いわき市の小売業について(その2)

2016年3月
いわき市の小売業について(その2)
1.はじめに
前回は、いわき市、郡山圏域、水戸圏域、仙台圏域の小売業の業種を比較して、いわき市の小
売業の特徴を考えてみました。
いわき市は、他の3地域と比べると、働く場としてのコンビニの比重が高く、他の小売業の選択
肢が少ないのではないか・・・というのが、大まかな結論でした。
今回は、他地域との比較ではなく、いわき市における小売業の各業種を比較しながら、いわき
市の小売業の特色を考えてみたいと思います。
2.売場面積について
いわき市の小売業は、店舗数・従業員数ともに「その他飲食料品小売業」(コンビニ)が圧倒的と
なっています(実は、いわき市だけでなく、他の地域も同様です)。
それでは、売場面積で比較した場合はどうでしょうか。
コンビニは、店舗数(多)×売場面積(小)という構造に対し、百貨店は、店舗数(少)×売場面
積(大)という構造ですから、売場面積で比較すると、違った構図が見えるかもしれません。
実際、事業所数と総売場面積で各業種をプロットしたのが、下の散布図となります。
【いわき市内の小売業の分布図(事業所数×売場面積)】
コンビニ
ホームセンター
スーパー
ドラッグストア・薬局
※赤線は、一事業所当たりの売場面積の平均(167.5 ㎡/事業所)を表している。
上記の散布図を見ると、その他小売業(ホームセンター)が、最も総売場面積の大きい業種とな
っています。ホームセンターが、その他飲食料品(コンビニ)に次いで店舗数が多く、他方、一店
舗当たりの売場面積が広い(図の赤線より上に位置していると市内平均面積よりも広いことを意味
します)ことが要因となります。
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また、店舗数・従業員数が圧倒的に多いその他飲食料品小売業(コンビニ)についても、その他
小売業(ホームセンター)に次いで、総売場面積は多くなっています。
一店舗当たりの売場面積は、市内平均よりもやや小さい(赤線よりやや下に位置している)ことも
あり、ホームセンターよりは、総売場面積は小さくなるものの、ホームセンターに次いで総売場面積
が大きくなっています。
他、注目すべき点としては、各種食料品小売業(スーパー)は、店舗数は少ないものの、総売場
面積はかなり大きく、一店舗当たりの売場面積の大きさが影響しています。
参考までに、主な業種の一店舗当たりの売場面積を示すと、以下のとおりです。
【一店舗当たりの売場面積(㎡/店)】
業種
売場面積
業種
売場面積
その他(ホームセンター)
270㎡/店
各種食料品(スーパー)
576㎡/店
その他飲食料品(コンビニ)
162㎡/店
百貨店・総合スーパー
6809㎡/店
医薬品・化粧品(ドラッグストア・薬局)
151㎡/店
市内平均
168㎡/店
コンビニは、売場面積が非常に小さいというイメージがありますが、市内小売業と比べると、ほぼ
平均に近く、実は、それほど小さいお店ではないことがわかります。
また、前回、分析を行ったように、地域内での店舗数も圧倒的に多く、コンビニの販売戦略は、
一種の物量作戦と言えるかもしれません。
コンビニの出店戦略としてよく知られているものとして、「ドミナント戦略」というものがありますが、
これは、ある一定地域に集中的に店舗を出店するという物量作戦であり、言わば、統計上にもコン
ビニの出店戦略が表れていると言えそうです。
3.商品販売額について
(1)各業種の年間販売額
売場面積の面から見ても、コンビニの勢いが非常に強いということが、前述では見て取れたと思
います。次に、実際、各業種はどれくらいの売上を出しているのでしょうか。散布図で示したいと思
います。
【事業所数×年間販売額】
※赤線は、店舗当たりの年間販売額の市内平均を表している。
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やはり、年間販売額を見ても、その他の飲食料品小売(コンビニ)が圧倒的な高さを誇っていま
す。どのような切り口から見ても、コンビニの勢いの強さと言うのは変わらないようです。
また、グラフの赤線より上に位置しているのは、一店舗当たりの年間販売額の市内平均(1.38
億円/店)を上回っていることを意味します。主な業種の総販売額と一店舗当たりの販売額を示
すと以下のとおりとなります。
業種
総年間販売額
一店舗当たり販売額
その他の飲食料品(コンビニ)
641億円
1.97億円/店
医薬品・化粧品(ドラッグストア・薬局)
335億円
1.44億円/店
各種食料品(スーパー)
309億円
5.43億円/店
その他(ホームセンター)
159億円
0.68億円/店
77億円
