2015 年 7 月 8 日(水) コースセミナー 東シベリア永久凍土帯インディギルカ川低地の土壌水分と表層水文過程の研究 大気海洋化学・環境変遷学コース 杉本研究室 D3 鷹野真也 【背景】 ユーラシア大陸北東部に位置する東シベリアは世界最大・最深の永久凍土帯であるが、近年の気温上 昇が最も大きい地域の 1 つであることが報告されており(Lemke et al., 2007)、地球温暖化による永 久凍土の状態変化(凍結環境の撹乱)が懸念されている(Schuur et al., 2008; McGuire et al., 2009)。 永久凍土は東シベリアの水循環システムの中で重要な役割(水の貯蔵源等)を担っており、また凍土 中の氷の存在が地表面の微地形を構成しているため、凍土の形成・融解が水循環に影響を及ぼすことが 考えられる。特に土壌水分はメタン放出や植生の支配因子であり、土壌水分の時空間変化によって物 質循環にまで影響を及ぼす可能性がある。また、北極海へ流入する河川は温暖化の影響を受けやすく、 河川流量の変化が顕著に見られ、最近 50 年間では東シベリアにおいて河川流量が増加している傾向に ある(Peterson et al., 2006)。流域面積世界第 8 位のレナ川の流量は、特に冬季に、1960 年代以降増 加しており(Yang et al., 2002)、北極海への淡水供給量の変化も懸念されている。本研究では、東シ ベリアインディギルカ川流域チョクルダ(70.62 N, 147.90 E)において河川水や土壌水、凍土の水(氷)、 降水等の水素・酸素同位体比を測定し、東シベリアタイガ-ツンドラ域における土壌水分変動の支配因 子を解明するために、その水文過程を明らかにすることを目的とした。 【研究サイト・観測方法】 チョクルダ周辺の観測サイトには湿地の景観のエリア(wet area)と、ヤナギ等の低木やカラマツが 生育するハンモック(ここでは tree mound と呼ぶ)が広がっており、2009~2014 年の夏期の観測期間 中に河川水や土壌水、凍土の水(氷)、降水を採取した。2014、2015 年春期にはチョクルダ周辺域で積 雪調査を行い、積雪のサンプリングや積雪深・密度等も測定した。また、2008 年よりデータロガーに よる通年の気温・地温測定を行っており、2013 年夏期からは測器による一般気象・Flux や土壌水分観 測も実施した。 【結果・考察】 今回の発表では、2014・2015 年春期に実施した積雪調査の結果を報告する。本調査では、まずチョ クルダからインディギルカ川上流に向かって約 40km、チョクルダから南西方向に約 25km のトランセ クトを設定し、それぞれ 7 か所と 4 か所でサンプリングを行った。K サイトでは約 1.2km のトランセ クトをおよそ 100m 毎に 3 本設定し、計 25 か所でサンプリングを行った。観測した積雪深、積雪密度、 積雪水量(SWE)、δ18O はそれぞれ 30~90cm、0.137~0.318 g/cm3, 70 to 200 mm and -36.5 to -22.9‰の値 を示した。地表の植生によって積雪の状態に違いが見られ、積雪深は低木の生えた場所で一番深くな り、一方で積雪密度は氷上の積雪で一番高くなった。SWE は低木の生えた場所で最も多く、湿地上で 一番少ない結果となった。積雪の水同位体比と植生、積雪深、積雪密度の間にはそれぞれ相関が見ら れなかった。植生タイプごとの SWE 平均値から、衛星画像の植生図を用いて調査地域(10 km×10 km) の平均 SWE を算出した。この SWE は本調査域の水収支・土壌水分変動を解明する上で重要な知見と なる。
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