日本建築学会技術報告集 第 21 巻 第 48 号,603-608,2015 年 6 月 AIJ J. Technol. Des. Vol. 21, No.48, 603-608, Jun., 2015 Experimental Study on Restoring Force STUDY ON 静的加力実験に基づく柱 差鴨 EXPERIMENTAL 静的加力実験に基づく柱 -- 差鴨 Characteristics Evaluation of ColumnRESTORING FORCE 居接合部の復元力特性評価 居接合部の復元力特性評価 Beam (Sashigamoi) Joint CHARACTERISTICS EVALUATION OF COLUMN-BEAM (SASHIGAMOI) JOINT 横田治貴 * 1 多幾山法子 林 康裕 * 3 横田治貴— ———— * 1 林 康裕— ———— * 3 * 2 多幾山法子— ——— * 2 キーワード: YOKOTA Haruki *1 HAYASHI Yasuhiro *3 TAKIYAMA Noriko *2 Haruki YOKOTA—————— * 1 Noriko TAKIYAMAーーー * 2 Yasuhiro HAYASHI ———— * 3 The restoring force characteristics and destruction properties of the keywords: Keywords: Traditional wooden houses, Static loading test, Axial force of a beam, Traditional wooden houses, Static loading test, Axial force of a beam, Restoring force characteristics, Column-beam joint Restoring force characteristics, Column-beam joint different type of column-beam joint were grasped by the experiment. The restoring force characteristics and destruction properties of the Since the type cotterofpin joint is hardjoint to produce damageby onthe a column, it is different column-beam were grasped experiment. safer than the tusk tenon joint. Restoring force characteristics change Since the cotter pin joint is hard to produce damage on a column, it is safer than the theform tusk and tenon force ischaracteristics a lot with thejoint. kind Restoring of a pin. There no difference change in the a lot with the form and the kind of a pin. There is no difference in the restoring force characteristics by tenon length. restoring force characteristics by tenon length. When the When the restoring restoring force force characteristics characteristics were were evaluated evaluated based based on onpast past research, research, the the experimental experimentalresults resultswere wereevaluated evaluatediningeneral. general. 1 . はじめに 試験体から 25 x 25 x 400 の材料試験片を切り出し、JIS Z 2101 を参考 伝統構法木造建物,静的水平加力実験,梁の軸力, キーワード : 伝統構法木造建物,静的水平加力実験,梁の軸力,復元力特性, 復元力特性,柱 - 差鴨居接合部 柱 - 差鴨居接合部 伝統構法木造建物には地域性があり様々な仕様( 仕口形状や材種) に支点間距離 3 5 0 m m の 3 点曲げ試験を行うことでヤング係数を求め の柱梁接合部が存在する例えば 1 ) 。その中でも壁要素がない軸組の場合、 た 3 ) 。柱梁材の各強度と栓材については材料試験片を切り出せないた その耐震性能は接合部での破壊性状や変形性能に大きく依存する。 め密度による推定式を用いた 4 ) 。