(先端生命科学研究院 教授 金城政孝,助教 北村 朗)(PDF)

アルツ
ツハイマー
ー病の原因
因とされる
るタンパク質
質を細胞内で可視 化する技術を開発
発
- 発症メカニズムの解明や治
治療薬の候
候補物質のス
スクリーニン
ングに貢献 -
平成 28
8 年 3 月 17 日
国立
立研究開発法
法人 産業技術
術総合研究所
所
国
国立大学法人
人 北海道大学
学
■ ポイン
ント ■
・ アルツ
ツハイマー病の原因因子の
の一つである
るアミロイドタ
タンパク質(A
A)の動態を
を生体内で可視
視化
・ Aと蛍
蛍光タンパク質
質 GFP の融
融合を工夫し、
、Aが凝集し
しても蛍光が観
観察されるタ
タンパク質を開
開発
・ GFP の
の蛍光強度を
を利用した簡便・迅速な治
治療薬の探索
索と、詳細な発
発症メカニズム
ムの理解へ貢
貢献
■ 概 要 ■
国立研
研究開発法人
人 産業技術総
総合研究所【【理事長 中鉢
鉢 良治】(以
以下「産総研」 という)バイオ
オメディカル研
研
究部門【【研究部門長
長 近江谷 克裕】脳遺伝子
克
子研究グルー
ープ 落石 知世
知
主任研
研究員らは、国
国立大学法人
人
北海道大
大学【総長 山口
山
佳三】大
大学院 先端生
生命科学研究
究院 北村 朗 助教、学校
校法人 順天堂
堂【理事長 小
川 秀興
興】 順天堂大学 医学部 脳神経内科 志村 秀樹 准教授らと共
共同で、アル
ルツハイマー病
病の原因因子
子
であるアミロイ
イド(A)タン
ンパク質の動
動態を、生きた
た神経細胞内
内や生体内で
で可視化する
る技術を開発し
の一つで
た。
容易に重合し
し、それが更に
に集まって大
大きな凝集体を
を形成する。Aと蛍光タン
ンパク質の GFP を融合させ
せ
Aは容
たタンパ
パク質(A-GF
FP)は、Aの重合により GFP の蛍光
光が阻害される
ると推測され
れている。その
のため、生体内
内
で発現さ
させても Aが
が重合すると蛍
蛍光が観察さ
されず、これま
まで Aの局在や動態を可
可視化するこ
ことは困難であ
あ
った。今回、Aと GFP
P を繋ぐアミノ
ノ酸配列(リン
ンカー)を工夫
夫することで、Aの重合状
状態に関係な
なく GFP の蛍光
光
できる融合タン
ンパク質を開
開発した。また
た、この融合タ
タンパク質はア
アルツハイマ
マー病の発症
症に関与する毒
毒
が観察で
性の強い
い Aオリゴマ
マーを形成する
ることが分か
かった。
この技
技術は、培養細胞や生きた
た個体を用い
いたアルツハ
ハイマー病治療
療薬の候補物
物質のスクリ
リーニングへの
の
応用や、アルツハイマ
マー病の発症
症メカニズムの
の解明への貢
貢献が期待さ
される。なお、 本成果の詳細は、2016 年
日に Scientiffic Reports 誌(電子版、オ
誌
オープンアクセ
セス)に掲載さ
される。
3 月 16 日
は【用語
語の説明】参照
照
開
開発した A--GFP 融合タ
タンパク質の模
模式図(左)と
と、培養細胞や
や線虫内での
の発現の様子
子(右)
-1-
景 ■
■ 開発の社会的背景
高齢化
化社会を背景
景とした認知症
症患者の増加
加は、医療費
費や介護制度の現状などが
が絡み合い、世界的にも大
大
きな社会
会問題となって
ている。特にア
アルツハイマ
マー病は記憶
憶障害や判断能力の低下、
害等を特徴とし、
、見当識障害
認知症の
の半数以上を
を占めるにもか
かかわらず、 詳細な発症メ
メカニズムが
が解明されてお
おらず、有効な治療法や特
特
効薬も開
開発されていな
ない。
■ 研究の経緯 ■
研では、生体
体メカニズムや
や疾病に関連
