液晶ディ スプレイ における液晶分子配向の基礎研究

液 晶 デ ィスプ レイにお ける液 晶分子配 向 の基礎 研究
岡野 光 治
東京大学 名 誉教授
信州大学教育学部 教 授
1 . は じめに
波晶ディスプレイ ( L C D ) は
(TFT)技
現在 O A 機 器などに広 く用いられているが、薄膜 トランジスタ
術と結合 して2 1 世紀の高度情報化社会を支えるキーデバイスとして現在活発な研究
開発 が 行われ て い る。
本研究 の 目的 は L C D の
基礎研究 の一 環 と して、液 品表示 セル基 板 面の 凹凸や配向束縛 ( ア ン
カ リング) 特 性 の 不連続変化 に ともな う液 晶分子配向場 のみだれを関数論 の手法 によ り解析す る
ことであ る。
2 . 配 向場 の等角写像
関数論 の適用を可能 にす るために本研究で は次の場合を取扱 う : 1 ) 液晶の配向場 は座 標 X , Y
のみの 関数 であ って 、 X Y 面 に垂 直 な方 向 に関 して は配向場 は一 様 であるとす る。2 ) フラ ンクの
弾性定数 K l , K 2 , K 3 は いずれ も等 しい値 ( それを K と す る) を 持 つ もの とす る ( 一定数近似) 。
液 晶分子 の配向方 向 を表わす単位 ベ ク トル を配 向ベ ク トル ( d i r e c t o r ) とい う。本報告で は配
向 ベ ク トル n は X Y 面 内の成分 のみを持 ち
五=(COSφ
,Sinφ
, 0)
(1)
のよ うに表わされ る場合について記述する。 しか し、以下の解析 は
五=(COSφ,0,Sinφ
)
の場合 について もその まま成 り立 つ 、 いずれ の場合 に もφ ( X , Y ) は
n が X 軸 となす角で あ る。
一 定数近似 の もとで は平衡状態 の配 向角 φは与え られた境界条件 の もとで ラプラスの方程式 :
をみたす調和関数であ る
い) 。そ こで、
99
搾十
幹=0
複素座標 Z = x + i y を
導入 し、 Z の 任意 の正則関数 O
を考え ると、関数論 の基本定理か ら①の実部、虚部 ともに( 3 ) を
満足す るが、以下 において は虚部
が境 界条件 をみたす よ うな正則関数を考え る。す ると、 O の 虚部が配向場を与え る。 しか し、 Z
平面上で虚部が境界条件をみたす正則関数を直接求 め ることは必ず しも容易で はない。 そ こで、
Z の 適 当 な正 則関数 :
- 8 -
W=f(Z),W=u tt iV
(4)
によ りw 平 面 に写像す る。 w 平 面 で虚 部 が境 界条件を みたす正則関数 〇 ( w ) が 見 つ か った とす
ると、独 立変数を Z へ もと し
区υ
円
﹁
脚
破卵 H
K
2
上
〓
F
申
舜
コL
前日
る
あ
で
角
向
の、
能﹂
′
状
衡 て
甲 榊 ∽
この とき、
︲く
ば ヤ十
悔 日
円
曝時 術
部 向
虚 配
とすれば、
陥
げ
的敵
、
L
そ
数
関報
中
Φ(f(Z))=?十 iφ
によ り計算 され る
3.ア ンカ リング特性 の不連続線 と配 向場
平坦 な基 板 面 を持 つ 厚 さ dの 液 晶 セル を 考え る。 上 ドの基 板 面 を それ ぞれ Z平 面上 の 直線
y=d、
お よび y=0(x軸
)に 対応 させ る。 この場合
,ど
π 一d
X
e
p
〓
W
によ る写 像 が 便利 で あ るc ( 7 ) 式は Z 平 面 卜
1 の波 晶領域 0 二 y t t d を
w 平 面 の 上半 分 ( v 二 0 ) に
写 像 す る。 その 際、 下 の 基板 に 対応 す る x 軸 は u 軸 の 右半分 ( u > 0 ) に
応 す る直線 y = d は
にお いて 、 l x l ( a で
、 また、 上の 基板 に対
上 下 の 基板 面
写像 され る。以 下、具体例 と して 「
u 軸 のた 半 分 ( u ( 0 ) に
φ = ― J の 場 合 を取扱 って み よ う。
2
φ二 0 、 l x l > a で
一
t
p
x
e
<
珊唯︲
u
瑚
で
l
a
u
l
d
軸
一
< れザ π
ど坤ギ北
w 平 面 にお け る境 界条件 は、 u 軸 上 の 条件 !
