「凝集剤添加設備によるりん除去効果等に関する調査研究」 調査研究報告書(平成26年度) 公益財団法人山梨県下水道公社 桂川清流センター 1 目的 「第2期かながわ水源環境保全・再生実行5か年計画の施策の一 つである「相模川水系上流域対策の推進」の具体的対策として、山 梨県は神奈川県との共同事業として桂川清流センターのりん除去を 目的とした凝集剤添加設備を設置し、平成26年度供用開始している。 当該設備は、PAC(ポリ塩化アルミニウム)及びアルカリ剤(25% 苛性ソーダ溶液)の注入設備を主として構成されており、化学的な 凝集機能を加えて放流水の T-P(全りん)濃度を0.6mg/L 以下とする ことを目指して計画されていることから、平成26年度は効果的・効 率的な運用方法を模索することとなる。 よって、目標水質遵守や電力・薬品コストの適正化をはかるよう な運転方法を確立するための調査研究を行うこととする。 写真-1 凝集剤添加設備 (手前 PAC,奥アルカリ剤) 2 桂川清流センターについて 桂川清流センター、全体計画処理水量53,445m3/日、認可計画処理水量23,049m3/日、現有処理 能力15,000m3 /日の標準活性汚泥法による流域関連公共下水道終末処理場である。平成25年度では 供用開始区域内の面積は757.60ha、人口は27,917人となっており、流入下水量は処理区域の拡大、水 洗化の進捗に伴い増加傾向を示し、年度平均で5,991m3/日である。 主ポンプが無く汚水が強制流入する設備構造を持つが、水処理能力に対し流入下水量が少ないこと から、3時間帯(6:00~13:00,15:00~20:00,22:00~3:00)に区分し曝気装置等の間欠運転を行っている。 一般的な凝集剤添加型活性汚泥法と異なる状況があることから、当該設備に対し調査年度以前の実 施設計段階より、次に示す設備構造とするよう検討を行ってきた。 1)アルカリ剤添加設備を併設し、PAC によるアルカリ度低下を相殺し、必要濃度を確保 2)反応タンクの間欠運転に対応するため、PAC 添加箇所として反応タンク第4槽(最終槽)上流 部を追加 1.00 外部委託PO4-P mg/L 3 運転条件及びりん濃度測定結果 稼働開始当初の運転条件は、実施設計時の運転条件として PAC 溶液 (Al2O310%相当)を66mg/L(対初沈流出水 PO4-P(りん酸態りん)モル比 2.0)、アルカリ剤(25%苛性ソーダ溶液)は22mg/L(PAC 添加率に対す るアルカリ度消費量の回復相当量)とした。その後の各薬品添加率は、 公定法による水質試験結果及び簡易測定器による測定結果を参考に添 加率の変更を適時行った。 参考に同一試料を対象とした外部機関への業務委託による測定結果 と簡易測定器による測定結果の関係を図-1に示す。 平成26年度の簡易測定器による PO4-P 測定結果と PAC 薬注率の状況 を図-2に示す。 y = 1.0156x + 0.0243 R² = 0.9615 0.75 0.50 0.25 0.00 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 簡易測定器 PO4-P mg/L 図-1 相関図(n=24) 70 初沈流出水 第3反応槽 2.50 放流水 PAC添加率 2.00 アルカリ剤添加率 60 50 40 1.50 30 1.00 20 0.50 10 <0.03 添加率 mg/L PO4-P mg/L 3.00 0 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1 10/1 11/1 12/1 1/1 2/1 3/1 図-2 PO4-P と薬品添加率(H26年度) 簡易測定器の調査地点は、初沈流出水、反応タンク第3槽上澄水(PAC 添加直前地点として)及 び放流水としている。 放流水 PO4-P は、調査前年度(H25年度)の精密試験結果にて0.59~2.43(平均1.35)mg/L であったと ころ、当該設備稼働後徐々に低下を始め1週間程度経過後に定量下限値未満(<0.03mg/L)に達した。 