第三者検証委員会の審議を終えるにあたって 平成28年3月17日 千葉県がんセンター腹腔鏡下手術に係る第三者検証委員会 会 長 多田羅 浩三 千葉県がんセンター腹腔鏡下手術に係る第三者検証委員会(以下、第三者検 証委員会)は、千葉県がんセンターにおいて腹腔鏡下手術を受けた患者が術後 短期間に死亡した事例が続いたことについて、客観的・専門的な立場から原因 を究明し、医療の安全性・有効性の向上と再発防止を図り、患者が安心して医 療を受けることのできる体制を構築するための課題を明らかにすることを目的 に、平成26年7月に設置された。 各委員の真摯な議論と医学的評価にかかる日本外科学会の協力の下、平成2 7年7月までに10回の委員会を開催し、最終報告書を取りまとめ、病院局に 提出した。 調査・検証にあたっては、個々の事例の診療経過や担当医師等による個別の 医療行為の調査・検証にとどまらず、その背後にある千葉県がんセンターの倫 理審査、医療安全管理、インフォームド・コンセントやセカンド・オピニオン、 説明や診療録記載の体制など、病院全体としての課題に重点を置いて調査・検 証を行った。また、検証の過程において、同意を得られた全てのご遺族にヒア リングをお願いするなど、評価・提言に患者の判断が反映されるよう努めた。 その結果、千葉県がんセンターにおける医療の安全と安心の推進、とくに 患者の権利保障のための体制-患者が安心できる体制-の確保についての課題 を明らかにし、課題の克服に向けた提言を行うことができたと考えている。 千葉県がんセンターでは、平成26年11月に「がんセンター改革本部」を 立ち上げ、自ら今回の事例を反省し、改善に取り組むため、自発的に検討を開 始した。第三者検証委員会において、改革本部から報告が行われたが、腹腔鏡 下手術に係る課題として指摘された、医療の安全と安心の管理体制の強化や倫 理審査の徹底、インフォームド・コンセントの充実、新規技術導入に関する病 1 院内審査組織の設置やセカンドオピニオンセンターの新設など、体制の強化、 充実に向けた意欲的な取組が提起されており、千葉県がんセンターの改革への 強い姿勢が感じられるものであった。 そうした中、昨年12月に、千葉県がんセンターは、病理検体の取り違え事故 があったことを公表した。検体の取り違えが発生し、その後の診断・意思決定 のプロセスでの発見、修正ができずに、適応でない手術という不可逆的な治療 が行われてしまったという重大な事故が発生したことは、誠に残念である。 本日の第11回目の第三者検証委員会で、がんセンターから、患者・検体の取 り違え防止策の報告があり、可及的に防止策に着手していることが確認された。 事故の発覚後、病院が速やかに公表し、外部委員を入れた院内事故調査委員会 を設置したことについては、腹腔鏡下手術に関する事例への対応の反省が反映 されたものと思われる。 しかしながら事故発生の背景には、検体の採取から処理までの作業環境やプロ セスにおけるシステムとしての課題、またカンファレンスの記録の不備等が、 存在することが指摘されていることは、改革本部を設置し、医療の安全安心の 体制等の見直しに病院を挙げて取り組むとした認識と実行が、病院の各部門の 職員一人一人に、実際に徹底・浸透しているといえるかどうか、厳しく反省す べきものと言わざるを得ないのではないだろうか。 がんセンターが使命とする高度で専門的な、しかも安全で安心ながん医療の提 供に対し、患者・社会が寄せる期待は非常に大きいものであると考える。がん センター及び県病院局の職員一人一人に、安全で安心な医療体制の確保を目指 して、今一度決意を新たにして欲しいと思う。大きく損なわれた信頼を取り戻 す道筋は決して平坦ではないが、がんセンターがこれまで進めてきた改革への 取り組みに自信を持ち、推進して行けば、がんセンターの医療体制の充実、そ して信頼回復は必ず成し遂げられるものと信じている。 がんとの闘いという厳しい最前線で、患者・家族とともに、日夜奮闘されてい るがんセンター職員の皆さんに深く敬意を表し、委員会へのこれまでの温かい ご協力に衷心より感謝して、第三者検証委員会の審議を終えるに当たっての言 葉とさせていただきたいと思う。 2
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