Aib(米国製パン研究所) 調査部門 技術報告 編集者:Donald Dubois 5 巻 3 号 1983 年 3 月 ベーカリー食品中のモルトについて Joseph W. Hickenbottom モルトプロダクトコーポレーション ニュージャージー州メイウッド はじめに モルトはベーカリー食品の加工の為に開発された色々な種類のものがあり、特殊な用途にも使 えるように幅広い選択肢があります。ベーカリー食品にモルトを使う場合、どの種類のモルトを使え ば一番良いか考慮するポイントとして、液体なのか個体なのか、エキスなのかシロップなのか、ジア スターゼ活性の有無、ダークブラウンからライトブラウンまでの色の濃淡等が上げられます。 モルトの定義 「モルト」は通常大麦を発芽させ乾燥した粒です。モルトエキスまたはモルトシロップは、乾燥した 「モルト」を水で抽出したものから作った粘調な濃縮液です。液体のエキスまたはシロップを乾燥さ せると、乾燥モルトエキスまたは乾燥モルトシロップになります。液体の場合でも乾燥した場合でも、 大麦だけを使用した場合、「モルトエキス」と呼び、大麦に他の穀物を混ぜた場合「モルトシリアル シロップ」または「大麦麦芽とトウモロコシのエキス」と呼びます。 モルトエキス/モルトシロップはアメリカ食品医薬品局(FDA)の安全基準合格証 GRAS(一般に 安全と認められる)が適用され、天然甘味料とみなされており、GRAS の分類上モルトは全ての種類 のベーカリー食品に使用可能です。 モルト製品の加工 基本的なモルトの製造工程は、①スティーピング(麦を水に浸す事)、②発芽、③乾燥の 3 段階で 構成されています。乾燥した麦芽はその後粗挽きして、水で抽出した後、濃縮することで液体のモ ルトエキスとして最終製品になります。風味、色、固形分、酵素活性などに違いがある色々な種類 のモルトエキスを作る事が可能で、他の種類の穀物を補助として抽出工程までの間に行う「糖化工 程(マッシング)」で加える事で、モルトシロップも作る事が出来ます。 モルトを作るとき、大麦は比較的大量のα-アミラーゼとβ-アミラーゼを発生させます。α-アミラ ーゼとβ-アミラーゼの組み合わせが、デンプンを分解してデキストリンと発酵可能な糖類を作るた めにとても重要です(参考文献 1、2)。大麦は、収穫された物全ての穀粒の外皮が残っていて、そ れが麦芽として使用される穀物に選ばれた一つの理由です。発芽したばかりの芽(幼芽鞘)が外皮 の中で成長して、外皮が初期段階の工程から保護してくれるので、より多く発芽する事ができます。 また、大麦の外皮はウォート(麦汁)の段階で不溶物と液体、を分離する時にもろ過助剤として有効 利用され、また香りの元にもなります。そしてさらに、スティーピング後の大麦の穀粒は小麦やライム ギよりも少し硬く、そのため水分が多い状態で取扱い易くなります。大麦の独特な味の特徴はモル トにすることでより良くなります。 スティーピング(麦を水に浸す事) 大麦を受け入れた後、穀粒の破片、もみ殻、種、塵などの異物を様々な種類の分離装置で綺麗 にします。その分離には、リンググレーダー(選別機)で大きさ分けを行います。リンググレーダーは 基本的に複数の大きさの振動する網のセットで構成され、穀粒がそこを通過して、特定の大きさの 粒と、ゴミを分別して集められまる。 綺麗にされて大きさの揃った大麦は円柱状で底が円錐のスティープタンクに入れられます。ス ティープタンクには、水の投入・排出ラインがあり、タンクの底からコンプレッサーで激しく空気を通 す事で大麦と水の混合液を撹拌することができます。通常水温は 50-60°F(10℃~15.6℃)の間 に設定し、スティーピングの時間は穀粒の大きさと種類、そして大麦の品種によって決められます。 大麦中の水分が 43~45%に達したらスティーピングを終了させます。この 43~45%の水分が発芽 をうまく起こさせるのに重要です。スティーピングの間大麦中の水分量が増加し、また大麦の呼吸も 増加します。