φ=0,
(8)
で φ
- 9
=0
とな る。虚部が この 条件をみたすw の 正則関数 は本易 にみ つ か り、( 7 ) 式
を用いて Z 平 面 に もどす
と
一号
Φ
崎
bg mnh発
i a)+春
(Z a)十
(Z tt
g mnh発
号
を うる。 これ によ り配向角は
一2
一
獅
1
〓
π 一2
〓
Φ
m
φ
・
1謡 1柳1謡│
とな る。 ただ し、 tan lは 0と πの 間 の 分枝を とる。計算 された配 向場を図 1に 示す。
z一 PLANE
図 1
1
図 か ら明 らか な よ うに、基板面 にお け るア ンカ リングの不連続線 は指 数 土
一 の 表面転 傾 ( s u r f a c e
2
d i s c l i n a t i o n ) にな って い る。 なお、 同 じ境 界条件 をみ たす 図 2 の よ うな配 向場 も存 在 す る。
︱
︱
︱
協粉榊冊︱
しか し、弾性 エ ネ ル ギ ーを計算す ると、 この場合 の エ ネル ギ ー は図 1 の 配向場合 のそれ よ り高 く
実際 に発現す る配向場 は図 1 の それである. こ の ことは、図 2 の 場、符号 の 等 しい表 面転傾 が隣
合 って い ることか らも物理的に明かであ る,
.Schwarz Christoffel変
換 の応 用
-2)を い
Z 平 面上 の 多角形領域を w 平 面上 の上半分 に写像す るS c h w a r z Christoffel変
換
用 ると
基板上 の 凹凸や角 の 存在 に ともな う配向場 のみだ れを解析す ることがで きる。その例を以下 に示
す.
( 4 1 ) 基 板 上 に厚 さが無視できる高 さ 2 の 突起がある場合 ( 図 3
a )
y
z一 plane
iフ
め丁
て_ _ 上 下 争
め =0
図3 a
l の によ り
図 3 a の 領域 をw 平 面 の上 半分 に写像す る正則関数 はS c h w a r z C h r i s t o f f e方法
z = Vセw 2 - l
QD
と求 まる。図 3 a に 示 された Z 平 面 上の境界条件 は、w 平 面 で は図 3 b に 示す よ うな u 軸 上 の 条
w一 plane
φ= 0
φ
=争
-1
0
=-2
φ
=0
1
図 3 b
件 に写像 され る。 これをみたす正則関数 は
=→
Φ
W→北即→bぷ
bぷ
W一
-
1 1
(19
とみ つ か り、写 像 関数 t 〕式 を用 い る と、
一2
CD
O
十
Z 一ゼ
l
Z 一″と
一
0わ
0
Φ( Z ) =
+11
とな る。 これ よ り配向角 は
φ= m Φ = t a l l 」 十 m 辞 逆 二十 辞
幸 告
:予 号
」
::ヒ
(lD
指 数 - 1 の 転傾 が 、 また点 ( 0 ,
とな る。 これ は、無 限 にひろが った液 品 中 の 原点 ( 0 , 0 ) に
1
ゼ) お よ び ( 0 , 一 〃) に それ ぞれ指 数 十一 の 転 傾 が 存 在す る場合 の 配 向場 と同 じで あ る こ とを
2
示 して い る。 計 算 され た配 向場 を図 4 に 示す。 なお、 物理 的 に 同 じ境 界条件 に対 して、 図 5 の よ
ー
うな配 向場 もまた可能 で あ る。 しか も、 この 場 合 の 歪 みの弾性 エ ネ ル ギ は図 4 の 場 合 と同 じで
あ る。
図 5
図 4
w一 plane
L _ φ = 0
争
= 0 φ
ハ
ゅ
ハ"
子
ψ= チ
「
ゆ= 0
―a
O
図6 b
図6 a
-12
a
=
0
、
( 4 2 ) セ ルの角 による配 向場 の みだれ
図 6 a の 半無限 の 長方形領域をw 平 面 の上半分 に写像す る関数 はS c h w a r z C h r i s t O f f e方法
lの
によ り
w=acoshttz
aは 正の実教
d
と求 ま る。 一 方 、 w 平 面上 の 境 界条 件 ( 図 6 b )
をみ た す正 則関数 は
=→
Φ
〕
噸W十
如 wo
とみ つ か り、写 像 関数t D 式を 用 いて Z 平 面 に もどす と
Φ
(Z)=崎
gttnhttz
(lD
とな る。配 向角 は
hO tallll捨
体
│
(181
とな る。 ここで もt a n l は0 と πの 間 の分枝を とる。計算 された配 向場 を図 7 に 示す。 この場合
に も、物理 的 に同等 な境界条件 に対 して異な る配 向場、図 8 、 図 9 が 存在す る③ しか し、図 8 、
図 9 の 配 向場 の 歪 の弾性 エ ネル ギ ー は無 限大 で、 これ らの配向場が実現す ることはない。
図 7
-13-
図 8
図9
5。 おわ りに
ここに定式化 した液品 の配向場 の解析 へ の 関数論 の応用は、正則関数 ①の虚部 φの みが (配向
角 とい う)物 理的な意味を持 ち、実部 ψは物理的な対応物を持 たない とい う点で、流体力学や電
によ って 、その領域 の境界が エ ネ ル
磁気学 へ の応用 ほど直接的 で はない。 しか し、実部 砂は(6)式
ギ ーの計算 に必 要 であ るとい う点で、間接的で はあ るが物理的 に重 要 な役割 をはた して い る。配
向場 を数値計算法 によ って 直接計算す ることも可能であ るが、本研究 の方法 は、それが適用可能
な場合 には物理的 な 見通 しを与え る点です ぐれて いると思 う。
最後 に、 多大 な ご支援 を い ただ い たu〕高柳 記念電子科学技術振興財団お よび財団 の 関係者 の皆
様 に厚 く御礼 申 し上げます。
参考文献
iquid Crystals, Oxford Univ. Press, 1974.
〔1〕 P.G.de CennesiThe Physics of I′
〔2〕 R.V.Churchill, J.W.Brown and R.F.VerheyiComplex Variables and Applications, 3rd
Hlll lnc., 1974.
Ed., McCraw―
i t !