クーロンの破壊規準 τ= c+σtanφ

粘土の残留強度発現メカニズムに関する研究
本研究の目的は,粘土の残留強度の発現.メカニズムを解明することです。
地盤内には自重や外力の作用によりせん断応力が働きます。そのため,せん断抵抗とよ
ばれるすべりに抵抗する力が作用し土塊が動くのを防ごうとします。このせん断抵抗の最
大値をせん断強度とよび,地盤の強度の重要な指標とされています。
図
直接せん断試験結果
クーロンの破壊規準
τ=
c+σtanφ
τ:せん断応力[kN/m2] , σ:垂直応力[kN/m2]
c:見かけの粘着力[kN/m2] ,φ:せん断抵抗角[°]
残留強度とは
せん断強度のひとつに残留強度があります。残留強度とは大きなせん断変形を受けて残
留状態に至ったときの最小せん断強度です。実務では鏡肌を呈する地すべりのすべり面強
度として斜面安定解析に利用されるなど,工学的に重要な値となっていますが,残留強度
のメカニズムは未だ解明されていません。
下図は Skempton(1964)が示した残留強度の概念図です。ここで,ピーク強度とは不攪乱粘
土で過圧密状態の最大せん断応力のことであり,完全軟化強度とは再構成粘土で正規圧密
状態の最大せん断応力のことです。また,残留強度とは,ピーク強度・完全軟化強度を超え
てさらにせん断変位が進み,最終的に一定値に収束した段階のせん断応力です。
c’p , φ’p : ピーク強度定数
τ
τ c’s , φ’s : 完全軟化強度定数
不撹乱粘土
(ピーク強度)
c’r , φ’r :
残留強度定数
φp
φs
残留強度
再構成粘土
(完全軟化強度)
(a) せん断応力~変位
図
φr
cp
Σσ
cs
cr
(b) 破壊基準線
ピーク強度・完全軟化強度・残留強度の概念図
σ’
(1) 残留強度と粘土鉱物の電荷との関係
~残留強度と粘土鉱物の電荷に関係はあるのか~
~関係があるならばどこの電荷か~
粘土鉱物は,結晶化の段階で構造内の陽イオンを置換することで負電荷をもつようにな
ります。この負電荷を層電荷といい結晶全体を結びつける力,あるいは層間に働く力の強
さのバロメーターとなります。層電荷は常に一定であり,2:1 型の粘土鉱物の主要な電荷と
なっています。また,層電荷が 0 の場合でも,シート中の陽イオン数の変化などによって,
層の中での電荷のバランスは変化します。そのため,四面体シートおよび八面体シートに
ついてはシート電荷と呼ばれる電荷を考えることもできます。一方で,1:1 型鉱物など pH
によって左右される電荷もあり変異電荷と呼ばれます。このように,粘土鉱物は結晶構造
に起因した電荷を有し,粘土鉱物の物理的・化学的性質に深く関係しています。
1:1型
2:1型
-,0
-
0,-
0,+ ,-
0
0
0,+
0
0,+ ,-
0
-
0.7nm
C
E
C
1nm
1nm
-
-,0
0,+ ,-
0,-
-
-
-,0
パイロフィライト
雲母
緑泥石
スメクタイト
0
10~40
2~40
60~150
0
0
0,-
0
0
カオリン鉱物
ハロイサイト
5~40
-
1.5nm~
1.4nm
0,+ ,-
0
0,+
2~15
0.93
nm
+
+
+
0,-
-,0
-
-
0
[cmol/100g]
四面体シート
H2O
八面体シート
+
K+,Na+,Ca2+
OH面
+
図 層状珪酸塩の構造模式図
交換性陽イオン
○粒子電荷計 PCD03 による粒子電荷の測定
PCD03 は,液体試料の粒子電荷を測定する装置です。
PCD-T two は電荷測定の終点を自動で決定する装置です。
溶液中で粘土粒子は下図のような二重層を形成していま
す。PCD03 で拡散層内の電荷を測定することにより粘土鉱
物のもつ表面電荷を推定することができます。
図
図
粒子電荷測定ユニット
拡散電気二重層
30
総電荷量Q[C/g]
Na型スメクタイト
20
垂直応力300kPa
10
パイロフィライト
0
カオリナイト
Ca型
スメクタイト
-10
0
50
図
100
せん断応力τ[kPa]
150
各種粘土鉱物のせん断応力-総電荷量関係
200
(2) 残留強度と水の物性との関係
水分子は粘土に吸着する代表的な極性分子であり,粘土粒子は,粘土鉱物と水分子が交
互に層状に重なり構成しています。粘土鉱物種ごとに保持できる水量は決まっていて,粘
土鉱物の物性に影響を与えています。
粘土鉱物のようなイオン結合性固体では原子間は主に静電結合によりつながっているた
め,水と接した場合,水が表面の原子間に浸透し,静電結合を弱めることになります。そ
のため,水と電気的な力との関係も踏まえ,残留強度のメカニズム解明を行っています。
吸着水
粘土鉱物
層間水
図
粘土鉱物と水の概略図