「私の教育実践」 - 滋賀大学 経済学部

リレー・エッセイ
「私 の 教育実践」
大学や社会に関する興味深いテーマを取り上げ、多くの方がリレーで参加して
様々な考えや意見が集える場にしたいと思います。最初のテーマは「私の教育
実践」です。
「学生 の 主体的 な 学 びあいを 基礎 とする 教育
システムの 刷新」プロジェクト
「比較経営論」での 具体的取り組 みと初年度
の成果 について
柴田淳郎 Atsuro Shibata
滋賀大学経済学部 / 准教授
(同プロジェクト委員)
1. はじめに
向性の確保は、主として2つの方法で行った。i)提出
現在、私 は武永淳先生指揮 の下、
「学生の主体的
された課題 に評価と教員コメントを加えること。ii)
な 学 びあいを 基礎とする 教育システムの 刷新─ 経
事前配布資料 に雑誌記事 ないし講義資料 の該当部
済・経営系教育における白熱教室の創出─」プロジェ
と論点を加え、講義終了直前の20 分で、記事内容 な
クトの実行部隊として本プロジェクトに参加している。 いし講義資料 の立場 の 異 なる学生の評価を講義内
リレー・エッセイということで、武永先生のバトンを
で発言してもらい学生の講義参加を促進すると共に、
受け取り、本プロジェクトで実践されている教育改善
学生間の意見の相違や対立点を整理していくことで、
プロジェクトの事例のひとつとして、私が 担当している
「比較経営論」の講義を取り上げ、具体的な取り組み
学生間の相互学習を促進する。
④採点基準
内容と若干の成果についてここでお話ししたい。
これらの取り組みを実質的に機能させる目的で採
2.「比較経営論」における具体的 な取り組 み 内容
点基準に以上の活動を反映させた。事前の課題提出
前稿で 武永先生 がご 指摘されているとおり、私 が
本プロジェクトの中では、
「大規模授業における学習
が0点 から2 点までの3 段階評価×ガイダンスを除く
14コマ=28点、出席点がガイダンスを除く14コマ×2
点=28点で、合計 56点を平常点に加算。残り44 点を
保障の取り組み」に位置づけられており、その目的は
定期試験の点数とした。
以下の3点を実現することで、大規模授業での単位の
3. 取り組 みの成果
実質化を担保する講義運営のあり方を探っていくこと
以上の取り組みの結果、どのような成果 が出たと言
担当している「比較経営論(履修学生数 287名)」は
にある。具体的な取り組み内容は以下となる。
えるだろうか?ここでは出席や講義課題の点数を含む
①講義内容の理解の向上と講義外での学習促進
平常点や定期試験の結果及び授業評価のアンケート
講義内容 に関 する事前資料 の配布・課題提出を
も参考にしながら学生の 行動 や 気持ちにどのような
SULMSを通じて実施することで、効率的な講義進行
変化 があったか?並びに実際 の学習成果(定期試験
を促進し、また講義前の課題提出を義務付けること
の点数)にどのような影響があったかについて簡単な
で、講義内容 の理解を促進すると共に、講義外での
分析を試 みたい。
学習活動を活性化させる。
本科目全登録者数 は287名。そのうち出席及 び 課
②出席管理の徹底
題提出 の 全くなかった 学生 は18 名である。269 名 の
これまで 大規模講義 の出席管理を 担当教員一人
学生 が 本講義 に何らかの 形 で 参加した 実数 であっ
ですべてを 管理 することができず、15回の講義 の中
たといえる。ガイダンスを 除 いた14コマの 講義 のう
で、およそ5回程度の出席管理で代用してきた経緯が
ち、事前課題 の 提出 が 全くなかった 学生 は20 名で
あった。今回のプロジェクトを契機に、毎回の出席管
あり、249 名の学生(92%)が本講義 の内容に関する
理を厳格化 することで、講義をより実質的なものとす
講義外学習を実施したことが理解できる。授業評価
ると共に、成績評価の公平性を高める。
アンケートでの講義外での 勉強時間に関する項目の
③講義の双方向性の確保
回答(前年度との比較)が、1時間から2 時間が3.7%
今回のプロジェクトを契機に、一部、双方向性のあ
