2015 年 7 月中東研究フォーラム・パネルディスカッション 「変容する中東の安全保障環境と新しい地域秩序の模索」報告④ 報告者:辻田俊哉氏(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任講師) 報告テーマ:イラン核合意と中東における地域秩序―「機会」と「脅威」をめぐる認識の相 違とその含意 イランは、EU3+3 との間において、核問題に関する包括的共同作業計画(JCPOA)の最終 合意に至った。これまでからイランに対する見方は、米国やイスラエル等の関係国間のみな らず、一国内においても「機会論」 「脅威論」という意見の対立が存在した。本報告は、対 イラン脅威認識の隔たりがどのように形成されたのか、また主体間の認識の相違が、中東に おける地域秩序に与えうる影響とはいかなるものかを明らかにするものである。 イランの核開発は、1979 年の革命前に着手され、革命後にも継続された。しかし、核兵 器開発疑惑が強まったことから、米国及びイスラエルにおいて脅威認識が高まった。2003 年にイランと EU3 との核協議が開始されて以降、協力期、非協力期、緊張期を経て、再度の 協力期を迎えて今般の合意に至っている。 イランを脅威とみなしつつも関係国間の認識にばらつきがみられた経緯としては、イラン の核問題に加え、非対称型の能力と意図の不透明性に関する評価の違いがあげられる。脅威 が高まったとする米国やイスラエル等では、イランが通常戦力の脆弱性を補完するために核 に加え、非対称型の能力獲得を追及してきたと捉えている。特に 2007 年以降には、イラン の戦略強化もあって脅威認識がより高まることとなった。 また、対イラン脅威認識の隔たりが拡大した背景としては、合理性の評価問題があげられ る。同じ事象を見ても人によって評価が分かれるため、米国及びイスラエル国内においても 「脅威論」か「機会論」か、評価が分かれることになる。イランを合理的な相手と見る場合 には、抑止や「強制外交」が効果的な政策と見なされる一方で、イランが非合理的だと評価 する場合には、より強硬的な政策が求められるという構図がみられる。 核合意により、イランは合理的アクターであるとの見方が一層強まる可能性がある。その 場合、イランが抑止力の低下を避けるために非対称型の能力追求を一層強化するだろうとみ るネタニヤフ等がとる立場との乖離が広がることとなる。今後も「機会論」と「脅威論」の 認識の隔たりが拡大、あるいは縮小するのか、注視する必要がある。
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