G7 coal phase out: Japan

2015 年 9 月分析
G7 石炭の段階的廃止: 日本
オックスファム向け考察
TAYLOR DIMSDALE、JULI AN SCHWARTZKOPFF &
CHRIS LITTLECOTT
本報告書は、研究結果の共有、公開討論のための資料作成、開発政策やプラク
ティスに関する意見集約を目的としてオックスファムから委託されたもので
す。本報告書は必ずしもオックスファムのポリシーの立場を反映するものでは
ありません。
オックスファムは、将来、貧困による不公平から解放されることを目的とした
変化のための世界的な動きの一環として、90 か国を超える国々でネットワー
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な移行の加速を目的として公益のた
めに運営されているヨーロッパの独
立非営利団体です。E3G は分野横断
的な同盟であり、変化を活かせる対
応力に応じて選ばれ、慎重に定義さ
れた成果を得ることを目的としてい
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2
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
2015 年 9 月分析
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
オックスファム向け考察
TAYLOR DIMSDALE、JULI AN SCHWARTZKOPFF 、
CHRIS LITTLECOTT
3
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
G7 石炭の段階的廃止:日本
目次
目次 ................................................................4
はじめに ............................................................4
ヘッドラインメッセージ ..............................................4
石炭の役割とは ......................................................8
電力部門における石炭利用 ...........................................10
気候行動と矛盾する石炭火力発電所の新設の波 .........................14
石炭と気候という対立で分裂している日本政府 ......................15
石炭のわなから逃れるための時間は残っている ......................16
信頼できる計画もなく CCS を盾にとる日本 .........................17
日本は、石炭火力発電所閉鎖を行動に移せるか? ........................19
35 年発電所耐用寿命の適用 ...........................................20
はじめに
2015 年 6 月 8 日、G7 参加国は、今世紀末までのグローバル経済の脱炭素化
完了に合意しました。また、それには、CO2 排出量の大幅削減と、2050 年ま
でのエネルギー分野の転換が必要であるという点でも合意を得ました。G7 公
式声明では、特定の化石燃料に言及できませんでしたが、意味合いは明らかで
あり、危険な気候変動の回避に向けて行動している世界で、緩和対策なしの
(※訳者中:CO2 回収・貯留技術(CCS)などを行わない)石炭火力発電に
未来はありません。
この分析では、日本における石炭利用の現状を調べて、どうすれば石炭火力発
電の段階的廃止を加速できるかを確認します。この分析は G7 各国レビューシ
リーズのひとつです。1
主要なメッセージ
日本は、石炭生産力の大幅増加を目指している唯一の G7 メンバーです。他の
G7 各国は、既存の石炭火力発電所の閉鎖という課題に向き合っていますが、
日本では逆に、新規石炭火力発電所の建設が計画されています。現在の計画で
は、今後 10 年間の日本の石炭火力発電設備 55~75% 増加すると予想できま
す。その場合、日本では、今後数十年にわたって CO2 の排出が固定化され、
気候に対する取り組みが弱体化することになります。
1
本報告書の原案は、オックスファムの報告書 ‘Let them eat coal’に対する分析情報として G7 サミット前に作成
したものです。本改定版には、発電所の閉鎖と G7 各国の石炭火力発電所の開発経路に関する最新データを取り入
れた新しい図 5 を追加しました。
4
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
>
日本では、その石炭消費の大半は、歴史的に鉄鋼生産やその他の産業部門
に関連するものでした。しかし、この 20 年で発電部門の石炭需要は大幅
に増え、現在のレベル、41GW に達しました。産業部門と発電部門による
石炭消費量の合計は、2012 年の日本の CO2 排出量の 31% を占めます。2
>
2011 年の福島第一原子力発電所の事故で日本は、電力の供給量の 30% を
事実上一夜にして、停止することになりました。日本は、すでに世界第 2
の石炭輸入国でしたが、再生可能エネルギーでエネルギーミックスの多様
化を加速する代わりに、日本政府と電力会社は石炭利用量のさらなる増加
を選びました。
>
電力需要は 2011 以後大幅に減少していますが、発電部門の化石燃料の生
