都市域における局所的集中豪雨に対する雨水管理技術 既存雨水対策施設の能力を最大化し、住民自助・共助の促進による地域防災力の向上を実現 メタウォーター株式会社 苧木新一郎 、松岡 遼 1.はじめに 近年、下水道の計画降雨を上回る局地的な集中豪雨が頻発し,人命や財産,都市機能に甚大な影響を及ぼして おり、都市域における浸水被害リスクが増加している。下水道事業では雨水ポンプ場や雨水貯留施設等のハード 整備を進める必要があるが,財政制約等から早急に整備することは困難である。このため、既存ストックの機能 を最大限発揮させるとともに,住民の自助・共助を支援・促進するための情報提供等のソフト対策を組み合わせ た総合的な浸水対策が急務となっている。 2.本技術の概要 本技術は,X バンドレーダ雨量情報や同情報を活 用したオンライン高速流出解析結果を配信情報に 加工し、雨量情報、自助支援情報、施設運転管理情 報をリアルタイムに提供することで浸水被害軽減 等を実現するシステムである。 本技術のシステム構成を図1に示す。都市域レー ダシステム、レーダ雨量解析システム(短時間降雨 予測モデル)、高速流出解析システム、ポンプ運転 等データをリアルタイムに収集・蓄積するデータ収 集システム及び情報閲覧用の情報配信システムか ら構成される。なお、都市域レーダシステムについ ては、既存の XRAIN データを、短時間降雨予測につ いては,気象会社等が提供する有料サービスを活用 することも可能なシステムとなっている。 図 1. 本技術のシステム構成 3.本技術の特長 ①都市域レーダシステム(小型 X バンドレーダ) ・ 急速に発達する積乱雲を早期に検知、50m 分解能とすることで、高精雨量観測を実現 ・ 複数台のレーダを配置することにより、X バンドレーダの弱点である信号遮蔽と高強度降雨発生時の信号 減衰による欠測域を大幅に軽減し、高信頼性の観測を実現 ・ 小型化、軽量化により、従来 X バンドレーダに対して機器、設置コストを大幅に削減 ②短時間降雨予測モデル ・ 高精度雨量観測データに基づき観測誤差を考慮した降雨予測を複数パターン提供することで、自助支援 (例:予測最大予測値)、施設運用支援(例:予測平均値)等の目的に応じた降雨予測の選択が可能 ③高速流出解析システム ・ 高速流出解析モデルを採用し、予測解析時間を短時間とすることで、データ収集から配信を 5 分以内、5 分毎に情報更新が可能となり、リアルタイム性を確保 ・ 全国自治体において浸水対策計画立案に広く採用されているオフライン流出解析モデルを、本技術のオン ライン解析に適用することで、蓄積された観測情報や施設情報に基づく雨水ポンプ等運用検討結果(オフ ライン解析)を雨水ポンプ運用支援(オンライン解析)に容易にフィードバックすることが可能となり、 施設運用の最適化に向けた PDCA を実現 4.導入効果等について 本技術は、国土交通省下水道革新的技術実証事業(B-DASH プロジェクト)にメタウォーターを含む 8 者から なる共同研究体で「都市域における局所的集中豪雨に対する雨水管理技術実証事業」を提案し、平成 27 年度実 施事業として採択された。 本事業では、福井市および富山市の 2 フィールドにおいて、 「①都市域レーダシステム(小型 X バンドレーダ) 」 による積乱雲の早期検知、 「②短時間降雨予測モデル」による降雨量の予測、 「③高速流出解析システム」による 浸水エリアの予測をより早く正確に行うことで、土のうの設置や高台への移動など市民の自助・共助の促進や、 雨水対策施設能力の最大限活用による浸水被害軽減効果を実証し、ガイドラインにとりまとめ、全国への普及展 開を図る。
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