発芽率を良い状態に保つ為にスティーピングに使う水は交換して、さらに激しく空気 を送る必要があります。 モルトメーカーではスティーピングの水の交換を繰り返す間、モルトを寝かせる所もあります。穀 粒の水分量がある程度高くなるまで時間が掛かるので、水を交換してからまた水分量が高くなるま で時間を掛けます。また他のモルトメーカーでは空気を送る事が 100%重要であると考え、またある 所では大麦が必要とする時に時々しか空気を送らない。スティーピングは芸術(匠?)を連想させ る様に見られるが、しかし発芽の段階はそれ以上に芸術的かもしれない。特に激しく空気を送った 場合、発芽はスティーピングの時に始まります。 発芽 スティーピングさせた大麦はモルトメーカーの規模に応じて発芽フロアや発芽室へ送られ、発芽 させる方法には様々な方法があります。その中で一般的に用いられている方法をここに示します。 もっとも良い条件は、穀粒の水分を 45%、温度範囲を 60-70°F(15.6~21.1℃)を保つ必要があり ます。さらに酸素があり発芽するのに十分な時間を掛ける必要があります。比較的低温にする事で 麦が乾燥してしまうのを防ぎ、それによって呼吸ができて芽が育ちます。 大麦の種類とモルトメーカーそれぞれの必要とする条件(必要量?)によって基本的に 3 種の手 法が発芽工程で用いられる。1 つ目の方法は、初期の発芽段階において呼吸による発熱で生じた 熱をそのままにする方法があります。その後冷やして温度を発芽段階が終わるまで低い状態を保 つことで、良くモルトが形成され発芽不良が減り、特に元気な大麦麦芽が育つ。 2 つ目の方法は、最初の数日間は低温で保ち、その後発芽段階に温度を上げる方法で、ゆっくり 大麦を成長させることができ、芽の育ち過ぎの危険を低くすることができます。 3 つ目の方法は、発芽の段階で一定の割合で温度を上げ一定の割合で温度を下げる方法で、 温度を徐々に上げていき 60-70°F(15.6~21.1℃)の範囲になるように保ちます。出来る限り温度 を一定に保った方が良いのですが、高価なセンサー付きの自動調整可能な装置が無いと難しい です。 発芽の総時間は大麦の種類、モルトの使用目的、そしてどの発芽方法を使うかによって、4 日~7 日間の間で変わります。発芽のすべての要素(水分量、温度、空気送り、そして大麦の種類)で穀 粒を良い状態にする事と、収量による採算性のバランスを一定に保つ必要があります。幼芽鞘の 成長は呼吸の活性とエネルギー原に依存し、穀粒中の化学変化は穀粒中のエネルギーを使い酵 素の反応によって起き、その結果固形分が減少します。乾燥後、幼芽鞘の中の乾燥重量の 8~ 10%が減少してしまいます。 発芽が行われている間、複数の酵素が活性化されます。最初に呼吸をする段階で酸化還元反 応が起き、次に大麦の持つ自らの酵素により胚乳細胞が壊されます。発芽の進行具合はペントー スの生産量を分析する事で知ることができます。そしてタンパク質分解酵素が分泌され、またβ-ア ミラーゼが活性化されて、総タンパクの 40%が可溶化します。これらの様々な酵素による反応によ り作られる物質の量は、発芽に用いる方法に依存して変化します。幼芽鞘の成長に必要な酵素の 割合は、低温で発芽させた場合の方が温かい条件の時に比べてより多く必要になります。 アミラーゼと炭水化物は互いに反応して大麦のデンプンから酵母の発酵に利用可能な糖を切り 離します。しかしそれはデンプンの 10%を変化させるだけで、残りのデンプンはモルトを作る工程 (糖化工程)で分解されます。 最適な発芽方法はバランスの取れた酵素生成であり、酵素がデンプンから糖を生成するのに適 した反応をする事に繋がります。しかし、最初の重要なステップは大麦の種類の選択で、それによ り良い麦芽が得られ、その次に、選んだ大麦の種類に合わせたモルトの製造条件を選ぶことが重 要です。特殊な利用目的で使うモルトの作り方は、モルト造りの技術の経験から生み出された様々 な標準法が発明されています。 