産量は増加しています。電力ミックスにおける石炭の占める割合は、2010
年から 2013 年の間に 25% から 30% に増加しました。2013 年には、日本
の総 CO2 排出量の 19% を占めました。
>
2013 年には 3 箇所の新規石炭火力発電所が操業を開始しました。2015 年
9 月現在で、23.5GW の設備容量に相当する、48 件の新規石炭プロジェク
トが計画されており、さらに電力会社による電力入札への設備申請もあり
ます。福島後のプロジェクト数は全てで 54 件を超え、設備容量は 30GW
に上っています。これら提案された新規発電所がすべて建設されると、政
府の長期排出削減目標として定めた 2050 年の日本の CO2 総排出量の半分
を占めることになります。
>
原子力発電所の再稼働に対しては、一般市民から強い反対の声が上がって
おり、また、日本の電力会社は、影響力の大きい経済団体や業界団体の支
持を受けて、再生可能エネルギーの利用に反対するキャンペーンを積極的
に行っています。この組み合わせで、石炭消費のシェアは現在の政府予想
よりもさらに大きくなると思われます。日本の電力会社は、2030 年まで
の間の炭素集約度を下げる自主計画を発表しましたが、環境省は不十分で
あるとこれを批判しました。
>
もっと前向きに見れば、日本の将来のエネルギーの行く末を取り囲む不確
実性により、状況が変化する可能性はまだあります。計画されている新規
石炭火力発電所の大半は資本投下が未だ決定されていません。むしろ、日
本には、現在以上に国内展開を進められるクリーンエネルギーの革新技術
とエネルギー効率で培った長年のリーダーシップという利点があります。
>
2015 年夏に、環境省は、3 箇所の新規計画石炭火力発電所について、その
開発は、気候変動に対する日本の目標が相容れないとして異議を唱えまし
た。しかしながら、最終決定は、これまでの決定で気候変動の影響を考慮
したことのない経済産業省 (METI) によってなされます。今の日本政府は、
電力システムにおける石炭の役割について明らかに分断されています。
2
本考察では、行動を加速させることが最も適切である部門として、発電部門の発電所閉鎖と CO2 排出量削減など
に焦点を当てますが、その前に、日本の石炭の利用状況の概要を述べます。石炭の全面的な段階的廃止には、他の
分野の排出量の削減行動が必要になります。
5
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
>
安倍首相と経済産業省の宮沢大臣は、緩和対策なしの石炭火力発電を増加
させることに対して、2050 年 CO2 排出削減に対する G7 と約束との乖離
について、 議会のエネルギー、通商、産業委員会のメンバーから説明を求
められています。これに対する回答は、‘高効率’ 石炭を支持する方針を再
確認しただけでした。
>
日本の既存の石炭火力発電所はほぼフル稼働を続けており、新規発電所の
建設抜きで石炭による発電量を増やす余地はほとんどありません。逆に言
うと、日本における石炭火力発電レベルは頂点を極めているとも考えられ、
石炭需要は今後低下していくはずです。
>
独自分析では、日本は、既存の技術を活かして、原子力をほとんど、ある
いはまったく利用しなくても、発電におけるほぼすべての石炭利用を
2030 年までに段階的に廃止できるとされています。これは、大幅な脱炭
素目標の追求と軌を一にしますが、そのためには電力市場の改革と、現在
は分断されている電力供給網の相互接続が必要です。
>
35 年寿命というフィルターを日本の石炭火力発電所に適用すると、最も古
い発電所 4.95GW 分は 2015 年にただちに閉鎖予定を迎えます。23GW 分
は 2016 年から 2025 年、14.1GW 分は 2026 年から 2035 年に、毎年
1GW から 2GW のペースで閉鎖が続くことになります。これは、再生可能
エネルギーの継続的な導入で簡単に置き換えられるレベルです。さらに先
には、最新の石炭火力発電所 12.4GW 分が早期閉鎖されるおそれがありま
す。
>
しかし、新たな石炭火力発電所の計画により、新規の運転開始が、2020
年頃から始まり、普通の状況下であれば、2050 年以後も運転されること
でしょう。持続的な CO2 排出削減の重要性を考えると、これらの発電所は
不良資産になるおそれがあります。これは、まもなく自由化される日本の
電力事業にとって、電力会社が私的財産でそのような発電所を維持するの
はますます困難になることを意味します。
>
世界を見渡し、石炭火力発電が日本の輸出政策の中で大きな役割を果たし
ていることにも着目しなくてはいけません。中でも日本の企業である東芝、
JGC、三菱重工業 (MHI)、日立などは、石炭火力発電技術の世界的な大手
製造メーカーです。2007 年から 2013 年にかけて、日本は、海外の石炭
プロジェクトに 168 億ドルを融資しました。これは、他の OECD 諸国の
倍以上の援助額です。日本の石炭技術製造メーカーは、再生可能エネルギ
ーに振り向けていればより適切であるはずの、豊富な輸出信用と他の開発
支援の恩恵を受けています。
>
日本の企業は CO2 回収技術(CCS)も製造しており、アメリカの CCS プ
ロジェクトでも使用されています。しかし、国内の新規石炭火力発電所や
日本の資金援助で海外に建設された新規石炭火力発電所には必要とされて
いません。これは、日本の石炭政策の一貫性における基本的な課題です。
緩和対策なしの排出のリスクは、石炭火力発電所に最初から CCS を組み
込むか、石炭火力発電所をまったく建設してはならないという制約を生じ
6