連する分子の機能・構造の
の解明を目指
指した研究を推
推進しており
り、
産総研
そこから得られた知見
見を基に創薬
薬基盤・医療基
開発に取り組
組んできた。ア
アルツハイマ
マー病は、Aを
を
基盤技術の開
とする老人斑
斑の神経細胞
胞周囲への沈
沈着と、過剰に
にリン酸化され
れたタウタン
ンパク質が神経
経細胞内に蓄
蓄
主成分と
積する神
神経原繊維変
変化および、脳
脳の萎縮を主
主な病理学的
的特徴とする認
認知症である
る。これらは発
発症原因として
て
有力であ
あるものの、い
いまだアルツ
ツハイマー病発
発症のメカニ
ニズムは解明できていない
い。このような
な背景の中で
で、
最近少数
数の A分子が
が重合した Aオリゴマー
A
ーが細胞に対する強い毒性
性を有し、これ
れが細胞内に
に蓄積されるこ
とが病気
気の発症に強
強く関与すると
という説が有 力になりつつ
つある。しかし
し従来の方法
法では、細胞や
や脳組織の標
標
本を用い
いた解析しかで
できなかった
たため、生きた
た細胞内で Aのオリゴマー
ー化の状態を
を直接可視化
化して毒性との
の
因果関係
係を詳細に解
解析する方法や、治療薬の
の候補となる物質の Aの
の重合に対す
する効果を直接解析する新
新
たな手法
法が求められ
れていた。そこ
こで、細胞の可
可視化や、神
神経細胞の機能の解析、ト
トランスジェニ
ニック動物の作
作
成と解析
析を行っている
る産総研と、生きた細胞内
内での分子の
の相互作用を
を解析する蛍 光相関分光法に優れた実
実
績を持っ
っている北海道
道大学大学院
院先端生命科
科学研究院で
で共同研究を行うこととした
た。
■ 研究の内容 ■
まで、Aと GF
FP を繋ぐリン
ンカーとして 1 2 個以下のア
アミノ酸から構
構成されたも のが報告され
れていたが、こ
これま
れらは A
Aが重合する
ると GFP の蛍
蛍光が消失す
するため、毒性
性の強いオリゴマーを観察
察できていなか
かった。今回
回、
Aと GF
FP を繋ぐリン
ンカーとして、14 個のアミノ
ノ酸を用いて、A分子の重
重合体が形成
成されても蛍
蛍光を観察でき
き
る、A-G
GFP 融合タン
ンパク質(A-GFP)を開発
発した。この A-GFP
A
を核
核磁気共鳴装
装置や電子顕
顕微鏡、免疫組
組
織化学法
法、蛍光相関分光法で解析
析したところ、
、GFP を融合
合させたことで
で Aの重合が
が一定以上進
進まず、生体内
内
でも生体
体外でも 2 量体
体から 4 量体
体を中心とした
たオリゴマー
ーの状態で存在することが
が分かった(図
図 1)。これらの
の
特徴を活
活かし、生きた
た細胞内で Aのダイナミ
A
ミックな動きや
や、初代培養
養神経細胞内
内での蓄積状態などの解析
析
が可能と
となる。また、重合が進んで
で繊維状とな
なった Aより
りも、オリゴマ
マーのほうが
がより強い毒性
性を有すること
から、A
オリゴマーの
の重合の度合
合いと細胞へ の毒性との関
関係などの解
解析を行うこと
とができる。
-2-
図 1 生体内
内・生体外での
の A−GFP の様子
の
(A
A)Aタンパク質
質(a)と A-G
GFP(b、c)の電
電子顕微鏡像。
。Aタンパク質
質は重合が進
進み繊維状にな
なるのに
対し、A-GFP は重合が途中
は
中で止まり、数
数量体のオリゴ
ゴマーを形成す
する(c の破線
線で囲まれた部
部分はそ
れぞれ 1 個の重
重合体を示す)。
(B
COS7 細胞(aa)を、オリゴマ
B)A-GFP を発現させた
を
マーだけを認識
識する抗体で
で染色した像(b
b)。 (a)と