乾燥 乾燥、または加熱により発芽を止める工程では、発芽を止めて酵素の生成をピークで止め、デン プンの分解反応を停止させる。さらに熱による触媒作用で、特徴的な風味と色を形成させます。 グリーンモルトとして知られる発芽したモルトは、窯に入れられ、110°F~130°F(43.3℃~ 54.4℃)の温風ですぐに乾燥させます。通常、水分 6~12%になるまで乾燥させると、酵素の活性 が止まります。この工程の後に、低温で酵素の回復性を保つか、より高温で加熱して酵素を無くし ながら風味付けを行う 2 次乾燥を行います。モルト製造において、発芽工程と同様に、乾燥の条件 と方法がモルトの品質、種類の選択において重要な工程になります。2 次乾燥の工程では、単糖 類とアミノ酸・ペプチドが反応してモルトに特徴的な色、味、香りを形成します。一般的に、酵素の 活性を残したい場合は、120°F~130°F(48.9℃~54.4℃)に設定します。 モルトの色、味、香り、酵素活性のバランスを、モルトを使った最終製品の仕上がりを、目的に合 ったものにする為には、乾燥にかける時間、温度、方法を細かく選んで変える必要があります。 穀粒は、次の工程に入る前の準備として、乾燥が終わったら若い芽と他の異物を取り除かれま す。 殆どのモルトメーカーでは上記の方法がとられていますが、例えば時間を短縮する為に、乾燥さ せる前にグリーンモルトを砕くモルトメーカーもあります。また良く行われるバッチ式の乾燥方法で はなく、連続式で乾燥を行うモルトメーカーもあります。 モルト製品の最終工程 殆どのモルト(発芽した穀粒)は、使うまで保管期間は数か月あり、この保管期間中に穀粒の水分 が均一になる。 多くのモルト製造メーカーでは、エンドユーザーに均一で一定の品質の商品を届けるために様々 な種類のモルトをブレンドします。しかし一般的に食品においてモルト製造は、保存の段階はあま り重要ではない。そしてモルトは釜から直接取り出され、精製され、粉砕されてから次の工程へ進 みます。 モルトエキスとモルトシロップ モルトは粉砕機で粗く粉砕され、そしてマッシングタンク(糖化させる釜)へ入れられ、そこで水と 混合されます。時間と温度を色々と変えることで、デンプンが発酵可能な糖へ変化させ、またそれ 以外の成分も抽出出来るようになります。 一度糖化工程が始まると、通常ラウタータンで成分が抽出されます。またある所ではマッシュフィ ルターを使用する場合もあります。もしモルトシロップを作る場合、この工程でコーングリッドを加え ます。ラウタータンには、タンクの底の数センチ上に、濾過をする為の溝を持つ擬似的な底があり、 そしてその装置は撹拌の意味も兼ねています。モルトエキスやモルトシロップの種類に応じて、抽 出にかける時間と温度は非常に細かく変化します。 ウォート(抽出液)はコンディションが整ったら、ブリュワーケトル又は濃縮機へ送られます。抽出工 程ではアミロース分解性の酵素の働きで不溶性のデンプンを分解して、マルトースとデキストリンへ 変化させます。それと同時に、タンパク分解酵素の働きでタンパク質が単純な構造へ変化して可溶 化します。 ラウタータンクに残った穀粒は通常、高タンパクな動物飼料として売られます。 ウォートの濃縮は真空下で処理され、ウォートは固形分が約 80%のシロップになります。濃縮時の 温度によって、使用するモルトエキスやモルトシロップの酵素活性の強さを、高、中、低、ゼロに変 えることが出来き、色、味、香りもこの工程でコントロールが出来ます。 最終工程で冷却、ろ過、充 填してモルトエキスの工程が終了します。 粉末エキス、粉末シロップは液体のモルトエキスやモルトシロップをスプレードライする事で得られ、 粉末モルトは水を加えると元と同じ状態に戻すことが出来ます。 酵素活性ありの粉末モルトは、モルトパウダー(大麦麦芽を粉末にした粉)、小麦粉、デキストリン を混ぜて作られます。