柱の曲げ強度は、曲げ試験により測 また、大断面を有する差鴨居の場合、柱が傾くと差鴨居に軸力が 定されたが、本報では他部材と揃えて密度による推定値を用いた。 生じる。差鴨居に軸力が生じると接合部の復元力特性( 曲げモーメン 2 . 3 実験方法 ト M - 接合部回転角 関係) や柱の負担応力が変化し、差鴨居の軸力 図 4 に示す実験装置は加力梁とタイロッドからなる。試験体は柱 の大きさによっては柱が折損する恐れがあると考えられるが、その を水平にし、ピン及びピンローラーで反力床及び加力梁に設置する。 影響は十分に検討されていない。つまり、伝統構法木造建物の耐震 試験体両側のタイロッドで差鴨居に生じる変動軸力を負担する。 性能( 保有耐力や変形性能) を正確に把握するには、柱梁接合部の仕 柱と差鴨居のなす角を接合部回転角とする。アクチュエータで加 様に応じた破壊性状や復元力特性を把握するとともに、差鴨居の軸 力梁を押引し、接合部回転角 1 / 5 r a d 程度まで正負交番二回繰返加力 力が復元力特性に及ぼす影響を把握する必要がある。 を行う。加力梁に作用する水平荷重及びタイロッドに生じる軸力を 既往の研究では、横田ら 2 ) が込栓仕様柱梁接合部の梁に生じる軸 ロードセルで計測し、力の釣合いから試験体にかかる荷重を求める。 力の影響を考慮した M- 関係の評価法を提案している。本報では、既 往の研究の追加検討として、新たな仕様の柱 - 差鴨居接合部を模した 3 . 接合部曲げ実験結果 試験体に対して静的加力実験を行い、破壊性状や復元力特性をそれ 3 . 1 復元力特性と損傷状態 ぞれ検討する。また、既往の評価法に則り、各試験体にあわせてモ 写真 1 に代表的な損傷を、図 5 に各試験体の復元力特性を示し、骨 デル化を行うことで復元力特性を評価し、その評価精度を検証する。 格曲線を太線で示す。なお、本報では復元力特性として接合部直近 の差鴨居の曲げモーメント‐接合部回転角関係を示す。また、2 段ほ 2 . 接合部曲げ実験計画 ぞを有する試験体に関して、図 4 の通り試験体を設置したときに正 2 . 1 試験体概要 面に向かって右側のほぞ、栓をそれぞれ右ほぞ、右栓と呼び、左側 柱・差鴨居・栓の 3 部材で構成される T 字型の接合部試験体を作 も同様にして区別する。A 2 2 0 _ T 2 の栓に関しても同様に区別する。 成する( 図 1 ) 。本報では込栓・鼻栓仕様を対象とし、栓や差鴨居ほ H120_S1 は、正側加力時に接合部回転角 0.01rad で込栓に曲げ破壊 ぞの形状をパラメータとして計 9 体設計する( 表 1 ) 。栓の形状を図 2 が生じ、復元力上昇の傾きが緩やかになった。その後、0 . 0 9 r a d で柱 に、差鴨居のほぞ形状を図 3 に示す。 に割裂が生じたが復元力が上昇し続け、0.15rad で最大耐力 4.7kNm に 2 . 2 材料試験 達した。負側加力時は 0.17rad で最大耐力 4.5kNm に達した。 各試験体の物性値一覧を表 2 に示す。柱梁材は加力実験を終えた H220_S1 は、正側 0.02rad で鼻栓に曲げ破壊が生じ、復元力上昇の 本稿は平成 26 年日本建築学会近畿支部研究発表会・2014 年度日本建築学会大会(近畿)において発表した内容を基に加筆・修正をしたものである。 本報は平成 26 年日本建築学会近畿支部研究発表会・2014 年度日本建築学会大会(近畿)において発表した内容を基に加筆・修正をしたものである。 *1 *1 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 修士課程 Graduate Student, Dept. of Architecture and Architectural Eng., Kyoto Univ. 1 *1 Graduate Student, Dept. of Architecture and Architectural Eng., Kyoto Univ. * 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 修士過程 (〒 615-8540 京都市西京区京都大学桂 C-2 棟 316 号室) 615-8540 京都市西京区京都大学桂 C-2 棟 316 号室) (〒 首都大学東京都市環境学部建築都市コース 准教授・博士(工学) * 2 首都大学東京 都市環境学部 建築都市コース 准教授・博士(工学) *3 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 教授・工博 * 3 京都大学大学院工学研究科建築学専攻 教授・工博 *2 *2 Assoc. Prof., Div. of Architecture and Urban Studies, Tokyo Metropolitan Univ., Dr. Eng.Prof., Div. of Architecture and Urban Studies, Tokyo Metropolitan Univ., Dr. Eng. *2 Associate Prof., Dept. Architecture Architectural Dr. Eng. Dept. of of Architecture andand Architectural Eng.,Eng., KyotoKyoto Univ.,Univ., Dr. Eng. * Prof., *3 3 603 傾きが緩やかになった。