2 日連続の栄誉! 大村智氏がノーベル生理学・医学賞、梶 田隆章氏が

2 日連続の栄誉! 大村智氏がノーベル生理学・医学賞、梶
田隆章氏が物理学賞を受賞
2015 年 10 月 7 日
今年も日本人研究者によるノーベル賞ラッシュだ! 2015 年 10 月 5 日に発表されたノーベル生理学・医学賞で
は北里大学・特別栄誉教授の大村智氏が、続く 6 日に発表されたノーベル物理学賞では東京大学の梶田隆章氏が
それぞれ受賞した。
これにより、日本のノーベル賞受賞者は合計「24 人」となり(日本国籍所有時の研究成果で受賞した人も含む、
自然科学分野では 21 人)、また、赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏の 3 氏が物理学賞を受賞した 2014 年に続き、
2 年連続のノーベル賞受賞となった。
数億人を感染症から救った大村智氏が生理学・医学賞を受賞
スウェーデンのカロリンスカ研究所は現地時間 2015 年 10 月 5 日、ノーベル生理学・医学賞の受賞者として、
北里大学・特別栄誉教授の大村智氏(80 歳)ら 3 人を選出したと発表した(カロリンスカ研究所による発表文
PDF と北里大学によるプレスリリース)。
大村氏と、アイルランド出身で米ドリュー大学名誉研究フェローのウィリアム・キャンベル氏(85 歳)の二人
が「寄生虫による感染病に対する新しい治療法の発見」、中国中医科学院・主任教授のトゥ ヨウヨウ氏(85 歳)
が「マラリアに対する新しい治療法の発見」という受賞理由でそれぞれ選ばれた(大村氏と Campbell 氏は共同
受賞)。
⇒ 2015 年ノーベル生理学・医学賞に北里大・大村智氏
日本人のノーベル生理学・医学賞の受賞者は、免疫グロブリン(抗体分子)の多様性をもたらす遺伝的機構を
解明した利根川進氏(1987 年受賞)、生物内の多様な細胞に分化できる能力を備えた iPS 細胞を作製した山中伸
弥氏(2012 年受賞)に続いて大村氏で 3 人目である。
⇒ 山中伸弥京大教授にノーベル医学賞、再生医療などに期待される iPS 細胞で
ちなみに、今回の受賞者の一人である中国のトゥ氏は、自然科学分野では中国初のノーベル賞受賞者である。
⇒ 青色 LED 研究を語る赤崎、天野、中村 3 氏のノーベル物理学賞受賞記念講演
静岡県の土壌から特効薬につながる物質を発見
大村氏は 1935 年山梨県生まれ。1954 年に山梨県立韮崎高等学校を卒業後、山梨大学に進学。1963 年に東京理
科大学大学院 理学研究科修士課程を修了し、1968 年に東京大学で薬学博士号を取得。1970 年には理学博士号も
取得した(東京理科大学)。その後、北里大学薬学部教授などを経て現職(同大学名誉教授への就任は 2007 年、
2013 年から特別栄誉教授)。専門は天然物有機化学。
受賞理由となった「寄生虫による感染病に対する新しい治療法の発見」のストーリーは、今から 36 年前、1979
年にまでさかのぼる。この年、大村氏は日本(静岡県)の土壌中で見つけた「放線菌」(細菌の一種)が作る抗
生物質「エバーメクチン(Avermectin)」が、動物の寄生虫(の神経系)に対してまひさせる効果を持つことを
発見。
このエバーメクチンを基にして、米製薬大手メルクが家畜の寄生虫駆逐剤「イベルメクチン」を開発したが、
これがアフリカや中南米地域における風土病「オンコセルカ症」(河川盲目症)やリンパ系フィラリア症など、
複数の熱帯病に対しても特効薬となることが分かり、同社がそれらの治療薬として製品化。その後の世界保健機
関(WHO)による無償配布などの活動を通じ、これまでに数億人以上(10 億人以上とも言われる)の人々を救っ
てきたという。
オンコセルカ症は、河川で繁殖するブユが人を刺すことで感染する病気で、回虫(回旋糸状虫)の幼虫(ミク
ロフィラリア)が目の組織に侵入することにより、失明や視覚障害を引き起こす。治療にはイベルメクチンが有
効であり、投与によりミクロフィラリア数を低下させ、体内にいる成虫によるミクロフィラリア産出が数カ月に
わたり減少するという。年 1 回または年 2 回のイベルメクチン投与により、オンコセルカ症を効果的にコントロ
ールすることが可能になる。
⇒ 大村智氏開発の治療薬で克服できた「オンコセルカ症」とは?
