4.0 11 3.5 11 30 〜 49 0.7 0.9 10 0.6 0.7 10 4.0 11 3.5 11 50 〜 69 0.7 0.9 10 0.6 0.7 10 4.0 11 3.5 11 70 以上 0.6 0.8 10 0.5 0.7 10 4.0 11 3.5 11 年齢(歳) 男 性 推定平均 必要量 ヨウ素(μ g/ 日) 推奨量 女 性 耐容 上限量 推定平均 必要量 男 性 耐容 上限量 推奨量 推定平均 必要量 1 セレン(μ g/ 日) 女 性 推奨量 耐容 上限量 推定平均 必要量 耐容 上限量 推奨量 18 〜 29 95 130 2,200 95 130 2,200 25 30 280 20 25 220 30 〜 49 95 130 2,200 95 130 2,200 25 30 300 20 25 230 50 〜 69 95 130 2,200 95 130 2,200 25 30 280 20 25 230 70 以上 95 130 2,200 95 130 2,200 25 30 260 20 25 210 性 別 クロム(μ g/ 日)※2 男 性 女 性 男 性 モリブデン(μ g/ 日) 女 性 年齢(歳) 推定平均 必要量 推奨量 推定平均 必要量 推奨量 推定平均 必要量 推奨量 耐容 上限量 推定平均 必要量 推奨量 耐容 上限量 18 〜 29 35 40 25 30 20 25 550 20 20 450 30 〜 49 35 40 25 30 25 30 600 20 25 500 50 〜 69 30 40 25 30 20 25 600 20 25 500 70 以上 30 35 20 25 20 25 550 20 20 450 ※ 1 過多月経(月経出血量が 80mL/ 回以上)の人を除外して策定した. ※ 2 身体活動レベルⅡの推定エネルギー必要量を用いて算定した. c. 銅 た報告から算定された .過剰摂取した場合 ,肝機能 銅は ,代謝調節作用を有する酵素の構成成分とし 障害 ,神経障害などが起こるため ,耐容上限量が設 て,エネルギー生成 ,鉄の代謝 ,神経伝達物質の産 定された. 生 ,活性酵素の除去などに関与している .欠乏する d. マンガン と貧血,白血球減少,好中球減少,骨異常,成長障 マンガンは ,アルギニン分解酵素 ,乳酸脱炭酸酵 害,心血管系や神経系の異常などが知られている.推 素 ,マンガンスーパーオキシドジスムターゼの構成 定平均必要量および推奨量は ,安定同位元素を用い 成分であり ,多くの酵素反応に関与している .欠乏 第 4 章 各栄養素の必要量と投与量 133 日日日日日日日日日日日日日日日日日日 性 別 4 章 年齢(歳) 第 性 別 すると皮膚炎が起こることが知られており,骨代謝, り,毛髪と爪の脆弱化・脱落 ,胃腸障害 ,皮疹 ,呼 糖脂質代謝 ,運動機能などにも影響があると考えら 気ニンニク臭などが知られているため ,耐容上限量 れている .マンガンの目安量は ,日本人の摂取量を が設定された. もとに算定された .過剰摂取すると脳への蓄積が認 g. クロム められ,Parkinson 病様の症状が現れるため,耐容上 クロムと糖代謝との関連が知られている .インス 限量が設定された. リン作用を増強するクロモデュリンには ,クロムイ e. ヨウ素 オンが結合している.欠乏すると,体重減少 ,耐糖 ヨウ素は ,甲状腺ホルモンを構成している .欠乏 能低下 ,末梢神経の非炎症性変性 ,両側性錯感覚な すると甲状腺刺激ホルモンの分泌が亢進し ,甲状腺 どが知られている.推定平均必要量および推奨量は, が異常肥大し甲状腺腫となり ,甲状腺機能は低下す 海外の出納試験結果をもとに求められた .過剰摂取 る .ヨウ素の推定平均必要量および推奨量は ,アメ により ,発がんの可能性が否定できないため ,耐容 リカで行われた放射性ヨウ素を用いた報告をもとに 上限量が設定された. 考えられた .過剰摂取すると ,それ以前の状態によ h. モリブデン り ,甲状腺機能亢進症 ,甲状腺機能低下症などが起 モリブデンは ,キサンチンオキシターゼ ,アルデ こるため,耐容上限量が設定された. ヒドオキシダーゼなどの補酵素として機能している. f. セレン 欠乏すると ,血漿メチオニンの増加 ,血漿尿酸およ セレンは ,グルタチオンペルオキシターゼ ,ヨー び尿中尿酸の減少などが知られている .推定平均必 ドチロニン脱ヨウ素酵素,チオレドキシンレダクター 要量および推奨量は ,アメリカにおける出納試験を ゼなどの酵素に関与する .欠乏すると ,下肢の筋肉 もとに算定された .モリブデンの過剰摂取による明 痛 ,皮膚の乾燥 ,心筋障害などが知られている.体 確な健康障害の報告はないが ,今までの研究報告を 内の含セレンたんぱく質の生成量は ,セレンの摂取 もとに健康障害非発現量から耐容上限量が設定さ 量が一定量を超えると平衡状態になることから ,推 れた. 定平均必要量 ,推奨量を設定された .過剰摂取によ ◆ 文献 1)厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2010 年版) 134 キーワードでわかる臨床栄養 改訂版
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