反応タンク第3槽上澄水の PO4-P についても PAC の過剰添加に起因するとみられる低下が確認され たことから、添加率の段階的な設定変更を経て、PAC 添加率35mg/L として濃度が安定した9月下旬 以降、ほぼ目標値を満足する結果を得たが、緩やかなピーク形成が複数回確認される状況にあった。 -1 - 4 水処理への影響について 凝集剤添加設備稼働後の水処理施設に関連した主な影響について次に示す。 1)初沈流出水に関する項目 ・PO4-P が低下傾向を示した。(H25年度平均1.72mg/L、H26年度平均1.57mg/L) 2)活性汚泥に関する項目 ・検鏡による生物数・種類数、pH、SVI、MLSS に関し、調査前年度と比較して当該設備稼働に由 来する変動は確認されなかった。 ・MLVSS/MLSS は大幅に低下傾向を示した。 (H25年度平均85.6%、H26年度平均78.6%) 3)放流水に関する項目 ・T-P、PO4-P ともに大幅な低減傾向を示した。 (H25度平均 T-P1.45mg/L,PO4-P1.35mg/L、H26度平均 T-P0.38mg/L,PO4-P0.28mg/L) ・COD が高添加率時期を中心に低下傾向を示した。 (H25年度平均7.3mg/L、H26.4~5平均6.0mg/L) ・その他試験項目(水温,pH,SS,BOD,大腸菌群数等)において当該設備稼働に由来する変動は確 認されなかった。 ろ液量mL ろ液量 mL 5 汚泥処理への影響について 5/30 8/26 150 150 1)汚泥濃縮設備(余剰汚泥系統) 120 120 PAC 添加率55∼66mg/L 運転の影響 薬注率% 薬注率% 90 90 がある期間にて、No.2濃縮機(ベルト 0.24 0.22 0.29 0.27 60 60 濃縮機) にて、余剰汚泥の性状変化に 0.34 0.31 30 起因するとみられる濃縮性悪化が確 30 認されたが、添加率低減により改善 0 0 0 20 40 60 80 100 120 0 20 40 60 80 100 120 された。 ろ過時間 sec ろ過時間 sec 悪化前後の机上による凝集試験(ヌ 図-3 凝集試験結果の比較(左:5/30悪化時,右8/26回復後) ッチェテスト)結果を図-3に示す。 2)汚泥脱水設備 PAC 添加率55∼66mg/L 運転の影響がある期間にて、No.2脱水機(二重円筒加圧脱水機)にて、 余剰汚泥の性状変化及び発生量増加に伴う回収率の悪化が確認されたが、添加率低減により改善 された。 PAC 添加効果の検証 表-1 試験結果 凝集剤添加設備稼働前後年度の結果比較により PAC mg/L 添加効果について考察する。 T-P PO4-P 初沈 初沈 1)水質及び汚泥試験結果 流入水 放流水 流入水 放流水 流出水 流出水 水質精密試験結果及び汚泥含有試験結果について H25度 4.10 2.72 1.45 1.75 1.72 1.35 表-1に示す。 H26度 4.38 2.75 0.38 1.58 1.57 0.28 水質精密試験結果では、前述のとおり PAC 添加 mg/kgDS 効果として主に放流水にてりんの低減が示された。 りん含有量 重力濃縮 機械濃縮 脱水機 脱水 汚泥含有試験においては、各年度4回測定平均値 汚泥 汚泥 供給汚泥 汚泥 として全般的に増加傾向を示し、特に脱水汚泥のり H25度 9,820 34,400 15,200 11,500 ん含有量が約5割程度増加を示した。 H26度 10,300 37,200 18,000 16,800 この点からも PAC 添加によ りん負荷量収支図 り H25年度には放流水より排 反応 終沈 放流水 9.9kgT-P/d 初沈流出水 19.9kgT-P/d 21.9kgT-P/d 水処理流入水 29.1kgT-P/d 出されていたりん負荷が、H26 9.2kgO-P/d 6130m3/d 11.9kgO-P/d タンク 6327m3/d 9.3kgO-P/d 6443m3/d 14.2kgO-P/d 年度 では 汚泥処 理系 統に 移動 7.2kgT-P/d 生汚泥 余剰汚泥 5.0kgO-P/d 313m3/d 44m3/d することを示したことになる。 6 重力濃縮槽越流水 2)りん収支図による年度比較 11月に実施し た各りん測定 結果 及び 実績処 理量 より 算定 した、H25年度及び H26年度の りん収支図を図-4に示す。