Key Concepts 1. 患者個々の治療のゴールをできるだけ早く設定 てんかんの薬物治療 薬物治療学 小川竜一 か、または他の抗てんかん薬へ切り替える(第一 選択薬とは異なる作用機序の薬物) 3. 年齢や合併症、服薬コンプライアンスなどの基本 情報も抗てんかん薬の選択に影響 2. 抗てんかん薬の投与が中止できる患者も存在する 決定する必要がある(50%~70%は単剤で管理でき る) 2 慢性の脳の病気 • 大脳の神経細胞が過剰に興奮するために、脳の症 状(発作)が反復性(2回以上)に起こるもの • 発作は突然に起こり、普通とは異なる身体症状 や意識、運動および感覚の変化が生じる • 3. 再発性の焦点発作患者の一部では外科的治療も適 応できる 4. 抗てんかん薬の適正使用には、臨床薬理学の理解 が必要 3 てんかん • 1. 治療のゴールが達成できない場合は、1剤追加する 2. 早期の診断とけいれん型の分類が適切な薬物治療 に重要 4. てんかん治療は患者に個別化し、最適な投与量を 1 Key Concepts てんかんの疫学 てんかん発作 • 有病率:0.5∼1.0% • 70∼80%は薬物治療で寛解 https://youtu.be/Lb1V8YEY_ZE • 20∼30%は難治 明らかなけいれんがあればてんかんの可能性は高い 日本神経学会:てんかん治療ガイドライン2010 • 4 5 6 てんかんの症状 てんかんの診断 てんかんの脳波 約50%は脳波正常 電気活動に異常が生じる脳の部位によって現れ 睡眠賦活検査で検出率↑ る症状は様々 • ひきつけ、けいれん • ボーッとする • 体がピクッとする • 意識を失ったまま動き回ったりする 日本神経学会: 日本神経学会:てんかん治療ガイドライン2010 7 てんかん治療ガイドライン2010 8 9 てんかん発作の国際分類 焦点発作 全般発作 A.意識障害なし 1. 運動徴候または自律神経症状 A.欠神発作 両側性けいれん性発作(強直、間代ま たは強直–間代要素を伴う)への進展 未分類てんかん発作 てんかん性スパスム • 2. 特徴を有する欠神発作 3. 非定型欠神発作 B.意識障害あり(旧:複雑部分発作) B. てんかん発作の誘発因子 • 1. 定型欠神発作 (旧:単純部分発作) 2. 自覚的な主感覚・精神的現象 (旧:二次性全般化発作) 焦点発作と全般性発作 • • 1. ミオクロニー発作 2. ミオクロニー脱力発作 3. ミオクロニー強直発作 • • • C.間代発作 • D.強直発作 • E.強直、間代発作(全ての組み合わせ) • F.脱力発作 • アルコール依存や薬物依存からの離脱 薬物中毒 低ナトリウム血症、高ナトリウム血症 低マグネシウム血症 低カルシウム血症 低血糖 非ケトン性高浸透圧症候群 尿毒症 甲状腺機能亢進症 透析不均衡症候群 ポルフィリン症 日本神経学会:てんかん治療ガイドライン2010追補版(2012年度) 10 11 12 てんかん発作の誘発因子(医薬品) てんかん治療の望ましいゴール 代表的な抗てんかん薬 鎮痛薬 フェンタニル、メフェナム酸、ペンタゾシン、トラマドール 抗菌薬 アンピシリン、セファロスポリン、イミペネム、メトロニダゾール 抗うつ薬 アミトリプチリン、マプロチリン、ミアンセリン、ノルトリプチリン 抗悪性腫瘍薬 ブスルファン、シタラビン、メトトレキサート、ビンクリスチン 向精神薬 一般名 (商品名) フェニトイン てんかん発作の完全消失 クロルプロマジン、ハロペリドール、ペルフェナジン、プロクロルペラジン 副作用のない理想的な生活の質(QOL) 気管支拡張薬 アミノフィリン、テオフィリン 局所麻酔薬 ブピバカイン、リドカイン、プロカイン 交感神経作動薬 エフェドリン、フェニルプロパノールアミン、テルブタリン その他 UpToDate®より抜粋 13 Naチャネル遮断薬 カルバマゼピン バルプロ酸 ゾニサミド バルプロ酸 カルバマゼピン エトスクシミド (トピナ®) ラモトリギン (テグレトール®) (ザロンチン®) (ラミクタール®) (フェノバール®) (リボトリール®) (イーケプラ®) (プリミドン) (マイスタン®) フェノバルビタール クロナゼパム クロバザム バルプロ酸 エトスクシミド ラモトリギン ガバペンチン 16 トピラマート レベチラセタム T型Ca2+チャネル拮抗薬 クロナゼパム クロバザム ラモトリギン (デパケン®) GABAA受容体作動薬 プリミドン トピラマート (ホストイン®) ホスフェニトイン ガバペンチン (ガバペン®) 15 フェノバルビタール ホスフェニトイン (エクセグラン®) 一般名 (商品名) 14 バルプロ酸 フェニトイン ゾニサミド (アレビアチン®) プリミドン