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
ます。G7 メンバーであるカナダ、イギリス、アメリカは、‘CCS 抜きでは
新規石炭火力発電所を建設しない’ とする政策を導入しています。
>
総じて言うと、日本国内の新規石炭火力発電所の建設の推進と、緩和対策
なしの石炭火力発電の国際的な推進によって、日本は高炭素排出の道をま
すます突き進むことになり、他の G7 諸国がとっているアプローチ、及び
国際的な競争相手である中国などの国々と対立することになっています。
これは、日本は国際的なリーダーシップの立場に対する直接的な障害にな
り、日本の産業分野が低炭素排出技術の市場の成長に効果的に関わること
のできる範囲が狭まり、また、将来の不良資産として日本経済にとっての
大きなリスクになります。
>
日本の G7 メンバーとしての立場、そして共通の取り組み目標である二酸
化炭素排出削減の観点から、日本は石炭に対する取り組みの再考を求めら
れています。G7 諸国との協力は、日本が石炭から移行する上で役立つで
しょう。経路選択を誤れば、日本は、国際的な影響と立場を失うかもしれ
ません。
7
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
石炭の役割とは
石炭掘削
石炭消費量
燃料炭の輸入量
原料炭の輸入量
石炭燃焼による CO2 排出量
2002 年に停止
170.8 Mt (2012)
144 Mt (総計の 75%) (2014)
48 Mt (総計の 25%) (2014)
419.7 Mt CO2e (全体の
31.25%) (2012)
石炭燃焼による CO2 排出量の変化
+44.4% (1990 年~2012 年)
出典:IEA (国際エネルギー機関), EIA (米エネルギー省情報局), 社団法人日本
エネルギー経済研究所
歴史的に、日本の石炭の主な用途は、工業プロセス、それも鉄鋼生産でした。
発電分野における石炭利用は、以下の 図 1 にあるように、2000 年代前半によ
うやく同じ需要レベルに達しました。電力部門の石炭需要は、 2011 年の福島
第一原子力発電所の事故によって再び増加する前に、世界的な経済危機の結果、
少し減少しました。これについては、あとでさらに解説します。
2012 年の日本の石炭消費量の 43% は発電分野による消費です。また 44% は
工業分野による消費でした。目的の大部分は、鉄鋼生産用であり、単独で石炭
消費の 38% を占めました。3日本の 2013 年の鉄鋼生産量は 110.6 Mt で、中
国に続いて第 2 位の鉄鋼生産国でした。そのため、日本の脱炭素化への道筋
でも、産業部門における CO2 排出と石炭需要の削減手段の可能性について検
討しなければなりません。日本の鉄鋼分野は、すでに、積極的に CO2 回収4な
どの技術的選択肢を検討していますが、日本の産業界に対しては、排出量削減
の政策的な規制はありません。石炭燃焼全体で、2012 年の日本の温室効果ガ
ス排出量の 31.25% を占めました。
図 1:分野別日本の石炭消費量
出典:経済産業省エネルギー白書 2014
3
METI (経済産業省)
4
業界主導の COURSE-50 プログラムなどを参照してください。
8
エネルギー白書 2014
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
日本最後の石炭鉱山である三井池島は、2002 年に閉鎖しました。1970 年時点
で日本にはまだ 25 箇所の石炭鉱山がありましたが、7 箇所以外は 1990 年ま
でに閉山されました。5 そのため、日本では数十年にわたって大規模な石炭採
掘活動は行われておらず、需要は完全に石炭輸入に頼って満たしています。石
炭輸入額は、2013 年に GDP の 0.5% に相当する 236 億ドルに達しました。6
2012 年に中国に抜かれるまで、日本はそれまでの 30 年間、世界最大の石炭
輸入国でした。7 8
日本は、その石炭消費で、ごく少数の地域の石炭輸出国に依存しています。
2014 年の石炭輸入量の 64% はオーストラリア産でした。その結果、日本の石
炭輸入価格は、日本の電力会社とごく少数のオーストラリアのコングロマリッ
トとの協議による毎年の輸入契約でほとんどが決まっています。9石炭輸入の
残りの 20% は、図 2 にあるようにインドネシアから輸入されています。
図 2:石炭輸入国(2014))
出典:財務省
世界的に見て、日本の輸出政
策において石炭が大きな役割
を果たしていることにも着目
しなければなりません。中で
も日本の企業である東芝、
JGC、三菱重工業 (MHI)、日
立などは、石炭火力発電技術
の世界的な大手製造メーカー
です。2007 年から 2013 年に
かけて日本は、海外の石炭プ
ロジェクトに 168 億ドルを融
資しました。これは、他の
OECD 諸国の倍以上の援助額
です。10 日本の石炭技術製造
メーカーは、豊富な輸出信用
や他の開発援助の恩恵を受けています。
これまで、日本政府は、日本の技術は非常に効率が良いとして、それを根拠に、
石炭火力発電への国際的な資金援助は環境に良いと主張してきました。しかし、
気候ネットワークらによる最近の研究では、現在利用できる最高技術に投資さ
れている日本の資金援助はごく一部であり、国際協力銀行 (JBIC) が援助した
5
Wikipedia (ウィキペディア) List of coal mines in Japan (日本の石炭鉱山の一覧).
6
経済産業省 エネルギー白書 2014
7
World Coal InstituteCoal Statistics (石炭統計).