最終製品の酵素活性が 20°L か 60°L になる様に配合割合を調整してつく られますが、この製品はスプレードライを使うと、熱で酵素が失活してしまう為、スプレードライは使 わず粉のブレンドで作ります。 モルト製品の分類 モルトは様々な形態の製品が利用可能です。以下の文と、表 1,2,3,4 に示します。 モルトエキス(表 1) モルトエキスは大麦のみで作られ、様々な強さの天然のジアスターゼ活性の物が利用できます (0°L~200°L まで)。また、様々な茶色の度合が選べます。 乾燥モルトエキスは様々な濃さの茶色が選べますが、ジアスターゼ活性無し(酵素活性なし)の 物しか選べません。 モルトシロップ(表 2、表 3) モルトシロップは大麦と他の穀物から作られます。通常トウモロコシを糖化の工程でコーングリッド の状態で加えます。コーングリッドは大麦の酵素が大麦のデンプンを分解するのと同時に、酵素が 分解可能な炭水化物として加えられます。完成したモルトシロップは一般的に 100%大麦のモルト エキスと比べて甘く、柔らかい味になります。 またモルトシロップはモルトエキスに比べ値段が安い のですが、色や味は同等になります。 液体のモルトシロップは、大麦とトウモロコシの割合とジアスターゼ活性(0°L~60°L まで)を選 ぶことが出来き、様々な茶色の度合が選べます。 モルトシロップ製品では、酵素は天然のモルト製造工程から得られる穀物のアミラーゼ以外にも、 真菌由来のアミラーゼも入る場合があります。穀物のアミラーゼと真菌のアミラーゼの失活温度が 異なる為(参考文献1)ベーキングする際には注意が必要になります。 乾燥シロップでも大麦とトウモロコシの割合と茶色の濃さが選べますが、ジアスターゼ活性無しの 物しか選べません。 ジアスターゼ活性ありの乾燥モルト(表 4) 通常 20°L と 60°L の 2 種類のジアスターゼ活性のものが使われます。大麦麦芽フラワーの持 つ天然のジアスターゼ活性が酵素活性の元となります。基本となる 20°L と 60°L の 2 種類の酵 素活性に合わせる目的で、大麦麦芽フラワー、小麦粉、そしてデキストリンの割合を調整します。 他の酵素活性の強さとしては、120°L 以上のものもリクエストに応じて作ることが出来ます。 特別用途のモルト 過度に色が付いてしまったり、風味がついてしまうことなくデンプンを糊化または部分的にデキス トリン化するまで加熱することによって作られるスペシャルモルトは、様々なベーカリー食品で利用 されています。デキストリンモルト、カラメルモルト、ブラックモルト等がある。製造工程で高温にする ため、もちろんこれらの製品にはジアスターゼ活性はありません。 保存条件 モルトは非常に発酵しやすい炭水化物なので、最終製品を確実に無菌にする為には加工エリア や充填エリアも完璧な衛生管理を維持しなければなりません。室温で保管する場合、液体モルトの 品質は 1 年以上持ち、乾燥モルトは水分さえ入らなければ殆ど微生物が育つことはありません。ジ アスターゼ活性無しの乾燥モルトはいくぶん吸湿性があるため、可能な限り密閉して、湿気の多い 所に晒さない様にして下さい。また酵素活性ありの乾燥モルトは小麦粉と同様に保管、取扱いをし て下さい。 ベーカリー食品での利用方法 モルト製品は多くの食品に使われています。代表的な使用方法を表 5 に示します。最も多くモル トが使われている食品はベーカリー食品です。発酵させるベーカリー食品では、モルトは最終製品 にマルトース(甘味)、ミネラル、可溶性タンパク、生地を良くする酵素、色、味、イーストの活動を活 発にする天然成分を与え、生地の改良、味や香りが増すのに寄与します。発酵させないベーカリ ー食品では一般的にジアスターゼ活性無しのモルトが使い、最終製品は酵素活性ありのモルトを 使った場合と同等の仕上がりになります。 液体、乾燥どちらの場合も、ジアスターゼ活性ありのモルトは、小麦粉に発酵に必要となる糖を作 るアミラーゼを与える事で、パンフローを良くし、パン粉の色を良くし、パンの場合パンの表面をひ び割れさせるのにも役立ちます。