アルコール、アンフェタミン、抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、など 一般名 (商品名) 17 18 抗てんかん薬開始の目安 • 2回目の発作が出現した場合は、1年以内の発 作再発率が高く、薬物治療の開始が推奨 • 孤発発作でも神経学的異常、脳波異常あるいはてん かんの家族歴を有する患者では再発率が高く、薬物 治療の開始を考慮 • 高齢者(65才以上)では初回発作後の再発率が高い 抗てんかん薬の選択で考慮すべき要因 • 患者で起こりえる薬物有害反応 • 患者で併用されうる他の薬物との相互作用 • 肝疾患や腎疾患をはじめとする合併症 • 年齢、性別(妊娠計画も含む) • 生活スタイルや患者の好み • 薬剤費 注射剤(静注) 錠剤・カプセル剤 散剤、顆粒剤 内用液剤 坐剤 ✔ ✔ ✔ ✔ カルバマゼピン ✔ ✔ ✔ ✔ プリミドン ✔ ✔ ✔ ✔ バルプロ酸 ✔(徐放剤あり) ✔(徐放剤あり) ✔ ✔ ✔ フェノバルビタール ✔ ゾニサミド エトスクシミド クロナゼパム クロバザム ガバペンチン ✔ ✔ ✔ ✔ ラモトリギン レベチラセタム ✔ ✔ トピラマート ✔ 第二選択 (小児・ 思春期) ✔ バルプロ酸 ラモトリギン レベチラセタム トピラマート ゾニサミド クロバザム ラモトリギン ミオクロニー発作 強直-間代発作 エトスクシミド クロバザム レベチラセタム クロナゼパム ラモトリギン トピラマート フェニトイン ラモトリギン 主な抗てんかん薬の薬物動態 薬物名 フェニトイン ホスフェニトイン 主消失経路 消失半減期 代謝酵素 肝 9->42 hr CYP2C9/2C19 ✔ ✔ 酵素阻害 + 酵素誘導 CYP2C/3A CYP2C9/2C19 + CYP2C/3A カルバマゼピン 肝 25-65 hr 8-22 hr CYP1A2/2C8/ 2C9/3A4 - CYP2C9/3A フェノバルビタール 肝 プリミドン バルプロ酸 エトスクシミド クロナゼパム クロバザム ✔ 肝 ガバペンチン トピラマート ラモトリギン レベチラセタム 75-110 hr CYP2C9/2C19 + CYP2C/3A 肝 10-15 hr CYP2C9/2C19 + CYP2C/3A 63 hr CYP3A4 - - 肝 7-16 hr CYP2C9/2C19 CYP2C9 (CYP2A6) 肝 40-60 hr CYP3A4 - - 肝 36-43 hr CYP3A4/2C19 CYP2D6 CYP3A4 5-7 hr - - - 腎 12-24 hr - 12-62 hr UGT - (UGT) 6-8 hr - - - 肝 肝 腎 肝 腎 併用薬 クロナゼパム ラモトリギン エトスクシミド クロナゼパム カルバマゼピン ガバペンチン カルバマゼピン ガバペンチン ラモトリギン トピラマート ガバペンチン クロバザム ラモトリギン レベチラセタム フェノバルビタール クロバザム フェニトイン カルバマゼピン フェノバルビタール フェニトイン 相互作用 対処法 クロナゼパムの効果減弱 臨床症状のモニター カルバマゼピンの毒性増強 臨床症状のモニター 用量調節不要 ラモトリギンの効果減弱 ラモトリギン濃度と臨床症状をモニター レベチラセタム カルバマゼピンの毒性増強の可能性 カルバマゼピンの毒性を示す所見の有無をモニター フェニトイン バルプロ酸 (CYP2C19) (CYP3A4) Goodman&Gilman’s the pharmacological basis of therapeutics, カルバマゼピンの効果減弱 カルバマゼピンとフェニトインの濃度モニター フェニトインの効果の変化 トピラマートの効果減弱の可能性 バルプロ酸の効果減弱 カルバマゼピンの毒性増強 ゾニサミド 静注抗てんかん薬の配合変化 フェニトインとホスフェニトイン トピラマート濃度と臨床症状をモニター 高用量トピラマートが必要となる可能性あり バルプロ酸濃度と臨床症状をモニター および毒性増強の可能性 カルバマゼピンとエポキシ代謝体の濃度モニター ゾニサミド濃度と臨床症状のモニター ゾニサミドの効果減弱 ゾニサミドの用量調節が必要となる可能性あり 12eおよびUpToDate®より 23 UpToDate®より抜粋 24 Phenytoin Fosphenytoin 分子量 252.27 分子量 532.34(水和物として) ラモトリギンとバルプロ酸の併用患者で認めた皮膚障害 Fein JD & Hamann KL, NEJM 2005;352:1696. 