酒井大輔

TOKAI UNIVERSITY
THE
INSTITUTE OF MEDICAL SCIENCES
「椎間板の恒常性維持機構の解明と椎間板疾患に対する新規治療法の開発」
持田譲治
Mochida joji
整形外科 教授
檜山明彦
Hiyama Akihiko
整形外科 講師
プロジェクトリーダー:酒井大輔
Sakai Daisuke
椎間板の微小環境(ニッチ):最外層以外は
無血管、低酸素状態、酸性、低栄養
外科学系 整形外科学 准教授
【背景及び目的】
椎間板線維輪再生の試み
線維輪構造の破綻と共に、中心部の髄核が消失、椎間板高さも減少し、
関節機能が損なわれ、脊椎の変性へ繋がる (a)。
線維輪の修復を生体材料や細胞で行うと、髄核は残存し、椎間板高の減
少は抑制された (b)。
テーマ2:線維輪細胞における表面マーカー CD146 の意義について
テーマ 1.ノイロトロピンの活性化髄核細胞に与える影響について
線維輪は椎間板の構造と耐荷重性の維持に不可欠であり、その破綻は椎間板変性に大きく関わっている。ヒト線維輪細胞が in vitro
ノイロトロピンはウサギの皮膚にワクシニアウイルス接種後、採取された抽出物である。本邦においては帯状疱疹後の神経痛や腰痛
で多分化能を示すとの報告もあり、椎間板細胞移植療法の細胞資源として、間葉系幹細胞、髄核細胞と並ぶ候補となる可能性も期待さ
などの神経障害性疼痛に対して使用される、下行性疼痛抑制系賦活型疼痛治療剤であり、痛みの神経の感受性を低下させることで、鎮
れる。我々は C57BL/6 マウス尾椎線維輪由来の細胞培養法を確立し、様々な臓器由来の間葉系幹細胞のマーカーのひとつである
痛効果を発揮するとされている。また、侵害刺激局所における起炎物質であるブラジキニンの遊離抑制作用も確認されており、非ステ
CD146 発現に着目し、本研究では分化との関連を検討した。
ロイド性抗炎症薬の一つに分類されている。一方、最近ではヒト椎間板組織において TNF-α、COX-2 の mRNA 発現抑制効果、椎間
その結果、mAF は 2%O2 で 20% に比べ、4 週間で 8.6 倍 (N=3,P<0.01) の増殖を示し、CD146 陽性率は同じく 2%O2 で 4.7 倍
板細胞の細胞外基質合成促進能も報告されており、今後、椎間板に由来する炎症の沈静化、椎間板変性過程の抑制効果などへの応用
(N=3,P<0.01) の高値を示した。CD146 の陽性率は TGFβ-1、R3-IGF1 を含有する培地で 3 日間単層培養後、28% から 60% と約 2
が期待される。今回、ノイロトロピンの活性化髄核細胞に与える影響について検討を行った。その結果、下記の事が示された。
倍 (N=2) 増大した。全 mAF は骨、軟骨、脂肪の三系統への多分化能を示したが、CD146(+)mAF、CD146(-)mAF は、いずれも骨、
・間葉系幹細胞(MSCs)との細胞間接着を有する共培養システムにおいて、ノイロトロピンの添加による影響を評価可能である事が判
軟骨の二方向のみで脂肪への分化能は欠如していた。軟骨方向への3 D 培養において、CD146(-)mAF では、軟骨様ペレットが形成さ
明した。
れたが、CD146(+)mAF では、
ペレット内部に、免疫染色にてタイプ I、
およびタイプ IIコラーゲン陽性を示す直線状の構造体が形成された。
・イヌおよびヒトの椎間板活性化髄核細胞に NTP 刺激を行う場合、10-3~10-4NU/ml が至適検討濃度と考えられる。
・変性程度や炎症下等で効果が異なると考えられるが、細胞を恒常性維持の方向へ促す作用があると考えられる。
・椎間板髄核幹細胞消耗期には幹細胞の誘導を促し、組織再生にも寄与する可能性が示唆された。
【結論】mAF は培養系で間葉系三系統の多分化能を示したが、CD146 表面マーカーは、低酸素、TGFβ-1、R3-IGF1 刺激に応じて増大し、
線維輪様形態構築に関わる分化の指標であると考えられた。
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再生医学部門
Regenerative Medicine
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