上記記事では、「WHO によると、2006 年に感染者の発生があったアフリカ 13 地域において、85%以上の住民
に対してイベルメクチン治療が行われた結果、2011 年末までに 13 地域のうち 10 地域で疾患の感染伝播を阻止す
ることができた」とイベルメクチン治療の成果を紹介している。このように、大村氏の大発見を起点とした特効
薬イベルメクチンの開発とその後の無償配布により、アフリカや中南米地域に住む多くの人たちを失明の危機か
ら救ってきたわけだ。
「めちゃくちゃ本を読んだ」ことが研究全体の流れ理解に役立った
5 日に開かれた記者会見で大村氏は、「日本はうまく微生物を使いこなしてきた歴史がある。食料や農業生産
で利用してきた伝統がある。そのほんの一片として私が存在している。今回の受賞にも、先輩が築いてくれた学
問的蓄積が寄与している。北里柴三郎の教えだが、科学者とのいうのはとにかく人のために働かなければならな
い。常に人の役に立つことを考えてきた」と語った。
⇒ 北里大の大村智氏にノーベル生理学・医学賞
また、「なぜいくつもの薬の実用化に成功できたのか」という記者の質問に対して(大村氏らの研究グループ
はこれまでに 500 以上の新規天然有機化合物を発見、有用な薬をいくつも実用化している)、「特に抗生物質の
研究は、完全なる共同研究の塊である。菌を見つけるだけでなく、生化学者などと共同してやっていかなければ
ならない。こういう人たちの力がうまく融合された結果だと思う」と述べるとともに、「私自身、いろんなこと
を知らなければならないと考え、めちゃくちゃ本を読んだ。これで研究全体の流れを理解できることができた。
今から振り返ると、これが良かったと思う」とコメントしたという。
「ニュートリノ振動」現象を発見した梶田隆章氏が物理学賞を受賞
スウェーデン王立科学アカデミーは現地時間 2015 年 10 月 6 日、2015 年のノーベル物理学賞を東京大学 宇宙
線研究所 所長の梶田隆章教授(56 歳)とカナダ クイーンズ大学のアーサー・マクドナルド名誉教授(72 歳)
の二人に与える(共同受賞)と発表した(発表文)。受賞理由は「ニュートリノに質量があることを示すニュー
トリノ振動の発見(for the discovery of neutrino oscillations, which shows that neutrinos have mass)」
梶田氏は素粒子である「ニュートリノ」について研究し、1998 年、3 種類あるニュートリノの一つ「ミューニ
ュートリノ」が長距離を移動すると約半分に減っていることを発見。生成されたニュートリノの種類が別のニュ
ートリノに変わる「ニュートリノ振動」という現象の存在を証明した。
ニュートリノ振動が存在することは、ニュートリノが非常に小さいものの質量を持つということの証拠になる。
素粒子物理学の標準理論では「ニュートリノには質量がない」と仮定されていたため、この実験結果は理論に対
して見直しを迫る大きなインパクトを与えた。実際に、この発見以降、ニュートリノの質量の研究とこれを取り
入れた素粒子理論の研究が進展したという(東京大学のプレスリリース)。
実験に使った観測装置は、岐阜県飛騨市の地中奥深くにある「スーパーカミオカンデ」。2002 年に、宇宙線に
含まれるニュートリノを使った天体物理学への貢献を認められて同じく物理学賞を受賞した小柴昌俊氏(東大特
別栄誉教授)が使った「カミオカンデ」の後継装置だ。梶田氏は、小柴昌俊氏の弟子である故・戸塚洋二氏と共
に建設に携わり、完成後にこのスーパーカミオカンデを使って上記ニュートリノ振動を発見した。
⇒ 日本人ノーベル賞受賞記念 特別インタビュー
12 月 10 日にストックホルムで開催される授賞式のスピーチにも注目
スーパーカミオカンデは、直径 40 メートル、深さ 41.4 メートルのタンクに 5 万トンもの超純粋を満たし、タ
ンク内側壁面に光電子増倍管を 1 万本以上もずらりと並べた装置。これを地中深くに設置することにより、ニュ
ートリノのようなほとんど物質と相互作用しない(地球ですらやすやすと突き抜ける)素粒子が、ごくまれにタ
ンク内の水分子と衝突した際に発生する特殊な光(チェレンコフ光)を効率(SN 比)高く検出できる。
⇒ カミオカンデが設計を鍛えた
梶田氏は 1959 年埼玉県生まれ。埼玉県立川越高校を卒業後、埼玉大学理学部物理学科に進学、東京大学大学
院で修士・博士課程を修了して理学博士となり、東京大学 理学部助手などを経て 1999 年に東京大学宇宙線研究
所教授に就任。2008 年から現職。
大村氏と梶田氏らノーベル賞受賞者はこの後、12 月 10 日にストックホルムで開催される授賞式に臨むことに
なる。さまざまな分野でグローバル化が急速に進む昨今、“受賞者の国籍”をことさら気にするのはもはや時代
遅れな感覚になりつつあるのかもしれない(実際に、研究時と受賞時で国籍が異なるケースは珍しくなくなって
いる)。
⇒ ノーベル賞、4 人に 1 人が「移民」
しかし、それでもやはり日本人として、日本の研究者が日本で発見したことを元に、世界に誇れる素晴らしい
成果を上げてノーベル賞を受賞したことはとても嬉しいことである。これから科学者・研究者を目指す日本の若
者や子供たちにとっても「目指すべき目標」がまた増えたことは大いに励みになるはずだ。授賞式の場で大村氏
と梶田氏がどんなスピーチをするのか、今から楽しみである。