→13.9%、1時間から0 時間が20.9%→53%、勉強し
る講義 の実現に向けての取り組みを開始した。双方
ないが71.7 %→27.8 %へと改善されている。事前課
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彦根論叢
2015 spring / No.403
題の提出義務が学生の学習行動に大きく影響を与え
その反面で、授業評価のアンケート結果を見ると、
たと理解できる。この点は一定程度評価できる。しか
講義が有益であったと感じる学生が増加し(強くそう
し、一方で、事前課題に関する学生全体 の評定平均
思うと回答した学生 21.4%→27.6%、まぁ思うと回答
値は、15.7点であり、事前課題の提出に割り振られた
した 学生49.2 %→54.3%どちらとも言えないと回答
平常点最大値が28点であるところに鑑みると必ずしも
した学生 25.7%→13.9%)、総合的な満足も改善した
高い得点であるとは言えない。これは回答 の質が 低く、 (強くそう思うと回答した学生 23%→25.8%、まぁそう
評定平均値が低下した結果というよりも、全体 の講義
思うと回答した学生47.1%→53%、どちらとも言えな
を通じて事前課題を提出しつづけた学生が意外に少
いと回答した学生 24.6%→17.2%)。今回の取り組み
なかったことを意味している。事前課題提出の取り組
を通じて、学生の講義 への有益感や満足感は大いに
みは、講義外学習を一定程度促進することには成功
高まったと評価できるだろう。
したが、それを持続させる困難さをも浮き彫りにした
4. おわりに
と言える。
土日返上で 毎週末170人 から200人の 提出課題を
一方、出席が 全くなかった学生は1名であり、268 名
採点し、それに教員のコメントを付加 する作業 は大
の学生
(99%)が実質的に講義に参加したことが理解
変 だったが、各課題 について学生の意見を聞くこと
できる。出席点の平均値は、学生一人当たり21.1点で
ができて、教員の側も大変勉強になった。その反面で、
あり、出席点に割り当てられた平常点最大値 が28点
苦労 の割には試験 の点数に反映されていないという
であることに鑑みれば、出席点が 獲得できるガイダン
点は残念 でならない。定量的データに表 れなかった
スを除いた14コマの講義のうち、
学生平均で10.5コマ
けれども、定期試験の 解答 の質はこれまでで最低の
(75%)の出席があったこととなり、比較的高得点であ
出来だと断言できる。平常点を高く評価しすぎた結果、
ると評価 できる。授業評価アンケートでの 欠席回数
定期試験の手を抜く学生が 多かったのではないかと
の回答(前年度との比較)は、0回が21.4%→33.1%、
思う。この点をどのようにバランスし、改善していくか
1回が15%→24.5%、2回が14.4%→25.2%、3.4回が
22.5%→13.2%、5.6回が10.7%→2.6%へと劇的に
が 今後 の課題である。一方 で、学生の講義 に対 する
有益感 や満足感 の高まりは当初の意図とは異なる収
改善されたことが理解できる。
穫ではないか?と思われる。あくまで履修者を前提と
最後に、事前課題の評定と定期試験点数との相関
した議論 だが、課題を厳しく出欠管理を厳格化 すれ
関係を見ていくと、相関係数は0.19であり、若干の正
ば、学生のやる気が失われるのではないか?と懸念し
の相関が見られるが、出席点と定期試験 の点数との
ていたが、杞憂に終わった。双方向性を確保し、講義
相関係数は0.06であり、こちらはほとんど無相関と言
内容が充実したこともひとつの要因だと考えられるか
える。前者は正の相関を示すものの係数自体 は低く、
もしれないが、評価基準を明確化し、プロセス評価
後者はほぼ無相関である。授業への積極的関与が必
を重視したこともこの点に寄与していると言えるかもし
ずしも教育効果(定期試験の点数)に直結していると
れない。この点の検討も今後の課題としたい。
は言えないという現実が確認された。
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