その後、0 .1 7 ra d で最大耐力 6 . 5 k N m に達し D220_S2 は、正側 0.02rad に右鼻栓が折損したが、復元力は上昇を た。負側は 0.20rad で最大耐力 5.4kNm に達した。 続け 0.09rad で最大耐力 4.2kNm を示した。その後、0.11rad で右ほぞ H220_T2 は、正側 0.08rad で鼻栓に折損が生じると同時にほぞが端 に曲げ破壊が生じ、復元力が低下した。負側では 0 . 0 2 r a d に左鼻栓が 抜けし、最大耐力 8 . 4 k N m を示した。その後、復元力が急激に低下し 折損し、0.13rad で最大耐力 6.4kNm を示した。その後、0.16rad にお た。負側は 0.21rad で最大耐力 5.3kNm に達した。 いて左ほぞに曲げ破壊が生じた。 D220_T2 は、正側 0.05rad に最大耐力 4.7kNm を示し、右ほぞが端 A220_T2 は、正側 0.04rad において差鴨居ほぞの端抜けが右鼻栓穴 抜けした後、復元力が急激に減少した。負側では 0 . 0 5 r a d に最大耐力 で生じた。これにより復元力が急激に減少したが、端抜け後も上昇 6.4kNm を示し、左ほぞが端抜けした後、0.18rad において左ほぞの根 し、0.15rad で最大耐力 6.2kNm に達した。負側では 0.06rad で左鼻栓 元に曲げ破壊が生じた。 表 1 試験体一覧 D260_T2 は、正側 0.04rad に最大耐力 4.7kNm を示し、右ほぞが端 抜けした後、復元力が急激に減少した。負側では 0 . 0 5 r a d に最大耐力 試験体名 6 . 1 k N m を示し、左ほぞが端抜けした。 150 H120_S1 H220_S1 H220_T2 D220_T2 D260_T2 D220_S2 A220_T2 H80_S1 H80_S1k 850 120×270差鴨居 15×15栓 正 加力梁(剛体) 120×120柱 880 270 290 120 :ピン :ピンローラー 図 1 試験体概要 (H220_S1) 柱 20 270 240 120 63 126 30 60 120 (a) Half 込栓 1 本 柱 梁 栓 柱 梁 栓 柱 梁 栓 柱 梁 栓 柱 梁 栓 柱 梁 栓 柱 梁 栓 柱 梁 栓 柱 梁 栓 スギ ベイマツ カシ スギ ベイマツ カシ スギ ベイマツ カシ スギ ベイマツ カシ スギ ベイマツ カシ スギ ベイマツ カシ スギ ベイマツ カシ ヒノキ アカマツ カシ ヒノキ アカマツ カシ D260_T2 (b) Half 鼻栓 1 本 D220_S2 220 220 30 30 220, 260 36 30 材種 D220_T2 63 126 30 30 (c) Half 鼻栓 2 本 30 30 240 30 25 (d) All 鼻栓 2 本 A220_T2 30 H80_S1 60 120 60 (e) Double 鼻栓 2 本 H80_S1k 図 3 差鴨居ほぞの形状 差鴨居 差鴨居 柱 240(All) 120 (Half) 部材 H220_T2 80 105 柱 栓穴 試験体名 H220_S1 図 4 実験装置のメカニズム 1段 栓の特徴 仕様 (Straight) 鼻栓 テーパー (Taper) 本数 1 2 一様断面 テーパー 220 80 種類 込栓 一様断面 込栓 一様断面 1 表 2 物性値一覧 H120_S1 図 2 栓の形状 30 240 (b) テーパー付 (a) 一様断面 120 タ イ ロ ッ ド 差鴨居 ロードセル 120 40 15 160 15 15 加力方向 220 120 負 差鴨居ほぞの特徴 差鴨居 せい 長さ せい (mm) 段数 (mm) (mm) 120 126 1段 (Half) 220 270 60 2段 260 (Double) 密度 ヤング係数 機械 2 等級区分 (t/m3) (kN/mm ) E110 0.41 14.0 E110以上 0.48 17.6 0.92 14.7 E110 0.45 10.2 E110以上 0.56 21.1 0.96 15.3 E110 0.40 13.2 E110以上 0.53 19.1 0.97 15.4 E110 0.40 13.2 E110以上 0.53 19.1 0.97 15.4 E70 0.34 8.9 E110以上 0.48 17.5 0.96 15.3 E70 0.36 9.9 E110以上 0.49 17.7 0.94 15.0 E110 0.42 14.0 E110以上 0.63 21.8 1.02 16.1 E110 0.48 18.3 0.56 14.3 0.89 14.3 E110 0.48 18.3 0.56 14.3 0.26 5.7 差鴨居 栓 柱 鼻栓 柱の割裂 (a) 柱の割裂 (H120_S1) 差鴨居ほぞ (b) 鼻栓折損 端抜け (c) ほぞの端抜け (d) ほぞの折損 (D220_T2) (D220_T2) (H220_S1) 写真 1 損傷の様子 604 柱 ほぞの 折損 が曲げ破壊した。