産業用ポンプの最適化設計

産業用ポンプの最適化設計
Alain Demeulenaere (NUMECA USA)
Alban Ligout (NUMECA International)
Ronal Dijkers (FLOWSERVE)
○竹腰善久(NUMECA ジャパン)
Aji Purwanto(NUMECA International)
Charles Hirsch(NUMECA International)
Frank Visser(FLOWSERVE)
This paper presents an integrated environment FINETM/Design3D developed for the optimization of turbomachinery blade shapes. The
methodology relies on the interaction between a genetic algorithm, an artificial neural network, a database and user generated objective
functions and constraints. The optimization is coupled to the FINETM/Turbo environment of NUMECA.
The present paper focuses on the application of the multipoint optimization algorithm to the design of an industrial pump. The large range
of mass flow over which the pump should operate motivates the use of multipoint optimization. The optimization exercise focuses on the
efficiency, the head and the NPSH at two operating conditions characterized by largely different mass flows.
形状パラメータと解析結果を格納したデータベースを使用
した。
本論文では、産業用ポンプにおいて複数の作動点での
ターボ機械の最適化設計は、各種規制の影響などにより、
さまざまな目的関数や制約条件からなる複雑な問題である。 最適化設計事例を紹介する。最適化手法や逆解法を用い
た最適化設計の多くは、単一作動点でのものが多数で、
翼幾何形状を作成するツール(CAD)、流路内の流れ場を
設計点から大きく外れた点では逆に効率が悪化する懸念
解析するツール(CFD コード)、翼に働く応力や変形量を解
もある。本論文では、ターボ機械3次元最適化設計ツール
析するツール(構造解析コード)など設計者が直面するこれ
FINETM/Design3D[5]を使用した。本ソフトウェアでは、複数
らの課題を手助けするためのツールが開発されてきてい
る。しかしながら、例えば CFD コードは精度、速度、操作
作動点での効率を最大化する設計や、あるいは設計点か
性などにおいて顕著な改善がみられたものの、CFD コー
ら大きく外れた点での効率を落とさずに、設計点での効率
ド自体が形状を作成することはできない。結果的に、ター
を最大化するなどといった柔軟な設計が可能である。特に
ボ機械の設計者は従来形状をもとに、トライアンドエラーに
産業用ポンプでは、流量の作動範囲が広範となるため、複
より形状を変形しながら最適な形状を模索する設計を余儀
数作動点での最適化設計の要求が大きくなる。本論文で
なくされる。現実的には、設計にかけられる時間に制限が
は、異なる流量での最適化設計を実施することにより、性
あり、その試行錯誤の回数にも制限がある。特に、最近で
能曲線全体の性能を向上させることができた。
は、設計期間、工数を同時に削減しつつ、効率を向上する
ターボ機械の設計が求められる。
2.最適化手法
ターボ機械の最適化設計では、多数の制約条件と多数
の形状パラメータがあり、一般的に多数の極値解のある目
2.1 設計の一般的な原則
的関数を最適化する必要がある。勾配法に基づく最適化
本論文における、最適化設計の基本的な手法は、類似
手法は、収束性が高く、少ない反復回数で最適解が得ら
形状の解析結果をもとに新しい形状を設計する手法であ
れることが知られているが、最適解が極値解になってしま
る。最適化設計の過程で作成した形状の流体解析結果を
う可能性があり、必ずしもグローバル最適化を達成できると
統括したデータベースを使用する。データベースには以
[1]
[2]
は限らない 。一方で、遺伝的アルゴリズム では、グロー
下の 3 種が含まれている。
 解析条件:流入角度、圧力比、レイノルズ数、比熱比
バル最適化を達成できるものの、イタレーション数が大きく
などの流体の物性値や境界条件
なってしまい、三次元ナビエストークス方程式による流体
 3次元幾何形状:形状を定義するパラメータ
解析(以下、流体解析)との組み合わせは計算時間が巨大
となり、現実的な期間での設計は困難である。本論文では、  解析結果:効率、翼負荷分布などの流体力学的性能
最適化設計は以下の過程を収束するまで反復する。ここ
遺伝的アルゴリズムと人工ニューラルネットワークを組み合
で、CPU コストの大部分を流体解析が占め、最適化過程は
わせることにより、流体解析の回数を劇的に減らした最適
全体の 5%以下となる。
化設計を実施した[3,4]。ここで、最適化の精度はニューラル
 データベースに格納されたすべての解析結果をもと
ネットワークへの入力に依存するため、実験計画法により
1.序章