(b))がほぼ一致す
することから(c
c)、A−GFP が
がオリゴマーで
であるとわかる。
Aと GFP を繋
繋ぐリンカーが短いと、重
重合の影響を受けて GFP の蛍光は観察
の
察されなくなる
る。そこで今回
回
また、A
発見した
た現象を利用して重合の状
状態が検出で
できるシステム
ムを考案し、GFP の蛍光
光強度を利用
用した治療薬候
候
補物質の
のスクリーニン
ングが可能で
であることを実
実証した(図 2)。GFP
2
単独
独を特定の神
神経細胞に発現
現させたトラン
ン
スジェニック線虫では
は神経細胞内
内に明瞭な蛍光
光が観察でき
きる(図 2a)が
が、2 個のアミ
ミノ酸からなる
る短いリンカー
ー
A-GFP を発現させた線虫
虫では、Aの
の重合の影響
響を受けて GF
FP の蛍光は観
観察されなか
かった(図 2b)。
を持つ A
この線虫
虫を、Aの重合
合を抑制する
るクルクミンを
を加えた培地で飼育した結
結果、GFP の
の蛍光が観察
察できた(図 2c)。
このように、A-GFP は蛍光強度
度の変化を測
測定することで
で、Aの重合
合を抑える創薬
薬候補物質の
のスクリーニン
ン
用できる。
グに利用
図 2 生体を用いた
た創薬候補物
物質のスクリー
ーニング例
飼育培地上の線
線虫(A)を顕微
微鏡で観察す
すると、クルク
クミンによる Aの重合抑制
A
制によって蛍光
光強度が
増 加した神経細
細胞を見ること
とができる(B))。白丸は神経
経細胞の細胞
胞体、矢頭は神
神経細胞の軸
軸索を示
す。
-3-
■ 今後の予定 ■
は培養神経細
細胞を用いて、A-GFP の
の蛍光強度を
を利用したアルツハイマ ー病の治療薬
薬や予防薬の
の
今後は
候補とな
なる物質をよ
より簡便にスクリーニ ングできる
る方法の開発
発に着手する
る。また、今
今回開発した
た
A-GFP を発現させ
せたトランスジ
ジェニックマウ
ウスを用いて、
、アルツハイマー病発症の
のごく初期に
に起こる神経細
細
での微細な変
変化に Aオリ
リゴマーが与
与える影響につ
ついてより詳
詳細な解析を行
行い、アルツ
ツハイマー病発
発
胞内部で
症のメカニズムの解明
明や予防に関
関する研究を
をすすめる。
先 ■
■ 本件問い合わせ先
究開発法人 産業技術総合
産
合研究所
国立研究
バイオメディカル研究
究部門 脳遺伝
伝子研究グル
ループ
主任研究
究員
落
落石
知世
〒305--8566 茨城県
県つくば市東 1-1-1 中央
央第 6
TEL:0229-861-6577
7 FAX:029-861-6407
E-mail :[email protected]
究部門 脳遺伝
伝子研究グル
ループ
バイオメディカル研究
ループ長
研究グル
戸
戸井
基道
〒305--8566 茨城県
県つくば市東 1-1-1 中央
央第 6
TEL:0229-861-7886
6 FAX:029-861-6407
E-mail :[email protected]
国立大学
学法人 北海
海道大学 大学
学院
先端生命
命科学研究院
院 細胞機能科
科学研究室
〒001--0021 北海道
教授
金
金城
政孝
道札幌市北区
区北 21 条西 11 丁目
次世代
代ポストゲノム
ムセンター
TEL:0111-706-9005
5 FAX:011-70
06-9045
E-mail :[email protected]
okudai.ac.jp
先端生命
命科学研究院
院 細胞機能科
科学研究室
〒001--0021 北海道
助教
北
北村
朗
道札幌市北区
区北 21 条西 11 丁目
次世代
代ポストゲノム
ムセンター