その後、復元力は緩やかに上昇し 0.16rad で最大耐 元力の挙動に差が見られ、正側の方が初期剛性が大きくなった。 力 8.9kNm に到達した。 H220_S1 と H220_T2 では、正側において損傷が生じるタイミング H80_S1 は、正側 0.03rad に栓が折損し、復元力上昇の傾きが緩やか が大きく異なる( 図 6 ( b ) ) 。初期剛性は同程度であるが H 2 2 0 _ S 1 では になった。その後、0 . 0 6 r a d で柱に割裂が生じたが復元力は上昇を続 0 . 0 2 r a d と早期に栓が折損して、復元力上昇の傾きが低くなったのに け、0.20rad で最大耐力 3.5kNm を示した。負側では 0.22rad に最大耐 対し、H220_T2 の復元力は上昇し続け、0.08rad で最大耐力 8.4kNm 力 4.1kNm を示した。 を示した。損傷後、両試験体の復元力が同程度を示すことより、損 H80_S1k は、正側 0.03rad に栓が折損し、復元力上昇の傾きが緩や 傷前の復元力の差は栓の抵抗力に起因すると考えられる。負側は両 かになった。その後、0.19rad で最大耐力 2.9kNm を示した。負側では 試験体で同程度である。負側は正側と比べて栓の位置が回転支点部 0.16rad にほぞに曲げ破壊が生じ、その後 0.22rad で最大耐力 4.1kNm から近いため、栓の抵抗力が復元力に及ぼす影響は大きいといえる。 を示した。 D 2 2 0 _ T 2 と D 2 2 0 _ S 2 では、栓の断面積によって損傷が異なった( 3 . 2 復元力特性の比較 図 6(c))。D220_S2 では 0.02rad で栓の折損が先行し、復元力の傾きは 接合部仕様による比較を行う。一様断面の栓を有する試験体では 緩やかになった。D 2 2 0 _ T 2 では、初期剛性、最大耐力は大きいが 栓の折損が先行し、損傷後、復元力の上昇が緩やかになるのに対し、 0 . 0 5 r a d でほぞに端抜けが生じ復元力が急落した。初期剛性、最大耐 テーパー付の栓ではほぞの端抜けが先行し、復元力が急落する傾向 力では D220_S2 が劣るが、変形性能では D220_S2 が勝るともいえる。 にあった。また、2 段ほぞを有する試験体は損傷後、ほぞが折損し復 D220_T2 と A220_T2 を比較する(図 7(a))。当初、めり込み抵抗力 元力が横ばいになるのに対し、1 段ほぞを有する試験体では損傷後も が大きく D 2 2 0 _ T 2 の方が復元力が大きくなると予想したが、損傷前 復元力は上昇する傾向にあった。 では初期剛性耐力ともに同程度であった。損傷後、D 2 2 0 _ T 2 の復元 H120_S1 と H220_S1 において、栓の折損後 H220_S1 は大きな損傷 力は横ばいに推移したのに対し、A 2 2 0 _ T 2 の復元力は上昇した。 はなく H120_S1 では柱に割裂が生じた。また、H120_S1 は柱の割裂 D220_T2 と D260_T2 より、両試験体の復元力は損傷前の初期剛性 後に H 2 2 0 _ S 1 と比べて復元力が低下したが、負側は一貫して同程度 や耐力も同程度であり、損傷後もともに横ばいであった( 図 7 ( b ) ) 。 であった( 図 6 ( a ) ) 。柱に損傷が生じないという点では鼻栓仕様が安 よって、ほぞの長さが復元力に及ぼす影響は確認されなかった。 全であると言える。また、接合部仕様の非対称性より、正負では復 H80_S1 と H80_S1k においては、栓種の違いが復元力に及ぼす影響 -0.2 0 接合部回転角 (rad) 0.2 -10 -0.2 (a) H120_S1 5 0.05rad 0.10rad 右ほぞの端抜け 右ほぞの 折損 -5 -0.05rad 左ほぞの -0.18rad 端抜け -10 左ほぞの折損 -0.2 0 0.2 接合部回転角 (rad) 5 -5 -5 -0. 06rad 鼻栓の折損 -0.2 0 0.2 接合部回転角 (rad) 5 0 0.04rad 右ほぞの端抜け -0.05rad 左ほぞの端抜け -0.2 0 0.2 接合部回転角 (rad) 0.2 0.03rad 込栓の損傷 0 接合部回転角 (rad) (h) H80_S1 -5 5 0 -0.2 0.11rad 右ほぞの折損 0.02rad 左鼻栓の折損 -5 -0.02rad -0.13rad 右鼻栓の折損 -10 左ほぞの端抜け -0.2 0 0.2 接合部回転角 (rad) 0 -5 -10 -0.2 0.2 0 -10 図 5 M- 関係と損傷の生じたタイミング -0.16rad ほぞの折損 -0.2 0 接合部回転角 (rad) (i) H80_S1k -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 