クラッカーでは、ジアスターゼ活性ありのモルトが発酵を助け、生 地の状態を良くし、薄く延ばして層にするのを助け、表面の色を良くし、風味が良くなります。 リストにある全てのモルトシロップは、ベーカリーフードへの使用がより効果的です。モルトシロッ プの種類を選ぶ際は、他の原材料、省略したい工程、風味のバランスの最適な物を選ぶことで、よ り高級感が出て、より良く売れることに繋がります。 液体、乾燥どちらの場合もジアスターゼ活性ありのモルトは 60°L の値で評価されます。より高い ジアスターゼ活性の物を入手できても、実際は 60°L が一般的に使われる一番高い値になります。 60°L よりもジアスターゼ活性が高くなると、パン屋がコントロールするのが難しく、生地の状態が反 対に悪くなってしまう事があります。ジアスターゼ活性が高い大麦麦芽フラワーでも同じ事が起きま す。モルトフラワーはモルトエキスの様な糖化工程を行わないので、糖の含量が少なく 10%未満で すが、酵素活性は非常に高いです。厳密な管理が出来ない場合、一般的にジアスターゼ活性の 高いモルトフラワーは使わない方が良いです。 発酵させないベーカリー食品では通常ジアスターゼ活性なしのモルトが使われ、最終製品にお いて酵素活性以外の効果による品質は、ジアスターゼ活性ありの物と全く同じになります。 ベーカ リー食品におけるモルト使用量については表 4 に示します。 特殊な応用 ベーカリー食品の製造におけるモルトの使用によるユニークな良い点の例を次に示します。 ソーダクラッカーで、生地の段階で、小麦粉に対して 1%量のジアスターゼ活性ありのモルトを入 れると、再び発酵し、長いスポンジ期間(?)で失われた糖のバランスが良い状態に保たれます。ク ラッカーは丈夫で固く、超強力粉を使うためカップに入れられ(cupped)、これらの性質はジアスタ ーゼ活性ありのモルトを使うことで良くなります。クラッカーの場合イーストの働きを強め、より良い風 味と色を出すためには、小麦粉のジアスターゼ活性の強さにかかわらず 20°L のモルトシロップを 小麦粉に対して 0.5%加えると良いです。また、モルトを使ったクラッカーの表面の粉や皮の色は、 砂糖を使った時の赤茶色に比べてゴールデンブラウンになります。 水の代わりにモルトシロップとショートニング、沸騰したお湯をそれぞれ同量混ぜたものをクッキー 生地に使うと、クッキー生地のカッティングマシーンでより良く切れるようになります。またクッキーの 仕上がりの光沢が良くなり、モルトの種類は他の原材料、省略したい工程、風味のバランスの最適 な物を選ぶことで、より高級感が出て、より良く売れることに繋がります。液体、乾燥どちらの場合も ジアスターゼ活性ありのモルトは一般的にクラッカーとクッキーには 60°L の物を使用します。 バンズとロールパンでは特にモルトを使う利点が多いです。パンフローが良くなり、気泡が保持さ れやすくなり、膨らみが良くなる事などが利点となります。大きなパン工場では、強力粉を使うパン の中ではバンズやロールパンは一般的に小さなパンで、ジアスターゼ活性ありの液体または乾燥 モルトを加えないと、生地に問題が起きる場合があります。バンズに使う小麦粉に入れるモルトの指 標は、400 から 500 のブラベンターユニットになる量が推奨されます。 ピザ、プレッツェル、イングリッシュマフィン、カイザーロール、スティックパンなどは全て、色味香り、 生地の混ぜやすさ、焼き上がりをふんわりとさせ時間を短くし、そしてパリパリとした食感を良くする 為にジアスターゼ活性ありのモルトでもジアスターゼ活性なしのモルトもどちらも使えます。この場 合の使用量は小麦粉に対して 0.5%~5.0%の範囲でモルトエキスを使います。 全ての黒パン(プンパーニッケル、ライ麦パン、サワーライ麦パン、全粒粉パン等)は加工のし易さ と最終製品の特長をより良くする為に、より色の濃いモルトを使う。