TEL:0111-706-9006
6 FAX:011-70
06-9045
E-mail :[email protected]
okudai.ac.jp
【取材
材に関する窓口
口】
国立研
研究開発法人
人 産業技術総
総合研究所 企画本部
企
報道
道室
〒305
5-8560 茨城県
県つくば市梅園
園 1-1-1 中央
央第 1
つくば
ば本 部 ・情 報 技 術 共 同 研 究 棟 8F
TEL:0
029-862-62166 FAX:029-862-6212 E-mail:press-m
[email protected]
国立大
大学法人 北海
海道大学 総務企画部広報
総
報課
〒060
0-0808 北海道
道札幌市北区
区北 8 条西 5 丁目
TEL:0
011-706-26100 FAX:011-706-2092 E-mail:[email protected]
ai.ac.jp
-4-
【用語の
の説明】
◆アルツ
ツハイマー病
記憶障
障害を中心とした認知機能
能障害を主な
な症状とする認
認知症。認知
知症の中でも最
最も多い。
ンパク質
◆アミロイド(A)タン
程度のアミノ酸
酸からなるタ
タンパク質。
40 個程
Green Fluoreescent Prote
ein 緑色蛍光 タンパク質)
◆GFP(G
オワン
ンクラゲがもつ
つ緑色蛍光タ
タンパク質。青
青色の光を吸
吸収して緑色の蛍光を発す
するため、生
生きた細胞や個
個
体内のタ
タンパク質の局
局在などを観
観察する際に よく用いられ
れる。
ゴマー
◆オリゴ
単量体
体(モノマー)が
が少数個結合
合(重合)した
たもの。
識障害
◆見当識
日時・場所・話して
ている相手など
ど、自分が置
置かれている状
状況が認識で
できないことを
をいう。
酸化
◆リン酸
タンパ
パク質の特定の
の場所に、リ
リン酸化酵素 によりリン酸
酸基が付加され
れる化学反応
応。リン酸化さ
されたタンパク
質は生体
体内でその機
機能が活性化
化されたり抑制
制されたりする
る。
◆タウタンパク質
の軸索内に存
存在する微小管結合タンパ
パク質。細胞の骨組みや物
物質輸送経路
路として機能
能する微小管の
の
神経の
安定化に
に関与する。
原線維変化
◆神経原
タウタンパク質がリ
リン酸化される
ると微小管か
から離れ、タウ
ウタンパク質同
同士で結合す
する。これが神
神経細胞の細
細
繊維状の塊と
となったもの。
胞質で繊
スジェニック動
動物
◆トランス
外部か
から特定の遺
遺伝子を人為的に導入した
た動物。
相関分光法
◆蛍光相
レーザ
ザー光を用いた共焦点光学
学系を利用し
し、ごく微小な
な観察領域の
の中を蛍光分
分子が出入りす
することにより
生じる蛍
蛍光強度のゆらぎを解析し
し、蛍光分子 の濃度や拡散速度を測定
定する技術。 拡散速度か
から分子の大き
き
さや分子
子間の相互作
作用を解析する
ることができる
る。
-5-
気共鳴装置
◆核磁気
物質の
の分子構造や
や物性を原子
子レベルで解析
析するための
の装置。強力な
な磁場中の試
試料にラジオ
オ波を照射する
る
と、原子の核の状態によって、ある周波数のラ
ラジオ波を吸
吸収する(核磁
磁気共鳴)。こ
この吸収スペ
ペクトルから分
分
を解析する。複
複雑な有機化
化合物の化学
学構造を決定
定するために広
広く用いられる
る。
子構造を
◆COS7 細胞
細胞。細胞外
外から導入さ
された遺伝子が効率よく機
機能するため
め、遺伝子導入
入
アフリ カミドリザル腎臓由来の細
汎用される。
実験に汎
クミン
◆クルク
カレー
ーのスパイスで
であるウコンの
の黄色色素。
。Aの重合を
を抑制する働きがある。
-6-