技術資料 野菜・花き類灰色かび病菌の薬剤感受性検定結果について

技
術
資
料
平成28年3月15日
香川県農業試験場病害虫防除所
野菜・花き類灰色かび病菌の薬剤感受性検定結果について
香川県内で採集した野菜・花き類灰色かび病菌の薬剤感受性検定を行ったところ、ベンズイミ
ダゾール系剤、ジエトフェンカルブ剤、ジカルボキシイミド系剤及びQoI剤に対する耐性菌が調
査した作物すべてで確認され、施設栽培のイチゴやラナンキュラスでは耐性菌率が高かった。
SDHI剤に対する耐性菌は確認されなかった。これらのことから、野菜・花き類灰色かび病菌に対
する耐性菌の発生を回避するため、換気を行うなど耕種的な防除を行うとともに、同一系統の薬
剤を連用せずに系統の異なる薬剤をローテーションで防除することが重要である。
1.目的
灰色かび病は多くの野菜・花き類に発生し、特に施設栽培やレタスなどのトンネル栽培におい
ては防除上重要な病害となっている。また、本病害は各種薬剤に対して耐性を獲得しやすい性質
を持っているため、薬剤耐性の発生が懸念されている。そこで、香川県内で採集した野菜・花き
類灰色かび病菌についてベンズイミダゾール系剤、ジエトフェンカルブ剤、ジカルボキシイミド
系剤、QoI剤及びSDHI剤対する感受性検定を行った。
2.調査方法
1)供試菌株
野菜・花き類灰色かび病菌は平成 26~27 年に結球レタス、非結球レタス、イチゴ及びラナ
ンキュラス圃場から発病株を採集し、病斑上の分生胞子を定法により単胞子分離した 76 菌株
を供試した。
2)供試薬剤と検定及び判定方法
表1のとおりである。
表1 供試薬剤と検定及び判定方法
系統名
ベンゾイミダゾール系
ジエトフェンカルブ剤
ジカルボキシイミド系
QoI剤
SDHI剤
一般名
判定方法
<商品名>
チオファネートメチル水和剤 PDA培地を用い、100ppmで生育しない菌株(感受性菌)、
<トップジンM水和剤> 100ppmで生育する菌株(高度耐性菌)
PDA培地を用い、0.3ppmで生育しない菌株(感受性菌)、
ジエトフェンカルブ水和剤
0.3ppmで生育するが10ppmでは生育しない菌株(弱耐性
<パウミル水和剤>
菌)、10ppmで生育する菌株(高度耐性菌)
PDA培地を用い、5ppmで生育しない菌株(感受性菌)、5ppm
プロシミドン水和剤
で生育するが対照と比べて生育量が80%以下の菌株(中等
<スミレックス水和剤>
度耐性菌)、同生育量が80%以上の菌株(高度耐性菌)
アゾキシストロビン水和剤
PDA(DMSO 0.5%、SHAM150ppm加用)培地を用い、1ppmで
、ピリベンカルブ水和剤
生育しない菌株(感受性菌)、1ppmで生育し100ppmで生育す
<アミスター20フロアブル、
る菌株(弱耐性菌)、100ppmで生育する菌株(高度耐性菌)
ファンタジスタ顆粒水和剤>
ボスカリド水和剤、
ペンチオピラド水和剤 YBA培地を用い、ボスカリドは0.3ppmで、ペンチオピラドは1ppmで
<カンタスドライフロアブル 生育しない菌株(感受性菌)、生育する菌株(耐性菌)
、アフェットフロアブル>
3.結果の概要
1)チオファネートメチルに対する検定結果
結球レタスで22.5%、非結球レタスで37.5%、イチゴで66.7%、ラナンキュラスで78.6%の
高度耐性菌(薬剤の効果が期待できない)が発生していた。
2)ジエトフェンカルブに対する検定結果
ジエトフェンカルブはチオファネートメチルに対して負の交差耐性を示すことから、弱耐性
菌率及び高度耐性菌率はチオファネートメチルに感受性を示した菌株を除き、耐性を示した菌
株中のパーセントとした。結球レタスでは弱耐性菌(薬剤の効果に影響を及ぼす可能性があ
る)が44.4%、高度耐性菌が44.4%発生していた。非結球レタスでは50.0%、イチゴでは100
%、ラナンキュラスでは100%の弱耐性菌が発生していた。
3)プロシミドンに対する検定結果
結球レタスでは中等度耐性菌(薬剤の効果が低下している)が10.0%、高度耐性菌が5.0%
発生していた。非結球レタスでは18.8%、イチゴでは33.3%、ラナンキュラスでは64.3%の中
度耐性菌が発生していた。
4)アゾキシストロビン及びピリベンカブルに対する検定結果
結球レタスでは17.5%、非結球レタスでは37.5%、イチゴでは66.7%、ラナンキュラスでは
78.6%のアゾキシストロビンに対する高度耐性菌及びピリベンカブルに対する弱耐性菌が発生
していた。
5)ボスカリド及びペンチオピラドに対する検定結果
ボスカリド及びペンチオピラドに対する耐性菌はすべての作物で認められなかった。
表2 各作物から分離した灰色かび病菌のチオファネートメチル、ジエトフェンカルブ
及びプロシミドンに対する耐性菌率(%)
ジエトフェンカルブ
プロシミドン
供試 チオファネートメチル
作物
菌株
高度耐性菌
弱耐性菌 高度耐性菌 中等度耐性菌 高度耐性菌
結球レタス
40
22.5
44.4
44.4
10.0
5.0
非結球レタス
16
37.5
50.0
0
18.8
0
イチゴ
6
66.7
100
0
33.3
0
ラナンキュラス
14
78.6
100
0
64.3
0
*ジエトフェンカルブの弱耐性菌および高度耐性菌の割合はチオファネートメチルに感受性を示し
た菌株を除き、耐性を示した菌株中のパーセントを表す。
表3 各作物から分離した灰色かび病菌のアゾキシストロビン、ピリベンカルブ、ボスカリド
及びペンチオピラドに対する耐性菌率(%)
ピリベンカルブ
供試 アゾキシストロビン
ボスカリド
ペンチオピラド
作物
菌株
高度耐性菌
弱耐性菌
高度耐性菌
高度耐性菌
結球レタス
40
17.5
17.5
0
0
非結球レタス
16
37.5
37.5
0
0
イチゴ
6
66.7
66.7
0
0
ラナンキュラス
14
78.6
78.6
0
0
4.耐性菌対策と防除実施上の留意点
1)耐性菌の発生回避のため、同一系統の薬剤を連用しない。
3)薬剤散布は株元までかかるように丁寧に行う。
4)圃場の排水を良くするとともに、トンネルや施設内部が過湿にならないように換気に留意す
る。
2)病原菌の伝染源となる発病株は放置せずに抜き取って適正に処分する。
病害虫防除所インターネットホームページ
URL: http://www.jppn.ne.jp/kagawa/