アルツハイマー病の原因物質を 「掃除」するタンパク質の立体構造を解明

平成 27 年 1 月 28 日
本件については論文掲載先である英科学誌「Nature Structural & Molecular Biology」から以下のとおり報
道解禁設定があります。2 月 2 日付け(英国標準時間 16:00pm、日本時間 3 日 1:00am)
TV・web・ラジオ
2 月 3 日(火)午前 1 時 00 分(日本時間)
新聞
2 月 3 日(火)朝刊
キーワード:アルツハイマー病、タンパク質、X 線結晶構造解析、構造生物学
アルツハイマー病の原因物質を
「掃除」するタンパク質の立体構造を解明
1/30(金)午後 3 時~記者発表@蛋白質研究所(吹田キャンパス)
概要
本学蛋白質研究所高木淳一教授のグループは、アルツハイマー病の原因物質を「掃除」するタンパク質の立体
構造を解明しました。
アルツハイマー病などの神経変性疾患の多くは、脳内で生じる「アミロイド」と呼ばれる繊維状凝集体が神経
細胞を死滅させ、脳の機能にダメージを与えることでおこると考えられています。この凝集体の蓄積は長い年月
をかけて起こるため、いったん生じるとそれを除去することは難しく、最初からこの凝集体が蓄積しないように
する治療法が必要と考えられています。
高木淳一教授の研究グループは以前に、sorLA(ソーラ)という脳内の膜タンパク質が、できたばかりの Aβ
ペプチド(アミロイドを形成するものの一種)を捕まえて分解系に送ることによりその蓄積を防ぐことを報告し
ていましたが、今回あらたに、sorLA が Aβペプチドを「捕まえている」ところを原子レベルで立体構造解析す
ることに成功しました。この成果は、我々の体内にもともと存在するアルツハイマー病に対する防御因子の作用
メカニズムを明らかにしたものとして注目されます。本成果は英科学誌「Nature Structural & Molecular Biology」
に 2 月 2 日付け(英国標準時間 16:00pm、日本時間 3 日 1:00am)で掲載されます。
研究の背景と内容
我々の脳内では加齢にともなって様々な「神経毒性」をも
つ物質が蓄積し、その毒性によって死滅する神経細胞が多く
なると脳の機能が減退し、認知症などの症状がでることにな
“βシート拡張”
ります。アルツハイマー病ではとくに、アミロイドβ(Aβ)
と呼ばれるペプチドが長い年月をかけて凝集して脳内に特
徴的な「老人斑」と呼ばれる構造体をつくり、その毒性によ
図1 sorLA Vps10p ドメイン(虹色で示す)と
って神経細胞が死滅すると考えられています。Aβは正常なタ
Aβ(濃いピンク部分)の複合体構造
ンパク質が切断されて生じるいわば「ゴミ」のようなもので、
※
詳細は次ページを参照願います。
だれでも持っているものですが、なにかの理由でこの切断が多くなったり、切断された Aβが凝集しやすい性質
をもっているとアルツハイマー病を発症しやすいことが知られています。アルツハイマー病の予防や治療には、
この切断を制御したり、生じた Aβが凝集しないようにすることが有効だと考えられ、世界中でそのような方法
の開発にしのぎが削られていますが、いまだにそのような方法や薬は見つかっていません。
sorLA は神経ニューロンに多く存在する膜タンパク質で、アルツハイマー病の患者さんの脳において sorLA の
量が健常人より少ないなど、このタンパク質とアルツハイマー病発症のリスクに関連があることが数年前から示
唆されていました。蛋白質研究所の高木淳一教授らは昨年、この sorLA タンパク質が Aβを結合する性質がある
ことを見つけ、さらにマウスを使った研究から、sorLA が脳内で生じる Aβペプチドを分解系へ運ぶ「掃除屋」
のような役割を果たしていることを報告しました。そこで、なぜ Aβペプチドのような危険なペプチドだけを捕
まえることができるのかを明らかにするために、X 線結晶構造解析という方法を用いて、sorLA の細胞外領域の
原子分解能の構造を、Aβペプチドを捕まえた状態と捕まえる前の状態で決定することに成功しました。
今回あきらかになったのは sorLA の細胞外領域のなかでも Vps10p ドメインと呼ばれる部分の構造で、それは
図1左のように、10 枚の羽根をもつプロペラーのような形をしており、中央部には大きな穴(トンネル)が空
いていました。
そして Aβペプチドはこのトンネルの内側にへばりつくように結合していることがわかりました。
その結合は「βシート拡張」と呼ばれる、生体内でアミロイドを形成するペプチドに特有のやり方で達成されて
いました。
生体内で不溶性の沈着物を形成するのが
Aβなどの「アミロイドペプチド」と総称さ
れるペプチドの性質ですが、その実体は図2
のような「クロスβ構造」と呼ばれる長い不
溶性の線維が束になったものです。sorLA と
“βシート拡張“
Aβペプチドの結合部位で見られた「βシー
ト拡張」は、このクロスβ構造の先端部分と
良く似ている事がわかります。
図1
sorLA Vps10p ドメイン(虹色で示す)と Aβ(濃いピンク部分)の複合体構造
線維の伸びる向き
βクロス構造の先端部分
図2
アミロイド線維に特徴的な「クロスβ構造」
この立体構造から、sorLA がなぜアミロイド形成をしやすいペプチドを捕まえられるのかがわかりました。我々
の脳のなかでは Aβのような危険なペプチドが毎日少しずつ作られています。それらが「クロスβ構造」をつく
ってどこまでも伸びる(つまり脳内で毒性のあるアミロイドに変わる)のを、sorLA は狭いトンネルに閉じ込め
ることで未然に防いでいるのではないか、と考えられます。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
アルツハイマー病の予防と治療のためには脳内 Aβレベルを下げることが有効であると考えられますが、現時点
で有望な薬はまだ開発されていません。今回の結果は、sorLA が Aβペプチドを処理するメカニズムを明らかに
しました。さらにこの構造からは、sorLA が Aβ以外の「危険な」ペプチドも捕まえて分解経路にまで運んでい
く能力を持つことが示唆されました。脳内の sorLA の機能を賦活化することで、アルツハイマー病だけでなく、
様々な神経変性疾患の発症リスクを低減することができる可能性があり、今後の研究の進展が期待されます。
特記事項
情報解禁日:平成27年2月3日(火)午前1時(日本時間)
記者会見の実施:以下の日程で記者会見を開催します。
日時
平成27年1月30日(金)午後3時
場所
大阪大学蛋白質研究所
発表者
教授 高木淳一
1F 講堂
(記者発表場所)
蛋白質研究所
モノレール
阪大病院前駅
本件に関する問い合わせ先
大阪大学蛋白質研究所
電話/FAX
e-mail
教授
高木淳一
06-6879-8607/06-6879-8609
[email protected]