小麦粉に対して 2.0~3.5%のモ ルトの使用量がちょうど良いです。 モルトが保湿剤の働きをするために、ベーカリー食品の最終製品の鮮度とより長い賞味期限とい う 2 つの追加要素が利点としてあります。注意すべき点は、モルトシロップの場合、天然のジアスタ ーゼだけでなく、真菌由来の酵素を利用している点です。この場合、モルトと真菌の両方から酵素 が加えられる事を考慮に入れて下さい。 モルトの栄養価 様々な甘味料の栄養価の中でも、モルトエキスはかなりカルシウム、鉄、ビタミン B1、そしてビタミ ン C が多いです。ビタミン C はベーキングの工程で壊れてしまいますが、アイシングやフィリングの 様なベーカリー以外の食品では残ります。テーブル 7 でグラニュー糖、ブラウンシュガー、モラセス、 ハチミツ、そしてモルトエキスの栄養価を比較しました。 モルトエキスは顕著に栄養価が高い食品のようで、ミネラルと低分子の窒素原が特に酵母の栄養 源として便利です。 要約 モルト製品の製造工程の大麦の選択、スティーピング、発芽、乾燥そして抽出工程について示し ました。様々なベーカリー食品における様々な利用方法に合わせて、様々なモルト製品の種類が 決められています。発酵させたベーカリー食品、発酵させないベーカリー食品それぞれにおけるモ ルトの使用量の提案をしました。 モルトはベーカリー食品において重要なはたらきをする原材料である。モルトは非常に重要な風 味、色、そして酵素の働きを付与し、生地の工程を良くし、焼き上がりをふんわりさせ、最終製品の 風味と香りを向上させます。 明るい色のモルトを特殊用途として選択した場合、ベーカリー食品の最終製品の全ての品質を 向上させる。適切なモルトの選択をする基準の概要を示しました。そしてこの資料が正しい選択を する助けになる事を願っています。 参考文献 1. DUBOIS, D. K. Enzymes in Baking, I. Classification. American Institute of Baking Technical Bulletin. 2(10), 1980 2. DUBOIS, D. K. Enzymes in Baking, Ⅱ. Application. American Institute of Baking Technical Bulletin. 2(11), 1980 用語集 ■α-アミラーゼ:デンプンを分解し、デキストリン(グルコースのオリゴ糖)にする酵素。デンプンを 液化できる。糖のα-1,4 結合を切断するエンド型(鎖の中間を切る)の酵素。 ■β-アミラーゼ:デンプンやデキストリンを分解して、マルトースを作る酵素。糖鎖の非還元末端か ら、α-1,4 結合を切断するエキソ型(鎖の端から順番に分解)する酵素。 ■転化:デンプンの液化工程。通常、酸触媒や酵素により行われる。デンプンからデキストリン、マ ルトース、多糖類を作る。 ■ジアスターゼ様酵素(アミラーゼ様):デンプンを液化することが出来る酵素。酵素とは生化学的 な触媒で、それぞれ特有の働きをする。例えばβ-アミラーゼはデンプン鎖を分解し、適切な量の マルトース(グルコース 2 個のオリゴ糖)を作り出すが、α-アミラーゼは低分子か中くらいの大きさの 糖は少量のしか作らないが、可溶性の多糖の大部分をつくる事が出来る。他の種類としてはフルク トースを多くつくる目的で、特殊な異性化酵素が使われる。 ■ジアスターゼ活性ありのモルトフラワー:酵素活性がある大麦麦芽の粉。 ■ジアスターゼ活性ありのモルトシロップ:酵素活性があるモルトシロップ(大麦と補助的に他の穀 物を入れた混合物)。 ■ジアスターゼ活性ありの乾燥モルト:ジアスターゼ活性のあるモルトフラワー、小麦粉、ブドウ糖を 混ぜて酵素活性 20°L または 60°L に調整したもの。 ■酵素活性なしの乾燥モルト:酵素活性なしのモルトエキスまたはモルトシロップをスプレードライ で粉末にしたもの。 ■酵素:触媒は微量でも適切な条件で科学反応の起きる割合を変化させて、触媒自体には変化 が起こらないが、特定の物質に変化を起こすことができる。