「義母のいきがい」めぐえもん(千葉県) 十 年 前 、私 は夫 の実家で 義母と 同 居して い た。理 容 室を 営んで い る。店を 開けて いると、いろいろな人が物を売りに訪ねてくる。 節電グッズ、掃除機、学習教材、置き薬、アパート経営などである。ぬいぐるみ を 売 り に 来 た 若 い 女 性 も い た 。 千 円で 買 っ た 。 も う も う と 叫 び な が ら 振 動 し て 笑 え た。子供達は大喜びであった。 義 母 は 物 干 しざ お や ド イ ツ 製 の 重 た い 掃 除 機 な ど 、 あ り と あ ら ゆ る 物を 訪 問 販 売 で購入していた。義母は若くして夫と死別。死後義弟を妊娠していることがわかっ た。三歳の夫を育て、出産、仕事に育児に追われて生きてきた。自分だけの買い物 で外出したこともなかった。だから訪問販売で見る商品がとてもきらびやかに思え るのかもしれない。 夫 は 市 価 よ り 高 い と 義母 に 文 句 を 言 っ て い た 。 しか し 、 私 は 義 母 が 働 い て 得 た お 金で買物しているのだし、好きにさせるべきと諭した。 人 間 、 特 に 女 性 は 買 い物 好 き で あ る 。 仕 事 一 筋 の 義 母 も 同 じ 普 通 の 女 性 で あ る と 人が運んできたものは魅力的に感じる。説明する人の雰囲気や わかり、ほっとした。 な ぜ だろ う か ? 明るい会話のせいかもしれない。義母は高級化粧品を購入していた。当時六七歳。 「しわや乾燥にいいんだって。久しぶりに鏡を見たらしわだらけでびっくりした わ。 」 クリームをせっせと塗り込んでいた。夫は今さら無駄とあきれていた。 義母は買い物以外 に販売員と の会話を 楽しんで いるようだ。仕事で はお客 様 に気 を遣い疲れる。販売員は逆にお世辞を言ったり、気持ちよくさせてくれる。それを 励みに老後、仕事に生きているのだ。 今、もうすぐ八〇歳。まだ現役理容師だ。こないだ補正下着を買ったことを喜ん でいた。義母が若いのも長話に付き合ってくれる販売員の方々のお蔭である。 やっと自分自身の人生を取り戻した義母。足腰が弱いけど、買い物したい高齢者 に は 良 い 販 売 方 法 だ と 思 う 。 外 出 が 大 が かり に な り 、 諦 め て い る 人 が 多 い 。 こ れ か らも誠実に販売を続けてほしい。 ネ ッ ト も 使 え ず 、 買 い 物 難 民 、 独 居 老 人 の 安 否 確 認 に訪 問 販 売 は 将 来 の 展 開 が 期 待できるだろう。 【平成二七年度・特別賞】
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