8
EIA (2014) International Energy Data and Analysis (国際エネルギーデータと解析)
9
Reuters (ロイター) (2015) Glencore, Japan's Tohoku set annual coal price down 17 pct (グレンコア、日本の
東北電力は、石炭の年間価格を 17 パーセントダウン).2015 年 4 月 7 日
フィナンシャルタイムズ (2015) Japan’s annual coal benchmark influence n the wane (日本の年間石炭標準価格
影響減少傾向).2015 年 4 月 8 日
10
WWF (2014) European countries talk climate but finance coal (気候について語りながら石炭に資金援助をす
るヨーロッパ諸国)
9
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
石炭プロジェクトは、世界平均よりも非効率だということが明らかになりまし
た。11 さらに、日本が提案している海外クレジットのアプローチによって、途
上国における緩和対策なしの石炭火力発電所への資金援助が、日本国内の
2030 年目標達成の行動の一部としてカウントされるおそれもあります。12
電力部門における石炭利用
運転中の石炭火力発電所 (2015)
設備容量の合計 (2012)
設備容量 (2015)
石炭火力からの発電量 (2013)
石炭火力発電所の平均年数 (2015)
石炭火力発電からの CO2 排出量 (2013)
56
293GW
41.8GW
292 TWh (全体の 30%)
24 年
267 Mt CO2 換算(全体の 19%)
出典:経済産業省
エネルギー白書 2014、 気候ネットワーク、 National GHGs Inventory
Report of Japan 2015 (日本の 2015 年 GHG インベントリー報告書
福島の事故以前は、日本の電力供給割合は、従来の発電方法の中で、原子力、
天然ガス、石炭が発電量のそれぞれ、29%、29%、25% を占めて多様化して
いました。2011 年以後、原子力発電の停止による不足分は、大部分が化石燃
料に置き換えられてきました。化石燃料の正味発電力は、2013 年で 820 TWh
で、全発電量の 86% を超え、2010 年の約 62% から増えています。石油と天
然ガスが、2011 年と 2012 年に失われた原子力の発電量を代替し、石炭は、
その一部を代替し 2013 年には 30%を占めています。
一部の石炭火力発電所は、2011 年の地震と津波の影響を受け、2011 年の石炭
利用の落ち込みをもたらしました。政府は、その後、石炭火力発電所の建設と
利用に関する規制障壁の一部を取り除きました。日本の既存の石炭火力発電所
はほぼフル稼働を続けており、新規発電所の建設抜きで石炭による発電量を増
やす余地はほとんどありません。逆に言うと、日本における石炭火力発電レベ
ルは頂点を極めているとも考えられ、石炭需要は今後低下していくはずです。
発電分野における日本の石炭火力発電のピークと低下への対応には、再生可能
エネルギーの普及に対する積極的な行動が必要でしたが、これまでのところ、
十分な優先順位を与えられていません。福島後に実施された固定価格買取制度
で、2012 年 7 月以降、8GW を超える再生可能エネルギー (ほとんどが太陽光
発電) の建設に拍車がかかりました。しかし、日本の電力業界は、地域独占企
業としてふるまう、垂直統合された 10 社の電力会社が支配しています。これ
ら電力会社は、もっと高いレベルの再生可能エネルギーが電力供給網に簡単に
組み込まれるにもかかわらず、再生可能エネルギーは電力供給網の安定性をお
びやかすと主張しています。13 業界ロビー活動もあり、2012 年以降、買い取
り価格は毎年減少し、2015 年 3 月に FiT は 16% 減少されました。また、電
11
気候ネットワーク (Kiko Network) (2015)Dirty Coal (汚れた石炭):Breaking the Myth About Japanese Funded
Coal Plants (日本が資金援助した石炭火力発電所に関する神話を壊す)
12
http://climateactiontracker.org/countries/japan.html
13
Energy Transition (2015) (エネルギーの変遷 (2015))How is Germany integrating and balancing renewable
energy (ドイツはいかにして再生可能エネルギーを統合し調和させているか)
10
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
力供給網に対する再生可能エネルギーの接続が断られるケースも増えています
14
政府は、再生可能エネルギーの展開を 2015 年 5 月までに 88GW 承認しまし
た。内、90% を太陽エネルギーが占めます。しかし、実際に電力供給網に接
続されたのは、これらプロジェクトの 23% だけです。152013 年には、(水力
発電以外の) 再生可能エネルギーは日本の総発電量の 4% になりました。さら
に日本は、水力発電量 49GW を保有しており、これは正味発電ミックスの
8% に当たります。
図 3:日本の燃料別発電量、2000 年~2013 年 (TWh)
出典:経済産業省、米エネルギー情報局
再生可能エネルギーの採用がこのように出遅れて消極的な中で、過去 20 年の
20GW を超える新規石炭火力発電所の建設は、図 4 のように 1997 年に日本で
京都議定書が合意を得た後でもあり、対照的です。その結果 (そして他の主な
先進国と比較して)、日本の石炭火力発電所は、比較的新しい建設年度になっ
ています。
14
METI (2015) (経済産業省 (2015)) Settlement of FY2015 Purchase Prices and FY2015 Surcharge Rates under
the Feed-in Tariff Scheme for Renewable Energy (再生可能エネルギーの高低価格買取制度構想における 2015
年度購入価格の安定と 2015 年度サーチャージ率、http://www.fit.go.jp/statistics/public_sp.html
15
Reuters (ロイター) As Japan eyes nuclear restarts, renewables get shut out of grid (原子力発電の再開をも
くろむ日本と、電力供給網から締め出された再生可能エネルギー).Reuters (ロイター)、2014 年 10 月 16 日
11
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
図 4:1990 年以降の日本の石炭火力発電からの CO2 排出量)
出典:オックスファム
12
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
福島以後の日本のエネルギー政策
エネルギー資源に対して歴史的に保守的な手法をとっていた日本です
が、福島第一の事故以後、そのエネルギー政策で比較的急進的な変化を
