エコツアーとバードウォッチングツアーなどの歩み

野 鳥・Tokyo
エコツアーとバードウォッチングツアーなどの歩み
アルパインツアーサービス(株)顧問 冨山 稔
私の所属していた会社が、新規事業としてエコ
旅行者のモラルの向上も伴っ
ツアーを企画実施することに対し、バックアップ
て、自然環境豊かな場所を旅
することになったのは平成元(1989)年のことで
する一般の人々に、鳥や花に
した。その頃は、日本野鳥の会は本部と支部が日
たいして、一層目を向けさせ
本国内に探鳥会を多数開催していました。また、
る効果はあったのではないか
本部は年に 1 回ほど海外にバードウォッチングツ
と思っています。
アーを実施していましたが、旅行会社が独自では
自然の中で、鳥や花を興味
企画していない頃でした。エコツアーといっても
の対象とする、少し突っ込んだバードウォッチン
まだほとんど世間では知られていなかった時代で
グツアーやフラワーウォッチングツアーは、いわ
す。
ゆるエコツアーの範疇に含まれはするものの、末
ちょうどその頃、米国などで広まってきていた
端の一部でしかないようです。バードウォッチン
エコツアーを参考に、日本の旅行業界にも持続可
グにしろ、フラワーウォッチングにしろ、この魅
能な旅行を広める運動が進行してきました。その
力にとらわれる人は多くはないようです。一定数
具体的な流れがエコツーリズム推進協議会の設立
の人は間違いなくこの魅力にはまり、体力の続く
でした。大量送客の団体旅行の対立するカテゴリ
限り参加されていますが、全体的には数を増す傾
ーとして、自然を対象とした、持続可能で小規模
向にありません。
な旅行のモデルを立ち上げようというものでし
ひところバードウォッチングが盛んになって、
た。私たちもこの協議会に創立会員として加わり
バードウォッチング人口も漸増するように思えた
ました。まさしくバードウォッチングツアーやフ
時期もありますが、冷静に見ると現在その人口は
ラワーウォッチングツアーはエコツアーの核にな
減っています。海外のバードウォッチングツアー
るべきと考えたからです。
やフラワーウォッチングツアーにしてもその人口
エコツーリズム推進協議会はその後エコツーリ
が増えた様子はありません。少なくとも、人々が
ズム協会となって、様々な試行錯誤ののち、日本
自然を大事にしようという気持ちを持ち、自然を
各地で次第に具体的な形をとりつつあった町おこ
いつくしみ、自然の美しさ、貴重さを理解してく
し、村おこしの運動と重なり合うように、具体的
れれば、エコツアー振興の意味はあったのではな
な自然体験的な旅の形を作ってゆきました。この
いか、と思えるようになりました。
一連の流れの中で、バードウォッチングやフラワ
バードウォッチングツアーやフラワーウォッチ
ーウォッチングは、その運動に各地の特色ある生
ングツアーは、エコツアーの中心的な旅でなくて
物の知識を付加する役割を果たしたようです。し
も、本当に好きな少人数の人たちと自然の中で過
かしながら、エコツアーの主役になることはでき
ごす旅が貴重なのだと思ってきています。
なかったのです。ただ自然を大事にしようとする
ユリカモメ No.705 2014.7
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