アワビ資源回復のための稚貝成育適地調査事業 阿部文彦・松田浩一 目的 CPUE(㎏/日/人) アワビ類は殻長制限や禁漁期間,禁漁区設定などの資 源管理が行われているが,その漁獲量は大きく減少して いるため,アワビを漁獲する海女漁業の収益性は厳しく, アワビ資源の回復が課題となっている。本事業では,モ デル地区におけるアワビ類の資源動向について調査する 2.5 2 1.5 1 0.5 0 y = -0.0049x + 2.3534 r = 0.921 0 とともに,アワビ資源回復を図るうえで重要な稚貝期の 成育適地の条件解明を目的とし,稚貝の着底やその後の 100 200 累積漁獲量(㎏) 【初期資源】 480.3㎏ 【漁獲量】 254㎏ 【漁獲率】 52.9% 300 図 2.DeLury 法による資源解析(H26 年鎧崎漁場の例) 生残に及ぼす環境要因についての調査を行った。 4000 3500 1. アワビ資源の動向とその漁獲状況 資源量(kg) 3000 方法 鳥羽市国崎(地先を 7 つの漁場に分割している地区) をモデル地区とし,平成 20~26 年のアワビ資源の動向と 2500 2000 1500 0 場のアワビ初期資源量と漁獲率を計算した。また,三重 初期 残存 初期 残存 初期 残存 初期 残存 初期 残存 初期 残存 初期 残存 初期 残存 500 操業ごとの CPUE を算出し,DeLury 法を用いて各年各漁 県(1995)が解析した昭和 62 年~平成 6 年の同漁場での S62 S63 H1 H2 H3 H4 H5 H6 ~ H20H21H22H23H24H25H26 値と比較することでアワビ資源の現状を評価した。 初期 残存 初期 残存 初期 残存 初期 残存 初期 残存 初期 残存 初期 残存 1000 漁獲圧の状況を解析した。方法は,漁協水揚げ台帳から 図 3.鎧崎漁場における各年の初期資源と漁期後の残存 資源量 結果および考察 CPUE の年別平均値は平成 20 年から 23 年にかけ低下 2. アワビ稚貝の成育適地の検討 傾向がみられたが,平成 25~26 年にかけては若干の上昇 1)初期稚貝(着底~殻長 5mm)の生残条件の把握 が認めらた(図 1)。DeLury 法による資源解析として, 方法 ここでは国崎地先の鎧崎漁場をとりあげた(図 2)。漁 アワビ浮遊幼生(殻長 0.3mm)が着底し初期稚貝とな 場における初期資源量と漁獲率をみると,昭和 62 年~平 り成育する過程での生残に適した条件を把握するために, 成 6 年で平均 2.7t,平均 41%であったのに対し(三重県 30cm 程度の転石を数段に積んだ投石漁場で幼生放流を 1995),平成 20 年~26 年現在では平均 0.8t,平均 55 行う試験を実施した。放流場所として,石少区(投石を積 %となっており,資源量の低下および漁獲圧も向上して まない程度まで減らすことで潮通しの改善を図る区),反 いることが推察され,資源管理の一層の重要性が考えら 転区(転石の数は減らさず反転させ表面の浮泥を払う区), れた(図 2,3)。 天然漁場(対照区)の 3 区を設定した。11 月 10 日に 3 区に 対してアワビ幼生放流(各区約 10 万個体/m2)を行った。 3 CPUE(㎏/日/人) 放流後,各区の初期稚貝の生残状況を追跡した。 荒見下 長間 鎧崎 みじもの 前あらみ 2 1 結果および考察 放流 2 日後の調査では,石少区で約 20000 個体/m2 の 高密度で初期稚貝がみられ,反転区で最も密度が低かっ た(約 1000 個体/m2)(図 4)。各実験区における転石 表面の無節サンゴモの被度の観察を行ったところ,石少 H26 H25 H24 H23 H22 H21 H20 0 区や天然漁場では被度 75%以上のものが多く、反転区で 図 1.国崎地先の主要 5 漁場における CPUE の年変動 は 50%以下のものが多かったことから,着底の多寡は転 石表面を覆うサンゴモの被度との関連があると考えられ 3-7 た。着底後は,いずれの実験区においても急激な密度の るために,6 月に H,I,M の 3 地点で調査を行った。