0.2 (b) 栓の強さ 0.03rad 栓の損傷 -5 0.2 H220_S1 H220_T2 5 10 5 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) (a) 込栓と鼻栓 10 (f) D220_S2 0.06rad 柱の割裂 -0.2 0 -10 10 -5 -10 0 接合部回転角 (rad) H120_S1 H220_S1 5 (c) H220_T2 0 -10 曲げモーメントM (kNm) 曲げモーメントM (kNm) -0.2 (e) D260_T2 0.04rad ほぞの端抜け (g) A220_T2 -10 10 0 -10 -5 10 (d) D220_T2 5 0 (b) H220_S1 0 10 0.2 10 曲げモーメントM (kNm) 曲げモーメントM (kNm) 10 0 接合部回転角 (rad) 曲げモーメントM (kNm) -10 -5 曲げモーメントM (kNm) -5 0 5 曲げモーメントM (kNm) 0 5 10 0.08rad ほぞの端抜け 鼻栓の折損 曲げモーメントM (kNm) 0.01rad 込栓折損 0.02rad 鼻栓折損 曲げモーメントM (kNm) 5 10 曲げモーメントM (kNm) 10 0.09rad 柱の割裂 曲げモーメントM (kNm) 曲げモーメントM (kNm) 10 0.2 D220_T2 D220_S2 5 0 -5 -10 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 0.2 (c) 栓の形状 図 6 M- 関係比較その 1 605 を検討する( 図 7 ( c ) ) 。正側では、ともに 0 . 0 3 r a d で栓が折損した。 算出した 4 ) 。また、ほぞの端抜けに関して、本報では終局変位の実験 H80_S1k は復元力が横ばいになったのに対し、H80_S1 はそのまま上 式( 2 ) を用いて耐力を推定した。 Py min Pyf (i) 昇し続け 0 . 0 6 r a d で柱に割裂が生じた。回転角が大きくなると両試験 (1) ( i 1~7 ) 20 33.3 ' ( ' 0.53) u 5 5 ' ( ' 0.53) 体の復元力は同程度になった。負側はともに同程度となり、栓種に よる復元力への影響は見られなかった。 (2) 3 . 3 差鴨居の軸力 図 8 に差鴨居の軸力 - 接合部回転角関係を示し、骨格曲線を太線で 表 3 降伏モードの推定 示す。全試験体において回転角の増大に伴い軸力も増大するが、正 試験体 側より負側の方が軸力が大きい。また、各試験体とも負側では挙動 H120_S1 H220_S1 に大きな差はなかった。栓 2 本の試験体について、正側ではほぞの 端抜け前には軸力が上昇せず、端抜け後に急上昇した。 H220_T2 4 . 接合部の曲げモーメント M -回転角 関係評価 D220_T2 既往の込栓仕様接合部に関する評価法 2 ) を基に、各仕様にあわせ て抵抗力をモデル化することで栓形状やほぞ形状が異なる込栓・鼻 D260_T2 栓仕様接合部の M - 関係評価を行う。 4 . 1 降伏・破壊モード D220_S2 既往の評価式により推定された降伏モードと実験で生じた接合部 の降伏モードを比較する。栓に関するの 5 つの破壊モード 5) (M1~5)と A220_T2 柱の割裂 6 ) (M6 )、ほぞの端抜け 7 ) (M7 )の合計 7 つの破壊モードを想定 H80_S1 H80_S1k する。式( 1 ) より各破壊モードの荷重のうち最小値を降伏耐力 P y と 各破壊モードの破壊荷重理論値 (kN) M2 M3 M4 M5 M6 M7 19.3 10.3 12.7 8.6* 10.6 15.4 21.2 9.6 17.8 9.1 18.6 18.5 18.1 16.6 18.6 19.0 18.9 16.6 18.6 18.5 18.1 16.6 18.6 18.2 17.7 16.6 16.1 17.5 17.9 15.8 16.1 17.2 17.5 15.8 17.1 8.8 15.7 8.8 17.1 8.8 15.7 8.8 19.9 19.5 19.2 19.3 19.9 18.6 17.7 19.3 22.6 11.1 13.0 8.3 12.9 15.1 1.5 1.3 1.8 1.9 12.9 15.1 M1 11.0 11.8 11.8 12.4 11.8 11.4 11.6 11.3 11.3 11.3 12.6 11.4 10.5 0.5 して与え、破壊モード i を推定する。