25.69億円/店
2,987億円
1.38億円/店
百貨店・総合スーパー
市内平均
一店舗当たりの販売額をみると、コンビニは、市内平均を上回っているものの、スーパーや百貨
店と比べると、かなり低くなっています。
コンビニが、店舗数を武器に売上を稼ぐ業態であることが理解できるかと思います。
(2)販売額と売場面積・従業員数の関係
次に、年間販売額と売場面積、従業員数の関係がどのようになっているかを考えてみたいと思
います。
今までと同様に、年間販売額と売場面積、従業員数をグラフにして考えてみます。実際、グラフ
(散布図)にしたのが下記の図。
【売場面積×年間販売額】
【従業員数×年間販売額】
※赤線は、売場面積(従業員)当たりの年間売上額の市内平均を表している。
売場面積や従業員数が増えると、比例して販売額も伸びる、というのは当たり前のことですが、
そのような関係が見て取れます。しかし、二つの散布図を見比べると、各業種によって、それぞれ
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特徴が見えてこないでしょうか。
主要業種について、売場面積当たりの販売額(万円/㎡)、従業員当たりの販売額(万円/人)
を比較してみます。
売場面積当たり販売額
高
○その他飲食料品[コンビニ](641 万円/㎡)
従業員当たり販売額
高
○医薬品・化粧品(95 万円/㎡)
○各種食料品[スーパー](94 万円/㎡)
中
○市内平均(83 万円/㎡)
中
○百貨店・総合スーパー(2335 万円/人)
○各種食料品[スーパー](2238 万円/人)
○医薬品・化粧品(2182 万円/人)
○市内平均(2065 万円/人)
○その他飲食料品[コンビニ](1743 万円/人)
低
○百貨店・総合スーパー(38 万円/㎡)
低
市内平均を中間に取ると、その他飲食料品小売(コンビニ)は、売場面積当たりでは非常に高
い販売額となっていますが、従業員当たりでは、低くなっていることが分かります。
その逆が、百貨店・総合スーパーで、売場面積当たりの販売額は非常に低いですが、従業員
当たりの販売額は、比較的高くなっています。
そして、各種食料品小売(スーパー)と医薬品・化粧品小売りについては、売場面積、従業員当
たりの双方とも、平均もしくは平均を多少上回る状況となっています。
ここから導き出される結論としては、コンビニは設備投資を小さくする代わりに、労働力でカバー
する業態であるのに対し、百貨店・総合スーパーは、コンビニとは反対に設備投資型の業態であ
ると言えそうです。
また、スーパーは、コンビニと百貨店の中間的な投資戦略を持っていると考えられます。
現在の市場や経済状況に対し適応しているのは、どの業種の投資戦略であるかを考えてみる
のは、興味深い点かと思われます。
最近の報道では、セブン&アイホールディングス(セブンイレブン(言わずもがなのコンビニです)
や、ソゴウ・西武・イトーヨーカ堂(こちらは百貨店・総合スーパーです)を傘下に持つ企業)の事業
再編がされています。報道によれば、セブンイレブンについては好調であるが、百貨店・総合スー
パーが不振で、ソゴウ柏店、西武旭川店の閉鎖、イトーヨーカ堂の40店舗の閉鎖が発表されてい
るとのことです。
先ほどのデータを見ると、百貨店・総合スーパーの売場面積当たりの販売額が非常に低く、設
備投資の大きさが負担になっていることも考えられます。
いわき市内のイトーヨーカ堂については、閉鎖対象とはなっていないようですので、全国の動き
といわき市内の状況は一概に一致するものではありませんが、店舗等に大きな投資をする形態の
小売業が成功するのは、厳しい時代になっているのかもしれません。
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2016年3月
いわき市で注目されている小売業に関する動きとしては、小名浜におけるイオンモールの建設
が上げられます。
イオンモールは、百貨店・総合スーパーとは分類的には異なるため、百貨店・総合スーパーと
同列で論じることはできないかと思いますが、いずれにしても、イオンモールの成功は、設備投資
と商品販売額の関係が適切なところで収まるか・・・この点にかかっていると言えそうです。
非常に注目度の高いイオンモール建設、その動きが気になるところですが、いわき市の小売業
も、設備投資を抑えた店舗の展開(代表例がコンビニ)が主流となっている状況を考えると、イオン
モールの建設が、いわき市の小売業にどのような影響を及ぼすか、非常に気になるところです。
(つづく)
(参考資料)
・2012年経済センサス
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