遂げました。2013 年に、日本は電力部門改革パッケージを採用し、東日
本と西日本の電力供給網の相互接続と互換性の強化、および電力市場の
完全自由化と、発電、送電、供給における法的分離を目指しました。
しかし、2014 年に、日本は、石炭に対する依存度の増加を盛り込んだ日
本のエネルギー供給の ‘新しい’ 構想を描いたエネルギー基本計画を採用
しました。16 この計画は、エネルギーの安定供給とと経済的効率化を “最
初に” 達成すべき目標として明確に定義し、一方では “環境適合性の追求
を最大限努力することを最重要課題とする” ことを付け加えています。こ
の目的を達成する主な方法のひとつは、“多様で、柔軟性に富み、重層的
な供給構造を構築する” こととされていますが、実際には、石炭を含む化
石燃料へのますますの依存を政府が計画していることを表しています。
この計画は、地政学的なリスクの低さと低コストにより、石炭利用が “重
要なベースロード電力供給として再評価” されていると述べています。
石炭火力発電の拡大を促進するため、政府は環境アセスメントの所用年
数を 3 年から 1 年に短縮しました。小規模発電所は環境アセスメント手
続きの対象外になっています。17 政府は、より効率的な石炭火力発電の研
究開発と 2030 年頃の CCS の普及により、石炭火力の温室効果ガス排出
には十分対応できるとしています。しかし、政府はそのような主張を裏
付けるデータを提供していません。
さらにエネルギー基本計画では、日本における原子力発電の将来、再生
可能エネルギーの拡大、そして気候に関する国際交渉の結果などの不確
実性があるとして、日本の将来のエネルギーミックスの予測を避けてい
ます。しかし、最近の報告書では、化石燃料が、2030 年にはエネルギー
ミックスの 56% を占め、石炭がその内 26% を占めると予測していま
す。再生可能エネルギーは、約倍増の 24% で、一方、太陽光と風力はこ
のうちのたった 9% しか占めないとしています。
この計画では、原子力は 2030 年の電力生産量の 20%~22% になると予
想しています。18 しかし、原子力発電所の再稼働に対しては、一般市民か
ら強い反対の声があり、このことは、最終的に、現在予定される将来の
電力ミックスよりも高い比率を石炭が占める可能性も考えらます。
16
経済産業省 エネルギー基本計画
17
http://www.bloomberg.com/news/articles/2015-05-27/size-matters-as-japan-coal-revival-ducks-scrutinydue-big-plants
18
Nikkei Asian Review (日経アジアンレビュー) (2015) Japan plans more renewables, less nuclear (より多くの
再生可能エネルギーと少ない原子力を計画する日本)
13
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
エネルギー基本計画の最近の専門家の分析では、再生可能エネルギー技
術のコスト低下と普及の可能性が一貫して考慮されておらず、石炭の持
続的な利用のメリットが不当に誇張されていることを明らかにしていま
す。19
気候行動と矛盾する石炭火力発電所の新設の波
G7 諸国の中で例外的に、日本は石炭火力発電の設備容量の大幅拡大を計画し
ています。新規の石炭火力発電所 3 箇所が、2013 年に運転を開始しました。
20
2015 年 9 月現在、48 箇所、合計設備容量 23.5GW の石炭プロジェクトが
計画中で、電力会社はそれに加えてさらに電力入札を計画中であり、一部は複
数のプロジェクトにまたがっています。21 また、製造業は、オンサイトの自家
発電と、大規模発電所に必要な許可手続き回避のために小規模石炭火力発電所
の建設を進めています。22 以上から、福島後の石炭開発計画は 54 プロジェク
ト以上に達し、合計発電量は 30GW になります。23 これらの発電所が建設さ
れると、既存の石炭火力発電設備に対して 55% から 75% の追加になります。
24
以下の図 5 は、2010 年から 15 年にわたる日本の石炭火力発電の計画と、
G7 の計画の規模を比較したものです。
2010 年から 2015 年の期間は、その当初、ドイツとアメリカが複数の計画プ
ロジェクトによる大規模な石炭火力発電の開発を予定していました。ドイツの
場合、新規石炭火力発電所に対しては、2010 年より前に投資が決定されまし
た。過去 5 年間は、両国とも、これらの発電所計画は大半がキャンセルにな
るか棚上げされています。既存発電所の閉鎖の影響を含めると、アメリカの石
炭の設備容量の正味減少量は 13GW、ドイツでは正味増加量 (今日まで) が
1GW となっています。さらに、ドイツで建設された新規の石炭火力発電所で
は、電力会社は巨大な財政難を被っています。25
19
Bruce C. Buckheit for Kiko Network (2015) Japan’s Path to Sustainable Electricity Supply :A review of
current Japanese energy policies (邦題:持続的な電力供給とは-日本のエネルギー政策に関する評価))
20
EndCoal plant tracker (EndCoal 発電所トラッカー)
21
Kiko Network (気候ネットワーク) (2015) List of coal power plants (石炭火力発電所一覧) (2015 年 8 月).このリ
ストは毎月更新されます。
22
http://www.bloomberg.com/news/articles/2015-05-27/size-matters-as-japan-coal-revival-ducks-scrutinydue-big-plants
23
この一連の論文では、G7 各国予定石炭火力発電所の自体に関する情報の一次資料として EndCoal 発電所トラッ
カーを使用しました。しかし日本の場合、この資料では、最近の予定石炭火力発電所のすべてが捕捉されているわ
けではありません。そこで、気候ネットワークの最新データと、EndCoal の発電所分類を組み合わせて、以下の図
5 のように対等に比較できるベースを用意しました。気候ネットワークの 6 月更新版の 46 箇所の指定発電所の大
半を ‘事前許可開発’ カテゴリに割り当て、‘公表済み’ カテゴリを具体化されていない入札手続きと、気候ネットワ
ークの分析で把握されていない EndCoal プロジェクトの見出しとして使用しました。建設中の発電所数 (気候ネッ
トワークで特定されたもの) または 2010 以後運転可能な発電所数 (EndCoal トラッカーで特定されたもの) の値は
かなり不確実です。各 100MW の 2 箇所の追加小規模プロジェクトは、2015 年の 6 月から 8 月の間に気候ネット
ワークリストに追加済みであり、これは図 5 では取り上げていません。
24
必ずしもすべてのプロジェクト計画が、開発者と投資者によって承認されるわけではないので、初期プロジェク
ト計画が建設まで実現するかどうかの可能性については常に不確実性がともないます。日本の場合、さらに、一部
の電力会社の自社の電力入札の開発プロジェクトと重複するという新たな要素も加わります。状況は流動的であり、
継続的に精査する必要があります。.