にニューラルネットワークで近似曲線を作成する。
ニューラルネットワークで作成された近似曲線をもと
に遺伝的アルゴリズムで最適解を推定する。
遺伝的アルゴリズムで推定された 3 次元形状での流
体解析を実施する。推定された最適解と流体解析の
解がほぼ同一であれば、反復は終了する。一方で、
差異がある場合は、流体解析の結果を新たなデータ
ベースに追加し、反復を繰り返す。
2.2 パラメトリックブレードモデラー(AutoBladeTM)
ターボ機械の形状最適化の過程において形状をパラメ
ータ化することはとても重要な要因である。理想的には、
できるだけ少ない設計パラメータで、できるだけ広範な形
状変形ができる設計パラメータを構築することが望まれる。
本論文では、ターボ機械専用のパラメトリックブレードモ
デラーAutoBladeTM [6]を使用した。。ターボ機械の設計者
は、2 次元的な翼断面形状が 3 次元的に積み重なる形状
の設計に習熟しているが、AutoBladeTM はそのような 2 次
元翼断面の設計が可能である。例えば、各スパン位置に
おけるキャンバーラインと翼厚分布をパラメータとした翼断
面形状の設計などが可能となる。これにより、キャンバーラ
インのみ、もしくは翼厚分布のみが変形される設計が可能
となる。
2.3 近似関数モデル
本最適化手法では、流体解析の回数を少なくして最適化
解析ができるように、設計で使用したすべての形状の流体
解析結果に対して近似関数を作成する。これは、流体解
析に比べ近似関数を作成する時間が極端に小さいからで
ある。近似関数を作成する手段として、人工ニューラルネ
ットワーク(ANN) を使用した[7]。
人工ニューラルネットワークは複数の入力と出力の関係
を算出する非線形なモデルである。ニューラルネットワー
クは Fig.1 のように複数のレイヤーで構成されている。ここ
で、入力のレイヤは解析インプット(幾何形状パラメータや
境界条件)で、出力レイヤーは解析アウトプット(目的関数)
である。入力と出力の関係式は以下であらわされる。
 S ( n −1)

an (i ) = F  ∑Wij an −1 ( j ) + b(i ) = F [in (i )]
 j =1

Fig. 1 : Schematic view of ANN
2.4 最適化アルゴリズム
最適化解析の目的は、目的関数を最小化する最適解を
算出することである。最適化アルゴリズムに求められること
は以下の 3 つである。
 ロバストな最適化アルゴリズムであること。
 局所最適解が複数あることが考えられるので、グロー
バル最適化を探索することができる最適化アルゴリズ
ムであること。
 ニューラルネットワークを用いての近似関数の作成に
ほとんど時間がかからないため、最適化自体にかか
る時間も流体解析に比べると重要ではない。
勾配法に基づく最適化アルゴリズムは局所最適化に陥る
可能性があるため不適であり、グローバル最適化が可能
な遺伝的アルゴリズム(GA: Genetic Algorithm) を使用し
た。
2.5 目的関数
ターボ機械の最適化設計では、効率だけでなく複数の
目的関数や制約条件が要求される。設計においては効率、
NPSH などの性能だけでなく、形状の制約も考慮する必要
がある。したがって、最適化問題は、互いに非線形である
複数の制約条件や目的関数を最適とするような形状パラメ
ータを探索することが求められている。一般的には、この
ような問題では、ペナルティ関数を用いて、複数の目的関
数や制約条件を以下の式のように 1 つの目的関数に集約
する。
 V − Vreq 