(図 中 O-P は、PO4-P と同義) 放 流水 の負 荷量の減量 、汚 泥処 理系 統への 増量 が年 度比 較として示された。 一 方、 汚泥 処理返流水 系統 の り ん 移 動 量 を み る と 、 PAC 添加 によ り低濃 度に 抑え られ てい る箇 所が多 いが 、発 生汚 泥量が増量していることから、 負荷 量と して低 減効 果は 本計 算上示されなかった。 3.6kgT-P/d 292m3/d 1.8kgO-P/d 39m3/d 機械濃縮分離液 0.4kgT-P/d 重力濃縮槽 21m3/d 7.7kgT-P/d 0.1kgO-P/d 機械濃縮機 5m3/d 8.2kgT-P/d 0.0kgO-P/d 0.2kgO-P/d 23m3/d 汚泥脱水機分離液 3.2kgT-P/d 3.0kgO-P/d 濃縮受槽 27m3/d 17.8kgT-P/d 13.6kgT-P/d 3.2kgO-P/d 汚泥脱水機 3.3m3/d 0.3kgO-P/d りん負荷量収支図 24.2kgT-P/d 6.8kgO-P/d 水処理流入水 6553m3/d 31.7kgT-P/d 11.0kgO-P/d 7.5kgT-P/d 4.2kgO-P/d 生汚泥 312m3/d 重力濃縮槽越流水 3.8kgT-P/d 終沈 放流水 0.9kgT-P/d 6551m3/d 0.4kgO-P/d 余剰汚泥 37m3/d 280m3/d 2.1kgO-P/d 機械濃縮分離液 0.2kgT-P/d 反応 タンク 初沈流出水 17.3kgT-P/d 6241m3/d 10.2kgO-P/d 28m3/d 重力濃縮槽 32m3/d 機械濃縮機 9m3/d 11.5kgT-P/d 13.2kgT-P/d 0.2kgO-P/d 0.0kgO-P/d 0.0kgO-P/d 36m3/d 汚泥脱水機分離液 3.5kgT-P/d 2.1kgO-P/d 濃縮受槽 40m3/d 23.1kgT-P/d 21.2kgT-P/d 2.3kgO-P/d 汚泥脱水機 3.9m3/d 0.2kgO-P/d 図-4 りん収支図(上:H25度、下:H26度) -2 - 7 まとめ 調査結果について次のとおりまとめる。 ・PAC 添加率35mg/L(アルカリ剤11mg/L)にて、放流水 T-P 目標値0.6mg/L を満足する結果を得た。 ・放流水試験結果により、りん濃度以外の顕著な変化は確認されなかった。 ・活性汚泥の生物相に顕著な変化は確認されなかった。 ・PAC 添加率55~66mg/L による運転の影響がある期間において、余剰汚泥の性状変化に起因する と見られる濃縮性悪化並び汚泥脱水機の回収率悪化が確認された。 ・PAC 添加効果は、脱水汚泥中のりん含有量増加によっても確認された。 ・凝集剤添加設備の安定稼働後、水処理及び汚泥処理施設は稼働前の運転方法を維持した。 ・適正な薬品添加率の設定を行ったこと、当センターの運転状況を反映した設備構造の活用により、 薬品及び電力コストの適正化を行った。 8 今後の課題 本調査結果並びに凝集剤添加設備の運転結果等より、次の点を今後の課題として挙げる。 ① PAC 添加効果算定方法の検討 PAC 添加直前のりん濃度と放流水りん濃度の差に対する添加量の比率により、事業成果イメー ジを示すこととされているが、PAC 添加効果が返送汚泥と初沈流出水との混合時にも発生してい ることが想定されるため、直接的な添加効果を求める場合は方法の再検討を要するものと考える。 ②放流水りん濃度のピーク形成要因の特定 PAC 添加率35mg/L として放流水りん濃度が低い値にて安定した以降、添加率一定にもかかわら ず当該濃度の上昇及び下降する状況が確認された。 このことから、PAC 添加率に依存しない濃度のピーク形成要因があることが推察され、目標達 成のために対処することが望ましいことから、その要因の特定が必要となるものと考える。 ③水処理施設での間欠運転時の添加見直し 反応タンクの曝気休止時においても添加を現在行っている。 放流水りん濃度には影響は見られないが、制御方法の見直しの必要が生じるものの、間欠運転時 の注入量を見直すことで、添加率及び効果に改善が図れる可能性がある。 -3 -
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