25
ドイツの石炭火力発電所の段階的廃止の可能性をまとめたこの一連の論文は、その力学を詳しく検討しています。
14
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
図 5:G7 の石炭の変化 2010 年~2015 年26
出典: Endcoal グローバル石炭火力発電所トラッカー、気候ネットワークによ
る日本のデータ、E3G による閉鎖試算).
図 5 にある日本と G7 をそのまま比較すると、日本のアプローチは、他の G7
諸国と比べていかに歩調を乱しているかがわかります。カナダとイギリスで開
発中の発電所はいずれも CCS を備えています。アメリカの 残る 7 箇所の発電
所の内、4 箇所も同様です。G7 の他の各国は、この 5 年間で既存の石炭の発
電を積極的に閉鎖しており、政府政策の結果、さらに閉鎖が公表ないし予定さ
れています。
石炭と気候という対立で分裂している日本政府
日本の既存の石炭火力発電所は、建設時期が新しいため世界でも最も効率的で
すが、使用されている化石燃料の中では石炭はいまだに最も汚い燃料です。27
そのため、新規の石炭火力発電所をあえて追求する行為は、今年末にパリで開
催予定の COP21 以前の日本の排出削減目標の意欲に対するブレーキになりま
す。28 日本政府は、2030 年までに排出量を 2013 年レベルから 26% 削減する
計画を承認しました。29 これは、アメリカや EU による約束ほど意欲的なもの
ではありません。
26
カナダの閉鎖プロファイルでは、オンタリオ石炭段階的廃止プログラムの一環として、2005 年に 1 発電所が閉
鎖されています。
27
経済産業省 (2014) Energy Situation in Japan and Japanese new energy strategy (日本のエネルギー状況と日本の
新規のエネルギー戦略)
28
Kiko Network (気候ネットワーク) (2015) Immediate Action Must be Brought to New and Existing Japanese
Coal-Fired Power Plants (日本の既存/新規石炭火力発電所に対してただちにとるべき行動)
29
Nikkei Asian Review (日経アジアンレビュー) (2015)Japan aims to cut greenhouse gas emissions by 26% by
2030 (2030 年までの温室効果ガスの排出量 26% 削減を目指す日本 )
15
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
同じく、発電部門の脱炭素化に対する日本のアプローチは、他の G7 各国と比
較して対照的です。法律や規制的手法による排出削減の確保ではなく、日本の
電力会社は、2030 年までに炭素集約度を下げる自主的な計画を提出しました。
2015 年夏に、これらの提案は環境省から不十分だと批判されました。30 結果
として、環境省は、提案された 3 箇所の新規石炭火力発電所の開発は日本の
気候変動の目標に整合しないとして反対を唱えました。31 しかし、石炭火力発
電所計画に対する最終決定は、これまで気候変動の影響を考慮してこなかった
経済産業省 (METI) によってがなされることになります。
以上のように、日本の政府は、電力システムにおける石炭の役割について意見
が明確に分かれています。また、安倍首相と経済産業省の宮沢大臣は、緩和対
策なしの石炭火力発電の拡大に対して、2050 年までに CO2 排出量を削減し、
エネルギー部門を転換するという G7 の約束との乖離について、議会のエネル
ギー、通商、産業委員会のメンバーから説明を求められています。しかしなが
ら、これに対する回答は、‘高効率’ 石炭への支持を再確認しただけでした。32
このアプローチは、G7 諸国間で日本を引き続き、‘仲間外れ’ 33として孤立かさ
せるものであり、その立ち位置は日本の中でも認識が強くなっています34。
石炭のわなから逃れるための時間は残っている
計画どおり石炭火力発電所を増やせば、日本は多量の二酸化炭素を排出する道
筋を辿ることになり、将来、強力な気候政策と厳密な排出量基準が実施されれ
ば、不良資産の山を残すことになります。計画中の発電所は、政府の長期削減
目標における 2050 年の日本の CO2 排出量の約半分を占めます。35その長期目
標ですら、日本のが応分に分担すべき排出削減量との整合性は既にとれていな
いものです。36
以上の石炭拡大計画では 大量の CO2 排出量が固定化されるおそれがあります
が、すでに建設が手がけられているのは予定発電量の内の 0.75GW だけです。
追加の 1GW は、政府の承認を得ているか、小規模な (112.5MW 未満など) た
めに承認なしで建設準備が出来ているものです。風力プロジェクトの場合は、
環境アセスメント(EIA)の面倒な要件がありますが、小規模な石炭プロジェ
クトは環境アセスメント (EIA) の適用除外となっています。しかし、日本の計
画石炭火力発電所の多くが EIA の途中であり、法律上の問題が発生する可能
性もあります。
30
http://sekitan.jp/en/info/taketoyo_20150820/
31 Reuters (ロイター)、Japan environment ministry to object to another coal-fired power plant (日本の環境省
もう 1 箇所の石炭火力発電所にも反対)、2015 年 8 月 15 日
32
