APS March Meeting 2015

The Murata Science Foundation
グラフェンpn接合量子ホール系における磁気抵抗振動
Oscillatory Magnetotransport Between Counter-Circulating Quantum-Hall Edge Channels
in Graphene p-n Junctions
H26会自50
派遣先 アメリカ物理学会(アメリカ合衆国・サンアントニオ)
期 間 平成27年3月1日~平成27年3月9日(9日間)
申請者 東京大学 工学系研究科 物理工学専攻
博士課程1年 森 川 生
ことで、グラフェンの移動度が飛躍的に向上
海外における研究活動状況
し、グラフェン特有の電子物性が次々と報告
研究目的
されている。一方、局所Gate構造により実現
グラフェンpn接合は、グラフェンのギャッ
されるグラフェンpn接合では、Klein Tunneling
プレスなバンド構造を反映して、空乏層の無
や電子波の負の屈折現象など特異な電子状態
い界面が実現できる極めて興味深い系である。
の存在が期待されるにも関わらず、Gate絶縁膜
しかし、従来実験的に作製されてきた接合は
が及ぼす移動度の低下により、未だ観測でき
ゲート絶縁膜の影響により移動度が低く、pn接
ていない物理や機能が多い。
合本来の物性理解には不十分であった。そこ
そこで筆者は、h - B N上グラフェンの上に、
で、本研究では、h-BNというグラフェンとの相
Top Gateの絶縁膜として更にh-BNを転写し、
互作用の小さい物質を用いることで高移動度
グラフェンpn接合を作製した。平均自由行程
試料を作製し、グラフェンpn接合本来の電子
だけでなくコヒーレンス長も巨視的な長さに達
物性に迫ることを研究目的とした。
し、二つの特徴的な量子干渉の観測に成功し
た。特に強磁場下において、pn界面で新規エッ
ジチャネル干渉系が実現していることを示した。
海外における研究活動報告
1.研究概要
グラフェンは炭素原子が蜂の巣型の格子を
2.今回の派遣における研究活動報告
組むことで形成される単一原子膜である。その
上記の研究結果を、2 015年3月2 - 6日に米
電子物性は、線形かつギャップレスという特異
国テキサス州サンアントニオで開催された
なバンド構造を反映して、相対論的な方程式
American Physical Society March Meeting 2015
に従うことが知られており、2004年にその実験
にて発表した(口頭10分+質疑2分)
。本会議は、
的な発見が報告されてから、基礎的にも応用
毎年3月にアメリカ物理学会主催で開催されて
的にも非常に注目されている物質である。
おり、最大50にも及ぶセッションが同時に進
長年の間、基板の影響による移動度の低下
行する世界最大級の物理に関する国際会議で
が課題であったが、近年になり、六方晶窒化
ある。特に物性物理に関する盛り上がりは群
硼素(h-BN)をグラフェンの基板として用いる
を抜いており、筆者の研究するグラフェンに関
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Annual Report No.29 2015
連する内容も、同時に3~4つのセッションが
3.結びにかえて
進行しながら、白熱した議論が繰り広げられた。
加えて、自分の研究とは直接関係がないが、
今回発表を行ったグラフェンpn接合の物性
会議の性質上学科の同期が非常に多く参加し
に関しても、世界中から多くの興味が集まっ
ており、大活躍をしている様子を見聞きし大変
ており、筆者の発表に対しても、発表直後か
刺激を受けた。会議の合間には食事をしなが
ら翌日に至るまで何人もの研究者に質問をもら
ら情報交換をし、楽しい時間を過ごすこともで
い、活発な議論を行うことができた。また、同
きた。旅のトラブル(往路復路ともに搭乗予定
様の系で他の興味深い研究成果が発表されて
の航空機がキャンセルになった。特に往路は、
おり、お互いの研究成果から、自分の研究と
代替案として、ダラスからサンアントニオまで
重複する内容を把握し、今後の示唆を与えて
レンタカーでテキサスの大地を4時間ドライブ
くれる内容を見つけることができた。特に、も
するという貴重な経験をした。
)も含めて、どう
ともとこの分野に影響力の強かった米国のグ
しても自分の研究のことばかり考えて視野が狭
ループ(MIT, Columbia, Harvard)のみならず、
くなりがちな日常に、リフレッシュの機会を与
韓国のグループもレベルの高い研究成果を発
え、明日からの研究へのモチベーションを改め
表していたのが印象的であった。同じ東アジア
て与えてくれるのも、国際会議ならでは良さな
の仲間として、そしてライバルとして、切磋琢
のではないかと個人的には思う。
磨しなければと刺激を受けた。
このような貴重な機会を得ることができたの
直接pn接合に関連しない内容でも、未だ学
も、ひとえに貴財団の手厚い御支援によるもの
術雑誌では発表されていない、レベルの高い研
である。この場を借りて心より深く感謝申し上
究成果の発表が多かった。グラフェンとh-BN
げたい。
の結晶方位を整合させることで見られる物性、
この派遣の研究成果等を発表した
光物性、超伝導物性との相関、二層グラフェ
ンの利用等々、自分の今後の博士研究に生か
せそうな素材を沢山得ることができ、大変充実
した一週間を過ごせた。
著書、論文、報告書の書名・講演題目
[講演題目]
Oscillatory magnetotransport between co-propagating
quantum Hall edge channels in graphene p-n junctions
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