なお、材料強度は測定密度より * 下線は、降伏時に生じると推定される破壊モード 実験結果 M3**(M6) M3 M1,2 (M3) M1,2 (M7) M1,2 (M7) M1,2 (M7) M1,2 (M7) M1,2 (M7) M3 (M7) M3 (M7) M1,2 (M7) M1,2 (M3) M3(M6) M1,3,4 ** ( )内のモードは、降伏後に生じた破壊モード -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 0.2 -10 0 -5 -10 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 0.2 10 0 -10 0.05rad 右ほぞの端抜け -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 接合部回転角 (rad) 軸力N (kN) 曲げモーメントM (kNm) -5 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) (c) 栓の材種 図 7 M- 関係比較その 2 606 0.2 -10 0 0.08rad ほぞの端抜け 鼻栓の折損 -10 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 20 30 20 -0.05rad 左ほぞの端抜け 10 0 -10 0.04rad 右ほぞの端抜け -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) (g) A220_T2 -0.13rad 左ほぞの端抜け -0.02rad 右鼻栓の折損 10 0 -10 0.11rad 0.02rad 右ほぞの 左鼻栓の折損 折損 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 接合部回転角 (rad) (f) D220_S2 0.2 30 0.06rad 柱の割裂 -10 0.03rad 込栓の損傷 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) (h) H80_S1 -0.16rad ほぞの折損 20 10 0 0.2 (c) H220_T2 30 20 0.04rad ほぞの端抜け -0.2 10 (e) D260_T2 -0. 06rad 鼻栓の折損 10 0 0.02rad 鼻栓折損 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 接合部回転角 (rad) 30 20 0 -10 -10 30 H80_S1 H80_S1k 5 0 (d) D220_T2 (b) ほぞの長さ 10 10 (b) H220_S1 -0.18rad 0.10rad 左ほぞの折損 右ほぞの -0.05rad 折損 左ほぞの 端抜け 20 軸力N (kN) 曲げモーメントM (kNm) 30 D220_T2 D260_T2 5 0.01rad 込栓折損 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 接合部回転角 (rad) 20 (a) H120_S1 (a) ほぞのせい 10 0 軸力N (kN) -10 10 20 軸力N (kN) -5 軸力N (kN) 0 0.09rad 柱の割裂 30 軸力N (kN) 20 軸力N (kN) 5 30 軸力N (kN) 30 D220_T2 A220_T2 軸力N (kN) 曲げモーメントM (kNm) 10 0.2 0.03rad 栓の損傷 10 0 -10 図 8 N- 関係と損傷の生じたタイミング -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) (i) H80_S1k 0.2 Pyf (i) :モード i の破壊荷重(i=1 ~ 7) る。降伏回転角以降のめり込み直下部での負担荷重は、めり込み応 ' :せん断強度低下率 = せん断応力度 / せん断強度 力を完全弾塑性型とし、重心位置に作用するとする。図 1 1 に正方向 ただし、M 3 , 5 , 6 が先行する場合は、端抜けは生じないとする。 加力時のほぞのめり込み分布の仮定を示すが、斜線部のうち、点 A 表 3 に推定結果一覧を示す。テーパー付の栓を用いた試験体では、 から遠い位置のみを考慮する。めり込み回転角は、接合部回転角 と 降伏時の破壊モードを推定できたが、比較的断面の小さい一様断面 同様とし、めり込み位置やめり込み長さ x p はほぞの引抜を考慮する。 の栓を用いた試験体では正しく推定できないものもあった。材のば また、R f は R e に摩擦係数(込栓:0.4, 鼻栓:0.7)を乗じて求める 5) 。 らつきにより、実験では異なる破壊モードが先行したと考えられる。 c ) 差鴨居の軸力 N 4 . 2 M - 関係評価手法概要 差鴨居の軸力 N は、差鴨居の軸方向における力の釣合いから式( 4 ) 図 9 に差鴨居の曲げモーメント M の算出方法を示す。差鴨居接合 のように算出される。 2) N V cos ( R f R p ) 部内に生じる各抵抗力は、栓の抵抗力 R p 、めり込み力 R e 及びめり込 (4) みによる摩擦力 R f とし、差鴨居のほぞ形状に応じてそれぞれモデル ここで、支点反力 V は、回転中心での柱の変形量 s との関係により 化を行う。各抵抗力の点 A からのうでの長さを l p , le , lf とし、点 A 周 算出する。 