http://sekitan.jp/en/info/yamaguchiubepower20150620/
33
Japan Times (ジャパンタイムズ)、Misplaced emphasis on coal (根拠のない石炭重視)、2015 年 9 月 27 日
34
Business Insider、Japan may be the odd man out at the G7 summit (G7 サミットで孤立するおそれのある日
本)、2015 年 6 月 6 日
35
Bloomberg, Japan’s New Coal Plants Threaten Emission Cuts, Group Says (排出量削減を脅かす日本の新規
石炭火力発電所というグループの見方)2015 年 4 月 9 日
36
Climate Action Tracker (気候アクショントラッカー) (2015) Japan (日本)
16
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
さらに、日本で計画されている新規石炭火力発電所の建設は、これらの発電所
が不良資産になるかもしれないリスクを考えると、政府補助金の支給と財務保
証なしでは実現不可能です。G20 の他のメンバーとともに、日本は、補助金
のような手段の利用の段階的廃止を約束しています。幸い、形成を一変させ、
暴走する気候変動に寄与してしまうようなこれらの持続不可能な投資に大量の
資金が流れ込むのを防ぐチャンスはまだ残っています。
信頼できる計画もなく CCS を盾にとる日本
日本政府は、以前に新規の石炭火力発電所は、2030 年頃に CCS を設置でき
ると提示していましたが、37現時点において、石炭火力発電所の ‘二酸化炭素
を回収し’、CO2 貯留場所にアクセスできる体勢を整えるために、プロジェク
ト開発者に適用される強力な規制要件はなく、CCS を 環境アセスメントの中
で で検討すること、という 環境省からのゆるやかな要求があるだけです。対
照的に、イギリス、アメリカ、カナダはいずれも、‘CCS なしで新規石炭火力
発電所を建設しない’ という政策を施行しており、日本は G7 諸国間でさらに
孤立することになっています。38 このように国内 CCS 展開の規制要件がない
状況は、アメリカのプロジェクトにおける日本の CO2 回収技術の使用に対す
る積極的な資金援助と対照的です。39
今のところ、日本が進めているのは、苫小牧製油所におけるパイロット規模の
CCS プロジェクトだけです。40 これは大規模 CCS 展開の実現可能性の評価基
盤としては不十分であり、CCS に対する日本の現在の捉え方は、気候目的の
達成の手段ではなく、その隠れ蓑になっています。日本が真剣に石炭火力発電
所に CCS を展開するつもりであれば (それは、再生可能エネルギーのさらな
る漸進的普及よりも高価な技術的選択肢です)、決して実現されない曖昧な約
束をするのではなく CCS を最初から確実に組み込むよう行動しなくてはなり
ません。
確かに、CCS 展開については、日本には、地理的、地質的な制約があります。
日本で利用できる CO2 貯留地の多くは、構造断層帯から離れた、北側海岸沖
にあることが多いのに対して、主な電力需要の中心地は南側海岸沿いにありま
す。41 これら地域にある石炭火力発電所は、したがって、近接した CO2 輸送
ネットワークへの接続や CO2 貯留地へのアクセスがまったくできないリスク
が非常に高くなります。
発電部門以外では、鉄鋼生産やその他産業向けのコークス用炭の高い消費レベ
ルは、日本では、その世界のトップレベルの産業のために信頼性の高い脱炭素
37
Zero CO2 NO Japan (ゼロ CO2 ノージャパン) (2013) Energy & Climate Change Policy and Progress (エネル
ギーと気候変動政策と進捗)
38
Keith Johnson (2015) Japan Bets on Nuclear, and Coal, for Future Power (将来の発電を原子力と石炭に賭け
る日本).Foreign Policy 2015 (海外政策 2015).
39
たとえば、Petra Nova CCS プロジェクトは NRG Energy と JX Nippon のジョイントベンチャーですが、MHI の
CO2 回収技術を使用しており、国際協力銀行とみずほ銀行の資金援助を受けています。
40
Japan CCS (日本 CCS) Large-scale demonstration project at Tomakomai area (苫小牧地域における大規模実
証プロジェクト).
41
IEA (2014) CCS 2014 –What is in store for CCS? (CCS 2014 –CCS で差し迫った問題とは?)
17
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
の道筋のための早期行動の重要性が増しています。CCS は、製造過程で CO2
が排出される鉄鋼生産やセメント生産などの分野ではその必要性が非常に高く
なっています。CO2 インフラストラクチャー開発と地質学的貯留サイトの特
性把握に必要な長期のリードタイムを考えると、現在では、石炭火力発電所か
ら排出される大量の CO2 で利用可能な CO2 貯留 サイトが占有されて、かな
りの確率で工業 CO2 排出源に割り当てる余地がなくなるおそれがあります。
18
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
日本は、石炭火力発電所閉鎖を行動に移せるか?