酵素は有機的な触媒で生きた組織の 中に見られるが、組織の外に出ても反応することが出来る。 ■発酵性:酵母を使うときに、コーンシロップや他の甘味料がもつ能力。コーンシロップの総発行性 はだいたい単糖類、二糖類、三糖類の含量に比例する。ブドウ糖の量が多いと、発酵性が高くなる。 主にグルコース、フルクトース、マルトースなどの低分子の糖は、発酵性を有している。 ■保湿剤:水分調整や水分保持をするもの。コーンシロップと転化糖はどちらも食品に水分を保持 するのに使われる。シロップの水保持能力は、単糖類の含量に応じて吸湿性が高くなるのと同じよ うに、デキストリンの量が増えると増える。 ■加水分解:水と化学反応して物質を分解する反応。 ■吸湿性:水分を吸収して保持してしまうこと。 ■転化:スクロースから同じ数のブドウ糖と果糖を加水分解により分解すること。この反応は転化糖 を作る場合は酸によって起し、パン生地の場合は酵素によって起こる。 ■リントナー:ラボで測定する酵素活性の強さ。数値が高いと酵素の活性も高い。 ■モルト:発芽させた穀物を乾燥させた粒。通常大麦でつくる。 ■モルトエキス:乾燥したモルトを水で抽出した液の粘調な濃縮液。大麦だけで作る。 ■モルトデキストリン:食用のデンプンから得られる水溶液を濃縮または乾燥させることで得られる 純水な物質。モルトデキストリンは 20 以下のブドウ糖がらなる甘くない可用性の固体である。通常 乾燥したものだけが売られているが、濃縮液としても入手できる。モルトデキストリンは通常 10~14 のグルコース又は、15~19 のグルコースのものがある。他にも 5 個のグルコースかつくられるデキス トリンもあるが、最近は殆どつかわれていない。モルトデキストリンは約 65~80%が高分子他糖類で、 4~9%が 5 糖類、4~7%が 4 糖類、そして 5~9%が 3 糖類で構成されている。単糖類と 2 糖類はごくわ ずかである。モルトデキストリンは通常甘くない増量剤や増粘剤として使われる。 ■マルトース:デンプンを分解することで得られる 2 糖類。グルコース 2 分子。 ■モルトシロップ:乾燥したモルトを水で抽出した液の粘調な濃縮液。大麦に他の穀物を混ぜる。 ■ジアスターゼ活性無しのモルトシロップ:酵素活性のないモルトシロップ。 ■還元糖:アルカリ溶液中で化学的に還元されて褐変する糖。ブドウ糖やフルクトーの持つアルデ ヒドやケトンは還元されるため、還元糖になる。高温になると糖が窒素を持つ物質と結合すると「褐 変」(メイラード)反応を起こす。この「褐変」反応はベークド食品の茶色い皮を作り、製品をカラメル 色にし、加熱により生じる香りを作る。糖の還元力は食品の酸化による品質低下を防ぐと言われて いる。また還元糖はケチャップやジャム、塩漬け肉の色を保つといわれている。 表 1 モルトエキス(麦のみ)の分析値 成分 ライト ダーク 60°L ドライ 固形分% 70-80 80-80 78-80 96-98.5 還元糖(マルトー 53-63 53-63 53-63 60-71 4.5-5.6 4.5-5.6 4.5-5.6 4.5-5.6 pH(10%液) 5.0-5.7 5.0-5.7 5.0-5.7 5.0-5.7 色(ロビボンド) 160-300 250-425 160-300 200-375 酵素活性(°L) Nil Nil 60°L※ Nil スとして)% タンパク質%(N ×5.7) ※穀物由来のアミラーゼ 表2 モルトシロップ(大麦と他の穀物、通常はトウモロコシ)の分析値 成分 ライト ダーク 20°L 60°L 固形分% 78-80 78-80 78-80 78-80 還元糖(マルトー 60-72 60-72 60-72 60-72 1.8-3.5 1.8-3.5 1.8-3.5 1.8-3.5 pH(10%液) 5.0-5.7 5.0-5.7 5.0-5.7 5.0-5.7 色(ロビボンド) 