s は式( 5 ) より、V によって生じる柱のたわみ量 t と柱の りの釣合いより差鴨居断面の曲げモーメント M を式( 3 ) より算出す めり込み量 m の和で表す( 図 1 2 ) 。 s h / 2 sin t m る。h は差鴨居せいとし、負方向加力時も同様に算出する。ただし、 差鴨居に生じる軸力 N は差鴨居中心軸上と仮定し圧縮力を正とする。 M R p l p Re le R f l f N (h / 2) (5) 4 . 4 実験結果の評価 (3) 2 段ほぞを有する試験体では、評価結果が大きく実験結果と異な 4 . 3 各抵抗力のモデル化 る。例として、D220_T2 の評価結果を図 13 に示す。実験ではほぞの a ) 栓の抵抗力 R p 曲げ変形が確認される。曲げの影響によるめり込み抵抗力の低下を 5) R p は、簡単のため、初期剛性 K 及び降伏耐力 P y の完全弾塑性型と 把握するため、ほぞのめり込み抵抗を無視した場合の評価を行った。 し、栓の変位量は差鴨居の栓位置の変位量 s に等しいとする( 図 1 0 ) 。 結果は、めり込みを全く考慮しない分、実験値を小さく評価したが、 b ) めり込み力 R e , 摩擦力 R f めり込みを考慮した場合よりも無視した方が実験結果に整合した。 R e は、三角変位めり込み分布 5 ) の降伏耐力及び降伏回転角で定め 実際にはめり込みによる抵抗力は若干程度あると考えられるが本報 Rf Re 栓 柱 Rp 20 20 20 10 0 -10 実験値 理論値 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 0.2 10 0 -10 (a) H120_S1 lp s 点A 栓 xp 20 20 10 0 実験値 理論値 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 0.2 非考慮 柱 考慮 図 11 差鴨居ほぞのめり込み 0 実験値 理論値 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) (g) A220_T2 0 -10 0.2 0.2 30 20 20 10 0 -10 実験値 理論値 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 0.2 (f) D220_S2 30 実験値 理論値 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 0.2 10 (e) D260_T2 (d) D220_T2 10 -10 0 -10 軸力N (kN) 点A 10 実験値 理論値 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 実験値 理論値 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) (c) H220_T2 20 30 軸力N (kN) 0.2 (b) H220_S1 20 差鴨居 -10 30 Rp 図 10 栓の抵抗力 0 30 -10 柱 実験値 理論値 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 10 30 軸力N (kN) 点B 差鴨居 軸力N (kN) 図 9 評価方法概要 軸力N (kN) 点A 30 軸力N (kN) V lp 30 軸力N (kN) le Q lf 30 軸力N (kN) 点B 差鴨居 軸力N (kN) N M 0.2 (h) H80_S1 10 0 -10 実験値 理論値 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 0.2 (i) H80_S1k 図 14 実験結果との比較 (N- 関係) 607 では、簡単のため 2 段ほぞ試験体ではめり込みの影響を無視した。 b ) 既往の評価法 2 ) により、接合部の M - 関係を評価した結果、損傷 実験結果と評価結果を併せて、図 14 に N- 関係を、図 15 に M- 関 後の挙動も含め、1 段ほぞ試験体の理論値は実験値を概ね良好に評価 係を示す。N - 関係に関して、実験値は評価値を概ね評価できている した。2 段ほぞ試験体では、評価結果が上手く整合しなかったが、ほ と言える。M - 関係に関して、式( 3 ) の軸力項を考慮した場合と非考 ぞのめり込みを無視することで評価精度が向上した。ほぞの曲げ剛 慮の場合をともに示す。H 2 2 0 _ S 1 試験体のように、実験で剛性が早 性が低く、ほぞのめり込み効果が小さかったと考えられる。 期に低下する傾向は評価できない場合があるが、損傷が生じる前の 謝辞 復元力は軸力の影響を考慮した場合と非考慮の場合ともに概ね評価 本報の実験は科学研究費補助金基盤研究( A ) N o . 2 2 2 4 6 0 7 ( 代表 可能である。損傷後については、軸力を考慮した場合と非考慮の場 者:林康裕) の補助の下で遂行した。ここに記して謝意を表す。 