注射製剤のpH 8.5∼9.1 26 クロバザム フェニトイン カルバマゼピンと他の抗てんかん薬の相互作用 トピラマート 注射製剤のpH 約12 バルプロ酸 21 22 25 フェニトイン ゾニサミド レベチラセタム ゾニサミド ✔ ✔ 第二選択 (成人) カルバマゼピン 欠神発作 20 主な抗てんかん薬の投与剤型 ホスフェニトイン 第一選択 推奨しない 19 薬物名 フェニトイン 全般発作 焦点発作 患者のてんかん型に対する各薬物の有効性 • てんかんの発作型に応じた選択薬 27 抗てんかん薬の代表的な副作用 • スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症 • • デパケンR錠 1回600 mgを 600 mgを1回経口投与 1日2回、計15回経口投与 再生不良性貧血 • • カルバマゼピン、クロバザム、エトスクシミド、ラモトリギン、レベチラセタム、フェ ニトイン、フェノバルビタール、バルプロ酸、ゾニサミド バルプロ酸 有効治療濃度域:40∼125 µg/mL カルバマゼピン、エトスクシミド、フェニトイン、バルプロ酸、ゾニサミド 劇症肝炎、肝不全 • カルバマゼピン、エトスクシミド、フェニトイン、フェノバルビタール、バルプロ酸 • 歯肉増殖、多毛症 • 心伝導障害 • • フェニトイン Naチャネル遮断薬(フェニトインなど)の過量投与 用法用量:1日400∼1200 mgを2∼3回(非徐放性製剤)、 1∼2(徐放性製剤)回に分けて経口投与 28 29 30 カルバマゼピン フェニトイン フェニトイン:非線形薬物動態 有効治療濃度域:4∼12 µg/mL 有効治療濃度域: 10∼20 µg/mL • 注射剤 • 本剤2.5∼5 mL(125∼250 mg)を1分間に1 mL (50 mg)を超えない速度で徐々に静脈内注入 • • 用法用量:初め1日200∼400 mgを1∼2回に分けて経口投与 至適効果が得られるまで徐々に増量し、1日最大1200 mg 急速静注した場合、心停止や一過性の血圧低下、 呼吸抑制などの循環・呼吸障害を起こすことがあ る けいれんが消失し、患者の意識が戻ったら、経口 投与に切り替える 31 32 33 てんかん治療ガイドラインの誤り フェニトイン血中濃度評価の注意点 フェノバルビタールとプリミドン • 低アルブミン患者では遊離形分率が上昇するが、 • 必ず血清アルブミン値を同時に確認する • 血清アルブミン値が低い患者では血中総薬物濃 度が見かけ上低く見えていると考える 遊離形薬物濃度の変化は生じない 血中濃度補正値 = • 血中濃度測定値 (0.2 x ALB [g/dL]) + 0.1 比例計算で用量調節を行ってはならない Phenobarbital Winter’s Basic Clinical Pharmacokineticsより 34 35 Primidone 36 プリミドンの代謝 抗てんかん薬無効時の対策 薬理活性あり • 50%∼70%の患者は単剤である程度コントロー 抗てんかん薬の中止・減量 • • けいれん発作の型と頻度、服薬コンプライアン • 2∼5年以上の発作消失後に減量を考慮 剤で十分な治療を行っても望ましいQOL改善が • 多剤併用患者では減薬可能 • 減薬により副作用リスクの減少や、場合によっ ス、薬物血中濃度、副作用等を確認のうえ、単 投与量の 得られていなければ、作用機序の異なる2剤の併 約15% 抗てんかん薬の投与は必ずしも生涯必要ではな い ル可能(発作の完全消失には至らない例も多い) ては、認知機能の向上も期待できる 用療法を考慮 プリミドン錠250mg「日医工」インタビューフォームより 37 38 39 てんかん重積状態 Status Epilepticus てんかんと妊娠 てんかんと運転免許 「発作がある程度の長さ以上に続くか、ま • てんかん患者では計画妊娠を推奨 • 多くの抗てんかん薬の投与で奇形発現率が高まる • バルプロ酸の奇形発現率は用量依存的 ジアゼパム静注 • 日本の奇形頻度は2.31%(H22年度調べ) フェニトイン(またはホスフェニトイン)静注 • 奇形リスクの少ない抗てんかん薬(ラモトリギンなど) たは、短い発作でも反復し、その間の意識 の回復がないもの」 第一選択薬 第二選択薬 無効例 の単剤治療を基本に、奇形リスクと母体のけいれん管理 のベネフィットを天 全身麻酔薬 40 にかけて投与の可否を判断する 41 • てんかん患者でも、過去5年間発作がなく、今後 再発のおそれがなければ免許の取得・更新が可能 • 第二種や大型免許の場合、服薬を中止したうえで 5年間発作がないことが条件 • 運転に支障を及ぼすおそれのある症状を認めてい る者が、虚偽の申請で免許を取得・更新した場合 は罰則が科せられる 42
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