稚 低下がみられ,放流 21 日後には 3 区のうち石少区でしか 貝の生残にかかわる成育環境の条件として,3 地点の流 初期稚貝はみられなくなった(38.1 個体/m2,生残率 0.2 速および浮泥の堆積量を調査した。 個体密度(個体/m2) %)。 25000 反転区 15000 天然漁場 志摩市 A 南伊勢町 B 宿 C 田曽 D EF 石少区 20000 G 10000 1000m 浜島 N H J LM I K 5000 図 6.アワビ稚貝(当歳貝)の分布調査地点 0 2 9 16 21 放流からの経過日数 結果および考察 図 4.放流後の各区における初期稚貝密度の推移 H26 年 4 月のアワビ稚貝の分布量は,H25 年より多か 上記の漁場における初期稚貝の減耗が大きかった要 ったのが 5 地点,減ったのが 3 地点と,若干増加傾向が 因として,過密による餌料不足や害敵の影響が考えられ 認められた(図 7)。地点間の分布傾向は概ね H25 年と た。そこで,サンゴモ転石を配置した水槽(容量約 70ℓ) 同様で,E,F では H26 年も稚貝が少ない傾向であった。 4 水槽を準備し,浮遊幼生の放流密度や害敵の有無を違 4 月に一定の密度で稚貝がみられた地点 H,I,M の 6 えた着底試験を行った(11 月 17 日)。試験では,高密 月における稚貝発見数を図 8 に示した。稚貝の生残が最 度として 3 万個体(12.5 万個体/m2),中密度として も良好であったのは I で 73%の歩留まりであり,H は 28 1 万個体(4.1 万個体/m2),低密度として 3000 個体(1.2 %,M では最も低い値の 12%の歩留まりとなった。3 地 万個体/m2)の放流試験とした。また,低密度では水槽内 点における環境条件として調査した流速と浮泥の堆積量 に捕食者の一種と考えられるバフンウニ(50 個体)を加 をみると,生残の悪かった地点 M では,流速が 11.9cm/ えた区を設定した。 s,浮泥堆積量が 143×10-6g/cm2 であり,他の 2 地点より 高密度区で最もよく,放流から 22 日後でも約 10000 個体 ×10-6g/cm2,I:47×10-6g/cm2)も堆積しやすい環境であ /m2(生残率 20%)が維持されていた(図 5)。このこと ることがわかった。H と I では,流速や浮泥堆積量に大 から,アワビ初期稚貝の生残に個体密度(過密)の影響 差はなかったが,生残状況に違いがみられたことから, は小さいものと考えられた。しかし,ウニの分布する水 これらの環境条件以外の要因が生残に影響を与えたもの 槽では生残率の低下が最も大きかった。このことから漁 と考えられた。以上から,春から夏にかけてのアワビ稚 場での急激な減耗は,害敵等の生物との種間関係が要因 貝の生残りは,潮通しが一定程度あり,浮泥の量が少な の一つとして考えられた。 い場所が成育に適する一つの条件と考えられた。 60000 高密度 50000 中密度 40000 低密度 30000 低密度+ウニ 発見個体数 / 20分 流速(H:20.7cm/s,I:18.3cm/s)が遅く,浮泥(H:67 個体密度(個体/m2) その結果,着底密度およびその後の生残についても, 20000 10000 0 1 7 15 22 放流からの経過日数 37 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 B C E F H 調査地点 図 5.密度と害敵の有無を違えた水槽実験における初期 H26 K M 図 7.各調査地点での稚貝の発見数 発見個体数 / 20分 稚貝密度の推移 I H25 2)アワビ稚貝(殻長 5mm~3cm)の成育環境の把握 方法 南伊勢町宿・田曽,志摩市浜島地先の 8 地点で 4 月に 当歳稚貝の分布調査を行い昨年度の結果と比較した(図 20 15 10 4月 6月 5 0 H 6)。アワビ稚貝の分布状況は,20 分あたりの発見個体 数で表した。また,4 月にみられた稚貝の生残を把握す I 地点 M 図 8.3 地点における 4~6 月にかけての稚貝発見数 3-8
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