合に違いが現れた。本検討においては、軸力の影響を考慮した場合 の方が実験結果の挙動に近い評価結果となった。 参考文献 1) 松本拓也,多幾山法子,林康裕:柱‐差鴨居接合部の力学特性に関する実験 5 . 結論 的研究,日本建築学会構造系論文集,第675 号,pp.747-754,2012.5 2) 栓やほぞの形状の異なる込栓・鼻栓仕様の柱 - 差鴨居接合部の静的 横田治貴,多幾山法子,林康裕:静的載荷実験に基づく京町家柱梁接合部の 復元力特性評価に関する検討, 日本建築学会大会学術講演梗概集, C-1, pp.311- 加力実験を行い、復元力特性( M - 関係) や破壊性状を把握した。既 312, 2013.7 往の評価法 2 ) を基に差鴨居に生じる軸力の影響を考慮して接合部の 復元力特性を評価し、その精度を検証した。 3) (財) 日本住宅・木材技術センター:構造用木材の強度試験マニュアル, 2011.3 4) 中井孝,山井良三郎:日本産主要35樹種の強度的性質,林業試験場報告, No.319,pp.13-46,1982.1 得られた研究成果を以下に示す。 5) (社)日本建築学会:木質構造接合部設計マニュアル,2009.11 a ) 鼻栓接合部は、柱の割裂が進展する心配がない点で込栓接合部の 6) 方が安全性に優れている。栓の形状や材種が復元力特性に及ぼす影 T. Van der Put, A. Leijten:Evaluation of perpendicular to grain failure of beams caused by concentrated loads of joints,Proceedings of 33rd Meeting of CIB-W18,Paper 33-7-7, 響は大きく、断面積や密度の大きな栓は損傷前の耐力が大きいが、 2000.8 7) 損傷によって復元力が急落する。ほぞ長さによる復元力特性の違い 野口昌宏,中村昇:木材の端抜けせん断型の破壊クライテリアの提案,日本建 築学会構造系論文集,第658号,pp.2205-2212,2010.12 -5 -10 -0.2 図 12 支点部のめり込み変位 10 曲げモーメントM (kNm) 軸力N (kN) 20 10 0 -10 -20 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 5 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 曲げモーメントM (kNm) 曲げモーメントM (kNm) 5 0.2 -0.2 (b) M- 関係評価 図 13 ほぞのめり込み考慮 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) (g) A220_T2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 5 0.2 -5 -0.2 -5 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 0.2 (f) D220_S2 10 0 -10 0.2 0 -10 0.2 実験値 軸力考慮 軸力非考慮 5 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 実験値 軸力考慮 軸力非考慮 (e) D260_T2 -5 -0.2 -0.2 (c) H220_T2 -5 10 0 -10 -5 10 0 -10 0.2 実験値 軸力考慮 軸力非考慮 5 0 -10 0.2 実験値 軸力考慮 軸力非考慮 (d) D220_T2 -5 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 実験値 軸力考慮 軸力非考慮 5 (b) H220_S1 -5 10 0 -10 -0.2 10 0 -10 0.2 実験値 考慮 非考慮 5 -5 -10 0.2 実験値 軸力考慮 軸力非考慮 (a) N- 関係評価 10 0 (a) H120_S1 実験値 考慮 非考慮 30 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 5 曲げモーメントM (kNm) 柱 0 10 実験値 軸力考慮 軸力非考慮 曲げモーメントM (kNm) m 点A 5 曲げモーメントM (kNm) V 実験値 軸力考慮 軸力非考慮 曲げモーメントM (kNm) 曲げモーメントM (kNm) 点B 差鴨居 10 10 曲げモーメントM (kNm) h 曲げモーメントM (kNm) は見られなかった。 0.2 (h) H80_S1 実験値 軸力考慮 軸力非考慮 5 0 -5 -10 -0.2 -0.1 0 0.1 接合部回転角 (rad) 0.2 (i) H80_S1k 図 15 実験結果との比較 (M- 関係) [2014 年 10 月 15 日原稿受理 2015 年 1 月 6 日採用決定] 608
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