80-150 225-400 160-300 160-300 酵素活性(°L) Nil Nil 20°L※ 60°L※ スとして)% タンパク質%(N ×5.7) ※穀物由来および真菌由来のアミラーゼ 表 3 ジアスターゼ活性なしの乾燥モルトシロップの分析値 成分 ライト ダーク 96-98.5 96-98.5 還元糖(マルトースとして)% 60-72 60-72 タンパク質%(N×5.7) 1.8-3.5 1.8-3.5 pH(10%液) 5.0-5.7 5.0-5.7 色(ロビボンド) 150-275 200-375 酵素活性(°L) Nil Nil 固形分% 表 4 ジアスターゼ活性ありの乾燥モルトの分析値 成分 固形分% 93-95.5 還元糖(マルトースとして)% 48-60 タンパク質%(N×5.7) 5.0-6.5 pH(10%液) 5.0-5.7 色(ロビボンド) 80-150 酵素活性(°L) 20°L または 60°L 表 5 モルトの食品使用例 ベーカリー食品 酵素活性ありモルト 酵素活性なしモルト (ジアスターゼ活性あり) (ジアスターゼ活性なし) パン(全般) ○ ブレッド(黒パンなど) ○ ○ ○ ○ クッキー ○ ○ クラッカー ○ ○ ロールパン、ソフトパン、ハード パン ケーキ ○ 菓子パン ○ アイシング、フィリング、トッピング ○ ビスケット(ベーキングパウダー 使用) ○ 幼児食 ○ 小麦粉使用のサプリメント ○ 粘着剤 ○ 香辛料 ○ 黒ビール ○ 華氏 ○ 麦芽ミルク ○ アイスクリーム ○ 表.6 ベーカリー食品のモルト使用例 モルト使用量(%)※ ベーカリー食品 モルトエキス モルトエキス モルトパウダー モルトパウダー 酵素あり 酵素なし 酵素あり 酵素なし ホワイトブレッド 0.5-1.5 0.5-1.5 0.5-2.0 0.5-2.0 菓子パン 2.0-2.5 1.5-3.0 2.0-3.5 1.5-4.0 イングリッシュマフィン 0.5-1.5 0.5-2.0 0.5-2.0 0.5-2.0 フランスパン 1.0-3.0 0.5-2.0 2.0-3.0 0.5-2.5 ハードロール 2.0-4.0 3.0-5.5 2.5-4.5 3.5-6.5 カイザーロール 3.0-5.0 3.5-6.0 3.5-5.5 3.5-7.0 クラッカー 0.5-12.0 0.5-15.0 0.5-15.0 0.5-15.0 プレッツェル 2.0-3.0 1.5-6.0 2.5-3.5 2.0-8.0 全粒小麦粉パン 1.5-3.0 5.0-9.0 2.0-3.5 4.0-9.0 ライ麦パン 2.0-3.0 5.0-9.0 2.5-3.5 4.0-9.0 ふすま入りライ麦パン 2.5-3.5 5.0-9.0 2.5-4.0 4.0-9.0 - 4.0-6.0 - 3.5-6.0 - 2.0-12.0 - 2.5-9.0 - 3.0-6.0 - 3.0-7.0 チョコレートケーキ アイシング(チョコレート 味、モカ味) チョコレートクッキー ※小麦粉に対するモルトの使用量 ※ケーキ、アイシング、チョコレートクッキーに関しては総重量に対するモルトの使用量 表 7 モルトエキスと他の甘味料の栄養成分比較(20g 当り) 成分 色 炭水化物(g) グラニュー糖 ダークブラウ ンシュガー ライトモラセス ハチミツ モルトエキス 46 52 50 64 59 11.9 13.4 13.0 16.4 13.5 0.1 0.7 タンパク質(g) カルシウム (mg) 鉄(mg) ビタミン B1(μ g) ナイアシン (mg) リボフラビン (μg) ビタミン C (mg) trace 11.0 33.0 4.0 16.0 0.4 0.8 0.2 0.4 14.0 2.0 8.0 Trace Trace 0.8 12.0 14.0 7.0 1.0 1.6
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