F = ∑ w
 V

penalties 
ref

2
ここで、w はユーザーが定義する重み関数、V が実際の目
的関数や制約条件の値、Vreq が目標値、Vref が参照値
である。
3.最適化設計
3.1 主要目
最適化する原型となる産業用ポンプの主要目を Table 1
に、三次元形状を Fig.2 に示す。
現されていることが分かる。ここで、AutoBladeTM における
フィッティングという機能を使用した。フィッティング機能は
初期形状とパラメトリック形状の距離を最小化するように遺
伝的アルゴリズムを用いて最適化する。
Table 1 : Principal particulars
翼枚数[-]
7
動翼回転数[rpm]
1486
流量範囲[kg/s]
200-325
流体密度[kg/m3]
1000 (水)
最大効率点での揚程[m]
97
入口半径[m] ハブ/シュラウド 0 / 0.1425
後縁半径[m]
0.2425
チップクリアランス[m]
0.0
Fig.3 Stacking Model
Fig.2 : 3D view of the initial pump
3.2 パラメトリック形状
原型となる産業用ポンプに対して、ターボ機械専用モデ
ラーAutoBladeTM を用いてパラメトリック形状を作成した。
翼断面形状は、ハブ、ミッドスパン、シュラウド面における
キャンバー分布と翼厚分布から作成した。後縁半径はハ
ブからシュラウドまで同一であるが、スパン方向分布 は一
様ではない。そこで、Fig.3 のようにハブとシュラウドのそ
れぞれの接線角度について自由度を持ったスパン方向分
布を作成した。最適化における設計変数は以下の18個と
した。
 翼断面形状:12個(ハブ、ミッドスパン、シュラウド面の
各断面について4個)
 子午面長さ:3 個(ハブ、ミッドスパン、シュラウド面につ
いてそれぞれ1個)
 後縁半径:1 個
 スパン方向分布:2 個(ハブ、シュラウド面での角度)
Fig.4 より、初期形状に対してパラメトリック形状が良く再
(a)Hub
(b)Midspan
Table 2: Optimization objectives and results
初期形状
最適化形状
Q=222[kg/s] 94.4
95.4 (+1.0%)
効率[%]
Q=306[kg/s] 97.0
97.9 (+0.9%)
Q=222[kg/s] 80.7
87.5 (+8.5%)
揚程[m]
Q=306[kg/s] 67.0
77.0 (+15%)
Q=222[kg/s] 59.7
41.5 (-30%)
NPSH[m]
Q=306[kg/s] 51.3
39.4 (-23%)
(c)Shroud
Fig.4 : Initial and parametric blades
3.3 初期形状における流体解析
ターボ機械流体解析ソルバーFINETM/Turbo [8] を使用し
て流体解析を実施した。Fig.5, 6 に、初期形状における流
体解析結果のうちトルクと全揚程について試験結果と比較
したものである。”initial blade” と記述されたものが初期形
状、”initial blade (parametric)” と記述されたものが初期形
状に対してパラメトリック形状で定義したものである。トルク
については実験に対して、精度良く再現されていることが
分かる。一方で、揚程については試験結果に比べ過大評
価が見られる。ただし、試験では解析で考慮していないデ
ィフューザーとボリュートが含まれているので、それの損失
分だけ試験では揚程を低く見積もっていると考えられる。
3.4 最適化設計
異なる2つの流量 (222[kg/s] と 306[kg/s] )において以
下の3つの目的関数を設定し、合計の目的関数は 6 個とな
る。これら 6 個の目的関数に対し、重みづけをした線形和
により 1 つの目的関数に集約し、最適化設計を実施した。
 効率最大化
 揚程最大化
 NPSH 最小化
最適化設計を実施するにあたり、実験計画法を用いて1
8個の設計変数に対してランダムに80通りの形状を作成し、
流体解析を実施し、その結果をデータベースとして最適化
設計を実施した。最適化の履歴を Fig.7 に示す。約25回
のイタレーションで収束解が得られた。初期形状と最適化
形状について目的関数(効率、揚程、NPSH)の値 を Table
2 に示す。6 個すべての目的関数が改善されていることが
分かる。
揚程、効率、NPSH について初期形状と最適化形状で比
較したものを Fig.6, 8, 9 に示す。2つの流量について最適
化を実施したため、幅広い流量範囲で性能向上が確認で
きる。形状の比較を Fig. 10, 11 に示す。3断面ともにキャ
ンバ分布が大幅に変更されていることが分かる。また、シ
ュラウド部で子午面長さが増加されていることが分かる。最
適化形状の3次元形状を Fig.12 に示す。Fig.13, 14 に翼
面上 NPSH とハブとシュラウドにおける翼面上圧力分布を
示す。ハブ前縁付近での NPSH が改善されていることが分
かる。
Fig.5 : Torque performance line
Fig.6 : Head performance line
Fig.7 : Evaluation of objective function during optimization
(a)Hub
Fig.8 Efficiency performance line
(b) Midspan
Fig.9 : NPSH evolution with mass flow
(c)Shroud
Fig.10 : Initial and optimized geometries Blade-to-blade
views
Fig.14 : Static pressure distributions along hub and shroud
sections
4.結論
Fig.11 : Initial and optimized geometries –Meridional Plane
ターボ機械形状の設計に応用可能な効率的な最適化設
計について紹介した。最適化手法における特長として、人
工ニューラルネットワーク手法と遺伝的アルゴリズムを用い
ることにより、最適化における反復回数を劇的に低減した
点である。この手法は、他形状へも応用可能である。また、
複数の作動点での最適化を実施することにより、ポンプ設
計のような広範な作動条件で稼働する流体機械に、より有
効となる。
本論文では、事例として産業用ポンプについて紹介した。
効率、揚程、NPSH の改善を確認できた。異なる 2 つの流
量に置いて最適化を実施したため、幅広い流量範囲でこ
れら性能が改善されることを確認した。
参考文献
Fig.12 : 3D view of optimized geometry
Fig.13 : NPSH reduction – (left)initial and (right)optimized
[1] Vanderplaats,
G.N.
,“Numerical
optimization
techniques for engineering design”, McGraw-Hill
(1984).
[2] Goldberg, D.E., “Genetic Algorithm”. Addison Wesley
(1994).
[3] Demeulenaere, A., Hirsch, Ch., 2004, “Application of
Multipoint Optimization to the Design of
Turbomachinery
Blades”,
ASME
Paper
GT-2004-53110.
[4] Pierret, S., Demeulenaere, A., Gouverneur, B., Hirsch,
C., "Designing Turbomachinery Blades with the
Function Approximation Concept and the
Navier-Stokes
Equations”,
8th
AIAA/NASA/USAF/ISSMO Symposium on MDO,
Long Beach, CA (2000).
[5] FINETM/Design3D User manual
[6] AutoBladeTM User manual
[7] Krose, B, VanderSmagt, P., 1993, “An Introduction to
Neural Networks”, University of Amsterdam
[8] FINETM /Turbo User manual