日本政府は、石炭を重要な電源と見なしており、国のエネルギー安定供給の基
板であると考えています。前述のように、近未来中に石炭火力発電がエネルギ
ーミックスから段階的に廃止される予定はありません。気候ネットワークによ
れば、日本の石炭火力発電拡大方針の下で、今後 10 年間に閉鎖される石炭火
力発電量は、計画されている設備更新による 850MW だけが把握されています。
42
図 6:日本の発電の道筋 – 2010~2050
政府の見解に反して、
研究によれば、発電に
おける石炭火力発電の
大幅な削減は、技術的
にも経済的にも実現可
能であることが明らか
になっています。IDDRI
と SDSN が手動してい
る大幅な脱炭素プロジ
ェクトでは、日本の発
電部門の道筋の実現可
能性を研究しています。
この研究では、CCS が
ない石炭火力発電所を
すべて 2030 年までに段
階的に廃止でき、2050
出典:IDDRI (2014) Pathways to Deep Decarbonization
年までにすべての石炭
(大幅な脱炭素への道筋)
火力発電所を段階的に
廃止できることが判明しました。また、図 6 のように、主として太陽 光発電
と風力発電の普及により、同じ期間で、再生可能エネルギーは総発電量の
59% に成長するとしています。43 同じ研究で、原子力の不使用を盛り込んだ
モデル感度も検討しています。モデル結果では、 再生可能エネルギーの成長
を補完する手段として、ガス CCS の大幅使用が示され、石炭 CCS と比較し
て、貯留される CO2 1トン当たりでより多くの発電が得られるとしています。
CO2 貯留量に制限があることを踏まえ、このシナリオは、大幅な脱炭素化へ
の踏み石としての工業用 CCS の展開と足並みを揃えることも可能です。
自然エネルギー財団 (JREF) 日本によれば、原子力発電を使用しなくても、効
率、再生可能エネルギー、ガスへの投資で、2020 年までに、2012 年レベルと
比べて、発電部門の排出量を 40% 削減できます。このシナリオでは、石炭火
力発電は、2030 年までにほとんどが段階的に廃止されます。44地球環境市民
会議 (CASA) は、主にエネルギー効率化によるエネルギー需要の削減と、原子
42
Kiko Network (気候ネットワーク) (2015) List of coal power plants (石炭火力発電所一覧) (2015 年 6 月) 本デー
タベースは毎月更新されています。
43
SDSN & IDDRI (2014) Pathways to Decarbonization (脱炭素への道筋):Japan Chapter (日本の章)
44
JREF (2013) Recommendation for the ‘Basic Energy Plan’(‘エネルギー基本計画’ への提言).
19
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
力発電と石炭火力発電の段階的廃止によるエネルギーミックスの移行により、
2030 年までの 40% 目標は達成可能であるという分析を公表しました。45
気候ネットワークの分析は同様に、日本は、原子力発電に依存しなくても、
2030 年までに、ほぼすべての石炭火力発電所を段階的に廃止できると提言し
ています。気候ネットワークのモデリング方式の調査では、旧態依然のシナリ
オが、既存の技術によるシナリオと、将来のテクノロジを想定したシナリオと
いう 2 つの脱炭素シナリオに対して比較されました。それらのシナリオの内、
既存の技術だけによるシナリオでは、石炭火力発電は 2020 年の発電入力の
31% になりますが (現在を基準としたときの概算値)、2030 年には 4%、2050
年には 0% まで削減されます。46以下の図 7 は、これらのシナリオが、発電に
限らずすべての経済分野における石炭利用の削減をどのように網羅しているか
を表しています。
図 7:さまざまなシナリオにおける一次エネルギー供給
出典:気候ネットワーク(2014) 原発にも化石燃料にも頼らない日本の気候変動
対策ビジョン)
35 年発電所耐用寿命の適用
日本で秩序立った石炭の段階的廃止のタイミングの可能性を表すため、発電所
を 35 年運転後に閉鎖すると仮定すると、今後数十年間、石炭火力発電設備の
閉鎖がどのように推し進められるかを、現在のデータから推定しました。35
年後、石炭火力発電所は、当然ながら投資コストを回収済みであると予想され
るので、気候目標を達成するために閉鎖しても電力会社にとって通常損失には
なりません。 47
45
CASA (2014) Japan’s –40% GHG Reduction Target is Achievable without Nuclear Restart (日本の –40%
GHG 削減目標は原子力発電所再開なしで達成可能)
46
気候ネットワーク(2014) 原発にも化石燃料にも頼らない日本の気候変動対策ビジョン
47
将来の排出量の制約の可能性をプロジェクト評価に組み込まなくてはならないため、国内の気候目標と国際的な
気候目標値の合意後に投資が決定された発電所の場合、35 年寿命を自動的に想定することはできません。
20
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN
以下の図 8 に示すように、35 年の閉鎖年を日本の石炭火力発電設備に適用す
ると、最も古い石炭火力発電所のほぼ 5GW がただちに閉鎖され、その後
2025 年までの 10 年間は、比較的一定の閉鎖タイミングで 1~2GW 前後が毎
年閉鎖されます。この場合、25GW 強だけが運転可能なものとして残り、そ
の後さらに毎年 1GW の閉鎖は、2025 年以後も続きます。これは、再生可能
エネルギーの普及とエネルギー効率化の改善で簡単に超えられるペースです。
図 8:日本の石炭火力発電設備の35年閉鎖
出典:気候ネットワーク、E3G analysis (E3G 分析)
この移行のペースは、前述の大幅な脱炭素化シナリオで予測したより遅いもの
であり、危険な気候変動を阻止するための世界の取り組みの中における日本の
取り組みの公正な比率を表すものにはならないと思われます。
しかしながら、この閉鎖スケジュールの実質的運用は、緩和対策なしの石炭火
力発電による新しい波を回避するために、日本の重要性を強化するものです。
40GW を超える既存発電所の閉鎖と更新は、2035 年までの期間に明らかに実
現可能ですが、その規模がほぼ倍になる 30GW の新規発電設備と産業サイト
の小規模発電所が増加されてしまえば、この段階的廃止計画は意味を持ちませ
ん。
COP21 パリ会議に向けて、日本は、新規の石炭火力発電所への投資を踏みと
どまり、今後 20 年間の発電における石炭利用の段階的廃止の道筋を決めなく
てはなりません。日本が現在のやり方を続けることがあれば、日本は G7 諸国
から孤立し、国際的な影響力がある場での発言も力を失うと思われます。
21
G7 石炭の段階的廃止:JAPAN