Q1.最近再び問題になっている豚赤痢の現状は? 豚赤痢の原因菌は Brachyspira hyodysenteriae で現在は届出伝染病です。これまで豚 産業に大きな経済的損失をもたらしてきました。各県の食肉検査所ではこのブラキスピ ラ菌の感染した屠体は廃棄しなければならない。そのため食肉検査所は神経を使い、そ れぞれの県で独特の判定基準があるようである。豚への感染については、出血性下痢を 伴う典型的な豚赤痢は少なくなったが、下痢便程度または腸管に軽い病変を作る程度の ものが多くなっている。しかし豚への感染率は高くなっているようである。赤瀬ら(2 009)のリアルタイムPCRや分離成績からこのことが裏ずけられる(文献1)。人 への感染の有無や血液を介した感染は不明の部分があるが、血管を介した感染に関する 報告もある。同属の Brachyspira pilosicoli は宿主域が広いようで、豚はもとより人、 鶏、犬などの感染が報告され人獣共通感染症として注目されている。また豚赤痢に付随 して分離されることが多く、B.hyodysenteriae と B.innocens は共存しているのではな いかと考えられ、その意味で屠場での廃棄は意味があるのではないかとも考えられる。 Q2.その疾病と腸管細菌叢とはどのような関係がありますか? 健康豚の腸管細菌は球菌(Streptococcus ureolytic)が 48.9%を占めます。一方、豚 赤 痢 感 染 豚 で は桿 菌 特に Acetivibrio ethanolgignenses が 27.0%, Selenomonous ruminantium が 15%、Escherichia coli が 15.1%, Fusobacterium planti が 11.9%にな ります。 Q3.腸内細菌と関係がある豚赤痢とはどのような病気ですか? 豚赤痢とは図1に示したように豚赤痢に侵された豚房では健康豚は大きくなり、発症豚 は痩せていきます。その大腸は図 2 に示したようにブラキスピラ菌が組織に侵入してい ることがワーシンスターリー染色で確認できます。感染豚から排泄された赤痢便はその 名のとおり血液と粘液が混ざり酸臭がします(図3)。その糞便または大腸粘膜を培地 に浮遊させ 400μg/ml スペクチノマイシン添加羊寒天培地上には嫌気状態で37℃、7 2時間培養で小さなコロニーとそれを取り囲む溶血が見られます(図4)。その発育し た菌を透過型顕微鏡で観察した場合、大型の螺旋菌が観察されます(図5)。また豚赤 痢豚の腸管にはバランチジウムが感染していることが多く観察されます(図6)。 これまでの報告から、ノトバイオート豚では豚赤痢を発症しにくく、豚に B.hyodysenteriae を感染させるときに Bacteroides vulgatus および Fusobacterium necrophorum を与えることで豚赤痢を発症することが知られています。最近、乳酸菌が ブラキスピラ菌の増殖を阻害する可能性について示唆する論文も報告されています(文 献3) 。 Q4.そのような豚赤痢対策はどのようにすればいいのですか。 表1(文献1)に示したように、豚赤痢ブラキスピラ菌を分離し、その菌株の抗菌物質 に対する感受性試験を実施しブラキスピラ菌に最も効果(MIC値が低いほど効果があ る)の高い薬剤を使用します。バルネムリン(商品名:エコノア)やチアムリンに高い 効果があります。メトロニダゾールは人のアメーバー赤痢の治療に用いられているが、 人の腸管スピロヘータ症に効果があります。カルバドックスは昔豚赤痢の治療に使われ て大変効果があるようであるが癌原性があるようで現在は使用されていません。ペニシ リンは耐性もあるが効果もあるようです。最近、乳酸菌群(Lactobacillus acidphilus, L.bucheri, L.plantarum, L.reuteri, および L.salivarius)がブラキスピラ菌の増殖 を阻害する可能性について示唆する論文も報告されています(文献3)。 図1 図2 図3 図4 図6 図5 表1 茨城県で分離された 18 株の B.hyodysenteriae の薬剤感受性 Drugs MICs(μg/ml) Range For ≧90%of the isolates Penicillin G 100-0.2 ≦0.4 Valunemulin 6.3-0.1 ≦6.3 Lincomycin 100- 0.2 ≦25 13-0.1 ≦6.3 100-3.1 ≧3.1 Metronidazol 1.6-0.1 ≦0.4 Tiamulin Tylosin Carbadox ≦0.08 0.01 文献: 1.. Akase A, Uchitani Y., Sohmura Y., Tatsuta T.,Sadamatsu K. and Adachi Y Application of real trime PCR for diagnosis of swine dysentery. J. Vet. Med. Sci., 71, 359-362, 2009. 2. Misawa A., Nakajima H., and Adachi Y., The drug-susceptibility of Japanese isolates of Brachyspira hyodysenteriae. Proceedings of 4th Congress of Asian Pig Veterinary Society P377, 2009 3. Mappley, L.J. Cooley W. A., Woodward M. J., La Ragione R. M. Investigating the use of pre-and probiotics as possible treatment strategies for avian intestinal spirochetosis. Proceeding of 5th international conference on colonic spirochaetal infections in animals and humans p61, 2009.
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